1日目と昔話
それで解散となり、各々の仕事へ、俺はアールスハインに連れられ、アールスハインの部屋に。
アールスハインの部屋には、ザ・執事さんを若くしたような人がいて、その人は、俺と目が合うと、ニッコリ笑って自己紹介してくれた。
そう言えば、俺に正式に自己紹介してくれたのはこの人が初めてな事に気づく。
「初めまして、私はアールスハイン王子の侍従をしております、シェル・クライムと申します。気軽にシェルとお呼び下さい」
「いちゅきけーたでつ、よーちくおねがーちまちゅ」
「ご丁寧にありがとうございます、ケータ様と呼ばせて頂きますね」
俺達の挨拶が済むと、
「そう言えば、ケータ殿、何となく連れて来てしまったが、別の部屋や専属の侍従を用意する事も出来るがどうする?」
とアールスハインが聞いてきた。
居候させて貰う身で、贅沢は言わない。
「じゃまじゃまなけりぇば、ここにーりゅ」
「ん?」
「邪魔でなければ、ここに居たい、と、申されたのでは?」
一発で理解してくれたシェルに、思わず拍手した。
「ケータ殿の着替えや身の回りの物を用意してやってくれ」
「既に手配済みです」
シェルは仕事の出来る男らしい。
10代後半位で、濃いブラウンの髪、身長はアールスハインと同じ位で、二人共に190センチ位、二人共に細マッチョ、シェルの方が表情が柔らかい。
髪色を揃えて、後ろから見ると、見分けが付かないと思う二人だった。
そこで、素朴な疑問、
「あーりゅしゅはーいんのーじー、なんしゃい?」
自分の方を向いて質問しているので、何か聞かれているのは分かるものの、内容が伝わらない。
「アールスハイン王子、何歳?と聞かれたのでは?」
「おおー!」
シェルに拍手!
「…………俺の事はハインと呼べば良い、歳は15だ」
「けーたはけーたで!ハイン!」
「ああケータ」
そんな二人のやり取りを、シェルが微笑ましげに見ている。
その視線に照れたのか、アールスハインは机に向かい、なにやら書類を見だした。
「俺は少し仕事を片付ける。ケータは寛いでいてくれ」
と書類から視線を上げずに言った。
シェルと二人、少し笑って、俺は、部屋を見回す。
壁一面の本棚、応接セット、執務机、あとは棚が幾つか、実にシンプル。
興味を引かれて向かったのは本棚。
自分で歩いた訳ではなく、シェルが俺の目線を追って、本棚の前に大きなクッションを置いてくれた。
俺ってこの世界の文字読めるの?
本棚は、一段が掴まり立ちした俺の肩の高さまであり、背表紙に何も書かれていない本は、皮の装丁で、俺の体の半分より大きかった。
何とか一冊引っ張りだし、床に広げる。
薄い水色のフカフカ絨毯が敷いて有るので床でも大丈夫。
ウム、ギャル男神グッジョブ!
見ている文字と頭で理解する文字が違うのは違和感があるが、読めるので問題無し!パラパラ読み進めると、歴史の本らしい。
元は小国であったこの国の歴史は古く、幾つかの戦争と、周囲の国の災害、疫病や、飢饉や、スタンピードと言われる魔物の氾濫などで、少しづつ国土を広げてきた。
歴代の王様は、国が大きくなっても他国への侵略はせず、災害に困窮する近隣国を、積極的に助けた。
そんな歴代の王族を、民は敬い信奉し、近隣の国々は進んで同盟を結び、属国になる事を望んだ。
そして、この国が、大国と呼ばれるようになった1000年前、最初の聖女が現れる。
最初の聖女は、平民だった。
この国から離れた小国の国境付近に住む、どこにでもいる少女。
そんな普通の少女は、優秀な成績と特殊な魔力を持っていたことで運命が変わる。
優秀な成績と特殊な魔力に目を留めた領主の推薦で、特別に国立魔法学園の入学を許された。
少女は、持ち前の努力によって学園でも優秀な成績を修めた。
そんな少女に恋をしたのが王子だった。
二人は身分違いの恋に落ちたが、周りはそれを許さなかった。
時を同じく、少女の故郷である国境の町で疫病が流行り出した。
少女は急いで故郷に帰り、疫病で苦しむ人々の為に特殊な魔力を使った。
少女の魔力は外傷に効果は無いが、病気には効果覿面、多くの疫病に苦しむ人々を救った。
救われた多くの人々によって少女は聖女と呼ばれた。
国境を挟んだ隣国は、国境の出入りを封鎖し、疫病の侵入を阻んだ。
国内に広がる疫病を、一人の少女の力で防げる筈もなく、少女は、自分の無力さと、増え続ける死者の数に絶望していた。
そんな少女を休ませる為に、少女に救われた多くの人々によって、少女は王都に運ばれ、王子と再会する。
多くの人々を救い、それでも救えない命に絶望し疲弊する少女を、王子は慰め励まし、愛した。
疫病が広がる程に、聖女の名声は高まり、王宮ですら無視出来ない存在になっていった。
王子は、聖女としての少女と結婚を許され、二人は国を挙げて祝福された。
数年後、最後まで疫病の治療に魔法を使い続けた聖女は魔力を使い果たし早世した。
唯一の治療法を失った国は、疫病によって滅びた。
最初の聖女は疫病と共に歴史に名を刻まれた。
900年前、二人目の聖女は飢饉に苦しむ国の高位貴族の令嬢として現れた。
私財をなげうち、特殊な魔力を使い、地を肥えさせて、飢饉で苦しむ民を救った。
王子と恋に落ち、結婚したが早世した。
800年前、三人目の聖女は、戦争の絶えない国に現れる。
