様子がおかしい完璧少女
最近、島崎さんの様子がおかしい。
なんというか‥‥‥‥覇気がない。
いつもやる気満々に僕の席に来るのに、この頃はどこか、しょぼんとして来るし、ついに今日は来なかった。
無理をしているのか、日に日にやつれていくし、目に光がなくなってきている。
先程の体育でもキレのある動きをしていなかった。
完璧少女島崎さんが崩壊し始めている。
これは‥‥‥手を打たないと‥‥‥。
今日。やるか。
(ここからは凛視点です。)
「はぁー。」
全然、アイツに勝てない。まぁそれはいつも通りなんだけど、流石に1年以上負け続けてると‥こう‥落ち込むでしょ?
今日も、そのことを引きずって、体育で失敗したし‥‥
「どうしたの凛?元気ないね。」
「あぁ。うんちょっとね。心配してくれてありがとう。」
今は昼休み
自分の席で落ち込んでいた私に声をかけてくれたのは、親友である。俵佑芽。
黒髪ショートの女の子で、前髪が片目を覆っている。
これだけ聞けば、地味っぽく思わけるけれど、佑芽ちゃんはとてつもない美人だ。アイドルって言うよりは、芸術品と言った方が似合う。そんな子。
「‥‥‥三崎君との勝負この頃してないね。」
「うん‥‥」
佑芽ちゃんはとにかく勘が鋭い。
たまに、ありえないくらい見透かしているときがある。
「お悩みはそれ?」
「うん‥‥‥」
「ふーん、まぁ全然勝てなくて自信喪失しかけているってところかしら。」
「うん‥‥‥」
「まぁ、あの天才に勝てるのはそうそうないだろうから、しょうがないでしょ。」
佑芽ちゃんはそうゆうなり、前の席にドカッと座る。
美人って何しても美しく見えるね。羨ましい。
「凛‥‥‥ジロジロ足見ないで、気持ち悪い。」
「見てないわよ!?」
「よく言うわ。あんだけじっくりと見てたくせに。」
「そんなに変態的に見てない!そもそも足見てない!」
私が見ていたのは佑芽ちゃん自身であって、決して足では無い!そんな性欲まみれた変態じゃないから!
「ふふふっ。元に戻ったわね。いつもの凛だ。」
「佑芽ちゃん‥‥‥」
まさか、私を元気づけるために?‥‥‥‥‥
あぁなんていい子なんだろう。
「もうちょいからかってたかったのに。」
「佑芽ちゃん!?」
何だこの性悪女!親友なんて居ないな絶対!
いたら顔みてみたいわ!あっ私だ。
「で?三崎くんになかなか勝てないから落ち込んでんのよね?」
「そうよ」
「私ね。そもそも、勉強は勝ち負けとかないと思うの。」
「うん。」
「人は人。自分は自分でいいんじゃない?」
「う〜ん。‥‥‥そうよね。」
たしかにそうよね。勉強なんて比べるもんじゃ―
「ちょっといいかい?」
こんなことはやめようとそう思っていた矢先。
私の好敵手三崎利久がやってきた。
「なっ何?」
「いや〜、テスト勝負やってなかったなって。」
「あっ、その事だけど、もう辞めることにしたわ。今まで絡んでごめんなさいね。」
「あれ?そんなんだ‥‥‥‥」
三崎くんは驚いて目を見開く。
そしてそのまま少し目をつぶったかと思えば、すぐ開いて、佑芽ちゃんを見た。でもすぐに向き直って言った。
「でも残念だな。ゲームっぽくして楽しもうとしたのに。」
「え?ゲーム?」
「うん、そうだよ。勝負に勝った方は負けた方に命令できる。命令は基本なんでもありだけど、負けた方には拒否権があるから、無理強いはできない。」
「?それじゃあ意味無くない?」
「いや、できるのはあくまで拒否だから。」
「?」
「‥‥‥つまり、拒否されたらほかの命令をしなければならないって事ね。」
ずっと黙っていた佑芽ちゃんがわかりやすく言ってくれた。
「そういう事っ。流石俵さん!伊達に学年三位を取り続けているだけあるね!」
「学年一位を取り続けている貴方に言われると、嫌味にしか聞こえないわ。」
