6日目 休み続き
切りが良いので本日は二話投稿!
ゴトゴト揺れる馬車は、学園の馬車なので、いつも乗っていた王宮の馬車よりも大分揺れる。
揺れると言うより最早弾むと言った方が合っている気がするが、気分が悪くなるのを誤魔化す為に、窓の外を見ていると、俺の座る位置からは三階部分の辺りしか見えない、のだが、
「!しゅとーっぷ!とまりぇー!(!ストーップ!止まれー!)」
つい立ち上がって叫んでしまったが、俺の声でも御者さんは止まってくれた。
ただ急停車だったので、吹っ飛ばされた俺は、ディーグリーにキャッチされた。
「どうしたケータ、急に?」
「あしゅこ!もちょせーじょーにた!(あそこ!元聖女いた!)」
焦っていつも以上に呂律がおかしくなった。
まぁでも、俺の指差した先に目を向ければ、テラスでいちゃつく二股女とキャベンディッシュの姿が見えるので、意味は分かっただろう。
目撃した皆が無言になる。
それも当然だろう、いちゃつく二人は寝間着のままの姿で、三階だからと油断しているのか、堂々とキスをしている。
ユーグラムが真っ赤になって顔を押さえた。
「このまま少し先に止めてくれ」
アールスハインが静かに指示を出すと、御者さんは指示の通りに、何事も無かったかのように馬車を道端に止めた。
俺達は馬車から降りると、向かいの通りにあったカフェに入り、昼食の注文をした。
三階のテラスでは、相変わらずいちゃつく二人。
シェルが馬車を降りる前に、御者さんにメモを渡していたので、直にあの二人を捕まえる人が来るだろう。
俺達はその間の見張りだ。
「それにしても、こんなに近くにいたなんてね~」
「しかもあそこは最高級宿です。隠れる気があるとは思えません」
「きしぇーじじちゅちゅくって、よめにしゅりゅきー?(既成事実作って、嫁にする気?)」
「うおっ、ケータ様はえげつない事言いますな~」
俺の意見に、ディーグリーがニヤニヤと笑いながら返す。
俺もニヤリとしてやる。
「何そのふてぶてしい顔~!アハハハハ悪可愛い~!」
ディーグリーとシェルが爆笑して、ユーグラムは身悶えて、アールスハインが苦笑している。
昼食に頼んだメニューがそれぞれに配られ、俺の前にも置かれる。
このカフェには、子供椅子は置いて無かったので、行儀は悪いが、テーブルの端に直に座っている。
皆が微笑ましい顔で見るだけで、怒られないのでそのままで。
頼んだのはシチューとパンのセット、アールスハイン達は、ガッツリとした肉メニュー。
シチューに浸してパンを食べる。
浸してもまだ硬いパン。
シチューに入っている肉も硬い。
学園のお子様ランチは、とても幼児向けに配慮された食事だったのね、と学園の料理人さんに改めて感謝した。
今度会ったらお礼を言おう!
硬いパンと肉は食べられなかったし、大人サイズの食事は3分の1も食べられなかった。
残った食事は、アールスハインとディーグリーが食べた。
王子様なのに、残り物を平気で食べた。
ユーグラムが驚いていたが、アールスハインは平然としていた。
シェルは笑ってた。
食後のお茶を飲みながらまったりしていると、見覚えのある姿を発見。
通りの向こう側に、将軍さんが部下の騎士を連れて現れた。
窓越しに手を振ると、気付いて手を振り返してくれた。
そのまま将軍さんは、最高級宿に入って行き、暫くするとキャベンディッシュと二股女を連れて出てきた。
二人は激しく抵抗しているが、複数の騎士を相手に敵うはずも無く、力ずくで馬車に押し込まれて去って行った。
将軍さんと騎士の姿に、周りの人達がザワザワしているが、説明してくれる人はいないので、暫くすると収まった。
王子は学園卒業後のお披露目で、初めて公に国民に対面する。絵姿位でしか顔を知られていないので、キャベンディッシュと気付く人は少ないだろう。
それでも多くの噂が上がるだろう事が予想されるが。
「この後はどうします?」
「本音を言えば、あの二人がどうなるのか見てみたいけどね~」
「気になるなら行ってみるか?」
「少々下世話では有りますが、気になるのは確かですね」
「では行くか」
また城に戻ります。
街中を走る乗り合い馬車に、平然と乗り込むアールスハインに、ユーグラムがまたもや驚いていたが、構わず乗り込み城へ。
当然城門は越えられないので、城門前で下りて歩きで城内へ。
門番さんがまた驚いていた。
騎士さんの案内で、先程まで使っていた部屋へ。
そこには王様と宰相さん将軍さんがいて、
「お、来たな!アハハハハ、やはり気になって戻って来たか?」
将軍さんに笑われたが、事実なので苦笑を返す。
「今、教会の女性司祭に頼んで、彼女の身体検査をしている所です」
宰相さんが教えてくれた事によれば、捕まえた二人は昨日の大規模討伐戦の最中逃亡し、宿泊を渋る宿主を身分を盾に無理矢理最上級の部屋を取り、ずっと二人きりで過ごしていたらしい。
「王子でありながら戦闘に参加もせずに女としけこむなんざ、どう言う了見だ!王族どころか貴族の令嬢達も多く参加したってのに!!ありゃーダメだぞ!」
将軍さんが怒りも顕に机を叩く。
「はぁ、そんな事はこの部屋にいる全員が分かっている事だ。物に当たるな!壊れたら弁償させるからな!」
宰相さんが注意すると、落ち着いたのか座り直す将軍さん。
仲良いよねこの二人。
