私の休日について(午後)。
殿下の来訪を告げられ、お出迎えに、先生も私の後ろからついてくる。
エスコートされると殿下がキレるので。
どうやら身支度を一番早く終えたのが私だったらしい。当然だ、私は先生が来るからって既に来客対応できる服装に着替えていて、それから殿下用に着替えるには上だけ着替えれば良かった。
お父様とお母様は多分まだ来客用の服装に着替えている最中だろう。
我が家では先生は賢者殿でもスクールの担任でもなく、私の元家庭教師という位置付けで、ほとんど身内の待遇。要件が私に会いに来たっていうだけなら、わざわざ挨拶には来ない。
出かけるついでとかに、顔を見せて挨拶してくれるけど。
でも殿下は殿下なので、今までみたいに二人が外出中ならともかく、いる場合はお出迎えに来る――はず。
殿下はここ最近見るようになった、私のオタク語りを聞いている時のようなニコニコした顔を向けた後――一瞬で、真顔になった。怖い。
しかも後ろに護衛その2がいる。
義弟が来なくても3人揃った。
護衛その2の、見慣れた朗らかな顔も、やっぱり多分先生の顔の傷を見たんだろう、今まで見たことないくらい怖い顔になった。
怖い。死ぬ。今日で終わりかもしれない。
あんまりだ。殿下が家族と鉢合わせするのは針の筵すぎてなんとかしなければと思っていたけど、ほんのちょっぴり、雀の涙ほどは、楽しみにしている気持ちもないとは言えないかもしれない、くらいだったのに。
殿下は私のオタク語りの最中は怒鳴らない。ニコニコ聞いてくれる。楽しみにしてくれていて、それが嬉しくないと言ったら嘘になる。
だって……そうだ、殿下は、筆頭公爵令嬢の私に対しても拒否権があるから、嫌なら断れる殿下は、私にとって欲しかった対等な人になりうる存在で、私は……友達のように、思い始めていたのかもしれない。
好きな物語について喋って、感想を言って、同じ夢が見れたら良いねって笑いあって。
「殿下、マリー様ちょっとすみません。賢者殿をお借りしても?」
「あぁ」
殿下が聞いたこともないくらい低い声を出した。
「……どうぞ」
この顔の殿下と二人にしないでください怖いやだ助けて――なんて言えない。あの顔の護衛その2に楯突けるほど私強くない。
護衛その2は、後ろにいた多分殿下の他の護衛に、なんか指示して先生の腕を掴むと応接間から出ていった。
殿下は思いっきり息を吐いた。
……何。
思いっきり息を吸う。
深呼吸?
それとも怒鳴る前動作?
と、また息を吐いた。
深呼吸だ。
なんで?
3回繰り返してから、何か言おうとしたっぽい音が口から出たんだけど、それに被せるようにしてセキュアさんが前に出て口を開いた。
「失礼致します。公爵令嬢にお尋ねしますが、賢者殿はなぜこちらに?」
「……私、の……その……体調を気遣ってくれまして。お見舞いに」
まさか殿下と会うのが怖すぎておまじないかけてもらいましたなんて言うわけにいかないので、無難にそう告げる。
「失礼致します」
と言って、セキュアさんが急に後ろを振り返ると、護衛の人が頷いて、「失礼します」と言って殿下の口を塞いだ。
いやだいぶ失礼では!?
え、何してるの!?
殿下は眉間に皺を寄せつつも、今朝のメイドみたいに呻いたりはしなかった。
「『体調に問題が?』と、殿下が仰せです」
……殿下何も言ってなさそうなんだけど、いやさっき言いかけたのがそれ?
