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マリーとよばれて  作者: 輪形月


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ド・フランスじゃねーよ!(1771年 その1)

本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。

 ルイ15世――義祖父陛下は、とことんめんどくさがりである。

 どのくらいめんどくさがりかって?

 なにせ、自分の娘のことすらあたしに放り投げるくらいだ。政治?推して知るべしってやつですよ。

 それは、わずか五歳で王位に就いた、ってか就けられたって経歴が影響してるのかもしんない。


 国王陛下から見れば先代のルイ14世は曾祖父に当たる。

 陛下の祖父、大王太子(グラン・ドーファン)ルイ殿下や、小王太子(プティ・ドーファン)と称せられた父、ブルゴーニュ公がわりとさっさと亡くなってたってこともあるが、摂政になったオルレアン公フィリップ閣下がわりとやり手だったんだそうな。

 義祖父陛下にしてみれば、自分でなんにもしなくても、周囲が陛下陛下と奉ってくれるんだもの。そりゃ、気分はいいだろうよ。

 それが現状につながってる以上、あたしは余計なコトしやがってオルレアン公めとしか思えないんだけど。


 そう、オルレアン公こそ、現在のフランス宮廷がめんどくさい状況に陥ってる元凶の一人なのだ。

 自由思想家だったてのは、個人の自由だろうさ。野心家でルイ14世から警戒されてたのと同じくらい、公も14世の絶対王政を嫌ってたってのも、まあいい。

 問題は、貴族政治の復活ってお題目で、わけのわからん評議会だの会議だのがないと物事が決められないような体制を構築してくれやがったってこと。

 それまでは国王、財務総監や国務卿といった、少数の重臣で物事が決められたってのに、名門貴族がぞろぞろやいやい、てんでに自分たちの既得権益を主張してやりあうもんだから、まー人が多いのに仕事がまわんないことおびただしい。

 恨み節の一つくらい、出たってしょうがないでしょ?!

 オルレアン公め、50年近く前に亡くなってなけりゃ、舞踏会で足をわざと踏んづけてやったのに。


 国王陛下も成人してから親政を宣言したというが、あまり政治に関心がないのはあいかわらずだったらしい。

 自発的お飾りをやってくれるんだもん。宰相にとってはじつにいい国王だったんじゃなかろうか。

 なおフルリーとかいう事実上の宰相さん――ルイ14世に傅役へ任じられたこのお方、任命は辞退しっぱなしだったらしいです――実質的に宰相職に就いた時点で七十三歳という超高齢。だけど九十で亡くなるまで、ずーっと政権握ってたらしいっす。


 そのフルリーさんが亡くなった後、国王陛下はやっぱ自分で統治しなきゃと思い立った、らしい。なにを今さらという感じだけど。

 結果、オーストリア継承戦争に首突っ込んだりしたものの、実際の政務は財務総監や国務卿、ポンパドゥール夫人に頼りまくりだったらしい。なんだその助けてドラ○もん状態。

 神聖ローマ帝国(うちのじっか)の現皇帝ヨーゼフ2世兄さま、もとい現世のおかあさま(マリア・テレジア)の豪腕を見習えとまではいわないが、優柔不断と自覚しているなら、もちょっとなんとかしようよ!


 政治を省みない王を戴く国に繁栄が望めるはずもなく、戦果が上げられるわけもない。

 フランスに利のなかったこのオーストリア継承戦争、ハプスブルグ皇帝家(現世の実家)も変な横槍のせいでプロイセンにシュレジエンを奪われたり、七年も戦争する羽目になったりとけっこう大変だったのよ。

 なのに横槍入れた側が、お前たちのせいでとばかりに現世の実家を恨んで、ついでにあたしにも恨みがましい視線がくるってのがね。おまゆう(お前らが言うな)とつっこみたい。


 その国王陛下の特質が遺伝したのかどうなのか、王太子たるルイくんもそうとうなめんどくさがりである。問題はコミュ力の違いだろう。

 人(たら)しエロ爺の陛下は、「よきにはからえ」方式で、最初から人に放り投げてる。放り投げられてる人たちは人たちで、餌が投げ与えられるのを待ってるわんこのように、尻尾振って待ち構えてるしなあ。

 厄介事には権力もくっついてくる、それなりに利益もあると算盤を素早く弾いているわけだ。

 だけど、ルイくんはコミュ障気味なとこがある。活発なお兄ちゃんをかわいがってた両親に疎まれてたとかで、無口無愛想になったというが。さて、どっちが卵でどっちか鶏だったのか。

 はっきりしているのは、ルイくんの面倒事への対応が、『人に回してでも解決しよう』じゃなくて、『見ないふりしとこう』一択ってことだろうか。

 

 宮廷の中でルイくんの評価が不当なほど低いのは、そのめんどくさがりがかなり影響してるんじゃないだろうかとあたしはこっそり思ってる。

 いや、無気力なわけでも頭が悪いわけでもないと思う。狩猟や錠前造りといった興味のあることには熱心だし。歴史や地理、英語、ラテン語、帝王学と、かなり手広く学んでる。

 だけど、対人関係はそうじゃない。人と話をするのは義務だと思ってるっぽいのが――あたしが相手でもだ!――ひしひしと伝わってくるのだ。

 美少女の新妻(あんたの嫁)な王太子妃ですよ、あたし?