「キャベンディッシュ王子の性質は、元王妃の影響であって王や王妃のせいではありません。元王妃は、キャベンディッシュ王子を乳母に任せるのも拒否した程、王子を溺愛するあまり、酷く偏ったものの考え方をする傲慢な王子として育ってしまったのですから。まぁそれでも、本人の資質次第でいくらでも改善する機会はあったのですがね」
「あれはなー、碌に基礎練習もしないくせに、やたらと自信があるって、一番始末の悪いヤツだからなー」
我が息子の不甲斐なさに、王様が落ち込んでいる。
「お話し中失礼します。アブ男爵令嬢の検診が済みました」
デュランさんが部屋に入って来た。
「結果は?白か黒か?」
「黒でした。右内腿に魅了魔法の印が表れておりました」
はぁぁぁぁぁぁ
王様と宰相さん、将軍さんの溜め息が重なる。
「その事に加えて、もう一つ、アブ男爵令嬢には妊娠の兆候が見られます」
「…………………それは、今回の逃亡以前に、二人には肉体関係が有ったと言うことか?」
王様のひっっっっくい声に、
「今回検診の協力をお願いした女性司祭は元々産婆をされていた方なので、気付かれたのだと思います。魔力の乱れ具合から見て、妊娠1ヶ月程かと思われるとの事でした」
「この世界に来て間も無くではないか!」
将軍さんの呆れた声も高くなる。
王様なんか顔を両手で覆ってしまった。
俺達に口出せる問題では無いが、ちょっと酷いね。
「これはテイルスミヤ長官からの提案なのですが、妊娠が原因かは分かりませんが、聖女様の魔力に変質が感じられるため、魔力測定をもう一度試したいとの事でした」
「許可する。測定を行う時は、私達も立ち会おう」
「それでしたら既に用意は整えて有ります」
「あぁ、それなら移動しよう」
王様の言葉に皆が立ち上がる。
俺達も同席しても良いらしいが、マジックミラー的な物で仕切られた隣の部屋で見るように、との事だった。
魔力測定玉のある隣の小部屋に入ると、薄暗い中に、幾つかの椅子が置いてある。
そこに座って待っていると、
間も無く隣の部屋に王様達が入って行く。
少し遅れてキャベンディッシュと二股女が別々の騎士に連れられて来た。
二人は会うなり抱き合おうとしたが、それぞれについていた騎士に止められていた。
「父上、なぜこのような酷い仕打ちをするのです!私達がどんな罪を犯したと言うのですか?なぜ私達を引き剥がそうとなさるのです!」
「そうよ!私達は愛し合っているのよ!引き離すなんて酷い!」
いきなり喚きだした二人に、周りはウンザリしている。
王様は軽く手を振るだけの指示を出すと、了解した騎士が二股女を、魔力測定玉の前に連れていく。
いつの間に来たのか、テイルスミヤ長官が、
「板に手をついて下さい」
「何でまたこれなのよ?」
「貴方はこの世界に来て、一月程立ちます。その間貴方のしたことは能力を伸ばす事ではなく、多くの異性に声を掛け媚を売ることだけでした。学園の生徒としての最低限の行動も出来ず、近いうちに退学になる事が決定しています。今後の貴方の処遇を決めるために、測定を行うのです」
「何よそれ!私は聖女なんでしょ!私が居ないと世界が滅びるわよ!」
「何を言っているのですか、貴方は聖女の資格を失ったではないですか。それにもし万が一貴方に聖女の特別な力が有ったとして、貴方に何が出来ると言うのですか?魔物を見れば、他の令嬢を盾に逃げ出す。自分より幼い子供が目の前で魔物に襲われそうになっても、平気な顔でその横を通り抜ける。そんな貴方が世界を救う?笑わせないで下さい、私達の世界は私達が救う!貴方の力などいらない!分かったならさっさと板に手をつきなさい!」
いつに無い厳しい態度のテイルスミヤ長官に言い返す事も出来ずに、騎士に促され渋々板に手をついた。
巨大な測定玉には、以前の測定とは全く違う点があった。
魔力の色は青のまま、しかし模様が渦を巻く黒に蛍光ピンクが混ざる、なんとも形容し難い模様。そして聖女の証である筈の白い帯が当然無い。
「「「「「「………………」」」」」」
一同がシンと静まる中、
「何だ、変化有ったじゃない!これで分かったでしょ!私だって頑張ってたのよ!」
胸を張って言い切った二股女だが、
「そんな、リナが聖女の資格を失っているなんて、これは何かの間違いだ!あり得ない!陰謀だ!」
「ちょ、ちょっと、どうしたのディッシュ?」
「…………この結果は、以前に検査した時も申し上げましたが、貴方の聖女の資格は失われております。それと、この黒にピンクの混ざる渦は、先程検診をした際に判明した事実と合わせて考えると、今後貴方は魅了以外の魔法を使うことは出来ない、と、言うことでしょうね」
「そ、そんな馬鹿な!私が魅了の魔法にやられていると言うことか?そんな!このリナへの思いも魔法だと言うのか?」
キャベンディッシュがブツブツし出した。
二股女は、何を言われたのかいまいち分かっていないのか、とにかくキャベンディッシュに近付こうと、もがいている。
キャベンディッシュが、二股女を怖れるように下がると、二股女が金切り声を出して、
「酷い酷い酷い!何なのよこれは!私が何したって言うのよ!私は女神に選ばれたのよ!酷い酷い酷い!」
髪を振り乱し、唾を飛ばして叫ぶその姿に、魅了魔法に掛かっているはずのキャベンディッシュでさえ、後退りしている。
泣き叫ぶ二股聖女とキャベンディッシュが部屋から連れ出されるのを見送って、元いた部屋に戻る。