「いえ……今日はあの、」
万全ですって言ったらなんで先生が来るんだって話になるし、悪いって言ったらせっかく来てもらったのに悪いし、なんて言えば。
頼む、頭よ働いてくれ。
日本の家族の前で毎回嘘百連発してきたでしょ。
置き換えろ。大丈夫。やれる。
「……ば、万全で、殿下を、お出迎えしたかったので、その……先生は、医学知識も豊富だそうで。なので、……あの、予防薬的なものを、処方していただいてですね……その、それの副作用がないか、とか、……その……そういう確認的な、お見舞いで……」
真実をちょこっと混ぜる。あとは相手をちょっと持ち上げる。大抵それで、人は気分がよくなって、多少の粗は見落とす。
殿下は口を塞いでいる護衛の手をとんとんと叩いた。
護衛がセキュアさんの方を見て、セキュアさんが頷くと、手が外れる。
殿下は一つ息を吐いてから。
何だか嘘っぽいくらいの笑顔になった。
「体調が万全なら、ちょっと出かけない?」
「……はい?」
「たまには気分転換に。どうかな」
殿下に対しては罪悪感が積み上がりすぎてノーは言えない。それに元々、家族と合わせたくなかったのもある。
私はなんだか圧すら感じる笑顔に圧されるようにして、こくりと頷いた。
圧を感じるのは当然だ、と思い出した。
あの笑顔は、前の殿下だ。
今世以外の殿下は、基本的にずっとああだった。私が何を言っても喚いても、常に笑顔で無言。たまに真顔で沈黙。
なんか殿下だけ静止画に切り替わったんじゃないかってくらい、ぴくりともしない、微塵も揺るがない笑顔で静止。
婚約者である私とのお茶は常にそんな有様だった。
お茶を飲む時だけ、静止画が動画に切り替わるような、そんな異様なティータイムだ。
それが今世で向けられたと言うことは……うん、寿命が近いかもしれない。
生返事ばかりしていたら、殿下に送られた黄色いドレスに着替えさせられていた。
貴族は外出する際は着替えると相場が決まっているので、あの後私は応接間から退出して、メイドに手伝ってもらって着替えた。
のだが、なんでこれ。オペラ用じゃなかったっけ。結構正式なドレスだけど、昼用であることは間違いない。
とはいえ、これなら先生からもらった手袋つけられる。
それと扇子を持てばバッチリだ。
……なんか妙に極彩色の……カナリアにでもなったみたいだ……
色合いが見事にバラバラで、馴染まない。喧嘩する。
私がスクールでも肌身離さず持ち歩いている扇子の色と、あまり出番のない手袋についている宝石は、色が馴染む。
別に手袋をした手で持っていても違和感はないのだけど、……ドレスと色が致命的にあってない気がする。
ファッションに興味はないのに、コーディネートのセンスがあると無駄に褒められた私の感覚を信じるならば、これはなしな気がしてきた。
とはいえ、……扇子は既にライナスの毛布に近いし、せっかく着たのに脱ぐのもめんどくさいし、手袋は先生との約束だし……
もういいや。
仕上げとばかりに、結い上げた髪に殿下からのプレゼントの髪飾りを挿してもらって。
応接間に戻ると、殿下が形容し難い表情でぱかりと口を開けて黙った。
やっぱり色合わせがおかしかったか。
「やっぱマリー様はこういうの似合いますね。綺麗ですよ」
護衛その2は口笛吹いた後に笑ってそう言ってくれた。怖い顔してないから、先生がうまく言いくるめてくれたんだろう。
良かった。
ドレス単体で見るとやっぱ綺麗だもんね、これ。
さすが王族からのプレゼント。
「ありがとうございます」
「あぁ、先ほどは失礼しました」
先生を連れて退出したことだろう。私は首を振ろうとして、セットが乱れると気づいて「いいえ」と言い直す。
「あいつが勝手に押しかけたみたいですみませんね」
そう言うことにしてくれたのか。もしくは、殿下に言い聞かせてくれてる。殺された過去のせいで怖いけど、この人のこういう機転が効いて優しいところ、ほんと頼りになってありがたい。
お礼の意味を込めて浅く頭を下げて微笑む。
「お嬢様によろしくって言ってましたよ」
ってことは、先生はあれで帰ったんだ。挨拶できなくて悪いことしたな。軽く頷くと、笑顔の感じを変える。
「今日はマリー様が外出すると聞いて、馳せ参じました。警護はお任せください」
騎士っぽく言って礼を取って見せる。
普段はどっちかっていうと気安い感じの人だけど、そうするとあぁ、騎士なんだなぁって思う。
感心していると、いつもみたいに軽い感じで笑って、ウインクした。
「お願いします」
「はい。久しぶりにマリー様に付けて嬉しいですよ」
「……私もです」
これは本当だ。矛盾するけど。
からりと笑って頷いてくれた。
それから、私の着替えについてきてくれていた護衛その1の方へ移動する。
昔と同じ配置だから、殿下の護衛じゃなくて、言葉通り私の護衛として付いてきてくれるってことなのかな。
懐かしい。
「ってことで、よろしくな、ルディ。朝は大変だったな」
護衛その1を労うように肩を叩く。
……午前中の、メイドが体調崩した時のことだろうか。
「あいつにもきつく言っといたよ。代わりに謝る。悪かった」
小声だし、護衛その1は頷くに留めた。
聞きたいけど、多分私に聞かれてるとは思ってなさそうだし、なんかよくわからないけど、とりあえず目の前のことに集中――というか、殿下はまだ同じ表情で固まっている。
えぇと……どうしようかな。
セキュアさんが咳払いした。
殿下は無反応。
護衛その2が噴き出した。
「ちょっと失礼」
と言って護衛その2が前に出て、殿下の前で手を振る。
「でーんーかー? 時間過ぎますよー? おーい」
……護衛その2の子供扱いに、私は結構救われてもきたんだけど、さすがに殿下に対してその扱いはどうなの。
護衛その2は、笑いを押し殺せないと言った状態で、思いっきり柏手を打った。
「っ!?」
殿下の視線が、護衛その2に移る。
「な、び、びっくりした」
「そりゃマリー様のセリフですよ。いつまで惚けてんですか。男だったらなんか一言あるでしょ?」
「え、あ、……その……か、――っ」
殿下はみるみる真っ赤になった。――護衛その2がやっぱ不敬すぎた?
