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マリーとよばれて  作者: 輪形月


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ド・フランスじゃねーよ!(1774年 その3)

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

 慌ただしくフランス王妃と国王にならざるをえなかったあたしとルイくんは、義祖父陛下へ最後の別れをすることもできなかった。

 あたしたちまで感染し、共倒れになることを恐れてのことだ。

 そのかわりのように、ルイくんと抱き合って、泣いて、泣き尽くして。

 そしてようやく、初めてあたしはマリー・アントワネットとして、ルイくんの妃としての自分を見たのだろう。

 それまであたしの目標は、一にも二にもギロチン回避だったのだから。

 この世界にはまだ存在しない斬首刑具ですけどね、ギロチン。


 この世界での未来よりも現在を、ルイくんと、ちゃんと向かい合おう、そしてこの国の状態を少しでもいいものにすれば、絶対王政からの革命なんて失墜ではなく、ゆるやかに立憲君主制へ、そして民主制へと移行していくことだってできるんじゃないんだろうか。

 そう腹を決めたあたしは、王太子妃として、いや王妃としてルイくんを補佐しようとした。

 ルイくんもまた、最大の庇護者を失った恐怖と悲しみを抑え、国王として、引き継いだ王権をきちんとその手で振るおうとした。


 一番の政敵ともいえるデュ・バリー夫人は国王崩御により、自動的に失脚した。権力の根源を失ってしまったのだから当然のことだ。彼女がヴェルサイユに戻ってくる理由は、もうない。

 義祖父陛下の枕頭に侍っていた三婆さまも案の定というべきか、天然痘に感染した。特に重症になったのは最年長のアデライードさまだった。

 筆頭が寝込めば他の二人も動きようがなくなるということか、三人ともしばらくなりを潜めていた。

 だからこの得られた時間は、あたしたちが地盤を固めるには最良のチャンスだったのだろう。

 本来ならば。


 だけどそれは初っぱなから躓いた。

 貴族たちはやんわりと、しかしきっぱりと、ルイくんを政治――というか、自分たちの領域から拒絶したのだ。

 もしルイくんがすでに戴冠式を済ませていたら、それでも絶対王政の国王として命に服させることはできたのだろう。

 いや、即位はすでに終わっている。なのに国王としての権威で叩き潰してでも従わせよう、ということができないところが、ルイくんの限界だったのかもしれない。


 王子としてのルイくんは、とても優秀だ。

 一般的な教養については傅育役のラ・ヴォーギュイヨン公と家庭教師たちの厳格な指導により、これでもかという高いレベルでの知識を身につけていたくらいだ。

 が、王太子としてのルイくんは、無学で無能なままに捨て置かれていた。

 義祖父陛下からは国務会議を一度も見学させてもらえず、帝王学らしい教育はというと、せいぜいがラ・ヴォーギュイヨン公の与える『敬虔で徳の高い国王であれ』という、なんともうっすらした教訓だけだったとか。

 そりゃルイくんも震えるわ。

 王位を突きつけられて、さあ学んでない政務で成果出せと言われるとか。投げつけられた取説と落下傘抱えて、飛んでるヘリから突然蹴り出されるよりもひどい話だ。なにせ失敗しても落下傘降下なら自分一人の命ですむ。運が悪ければ巻き添えが出るかもしれないが。

 だけど、国王が政治失策の巻き添えにするのは、この国そのものなんだから。

 ルイくんが撤退したのが学び直しのための時間稼ぎだけでなく、恐怖のせいだったとしても不思議じゃない。


 しっかし、何考えてたんですかね、あの義祖父陛下は。

 もともと極端にめんどくさがりな人だったから、気まぐれに手を出した政治も寵姫に投げっぱなしジャーマンしたり、実の娘である三婆さまたちのなだめ役をあたしにおっかぶせてたりはしたけどさあ!

 自分も老いてやがては死ぬ。だからしっかりした後継者を育成しなければならない。

 国王としてそんな当たり前のことも、色欲のせいで頭からすっとばしてたんだろうな。うん。


 だけど、あたしもルイくんのことは言えない。

 あたしが受けたのは、王族の子女としていかに振る舞うかという、言ってみれば淑女教育ロイヤルバージョン。つつましくおとなしやかに見せるためかぶる猫なら、準備万端ですともさ。

 だけど、政治的に王の補佐をする王妃としての教育や、ましてや女王、女帝としてどう振る舞うべきかといった、為政者としての教育は一切受けてこなかったのだ。


 ちなみに、あたしの教育方針を指示したのは、現世のお母さま(マリア・テレジア)である。

 いやでもさあ、主君ってだけで普通の貴族階級の女性像からかけはなれてたお母さまに、夫を立てて出しゃばらないようにとか言われても。何のギャグですか、お父さまの前に出っぱなしだったくせにって感じだよね。

 そのせいで、デュ・バリー夫人一人への対応ならできても、これが夫人派貴族の家門とか、さらにその家門が国境を越えてどんな影響があるか国際情勢も睨んで対応しろって言われたら、マジ無理というお粗末さですよ。

 まあ、そもそもこの国の王妃って、現世のお母さまみたく国家を自分で切り回す能力より、王太子を、つまり次の国王を産むってことが一番求められてることなんだけどね。

 ポンパドゥール夫人みたいに宰相レベルで国際政治も切り回せる寵姫もいるのだから、王妃がやっちゃいかんってことはないはずなんだけど。


 政治能力皆無な王太子夫妻。

 政治に必要不可欠な、実務的知識を与えてくれる人間もいない状態。

 そして貴族たちは自分たちの職位と権限を抱え込んだまま、その中身すら見せてくれないというね。むしろ隙あらばもっともっともぎ取ろう、相手が次期国王だろうがかまうものかという気合いで、ぎらぎら目を光らせている連中ばかり。

 助けて、なんて下手に言ったら、何を対価に求められるかわかったもんじゃない。


  そんな状況で即位直後にルイくんが起用したのは、モールパ伯爵というおじいさんだった。

 なんと御年もうじき七十三才。しかもポンパドゥール夫人を誹謗したせいで、海事卿を罷免され、それから二十五年間政治から離れてたという人だ。

 ……いやー、たしかに利害関係はクリーンかもしれないけどさあ。ほんとに使い物になるのかしらん?

  ルイくんの亡父、ル・フェルディナン殿下の遺言があったからってだけじゃなく、アデライードさまが口を挟んできたこともあっての起用だったらしい。

 でもさあ、アデライードさまの助言て段階で、不安しかないんですけど?

 てか、まだよろよろしまくってるのに政治に口だししてくるとか。そのせいで現世の実家寄りの姿勢を示してくれてるショワズール公爵の重用ができなくなるとか。こっちに被害甚大なんですけど。

 いっそのことそのまま回復なんてしなくていいから、ずーっとおとなしくしてくれればいいのに。

 などと、ちょっと黒いことを考えてしまうのは、いびられたお返しも含んでますとも。ええ。

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