6月21日 深夜のヴァレンヌ
あけましておめでとうございます。
今年も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。
あたしたちがヴァレンヌに着いたのは、長い日もようやく落ちきった、夜の11時ぐらいのことだった。
闇は今のあたしたちにとっては、心強い味方だった。豪奢な馬車の違和感も隠し通せる、そう思うだけでわずかにでも息が楽になる。
そして、ヴァレンヌこそは希望の地だった。
ここならば、あたしたちを守ってくれる者たちがいる。
そのはず、だった。
一隊を率いて待機をしてくれているはずのブイエ将軍――侯爵、フランソワ・クロード・アムル・デュ・シャリオールは、脱出計画を打ち明けたとき、あたしのめざしていた国外への亡命ではなく、自分の管区内にあるモンメディへの避難を提案してくれていた。
たとえそれが、政治的な手駒としてあたしたちの身柄を手中に収めておきたいという思惑がらみであろうとも、国民議会と完全敵対する危険を引き受けてくれたのだ。心強く思わないわけがない。
それに、モンメディは国境の町でもある。国外への退路が確保されているというのは、大きな安心材料だった。
けれど、どれだけ目を皿のようにして眺め回しても、ヴァレンヌには合流すべき兵士たちも、ブイエ将軍の姿も見えなかった。
……ラファイエットのいとこである以上、彼もまた完全に信用できる人物ではなかったのかもしれない。けれど、あたしたちには脱出行に協力してくれる人たちを信用する以外の道はなかった。
もっとも、信用できない人物を信じざるをえない状態に追い込まれていた段階で、とうにあたしたちは詰んでいたのだろうけれども。
護衛の兵がいないというのは、それでもシャロンやソンム=ヴェルといった、これまで通ってきた街や宿駅でもあったことだ。だからそれだけなら、まだ、しかたのないことと言えるだろう。
だからルイくんは、さらに前進を命じた。護衛の兵がいないのならば、いるところまでこちらから行かねばなるまいというわけだ。
が、それを阻んだものは多かった。
まず第一に、替えの馬がいない。取り替えられるところでは取り替えてはきたものの、今の馬たちだって疲労困憊はしている。
ついで問題になったのは、教会だった。
ヴァレンヌはモンメディを、ひいては国境を目指すには、確かに通るべきルートの一つではある。
が、中世からこっち、フランスの――というか、ヨーロッパのというべきか――街や村の構成には、決まったパターンがある。
それは中心部には教会を始めとした建物の密集地があり、そこを通らねば別の街道などに抜けることはできないというもの。
ならば街をつっきるのではなく、その外側を迂回すればいいのかというと、そうではない。街道を外れるどころか、麦畑踏み荒らすような行為だったりする。
ええ、道すらないこともあるんです。
そもそも旅の途中で補給や休息がとれる街を避けて通るとか。それだけで不審案件ですよ。
しかも、日付が変わろうかという真夜中です。今。
寝静まった街中を走り抜けようとする豪奢な馬車。それも十分不審案件だったのだろう。
そろそろと、大型馬車を通すにはあまりにも狭すぎる道を通りながらサン・ジャング教会までやってきたとき。
馬車が止まった。
不満げな侍女の問いに、馭者の声が答えた。
「橋が。ヴァレンヌの橋が封鎖されております!」
あたしとエリザベートちゃんは、素早く目を見交わした。
ルイくんはといえば、瞑目したままだ。予想外ということなのだろうが、なにか思いつくまでほっとくわけにもいかない。
やがて、激しく打ち鳴らされる教会の鐘が響き渡った。
もう、逃げられない。