「あの、今日はどちらに?」
護衛その2への怒りを逸らそうとして、そう聞くと、護衛その2の笑いが苦笑に変わった。なんで。
「……あ、うん」
殿下がなんかしょんぼりしたような顔になった。
怒ってたんじゃなかったのか。
「とりあえず乗って」
と言われて、普通に馬車に乗ろうとしたら、殿下に手を差し出された。
「……あの」
これは。何を……いや、わかってる、多分、エスコートだ。
だめだ、覚悟が足りなかった。そうだ外出となるとエスコートが。
でも普段、殿下は本当に約束通り遠慮してくれて、だからつまり、……これは多分、お披露目会以後初のエスコートだ。
だ、大丈夫。だって先生にちゃんとおまじないかけてもらったし、手袋もある。
「ごめん、今日だけはエスコートさせてくれないか。絶対怒鳴らないって誓うから」
……本当にだめだな私は。
こんなこと殿下に言わせて。
「すみません……」
殿下が傷ついたように見える。
あ、違う。断ったわけじゃなくて!
「私の、あの、体質のせいで、もしかしたらその……途中でご迷惑をおかけするかも、しれないですが、……それでも、よろしければ、……お願いします」
私は一度大きく息を吸ってから吐いて、それから、殿下の差し出された手の上に、手を伸ばす。
「大丈夫だ。任せろ」
その言葉と表情に、お披露目会のダンスを思い出す。
そうだ、あの時もこうやって言ってくれた。
そうだよ。ダンス、したじゃないか。それでも私は大丈夫だった。
緊張しすぎて、自分がどんなふうに踊ったかなんてまるで覚えていないけど、お母様もお父様も褒めてくれたし、私は体調を崩すこともなかった。
だから、きっと大丈夫。
誰を選ぶかなんてその人の自由だし、選ばれるために努力するのも自由だ。
なのに私は、少なくともループしてたうちの1回は殿下の恋路の邪魔をした。
馬に蹴られてはいないが、死んで当然だ。
本当に申し訳なかった。
だからせめて、今世では殿下の望みを叶えたい。結婚は私にはやっぱりどう考えても無理なんだけど、それ以外はできるだけ。
――触れるのは殿下。手と、腰、腕。それだけ。
殿下はまともな良い人だ。だから大丈夫。他に触れられたりしない。
言い聞かせて、私は「お任せします」と、できるだけ綺麗に見えるように微笑んだ。
殿下の憧れのお母様の微笑みを再現するように。
馬車の中では殿下と斜向かいに座り、約束通り、好きな主人公のどんなところが好きかを話すことになった。
ただ、私にとって人の――実在の人物もそうでない登場人物も含めて――好きなところというのは、なかなか一言で表し難い。
「約束だろう?」
「……あの、ちゃんと話します。ただ、……こう、一言では言いにくくて」
「一言じゃなくて良いよ。たくさんあるって言ってただろう? それを聞きたいんだ」
「あの、先に一つ約束していただけますか?」
「良いよ」
「……あの、変なことを言うかもしれませんが、できれば否定しないでいただけると嬉しいです」
「わかった」
殿下は微笑んで頷く。
「ええと、まず……」
何から話そうか。頭の中で整理し始めると、殿下の苦笑が聞こえた。
「思いついたことをそのまま言ってくれ」
良いの?
「自分の好きにまっすぐなところが好きです。好きじゃないことから逃げちゃうところも。明るくて、あんまり思い悩んだりしなくて、『ま、いっか』で済ませちゃうところも、大人になっても子供っぽい純粋なところもすごく好きです」
滔々と語り出した私を、約束通り殿下は否定することなく聞いてくれた。
ただ、メイドの咳払いでハッとして殿下を見ると、なんだかすごく複雑そうな顔をしていることに気づいた。
「あの、……すみません、喋りすぎました」
「いや、頼んだのは僕だから、それは……良いんだけど、否定するわけじゃないんだ。約束したし。だから、質問、なんだけど」
「はい」
「……現実にいたら、かなり……問題のある、人物だと思ってしまう……」
それ質問ではなく感想では?
