* 友人が護衛になった訳
「お前の大事なお嬢様が婚約したって?」
「早耳ですね」
「何が早耳なもんか。町中持ちきりだぞ。てっきり外交カードでどっかのお姫様かと思ったもんだが」
「殿下の一目惚れのようですよ」
「はん? なぁる。合点がいった。スクールに上がる前だもんなぁ。早すぎると思ったよ。可哀想に。自由に恋をする権利もなくなったか」
「お嬢様はその自由を行使する土台がまだできてませんが」
「……お前さぁ、制服捨てた?」
「制服?」
「スクールの制服だよ。捨てたか?」
「……何処かにあると思いますが?」
「耐性つけてやれば?」
「……だったら新品を取り寄せたほうがいいですね」
「変な噂が立つからやめろよ」
「……珍しく気が回りますね。確かに、親戚に来年入学予定の男子はいませんが」
「あ? ……ああ、違う違う。お前が、着るってこと」
「は?」
「女装も平気だったんだ。スクールの制服くらいどうってことないだろ? どうせ何年か前に着てたんだ」
「……笑止千万という言葉を知っていますか?」
「平気平気。お前ならいけるって。違和感ないよ」
「女顔なのは認めますが、童顔というわけでは」
「大丈夫大丈夫。いけるいける。ほら、お嬢様がスクールで悲鳴ずっとあげてたら可哀想だし後々問題だろ。王子様も興醒めして捨てられちゃうかもしれないし」
「……それならそれで……」
「うわ、うわー。だーからお前はダメなんだよ。傷物の令嬢なんか、どこにも引き取り手がないぞ?」
「なっ」
「待って殺さないで。お前は勘違いしてる。言い方悪かった。傷物って別に在学中に手を出すとかそういうんじゃない。んな真似したら子煩悩な公爵がブチ切れて絶対国家転覆の危機に陥るから。令嬢ネットワークの総元締め影の支配者公爵夫人が裏から手を回して殿下孤立するから。下手したら王位継承権剥奪されるから。大丈夫。お嬢様は処女のまま」
「っ、お前、言葉は選べ! 殺されたいのか!?」
「大変失礼しました殺さないでください。だから俺の言ってる傷物っていうのは、見た目も性格もたいそう愛くるしいと評判の王子様にお断りされたご令嬢の、次の婚約者になるような男はいないだろうってことだよ。今でも結構ギリだぞ? あの公爵夫妻が義父母になるんだ」
「……後ろ盾として最高だろう」
「あのな。味方にしたら最高ってことは、敵に回したら最低ってことだぞ? むしろ最悪? 死ぬほど蝶よ花よと下にも置かないおもてなしを生涯し続けなきゃならん。外遊び1回でもしたら身の破滅だ。絶対ごめんだね」
「そんな人間はお嬢様の婚約者には絶対にさせない」
「……しかも王国最恐の賢者までついてんだよなぁ……人型最終兵器みたいなもんだ。あーあ、……おっかねーな~……」
「お前が怖がる必要はないだろう。……殿下の婚約者となれば、スクールでも、気安く話しかけられたりはしないはず。おそらく公爵夫妻はそれを考えて」
「ああ、だな。まだ男嫌い治ってないんだろ? でもなぁ、必要はあるんだよ、これが」
「は?」
「その男嫌いのせいで、お嬢様の護衛は女なんだろ? 俺はバケモンみてえに強い女も知ってるからだからなんだって思うけど、頭の固い連中はそうは思わないらしい。国から一人護衛を派遣することになった。それが俺」
「……なんですって?」
「それなりに強くて、見た目が良くて、年齢が近いほうが良いだろうってことで、若手の中じゃNo. 1の俺様に白羽の矢が立った。よろしく」
「……ちょっ……と、待ちなさい、なんですかそれは」
「俺も正直その反応なんだわ」
おちゃらけていた親友は、ため息をひとつ零した。同時に、浮かんでいた笑顔が抜け落ちる。
仮面代わりの笑顔の下の素顔は、困惑に満ちていた。
「……男装したお前に怯えるお嬢様が、俺に怯えねーわけねーだろ……どうしろってんだ……」
家庭教師の私はともかく、護衛に服装の自由はあまりない。動きが制限されるような服装はいただけないし、国が派遣する護衛もとい、騎士の友人には、立派な隊服がある。加えてこの容姿だ。
平均的な身長の私より頭一つ高い長身に、騎士という職業柄、筋肉質な体つき、整っているがあくまで男らしい顔立ち。
「……それにさぁ、……俺の役所って、……下手すりゃスパイだよなぁ……? 額面通りに受け取って良い? それとも裏かかなきゃダメなの? 俺の頭じゃ判断つかないんだけど? 公爵に社会的に殺されたりしない?」
筆頭公爵家と王家は現状敵対していないはずだ。幸か不幸か今の所王子は一人。誰を擁立するかで派閥が割れるということもない、平和な状況。しかし公爵家が動員できる戦力は、王国騎士団に並ぶ。騎士が令嬢の護衛につくのは、友好の証とも言えるが、担保と言えなくもない。
弱々しい声音でこぼす友人を前に、二人して途方に暮れることになった。
お嬢様の護衛と侍女に悪い虫扱いされたような気がするという相談は、当然持ち越しだった。




