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* 自棄酒の訳

「で、賭けの結果は?」

「私の勝ちだ」

「……嘘だろ? ほん……え、お前そのテンション……」

「私の勝ちだ」

「うわ……」

「私の勝ちだ」

「……あーあ。まじかよ。引き分けじゃなくて?」


 


「っ――ひっ……っ」

「えっ」

 声にならない悲鳴、引き攣れたような呼気。

 立ち竦むお嬢様と、棒立ちの私。

 目を見開くメイド。

 真っ先に我に返ったのはメイドだった。

「お嬢様!? お嬢様、大丈夫ですか?」

「……あ」

「――先生、お嬢様はご気分が優れません。今日のところはお引き取りを」

「え、あ、」

「お引き取りください! ルディ、早くお嬢様を寝室へ!」

「――失礼」

 護衛だったんだろう、多分。いつも付き添っている男物の服を着た人の声は、初めて聞いた。いつも目礼してくるくらいだった。けれど、その声でわかった。女性だ。

 考えてみれば、男性が苦手なお嬢様は、まず護衛が駄目だ。四六時中そばに居られたら、きっと気が休まらないだろう。それで女性の護衛をつけていたのか。

 私の視界からお嬢様を隠すように間に立って、お嬢様を抱き上げると、そのまま部屋の外に出た。

 抱き上げられたお嬢様と、目が合った。

 多分、あれは、……恐怖だ。



「……んで、そのまますごすご帰ってきたと」

「ああ。……もうクビかもしれない」

「は? なんで? 心当たりがあるわけでもないんだろ?」

「わからない。この前会ったときは――というより、今日会うまでは、全く変わりなかったんだ。何が……」

「何をしたんだよ」

「わからない」

「わからないわけないだろ。引きつけ起こすくらいやばい何かがあったんだろ?」

「そう言われても一目見た瞬間なんだぞ。挨拶すらする前だった!」

「落ち着け! お前の暴走は人が死ぬ! お前、無意識に力暴走させてたんじゃないだろうな!?」

「そんなわけあるか! お嬢様と殺しても良いお前を同列にするな!」

「誰が殺しても良いって!? お前言葉汚い通り越して物騒なんだよ! ってああもう、ショックだったのはわかるけど、八つ当たりすんな。落ち込むな。疑って悪かったよ。どうどう」

「……私は馬じゃない」

「ああ、こんな凶暴な馬はいねーわ。……だから、疑って悪かったって。……なんだかよくわからんが、お前の大切なお嬢様は、本当に男が苦手ってことなんだろう。マセガキなんて言って、悪かった。でもさ、お前のその女顔が、役に立つときがやっときたってことでもあるわけだし、助けてやれよ」

「……何が悪かったと思う?」

「その格好で行ったのか?」

「ええ」

「……前に会った時は普通だったんだよな? 前の格好は?」

「下衣は今日と同じ。上は、ローブを短くしたような」

「あー……吟遊詩人みたいな格好か?」

「そうですね」

「……ジャケットがダメなのかね?」

「衣装の問題ですか?」

「だってお前は話してもないし、当然、触ったりもしてないんだよな?」

「無論」

「睨んでもないんだよな?」

「どちらかといえば多分締まりのない顔をしていたんじゃないですか」

「……自覚あったんだな。いや、結構結構。ならやっぱり、衣装の問題だろ。元々してた賭けの内容だってそれだったんだ。最初にいきなりその格好しなかったお前はやっぱりすごいよ。先見の明ってやつだな」

「その挙句この有様ですか? とんだ先見の明ですね」

「……めんどくせぇ落ち込み方すんなよ頼むから。本当に悪かったって! 勘弁してくれ……」



 二日酔いの最悪な気分で目覚めれば、頭に浮かぶのは面倒だと言いつつ心配そうな顔の友人と、最後に見たお嬢様の様子。

 今後の身の振り方を考えなければいけないのに、酒に逃げるなんて。

 友人はうまい酒を飲んで寝れば大抵のことは解決するなんて言っていたが、そんなことがあるはずはない。


 元々希望していた象牙の塔への書類を、いよいよ記入しなければならないかもしれない。その前に、公爵直々の呼び出しがかかるかもしれない。

 身支度を済ませて、象牙の塔への書類をしまってあった抽斗を見れば、中途半端に開いていた。

 不審に思って中を改めると、記入済みの書類があった。

 筆跡は自分ものものだ。

 ということは、帰宅後酔っ払ったままこれを書いたのだろうか。

 痛む眉間を押さえながら書類を手にとると、記憶が蘇る。

 溜息を吐きながら目を開けて書類を改めれば、図々しくも客員でと書いてある。我ながら未練がましい。


 スクール卒業前に推薦を受けていたが、公爵家からの招聘の方が象牙の塔からの勧誘より早かった。

 断った際に客員でも良いとは言われたが、なんの実績もないのに客員とは厚かましい。

 そのくらいの分別はある。


 今問題なのは、その時受け取った書類の、ここにあるのはどう見ても控えという点だ。提出用の1枚目がない。


 背中を冷たい汗が伝うとほぼ同時に、公爵家からの手紙が届いた。

 焦って取り落としそうになるのをなんとか開封すると、公爵ではなく、お嬢様からの手紙だった。

 開けばすぐに全文読み取れるような短い手紙。

 それでもお嬢様らしい内容。


「……確かに、半分くらいは解決しましたね」


 思わず頬が緩んで独り言ちてしまうくらいには、安堵した。

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