私は思わず笑ってしまった。
「そうですね。はい、確かに、身近にいたら大変だと思います。物語の中だからこその人です」
友達の誕生日パーティーをすっぽかしたり、大人になっても文字の読み書きがちょっと苦手だったり、あんまり働かなかったり。
「でも、だから私は好きでした。自分には決してできないことを、なんの蟠りもなくできちゃうところが、好きで、憧れました」
「……憧れって、そういう……?」
「えぇ。ワクワクするじゃないですか。清廉潔白とは言い切れなくても、優しくて、純粋で、自分に正直に生きて、後先考えず冒険に出て、それでも友達に囲まれて、みんな仲間になって、好かれて。体も心も、健康でとっても強くて。そう言うふうに、生きれたら良いなって、何度も思いました」
殿下は何故か顔を覆ってしまった。
「あの……?」
「いや、うん……君は十分純粋だと思う……」
「いいえ、私はとても」
「待って。今ちょっと自分がすごく穢れてる気がして猛省してるところだから」
殿下が穢れてたら私は不浄の極みでは?
「あの、最後に念の為に確認なんだけど、……君はその主人公を、……ええと……こんな異性がいたらいいな、ではなくて、自分がこうなりたいな、と思って読んでいた、と言うことで、……合ってる……?」
「はい」
物語にはヒーローがいればヒロインがいるものだ。奥さんかなり苦労してたよ? でも心底好きなんだなぁって言うのはわかった。子供の頃は笑ってたけど、大人になって思い返すと、わかることもたくさんあって、もっと奥さんのことも好きになった。
長男に武術は禁止してたのに、次男に武術を教えてた理由に気づいた時とか。
きっと長男の時は、誰よりも何よりも強い人がその子の父親として生きていたから。何があっても絶対に、守ってくれるって信じてたから。
でもその父親が亡くなってしまったから、次男には自分で身を守れるように武術を教えた。
普段あんなだけど、そこは信頼してて、安心してたからこそ。
「……やっぱり僕は色ボケ男だ……死んだ方がいい」
「どうしました!?」
急に何を言い出すんだこの人は!?
「ごめんちょっとだけ放っておいて……」
「え、で、でも……あの、し、死なないでくださいね?」
この世界に生き返る術はないよ? 私みたいなループはあるけど。
「困る?」
「は?」
「僕が死んだら、困る?」
「はい」
当たり前だろこの国王子今あんた一人だぞ。
「……じゃあ生きる」
「生きてください」
だ、大丈夫かなこの人。
「取り乱してごめん。ちょっと誤解してて……でも続きは聞かせて」
それはもちろん週一でよければ続けるけども。
「話しますけど、絶対に死なないでくださいね。絶対ですよ?」
そもそも私はお別れが苦手なんだ。
祖父が亡くなった時、こんな思いするくらいなら先に死ねば良かったと思ったし、その後もこの世界で身内を巻き添えにする度に壊れて壊れて壊れ続けて、やっと一周回って正気に戻ったのに、また壊れたら次は廃人じゃないの?
「うん……あと100年くらい生きられる気がする」
よし。それなら確実に私が死んだ後だ。
安心して息を吐く。
馬車の扉が開いて、見えた建物には、その日の演目が書いてあった。
「……オペラ?」
「うん。前に、約束しただろう?」
そうだ。ずっと気がかりだった。そもそもこのドレスはオペラ観賞用にって殿下が贈ってくれた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。さぁ行こう」
……この世界の人は、律儀に約束を守りすぎる。
嬉しくてちょっと泣きそうになってしまった。
「はい」
泣き笑いみたいになってしまったかもしれないけど、殿下が差し出してくれた手を取る。
微笑んだ殿下は、そう言えば正装だった。
「見て、殿下よ」
「では彼方が、婚約者の?」
「きっとマリー・アン様よ」
……引きこもりだから全然見覚えないですよねすみません。
お披露目会に招かれたのは、上級貴族の当主とその奥方。
そして入学式に招かれたのは、入学者とそのエスコート役。
だからつまり、貴族しか来れないオペラだろうと、私の顔を初めて見る人は大勢いる。
居た堪れなくて逃げ出したい。
「すまない、少しだけ挨拶しないとならない人がいるんだが、――我慢できる?」
……いや、私確かに陰キャですけれども、挨拶に我慢が必要なほどでは……
そう思いつつ顔を上げると、殿下の心配そうな表情が間近に見える。
ちょっと屈んでくれてるのは気遣いなんだろうけどありがた迷惑!
頷くと、殿下が指し示すように顔を動かした。真っ直ぐこっちに向かってくる人がいる。その人だろう。
――?
なんだかさっき耳に入った会話と同じ声質の、黄色い声が聞こえた。
なんだろうと思って、ちょっとだけ当たりを見回すと、こっちを見ている令嬢たちと目が合った。
とりあえずへらりと笑って軽く頭を下げると、同じように返してくれたけど、真っ赤な顔で早々にお互いの方へ目配せして、流石に聞き取れない小声で何やら話し出した。
……やばかったかな今の。
殿下を見るな的牽制に思われたらどうしよう。どうして私はいつも間違った選択ばっかり……!
