プロローグ
年がら年中薄暗い森の中、縦横無尽に生える木々の奥、寂れた遺跡がひっそりと佇んでいる。
湿った森の雰囲気をかき分けて一迅の風が遺跡に向かっている。
遺跡の最奥、神聖な祭壇の空気を入れ換えた風はいつものように祭壇の手間に落ちているボロボロの手帳を手に取った。
風は腫れ物に触るかのようにその手帳を一枚一枚めくる。ひとつだけしっかり折り目のついたページまで行き着くと今日も手帳に殴り書かれた文字を読んでいる。
*月*日
マイセン遺跡に足を踏み入れて8日目。遂に目的の勇者の剣を見つけた。
後は剣にかけられた魔法を解くだけである。
使い込まれた感のある手入れの行き届いた柄と、神々しく輝く刃は見るものに畏怖の念を抱かせる。
周囲に目を移すと、剣の祀られている祭壇は精霊が佇んでいるような澄んだ空気に包まれ、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
冒険家になるといって15で村をでてから早10年となるが、当時の僕に今の状況は考えられただろうか。
この剣が見つかったことで、今までおとぎ話でしかなかった勇者の伝説が実際の出来事であることを立証出来る。
さらに、この剣は今も世界中に蔓延る魔物に対する牽制にもなる訳で、世界的な大発見であること間違いなしの一品。そんな宝を発掘出来るなんて冒険家冥利に尽きる。
とにもかくにも剣にかかった魔法を解かない限り持ち出すことは不可能な様だ。
呪文の形式は古いものだか、特別珍しい訳でもない。
さっさと解呪して伝説の剣の重みでも味わいたいものである。