特殊な魔力を使い、人々の争う心を鎮め、戦争を終結させた。
敵国の王子と恋に落ち、結ばれたものの、裏切り者として生国の刺客に殺された。
その後、100年の周期で、聖女と呼ばれる少女が現れ、特別な力で災害を防ぎ、その度に関係する国の王子と恋に落ちた。
300年前、教会の総本山である、ヒルアルミア聖国の教皇が、神託を受けた。
7日の後、異なる世界から聖女を降臨させる、後に生まれる魔王との闘いに、必ず聖女の力が必要となる。
との神託であったが、当時、魔王なる存在を知る者は無く、神託の意味を図りかねていた。
7日後、教会の大聖堂に光の魔法陣が現れ、見たこともない服を着た少女が現れた。
少女は、大陸にあるどの国の言葉とも違う言葉を話し、魔力測定では稀に見る高魔力、繊細なレースを思わせる花の模様が表れ、その周りを神聖な純白の帯が取り巻いた。
神からの授かり物として、少女はヒルアルミア聖国で、丁重に持て成された。
また、少女が現れた事で、魔王なる存在を信じざるを得なくなり、ヒルアルミア聖国は、いずれ来る闘いに備えた。
少女は、女神から自分が既に死んでいる事、これから行く世界に危機が迫っていること、女神が授けた少女にしか使えない力が有れば、世界を救えることなどを聞いていたので、自分を大切に持て成してくれる、ヒルアルミア聖国の為に力を使う事に躊躇いは無かった。
日々強さを増す魔物に、少女の力は絶大だった。
国の為に命を掛けて闘う少女に、共に闘う仲間が出来る。
そして来る、魔王との闘い。
ヒルアルミア聖国の軍と、共に闘ってきた仲間と、少女の前に現れた魔王は、人の姿と、圧倒的な魔力を持っていた。
死闘が続き、多くの者が死んで行った。
それでも、少女と仲間は最後まで闘い、ついに魔王を倒した。
凱旋後、共に闘った仲間である、枢機卿の一人と少女は、国中に祝福され結婚した。
数年後、魔王との闘いの傷が原因で、少女とその仲間達が相次いで亡くなった。
魔王亡き後も生き残っていた、強力な魔物達によって、ヒルアルミア聖国は滅亡した。
200年前、世界の果てと言われる辺境の島国の社に光の魔法陣が現れた。
その島国に名は無く、独自の宗教を持っていた。
神の拠り所とされた社に現れた光の魔法陣、人々は恐れる者と、敬う者に分かれ、7日後、光の魔法陣から少女が現れる。
言葉は通じるものの、何を見ても驚き、恐れるその少女は、異質であった。
辺境故に閉鎖的な島国は、少女を受け入れなかった。
島国を纏める数人の役人によって、少女は島国を出される事と決定された。
唯一島国で少女に優しかった少年が、共に島国を後にした。
少女と少年は、行商の見習いとなり、世界中を旅した。
その中で、かつての大国、ヒルアルミア聖国の話を聞いて、二人は少女の素性を知った。
生国の危機に気付き、少年少女は島国に戻る事を決意した。
数年、島国を後にしてからの数年で、島国の人々は、ただの一人も生き残ってはいなかった。
人知れず滅びた島国の話を、行商に戻った二人は、世界中に広めた。
100年前、光の魔法陣が現れたのは、世界一の大国レンガス帝国、大国の情報量は他の国々とは比べるべくもなく、ヒルアルミア聖国、名も無き島国の聖女の情報も当然のように集めていた。
7日後、光の魔法陣から現れた聖女を、レンガス帝国は、徹底的に調べた。
女神の説明、魔力の量、純白の帯、レースに似た花の模様、属性、能力、元の世界の言葉、風習、文化、学習能力、それと同時に魔法の習得、貴族のマナー、風習、魔物の生態等を学ばせた。
元々勤勉な学生だった聖女は、学ぶことを厭わず、与えられる知識をどんどん吸収していった。
帝国内でも特に優秀な数人の学生が、聖女の仲間として選ばれ、聖女と共に学ばせる。
数年後、聖女の学園卒業直後に、魔王の出現が確認され、聖女と仲間達が、闘いの準備を調える。
世界一の大国の軍隊は、魔物の軍勢をものともせず、大した犠牲も無く勝ち進んだ。
やがて魔王との決戦を残すのみ、となった時、国内で疫病が流行り出した。
度重なる魔物との闘いで、魔物の死体を片付ける暇が無く、そこから発生したと思われる疫病だった。
魔物の毒を含んだ疫病に、為す術無く倒れる人々、それでも闘いは止まらない。
魔王を倒し、聖女と仲間達、軍隊が国に戻った時に見たものは、夥しい死体の山と、恐れ、嘆き、絶望する人々だった。
王宮では、魔王との闘いの勝利に、王族を始め貴族達が大いに喜び、盛大な祝勝のパーティーが開かれた。
贅を凝らしたパーティーで、浮かれ踊る王侯貴族、その中には、共に闘った仲間達も加わっていた。
庶民との余りの落差に心を痛める聖女。
聖女は一人王宮を飛び出し、庶民の治療に、女神に授かった力を、惜し気もなく使った。
やがて疫病は終息していき、嘆くばかりの庶民達も、日常を取り戻す為、復興に励んだ。
多くの働き手が亡くなり、困窮する民衆に、貴族達から掛けられたのは、以前と同じだけの税。
国への怒りに立ち上がった男がいた。
男の声に次々民衆は賛同し、聖女もそれに加わった。
庶民の約8割もの賛同を得て、クーデターが起き、世界一の大国は、滅びた。
その後、クーデターの首謀者と聖女は結婚したが、元々庶民の二人に、国を運営する能力は無く、かつての大国は幾つかの国に分散され、レンガス帝国は滅びた。