殿下が気を引くように、少しだけ手を引く。ハッとして視線を前に戻せば、さっきの人はもう目の前だ。
「殿下ならびにご婚約者様にご挨拶申し上げます」
ホールの人かな。
とりあえず挨拶を受けたので、殿下から手を外し、ドレスを持ってカーテシーで応じる。
「これは……お初にお目にかかります」
やっぱりホールの支配人だった。自己紹介してくれたので、私も同じように名乗り返す。
日本で接客業やってたので、初対面では割と好印象を与えられる自信がある。会うたびに好感度下がってくんだけどね……。
「麗しい婚約者様にお会いできて光栄です」
……支配人ともなると、お世辞もすごいな。
感心していると、コツン、と後ろで音が鳴った。
護衛の誰かが、剣でも落としたのだろうか。なんかそういった感じの、金属的な音だった。
「――申し訳ないが、僕の婚約者は少し馬車に酔ってしまったようなんだ。休ませてあげたいから、席に案内してもらえるだろうか?」
……いや、別に今日は酔ってないけど?
だがそう言われたからには、扇子で顔を覆って少し俯き体調が悪く見えるように、無理してますよという感じの微笑みを浮かべる。
支配人はひどく慌てた様子で、「こちらへどうぞ」と先導してくれた。
解放されたホールへの入り口を何故か見送り、先導されたままついていくと、守衛っぽい人が両脇に控えたドアの前で、支配人が頷いた。
恭しくドアが開けられると、そこは区切られた一つの部屋のようになっていた。
開けている一面からは、舞台と客席が一望できる。でも分厚い生地のカーテンがかかっているので、それを閉めれば客席からは見えなくなる。
――これっていわゆる、特別席という奴では……?
開いた面に向かって、ゆったり目のソファが2つ。
ソファの前には、ローテーブルまで置いてある。
「お飲み物はいかがいたしますか?」
……ロビーで飲むんじゃなくてここで?
ホール関係の仕事にもちょこっと関わっていた人間としては、肝が冷えそうになった。
基本的に、会場内は客席も含めて飲食厳禁である。
でも、殿下は普通にオーダーしたし、この席は例外ということなのだろうか。
「マリー、君はどうする?」
……殿下に名前呼ばれたの初めてだな。
いやまぁ、完全なる部外者である支配人の前で『おい』だの『お前』だの『こいつ』呼ばわりしたら、不仲説が流れそうだ。
「……お水で」
馬車酔い設定上、多分水しか飲めない。
「他にもご要望等ありましたら、何なりと」
「ありがとう」
殿下のお礼に、私は慌てて声を上げた。
「……すみません、他にも椅子を用意していただくことは可能でしょうか」
「もちろんご用命とあれば」
「あの、簡易なものでも構いませんので、一つこちらへ運び込んでいただけませんか?」
「かしこまりました」
恭しい礼をしてから支配人が退室すると、殿下が「椅子?」と聞いてきた。
まぁ既に椅子2つあるもんね。
「……あの、すみません、私のメイドが午前中に倒れて……」
「え」
「長時間立ったままだと、辛いかな、と思って」
後ろで護衛その2が笑い出した。
……あ、やっぱり殿下の前で使用人が座ってるってだめ?
「や、休むように言ったんですけど、あの、でも私、こんな性格なので、彼女くらいしかあの……」
「マリー様マリー様、ちょっと落ち着いて。大丈夫ですよ、遠慮なく座ってもらいましょう。良いですよね、殿下?」
「あ、あぁ。構わない。用があれば、僕の方で動いてもらうから」
殿下の使用人をこき使うのもあれだけど……
「優しいんだな」
目を細めて、なんだかしみじみとそんなことを言われて焦る。
やめて殿下、それ言う相手間違ってる。
「違います。私の場合は全面的に打算です。ちゃんと見抜いてください」
護衛その2がまた噴き出した。
「流石に無理がありますよ。打算の場合は暴露しませんって。しかも助言までしちゃってるじゃないですか」
そういえば、護衛たちも元気でも座れた方が良いかもしれない。どうせ他に目もないし。殿下が気にしないなら。
「……あの、……椅子って他にも」
「言っときますけどね、俺たち護衛は基本的にどこでも立ちっぱなしの方が都合が良いんです。座ってるといざって時にすぐ動けませんから。それに、普段からこれなんで、逆に長時間座りっぱなしって方が辛いまであります」
護衛その1と、セキュアさんまで頷いた。あれ、この人も護衛兼ねてたのかな。
支配人自ら、サーブカートを押して飲み物を運んできてくれた。スタッフさんは椅子を持ってきてくれたので、仕方なかったのかもしれない。
なんとびっくり、小菓子までついてきた。
「こちらは仲睦まじいお二方へ、当館からのサービスでございます。どうぞお寛ぎの上、お楽しみください」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