 どうやらこの全面的塩対応、側近たちが下半身ゆるゆるの国王陛下の人柄を快く思わなかったせいで、反面教師にしたから、らしいのだが。

 そりゃ、人心離れるよ!

 なぜなら、フランス宮廷を闊歩する、いわゆる貴顕というやつは、周囲から好意や関心を買い占めるのが、ある意味お仕事なんですよ。

 彼らからすれば、国王や王太子って最高位王族から向けられた好意は、それだけもかなりの価値がある。ましてや美貌だろうが才知であろうが、権力者の寵愛を受けるというのは、実益を伴ったこの上ない名誉なのだ。


 メルシー伯がこっそり教えてくれたが、国王陛下が狩りにお出ましになると、そりゃもうすごいことになるという。

 国王陛下の趣味は、狩りだけじゃなく料理もなのだ。

 上司がファンの球団を部下が応援して胡麻を()るというのは、前世でもあったことらしいが、それを華美で豪奢な衣服を纏った王侯貴族がやるのだよ。

 竈の火加減を見る大公、狩りでしとめた獲物で料理をするため、早速羽根をむしったりといった下ごしらえにかかる公爵。

 大貴族が右往左往で台所の下働き顔負けの活躍を見せるのも、彼らが陛下の関心を得ようと必死な証拠だ。


 なのに、ルイくんは、権臣であろうがなかろうが、あくまでも義務として悪気なく接する。

 これ、マナー上はいっさい問題がなくても、相手のプライドはズタズタになる行為でしょ。ルイくんは相手を『その役職に就いてる人間』としか認識してないから、たとえ別の人間がその役職に就いてても同じ対応しますよって言ってるようなものだもん。

 自分の価値を信じてる相手に、あんたは互換可能な存在でしかない、代わりはいくらでもいるとか。たとえ真実であっても、言っちゃいけない言葉、やっちゃいけない対応ってあると思うの。

 かくして、権臣の中で、ルイくん(手に入れられない葡萄)は、『愚鈍な王太子』(酸っぱい)と定義されるというわけだ。


 おまけにギーク気質というか、理系コミュ障引きこもり三歩手前のルイくんは、頭は悪くないんだけれども、はっきり言って気が利く方じゃない。

 頭は悪くないから、相手が儀礼上の笑みをうかべようがおべんちゃらを言おうが、好意的かそうじゃないのかぐらいは見抜けてしまう。

 なのに、自分の対応が不評の原因と理解してないし、関係改善のためになんかしようって気働きもできない。

 嫌われてるなら、近づかないどこう、ってんで、ますます気心の知れた相手以外とは距離を置こうとはするというわけ。

 でも、それって悪循環だ。

 この状態に唯一利点があるとすれば、男性貴族との関係だって疎遠なのだ、近しい女性なんてできるわけがなさそうというところだろうか。

 浮気の心配がないのはいいことなんだけれども、あたしとも疎遠になるのだけは、切にやめていただきたいんです。


 国王陛下、王太子殿下の人物分析をすすめる一方、あたしはデュ・バリー夫人攻略に悩んでいた。

 彼女との関係を改善しなきゃいけないのだけど、どうしても三婆さま方が絡んでくると、話がいっこも進まなくなるのだ。

 三婆さまが騒ぎ立てると、醜聞によだれを垂らして群がる連中が反応する。関係のないところからばっさばっさと煽り立て、波風が立つのを期待しているうからやからを楽しませることもない。

 時には大きく動くことも必要というメルシー伯の助言もあって、あたしはこっそり国王陛下に会うことにした。


 そして無邪気な義理孫娘の演技でおねだりをしたのだよ。

 デュ・バリー夫人としたしくお話したいです、どうか機会を作ってはいただけないでしょうか、てね。

 現世のおかあさまからデュ・バリー夫人との関係を良好に保つようにってお説教の手紙が飛んできたこともあるんだけどさ。

 そしたら、まずは私的に話をする機会を作るのではなく、公的に声を掛ける機会を作った方がいいと言われたんだよね。


 あたしとデュ・バリー夫人が不仲だって噂は、まだまだ強力だ。そこで私的に話をしても、また噂でねじ曲げられる。

 ならば、宮廷が真実だと認めるような状況を作ればいい。

 幸いと言うべきか、じつはまだ公的な場であたしがデュ・バリー夫人に話しかけたことはない。宮廷の作法として、身分の高い者から低い者に話しかけなければならないのだから、王太子妃から国王の公式寵姫に声を掛ける状況を作り、そこから不和はなくなったという方向へ噂を誘導した方がいいとね。

 なるほどと思ったから、あたしは社交の集いの最中に、デュ・バリー夫人に近づいた。

 さて、声をかけようとしたその瞬間だ。

 突然三婆筆頭アデライードさまが躍り出て、あたしの肘をがしっとつかんだ。思わず扇を取り落としそうになった。

 

「さあ時間でございます! ヴィクトワールの部屋に行って、国王陛下をお待ちしましょう!」


 周囲の人混みどころか、部屋全体に響き渡るような声も高らかに、あたしをずるずる引きずって退場するとかね。

 いろいろなにしてくれるのとか、年甲斐もなく意外と動き速いですねとか力が強いですねとか、言いたいことはあったんだけどさ。

 愕然としたのは、その夜のことだった。

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