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泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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27『連休明けの松ネエとシグマ』

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)


27『連休明けの松ネエとシグマ』オメガ 





 ボックス席で松ネエがオイデオイデをしている。



 宿題を2/3やってダレてきたので誘いに乗る。


 座ったままカウンター席のハイチェアを回すと二歩でボックス席に着く。



「あ、そーーだ」


 呼んでおきながら、松ネエは席を立って店を出て行く。


 店というのは、かつてうちがやっていたパブの店舗部分。


 内装はそのままなので第二リビングとして家族のだんらんやご近所との社交場に使っている。


 松ネエが勉強したり書類を書くのに使い始めたので、俺も倣って気の乗らない宿題やら読書(っても、ラノベとかマンガ)のスペースとして使い始めた。


 子どものころの秘密基地の感覚なのかもしれない。



 大学生って大変なのな。


 テーブルの上には書きかけの書類が散らばっている。



 従姉だけども個人情報、マジマジと見るわけにはいかないけど、その種類と枚数で大変だと思う。


 奨学金申込書的なのが目に入る。


 松ネエんちは両親揃って学校の先生。一人娘の学費くらい楽勝なのに奨学金の申し込みというのは松ネエの心意気なんだと思う。


「ブスだ……」


 書類の写真を見て不用意な言葉が口をつく。


「だれがブスだってぇ」


 いつのまにか戻って来た松ネエが怖い顔をする。


「いや、写真の写りがさ、現物はイケてんのに」


「ま、そのフォローに免じて許してやる。食え」


 松ネエが出したのは箱入りのフライドチキンだ。


「お、いっただきー」


 さっそくかぶりつく。


 鳥は苦手なんだけど、フライドチキンは別だ。この調理法を編み出した白スーツに眼鏡のアメリカのオジサンはエライと思うぞ!


「買ってきたんじゃないんだよ、これ」


「え?」


 確かに見慣れたパッケージではない。


「こんど@ホームで出すかもしれない試作品」


 なるほど、俺は試作品のモルモットか。


 でも、こういうモルモットなら大歓迎だ、感想を言わなければならないんだろうと、真剣に味わう。


「……カレー味……なんだろうけど、インドとはちがう南国的ってかオーガニックな風味?」


 オーガニックがなにかよく分かってなかったけど、イメージ通りの感想。


「いい勘してるわよ雄ちゃん」


「あ、そ?」


「ハワイのカイウラニスパイスってのを使ってんの」


「@ホームがハワイアンになるのか?」


 俺はビキニみたいなフラダンスのコスを着た松ネエを想像してしまった。


「なんでフラダンスがビキニなのよ!?」


 松ネエはスルドイ。


「いや、なんでハワイアンなんだ?」


「それがね、シグマちゃんとお祖母さんがね……」


 松ネエが示したスマホには@ホームのメイドさんたちに囲まれた金髪バアチャンとシグマが写っていた。


「二日続いてお越しになってね、メイド喫茶のメニューにこれがいいって、キッチンで試作品を作ってレシピを教えてくださったの。初日は店長が気に入って、二日目にはオーナーが信者になっちゃった」


「宗教団体かよ」


「@ホームのハワイ店を出すことになっちゃった」



 で、俺とノリスケは藤棚の下でシグマの顔を見つめている。



「シグマってクォーターだったのか……」


 言いようによっては角の立つ感想だけど、今日のノリスケは哲学じみているので、なにか高尚なことを言ったように聞こえる。


「もー連休は、全部お祖母ちゃんに持ってかれて大変だったんですから」


 そう言えば元気のないシグマではある。


「でも、すごいお祖母さんだよな。皇居の写真で『なんで!?』って感じて日本に来るのもぶっ飛んでるけど、たった二日でハワイにメイド喫茶作るの決めちゃうんだもんなあ」


「あたし、今日は帰って寝ます」


 多くを語らずにシグマは席を立った。


 ほんとは他の話があったんだろうけど、祖母ちゃん疲れのせいかノリスケがいるためか、その話題に触れることは無かった。




☆彡 主な登場人物


妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  

百地美子 (シグマ)     高校一年

妻鹿小菊           中三 オメガの妹 

妻鹿由紀夫          父

鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち

柊木小松ひいらぎこまつ  大学生 オメガの一歳上の従姉

ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任

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