殿下に続いて、ノックされた際に急いで被った車酔いの仮面の上で、ちょっと弱々しく微笑んで礼を言う。
支配人はまた丁寧なお辞儀をして、「ご用命の際はいつでも何なりとお申し付けください」と言って出ていった。
さすが、相手が王族となると対応が違う。商売人は結構厳密に客をランク分けするし、身なりで判断するから若手は結構態度にも出る。支配人は結構年嵩のように見えたけど。
私は自己肯定感が地面にめり込んで地底まで突き抜けるほど低いので、相手がチタンカードの持ち主だろうとポケットから小銭を直に出そうと、下に見るなんてできるわけもなく、お客様はお客様だった。
でも一緒に働いている人たちが、露骨に態度を変えるもんでびっくりしたことは何度もある。
殿下は多分、身なりも態度も何より身分も、最上級だから、私の至らなさはおこぼれに預かる形でお目溢しされているんだろうな。
「やー、それにしても。マリー様って本当に役者ですね。マジで具合悪そうに見えましたよ」
この人は前にも褒めてくれたっけ。
「お粗末様です。でも私のメイドの方がすごいです。倒れたのに、元気なふりしてて……顔に出ないと、気づいてもらえなくて、無理するしかなくなっちゃうから……心配です」
すると最初は断っていたものの、説得の甲斐あってなんとか着座してくれたメイドが、感極まったように「お嬢様……!」と呟いた。
私もね、顔に出ないからって、散々無理させられて、限界がきて、それでも「動けるなら大丈夫だろ」とか「そのくらいで」とか散々言われたからね。
そのくせ同じ症状が出たら、みっともなく大袈裟に喚き立てて「よくもまぁ……」と内心呆れた。
私のメイドには絶対そんなこと言わないし無理させたくない。
「ですって。メイド冥利に尽きますね」
そういえば、メイドには敬語だなこの人。護衛その1はタメ口だけど。身分?
「……ユニウスの言う通り、それで優しくないと言うのは無理があるんじゃないかな」
殿下が笑い混じりにそういった。
またこの男は。
「私は優しくあろうとしてもできません。……そう見えているなら、打算の結果です」
絶対にあの雲には乗れない。
「打算、ね……とりあえず乾杯しようか」
酒じゃないよな? あんた未成年だろ?
「水と、モクテルだと様にならないけど……成人したら、改めて乾杯しよう。最初は君と飲みたい」
そこは親とでは?
それに、約束はできない。私は成人することはない。
「……私は、生憎お酒は口にできないと思います」
「え?」
「……アルコールの、香りが苦手なんです。チョコレートもお酒の香りが強いものは、口にできない程に」
嘘じゃない。昔を思い出すから。
でも本当の理由は違う。その年齢まで生きられないから。
最後まで足掻くつもりだ。
最近は今みたいな、穏やかなやりとりもできるようになった殿下が、また過去のように私を睨んでも。
今世ではいつも私が沈み込む前に助け舟出してくれる護衛その2が、また過去のように私を嘲笑しても。
今はまだ覚悟決まってなくて、逃げ出したくもなるけど、断罪の日までには覚悟を決める。
絶対に逃げない。諦めない。
最後までちゃんと、否定する。
やってないことはやってないって言うんだ。
最後まで、できる限りのことはする。
だけどそれでもどうしようもなく、今回も断罪されることになったなら、私は殿下とお酒を飲むことはできない。
その年まで生きていられないから。
例え私を殺すことになる相手だろうと、叶えられない約束はしない。
だってそう願っていた。小さな私は、どうせ破るなら約束なんかしないでくれって、ずっと思っていた。
破られた時どんなに辛くて悲しくて惨めになるか。
私はそれをよく知ってる。
まぁ殿下は、その頃には私を殺したいほど嫌っていて、殺した後だろうから、そんな気持ちにはならないかもしれないけど、それでも。
「わかった。なら僕も飲まない」
「は?」
俯いていた顔を戻すと、殿下が晴れやかな笑顔でそういった。
いや飲めよ。王子は飲まなきゃ外交上問題大アリだろ。舞踏会もアルコールが標準装備だが。
「匂いが嫌なんだろう? 隣にいたら匂うだろうし、だから飲まないよ。安心して」
安心できるか。婚約者のわがままを全て許容するなこのボンクラ王子。
――いや待て、だから? だからヒロインが大勢の男に囲まれてても何も言わなかったの?
誰かと仲良くするだけで嫌、みたいなことを言われたから、他の男と仲良くされるのは嫌なんだろうなと思ってた。だけどそれは、公爵令嬢としてはあり得ないからってこと?
下町生まれの誰にでも愛される平民の女の子は、それも心から愛してる女の子だから、男に囲まれてても許すしかないってこと?