「難儀な性格だね〜。」
「あなたもね。」
2人とも笑顔を浮かべているのに、不穏な空気になってる。
なんだろう、全然会話に入れない。私、学年二位なのに‥‥
口では簡単なことしか話してないのに、言葉を交わさずに話してる以上のことを話しているみたいな‥
「ということでどう?やっぱりやらないかい?」
三崎君は佑芽ちゃんと火花を散らすのをやめて、こっちに振り向いてきた。
正直嫌だ。何されるか分からないし‥‥って何負けたこと考えてるんだ私!いやでも、負けた時を考えると‥‥
拒否権はあるって言うけど、そんなの信用できないし‥‥‥
「‥‥‥やっぱり君も離れてくのか‥‥」
「え?」
「ん?どうした?」
「ううん。なんでもないわ。」
勘違いかもしれない。気のせいかもしれない。でも、一瞬三崎くんが悲しい顔をしたのが見えた。そしたらなんだかほっとけなくて‥‥‥
「いいよ。やる。」
「ちょっと凛!」
「やった。決まりだね。」
佑芽ちゃんは止めようといたけど、私の気持ちは変わらない。絶対に対等になるんだ!
それから何日かがすぎた。
正直一勝もできてない。
これまでは3回勝負があった。
1回目
「やった〜僕の勝ち!」
「くぅ〜っ!」
「じゃあ次移動教室だからこれ持って。」
「え?うん。」
そう言って持たせてきたのは筆箱しかもかなり軽い。
2回目
「また僕の勝ち!」
「うぅ。」
「じゃあちょっと消しゴム一緒に探してくんない?」
「え?うん。いいわよ。」
消しゴムは割とすぐに見つかった。2分もかかってない。見つけた時の三崎君の笑顔が妙に印象に残った。
3回目
「またまた僕の勝ち!」
「‥‥‥」
「じゃあ何にしようかな〜」
今回こそ、なにかされるんじゃないか。今まではお遊びでここからが本番なんじゃないか。そんな考えが脳内を駆け巡った。
「決〜めたっ!」
来る!
「今日一緒に帰ろう!」
「え?うん。」
普通だ。
その日の帰りは、最近の調子とか、朝話に上がった不審者に気をつけようね〜とか、いつも何してる?とか、そんなたわいのない話をした。
普通に楽しかったし、ドキドキした。
そして今日!
いよいよ4回目の勝負。
科目は数学。今回のはかなり自信があった。
「島崎。」
「はい。」
先生に呼ばれて答案を受け取る。
点数は
島崎凛 100点
ひゃっっ!100点!
ついについに取った!!!!
待って、落ち着いて私。まだ勝ったとは限らない。
引き分けかも。
私はその授業の間勝負のことで頭がいっぱいだった。
「さぁやろ〜。」
授業が終わって、すぐに三崎君が私の席にやってきた。
「「いっせっーのーせっ!」」
島崎凛 100点
三崎利久 98点
「あっちゃ〜負けちった。」
「かっかっかっ」
「大丈夫?」
「勝ったーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
私は思わず万歳をしてしまった。
クラスのあちこちで戸惑う声が聞こえる。
三崎君は満点しか取れないんじゃないかと言われていたほどだ。みんなが驚くのも無理はない。
「三崎。ちょっと職員室来てくれるか?」
「え?はい。いいですよ。じゃ戻ってくるまでに命令考えといて。」
「あっうん。」
命令‥‥‥何も考えてこなかった。なんだろう?勉強教えてもらおうかな。私は三崎君に勉強を教えて貰っている所を思い浮かべてみる。
三崎君が私のノートを覗き込んで、すぐ横から、丁寧に教えてくれている。体と体の距離がすごく近くて、もう少しで触れられそう。その時、三崎君がこっちを見て、ちっ近い!
ダメだ。顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
やっぱり私は三崎君のことが好きらしい。
恥ずかしいけど、やってみたいな‥‥‥。