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俺はハルがやってきた方角へ歩いていた。
エルフらしくこの森の中で生活をしているはず。
住居や食べ物のストックも少しくらいあるだろう。
暗闇だったのが徐々に日が差し込むようになり、周囲が見えはじめた。
木々が途切れ開けた場所へやってくると樹上に簡易な小屋を見つけた。
ボロ小屋という感じではないし、見たところ造りもしっかりしている。
木こりの休憩所というわけではなさそうだ。
調理用の薪や釜があり、火の番をしやすそうな場所に腰かけやすい丸太が置かれている。
複数人が生活している様子はない。
「ここがハルの住処か」
ここで一人生活をしていたらしい。
物音と人の気配がする。
「誰かいるのか?」
周囲を見回しても人の姿は見えない。
「ここです! ここにいます!」
声だけが聞こえるが、やはりどこにも声の主は見当たらない。
声のほうへ近づいていくと、魔法を使った痕を発見した。
「隠蔽魔法か」
斥候や威力偵察が得意だったハルの魔法のひとつだ。
無地の布か何かを背景と同化させる魔法だ。その布さえ剥がしてしまえば――。
俺は生地らしきものを手探りで探し当て、一気にめくる。
そこには、檻があった。
中にいたのはまだ幼い少年。
日の光に眩しそうに目を細めている。
狩りの獲物をここにストックしていたのか。
「大丈夫か」
「だ、大丈夫です……まだ、一応。……あ、あのエルフは」
「殺した」
少年の表情に安堵の色が浮かんだ。
「ここから出してやる」
だが、大きな錠前には鍵がかかっている。
鍵はおそらく家の中だろう。
「ちょっと待ってろ」
そう言い残し、俺は架かっている縄の梯子をよじ登り、家の中に入った。
いくつかの弓が立てかけられており、そばには予備の弦が何本もあった。
自作していたのか、製作途中の弓と矢と羽、矢じりが同じ箱の中に入れられている。
窓が四方にあり、周囲の様子がよく見えた。
「……」
斥候をよく買ってでたハルのことを思い出す。
なぜわざわざ樹上に居を構えるのか不思議だったが、索敵しやすく見晴らしのいい場所でなければ落ち着かなかったのだろう。
邪神討伐の旅は、みんなを徐々に変えていったのかもしれない。
俺を処刑したあとは莫大な報奨金を山分けしたはずなのに、なぜこんな森の奥に。
一般的なエルフらしく、町よりも森のほうが好きだったのだろうか。
しかも連れ合いもなく一人で。
「英雄の一人がな」
部屋も殺風景で、弓矢関連の物以外では、何着かの服と下着。あとはベッドのそばに酒の空き瓶がいくつかあるくらいだった。
ここはただの生活拠点のようだ。
ハルが酒好きのイメージはなかったが、好きになったんだろうか。
それとも、俺がただ知らなかっただけか……。
鍵はすぐに見つかった。
ベッドの下に装飾品と現金が入っている小箱があり、鍵はそこにあった。
生前の職業病で、装飾品をつい確認してしまう。
小さな宝石が嵌めこまれたピアスに、魔力効果を高めるブレスレット。
高く売れるとは思わないが、箱の中身はいただいておこう。
少年の元へ戻り、俺は鍵を開けた。
「ありがとうございます」
「あいつの金だ。迷惑料としてもらっておけ」
俺は現金を少年に押しつけた。
「こ、こんなに……? い、いいんですか?」
「迷惑料だと言っただろう」
調理をしている焚火痕の近くに、保存庫用の箱があった。
干し肉と干し魚が入っている。
急ぐ旅でもない。
俺は火をおこし、炙ったそれらを少年と分けた。
「水しか飲ませてもらえなくて」
少年は干し肉にがっついた。
穴だらけにされた子供と似たようなボロを着ているあたり、元々奴隷か何かだったんだろう。
少年はキースと名乗った。
「お兄さんは?」
「俺は……アレンだ」
珍しい名前ではない。
名乗ったところで、あのアレンと結びつける者はいないだろう。
「じゃあ、伝説の鍛冶職人と同じ名前ですね」
「伝説……? 一体どういう?」
「知らないんですか? 勇者パーティの武器や防具を作ったという伝説の職人です。もう死んじゃったみたいですけど」
俺はほっと胸を撫でおろした。
悪名のほうが先に立っていなくてよかった。
「キース、おまえはもう自由だ。飯を食ったあとはどこへでも行くといい」
「アレンさんはどうするんですか?」
「俺は、町へ行く」
「じゃあボクもついて行ってもいいですか?」