「妖精に乾杯」
……妖精が出てくるらしいオペラだからか。
上機嫌の殿下がそう言うから、私も水のグラスを持ち上げた。私の水入りグラスはタンブラー、ノンアルコールカクテルの入った殿下のグラスはカクテルグラス。
種類も違えば形も大きく違うから、作法通り目線を交わして、軽く掲げるに留める。
グラスを触れ合わせることはしない。
日本じゃないし、そもそも公爵令嬢や殿下に対して、互いの中身を入れて毒味をさせたら、戦争が始まってしまう。
スクールに残りたい、体調を崩したのは殿下のせいじゃないと説得した私に対して、お父様とお母様が冗談まじりに言ったのだ。
もしも殿下が私に何か酷いことをしたら、王宮に攻め入るから安心してねと。
冗談ではない。何も安心できない。そこまでやったらマジもんの悪役令嬢である。
比喩だとしても、言っていいことと悪いことがある。
「あの、……ひ、比喩だとしても、その、」
と言った私に、お母様がその顔立ちにぴったりな、普段見慣れた笑顔とは違う、なんだかこういかにも悪役な笑顔で言ったのだ。
「あら、比喩なら私の出番ね」
比喩じゃないの……
「だけど、私の旦那様であり、あなたのお父様である公爵は、こう見えて、とっ……ても強いの」
『と』と『て』の間にそんなに時間を置くほど強いんだ……
「公爵家の騎士もすっごく強いから安心してね」
なるほど。一家諸共(義弟除く)殺されたわけである。納得した。
公爵家の騎士は現公爵のお父様に従い、お父様が最も優先するお母様にも従い、そのお母様が大切にしてくれている私にも多分従うだろう。
だが、初対面の私が「殺す」と言った義弟にはきっと従わない。
だからこそ、戦争回避のために、義弟だけを残した。
私たち3人が死ねば、そして私に対して同情的な執事長と家政婦長さえいなければ、きっとスムーズに義弟が爵位を継ぎ――そうなったら、公爵家の騎士は義弟に従わなくてはならない。
どこまで本気かわからないが、そうならないためにも、私はとりあえず見かけ上、殿下と友好関係を築く必要がある。
殿下の資質にちょっと不信感を抱いてしまったとしても、とりあえず過保護なあの両親に相談するのはやめよう。先生にしよう。
先生は私のお願いをなんでも叶えてくれるわけではない。ちゃんと自分の意思を持った人だ。きっと相談に乗ってくれる。
護衛その2もそうだと思うけど、……今の所何故か突っ込んでくれないので、望み薄な気がする。
「……乾杯」
だいぶテンションの低い乾杯で申し訳なかったが、私はなんとか口にして水を一口含んだ。
……レモンの香りがする。
ふわっと香ったその匂いに、昔の記憶が開く。
……祖父が連れて行ってくれたデパートの、小さなお菓子屋さん。イートインができるブースがあって、そこでクッキーを食べた。
その時出されていた、日本のフォーマルじゃない飲食店では大抵無料で出てくるお水から、なんとレモンの香りがして、私はびっくりして喜んだ。
これ美味しいって、水に対して言う私に、祖父が苦笑してたのを覚えてる。
――じゃあ帰りにレモン買ってくか。
祖父がそう言って、このいい匂いはレモンなんだと学んだ。
多分、3歳とかかな。私がまだ普通に女言葉で喋って、女の子の服を着てる。そして祖父がいて、怖い両親も弟もいない。
あの日は、家に帰るまでは、多分幸せだったんだ。
何をするにも弟優先で、食事中に私は喋ったらいけなくて、弟の好きな、私の嫌いなものばかり並ぶ食卓。弟が泣くと私は悪くないのに怒られる。毎日疲れてぐったりしてた。
それがない、初めてのお出かけ。
いけない、ここで泣いたらやばい。
あんなに気の良い支配人にあらぬ疑いをかけたらいけない。
「……どうかした?」
「あ……レモンを、絞ってくれていたようで。……気遣いが素晴らしいと、感心していたんです」
「……そっか、うん、良心がすごく咎める」
私みたいなこと言い始めたけどどうしました?
「あぁ、支配人が見惚れてて殿下腹立ててましたもんね」
なんて?
「ユニウス!」
私は、日本でもオペラを生で見たことはなかった。小説の中で、英語ですらないんだからわからないよね、なんて会話文を読んで、そうなんだと思っただけ。
さすがは異世界というべきか、普通にわかる言語で上演されたそれは、子供でも楽しめるストーリーだった。
妖精に導かれて、様々な世界を冒険する物語。
場面転換はないけれど、高校の芸術鑑賞で見せてもらったミュージカルに近い。
あの頃よりも格段に視力の良い今は、役者さんの歌もすごいけど、表情も見て取れる。
夢中になって、のめり込んで、昔のように拍手を送る。
あぁ、確かに、これは見れないのを悔しがって泣くかもしれない。
「ご期待には――応えられた、みたいだね」
殿下の声に振り向く。
「はい!」
……私は笑顔で返事をして、お礼を言おうと思ったのに、殿下の顔がまた真っ赤になった。
なんで怒るの?
