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私とゲーム、特に乙女ゲームについて。

 ゲーム全般を私はしてこなかった。別に一切していないというわけでもないが、幼少期にゲームから隔離されていたせいか、スマホというゲームのできる身近な媒体を手にできる頃には、ゲームの何が楽しいかがわからない人間になっていた。


 簡単にいうと、恐ろしく下手なのだ。頭を使うゲームに関しては、「なんで仕事でもないのに頭使わなきゃならないの……?」と思うし、上手い下手が関係ないゲームに関しては、ある種仕事の弊害か、「これ、いっそPC版で定時に起動クリックルーティン終了のプログラム組めば良いんじゃ……?」などと、完全にゲーム――遊技に対する思考ではなく、しなければならないことに対する思考になってしまった。

 そこで私は諦めた。ゲームを楽しむという当たり前のことができない自分を認めることにして、そこからはゲームと縁のない生活を送っていた。


 ライトノベルが好きならば、乙女ゲームにハマりそうなものなのに、どうやら私は、物語の中のキャラとキャラの友情や恋愛を読むのは好きでも、プレイヤーというものの扱いがよくわからなかったっぽい。

 それに、何かというとすぐハグしたりスキンシップを取ろうとする男性キャラが必ず出てくるイメージがある。多分普通の人はそれにときめくのだろうけれど、私は鳥肌が立つし、万一フラッシュバックしようものなら下手すりゃ嘔吐く。

 友人が貸してくれたノベライズも、気乗りしなくて忙しさを理由にしばらく積ん読状態だった。覚悟を決めて読めば、それなりに心理描写も多く、そう言ったキャラクターがそうなっていく過程も描かれていたし、面白く読めた。


 これは大丈夫かもしれないと異世界転生の小説も時流に乗って読んでみた。友情がメインの話やいつの間にやら戦いがメインの話は、面白かった。

 けれど、主人公や主人公の姉妹が、あるキャラクターとのハッピーエンドを迎えるのが大変だったと言っている描写がどの小説にもだいたい出てくる。きっとその大変さが楽しいのだろうけれど、すでに日々の生活で手いっぱいの私に、その大変さを許容できる時間はほぼなかった。

 友人は自力でやるならその都度選択肢をノートにメモるとまで言っていて、そんな体力も気力も私にはなかったし、当時すでに精神的にかなりキていた私は、物事全般に興味が薄かった。誰かとの話を弾ませるために自分の苦手分野に切り込むようなガッツは皆無。

 

 何が言いたいかというと、つまり――私は今、ゲーム、というか、乙女ゲームというものを、一回もしてこなかったことを猛烈に後悔している。


 いや、全く知識がない、というわけではない。何度も繰り返すがライトノベルは好きだ。つまり、悪役令嬢が主役の物語は読んだことがある。だがしかし、あくまでそれをテーマにした物語を読んだことがあるというレベルで、しかも知らない単語が出て来ても、「文脈からして多分こういう意味だろう」とか、「ふうんそういうことか」とか、自分で調べることをせず、推量するか、文中で登場人物、大体が主役が説明してくれることを鵜呑みにしてきたのだ。


 基礎知識の欠如、セオリーの理解不足。


 そしてさらにいうなら、悪役令嬢にぴったりの、私の生い立ちと性格。

 それらの相乗効果によって、私の悪役令嬢人生は、見事に悪役の末路をそのままたどっていた。

 読んできた物語のように、ヒロインとお友達になることもなく、攻略対象に好かれることもなく、モブと恋に落ちることもなく、平民として幸せな未来にたどり着くこともなく、淡々と非業の死を遂げて「ざまぁ」対象であり続けた。

 私は前世、恋愛が苦手だった。だから好きな人を後から奪われることで嫉妬に狂ってヒロインに何かをしたということはない。

 ないのだが、正しい友人関係というものが築けない私は、私のいわゆる……その、つまり、悪役令嬢の取り巻きたちが色々やらかして、そのまぁ、私のためであるから一概に冤罪とは言えないのだが、その罪を被ったりだとか、親に愛されなかったコンプレックスの裏返しか、子供に甘い両親に対して「違う、本当は愛してないはずだ、きっとどこかで私を捨てる」とか、悪役令嬢そのままなことを思って試し行動をしてしまい、結果本当に子供に甘い両親を巻き込んで一家巻き添えの不敬罪で両親諸共投獄とか自殺とかなんやかんや……

 正直、毎回毎回、神経が擦り切れる末路だった。


 肉親が――祖父が死んだ時、もうこんな思いはしたくない、早く死なせてくれと祈ったことを思い出す。多分あれで私はどこか壊れたんだと思う。

 人の死は本当に辛い。祖父の死だって辛かったのに、悪役令嬢に転生して何が辛いって、家族や使用人まで巻き添えにすることだ。私は多分ヒロイン側だったら間違いなくチョロインで、それなりにひどいことをしてきた人でも優しくしてくれたことのある人が死ぬのは辛かった。なのにただただ優しくしてくれた人たちが死ぬなんて何をか言わんやだ。私が死ぬのは良い。死んで祖父に会えるならそれで良い。人生は小説よりも奇なりということをそのまま体験したよと、冥土の土産になる。

 だというのに、人を巻き添えにすることを何度も繰り返しているうちに、壊れて壊れて壊れた私は、一周回ってどうやら正常になったらしい。


 ようやく、ここが、この何度も繰り返す奇想天外魔訶不思議なこの世界が、乙女ゲームの世界なのではないかということに、思い当たった。

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