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 はぁ、はぁ、と俺は荒くなった息を整えようと務める。


「アレンさん、大丈夫ですか?」

「ああ」


 荷馬車の馬が怯えているので、俺はそばに近寄り首をさすって落ち着かせてやった。


 この荷馬車も行商人か誰かを襲って奪ったものだろう。

 ゴブリンたちが馬の世話をきちんとできるとは思えない。

 馬の様子からして、奪ってからまだ日が浅いようだ。


 ゴブリンが人間の真似をすることがあるというのは、前々から噂されていたことだった。

 荷馬車を見かけて便利そうだとでも思ったんだろう。


 ここに連れ込まれたであろう少女三人を助けなければ。


「たぶんさらわれた子たちは洞窟内だ。入ろう」


 俺が言うと、ドシ、ドシ、と奥から重そうな足音を響かせ、あのゴブリンが現れた。

 手には、あの疑似魔法剣Ⅰ型が握られている。

 粗末な腰布で局部を隠し、革袋を紐で腰に巻きつけていた。


「ゲギョォォォォォッ!」


 俺を見るなり唾を飛ばし雄叫びをあげる。

 背丈とその迫力に思わず一歩あとずさってしまう。


 転がる仲間の死体を発見するゴブリンリーダーは慟哭にも似た鳴き声をあげた。


「ゴォォグ……ッ!? ギョゥグゥゥゥ……オォォォ……ッ!?」


 仲間の死を悲しむ感情があるのか。


 キースの呼吸が浅い。

 ぐっと歯を食いしばり、今にも飛びかからんとする勢いだった。


 ひと際体格の大きなゴブリンが仇だとキースは言っていた。

 こいつで間違いないな。


「必ず倒すぞ」


 小さくうなずいたキースは、茂みに隠れた。


 キースの悪の短剣を食らえばゴブリンリーダーもただではすまないはず。


 悪の石を投げると、当たりはするがさっきのやつらのようにひるむことはなかった。


「ゴギャゲガァァァァッ!」


 殺気と咆哮で空気がビリビリと震えた。


 振りかざした剣を雑に振り下ろしてくる。

 敏捷のスキルがあるため、かわすことは容易だった。


 俺は敵の攻撃後の隙に悪の鍬を振る。

 真横に振るとさっきまで顔面か胸のあたりだったのが、今では下腹のあたりとなった。


 ガゴッッッ


 強い衝撃が柄から手に伝わる。

 ビイン、と手が少し痺れた。


 悪の鍬の刃が通らない。

 弾き返された。

 それどころか、刃が皮に負けて折れ曲がってしまった。


「グゥゥゥゥゥ……オぉぉぉオオぉぉぉぉッ!」


 横に薙いだ剣を鼻先でなんとか回避する。

 悪の鍬を置いて、転がっていたゴブリンの斧を持ち『悪化』を施す。


 敵の間合いの中へ一歩踏む込む。

 生前は怖くてこんなことはできなかっただろうが、一度死んだのであれば、開き直れる。


 攻撃しようとした瞬間、ドゴン、という音とともに手に強い痛みが走った。

 手が斧ごと蹴り上げられていた。


 宙を舞う悪の斧が茂みのほうへ吹っ飛んでいった。


「ギャヒヒヒ! ゴゲガギンゲン……! ギャヒヒヒ!」


 笑われているのがわかる。

 こうやって笑いながら、略奪し殺してきたんだろうな……!


 カサ、と小さな音がする。


「こいつ――!」


 敵の背後にキースが飛び出してきた。

 手には殺意の塊である悪の短剣が握られていた。


 昨晩、俺が研ぎ直し『悪化』した短剣。


 腰に構えた短剣を持つキースは体ごと敵にぶつかった。


「みんなの仇!」

「ガギッ!?」


 刃から紫の血が滴っているのが見えた。

 悪の効果は、シンプルにただ一文字だった。


 毒。


「ガンガゴォォオオオン!?」


 ゴブリンが手を振り回す。はっきりとキースを視認できずとも拳がキースにぶつかった。


「きゃっ」


 吹き飛ばされたキースが地面を転がった。


「キース!」


 脂汗を流すゴブリンリーダーは、腰の革袋から何かを摘まみだす。


 ……しなびた草のようなもの……。

 まさかあれは。

 ゴブリンリーダーはそれを口に放り込んで飲み込んだ。


「解毒の薬草……?」

「ググガン……!」


 毒に侵されたかどうかはっきり認識したわけじゃないだろうが、何かされたことはわかったんだ。

 ただ刺されただけじゃない、と。

 いい勘をしている……。


 悪の斧が思っている効果であればそろそろのはず――。


 片手に剣を握り直した敵が、引きずりながら俺へ近づいてくる。


 キースが再び立ち上がった瞬間だった。

 ふぉん、ふぉん、と回転する悪の斧が飛来し敵の顔面に直撃する。


「ギャゴォ!?」


 悪の効果は追尾。

 思っていた通り、戻ってきてくれた。


「うぁぁぁぁぁ!」


 隙を衝くように再びキースが悪の短剣を構えて突進する。

 次に狙ったのは膝の裏あたりだった。


 ザシュン、と切り裂くと、敵は痛みとまた体内に回りはじめた毒にのたうち回るように地面を転がった。


「グガァァァ!?」


 俺は悪の鍬を再び手にする。


 ……そうだった。

 本来鍬は、横に振るものでも下から振り上げるものでもなかったな。


 俺は悪の鍬を大きく振り上げた。

 上部が背中に触れると、それをきっかけにしゃがむようにして一気に振り下ろす。


 刃部分が折れていても関係なかった。


 超重化の悪。


 その悪が付与された時点で、この鍬は斬撃武器ではなく――打撃武器。


「オォォォオッ!」


 涎を垂らし毒に苦しむ歪んだゴブリンリーダーの顔面に全力で叩き込む。


 べぎょ。


「ぎょお、ォぉぉぅ…………」


 潰れた顔面から細長い悲鳴が漏れたが、それ以降鳴くことも動くこともなかった。


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