え、どうすれば良いのこれ?
殿下は何故か、真っ赤になった顔を手で覆って俯いた。
……ど、怒鳴らないなら……良い、……のか……?
不安になって辺りを見回す。
つい、視線が護衛その2に向かった。
護衛その2は苦笑してた。
「破壊力ありすぎましたね」
破壊力? 何の? 何を? え、別に破壊するストーリーじゃなかったよ?
なのに殿下は頷いた。
「マリー様」
「はい?」
「ちょっと待っててあげてください」
「……はい」
殿下の復活(?)には私の体感では『ちょっと』というよりも『暫く』時間がかかったが、頭の中で先ほどのオペラを反芻していたので気にはならなかった。
見るのに夢中ですっかり存在を忘れていたレモン水と、小菓子にも少し手を付ける。
念の為、小菓子は殿下に断りを入れたけど、殿下は同じ姿勢のまま「あぁ」っていう生返事だけだった。
一瞬聞こえてんのかなこれ、と思ったが、セキュアさんが「胸がいっぱいで食べられそうにないから、好きなだけ食べてくれ、と仰せです」と言ってくれた。
今まで、セキュアさんの代弁(?)に対して殿下が反論したことは一度もないから、折角だしと思っていただくことに。
今回のオペラはハッピーエンドだったので、食欲が失せることもなかった。楽しかった。
日前の母は私からゲームをする時間もアニメを見る時間も取り上げたが、自身はTVに釘付けだった。
なるほど、ドラマというのは、子供の声に対して「うるさい、黙れ!」と怒鳴るくらい楽しいものだったのだろう。
……やめよう。
せっかく楽しかったんだし。
少しは理解できたかもしれないが、それでも小さい、道理も弁えないようなほんの幼い頃の、怒鳴られ怯え傷ついた自分が癒されるわけじゃない。
最近は少し視野が広がったのだろうか。
それはやっぱり、……この世界の優しい人たちのおかげだろう。
復活した殿下にまたエスコートされて、小部屋を出れば、支配人の挨拶をまた受けた。
おかげさまで馬車酔いも治ったとお礼を伝えて、何より快適だったし楽しめたと、殿下の言葉に笑顔で首肯する。
椅子を運び込んでくれたこともお礼を言って、それから見送られた。
殿下のある意味お陰で、ホワイエが混雑する時間は過ぎたようで、来た時のように注目されることもなく、安心して素通りできた。
「……良ければ、……その」
「……はい」
なんだから妙に言いづらそうな殿下に、何事かと返事に力が入る。
「帰る前に、少し話さないか」
……断罪はまだ先では?
いやでもこのテンションの話……ってそうか、私の、婚約解消についての話、か。
休み明けで登校した日、殿下と会って、気まずくて。咄嗟に声が出なかった。
でも殿下は、それについては何も触れなかった。
私の読んでいた本から始まって、好きな物語についての話になって。
楽しかった。楽しくて、忘れていた。
いや、思い出さないように蓋をして。
楽しい時間に、嫌なことは思い出したくなかった。
……私は、嫌なことからはいつも逃げてる。
殿下が家に来ることがあんなに怖かったのは、そのせいだ。
私は多分、もう、……少なくとも、普通に話を聞いてくれる殿下を、怖いとは思ってなかった。
だってやっと、手に入ったと思ったんだ。
私が、日本で生きていた頃の私が、ずっと欲しかった、友達との時間。
まだかなって、待ち遠しく思って、あともうちょっとだってワクワクさえして。
好きな物語について話すのは楽しい。だからだと思っていたけど、……
殿下が聞いてくれるのが、楽しかった。
どう頑張っても私には、殿下の求める未来は返せないのだけど、あの時間だけは、もらってる思いと同じものが返せてるような錯覚ができて、だから私は、……
……でも、わかってる。
楽しい時間はいつも、長くは続かない。
「はい」
何かを好きになると疲れる。
だってその何かを失ってからの方が、人生はずっと長い。
長い時間、その喪失と付き合っていくのはとても疲れるし苦しい。
楽しい時間は本当に一瞬で終わる。
あぁでも、救いもある。
私の寿命はどうせあと少しだ。この世界では、もう、本当に。
二十歳を過ぎてからの一年の体感はどんどん短くなって、私が日本での生を終える前の一年なんて、本当に振り返ればあっという間だった。
最近の括りがどんどん長くなって、ちょっと前にが下手したら数年前なんてこともあった。
だから大丈夫。もしこの楽しい時間が終わっても、あっという間に私の今世も終わるから。
もし来世があるなら、……もっとたくさん、話せると良いな。今度は殿下の好きな物語についても、聞いてみたい。
本で読むのも好きだったけど、私の物語との出会いは口伝だ。祖父が語り聞かせてくれた昔話。
殿下はどんな風に話すのだろうか。




