森演習?4日目昼
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テイルスミヤ長官との話が終わり、訓練所を借りるには半端な時間なので、少し早いが昼食をとることにした。
食堂につくとまだ人は疎らで、いつもの席につくと、すぐに給仕さんが来てくれた。
注文を済ませると、給仕さんと入れ違いに近付いて来る三人の生徒が。
俺達の前で立ち止まり、朝の生徒達同様に頭を下げる。
バリアを解くと、
「昨日は助けてくれて有り難うございました!」
と、俺を真っ直ぐに見て言った。
誰?
爽やかに笑う姿は、スポーツマンのよう。
こんな爽やか全面押しの知り合いはいない。
「だりぇー?」
「あの、昨日助けて頂いた者です」
「んうー?」
「火傷と骨折と呪いと毒とを治療して頂いた」
「ああ!しゃいごのじゅーしょーしゃ!(ああ!最後の重傷者!)」
「あ、はい、それです!昨日は本当に有り難うございました!」
「「有り難うございました!」」
ついてきた後ろの二人も揃って頭を下げる。
お礼だけ言って去って行った三人。
なんと言うか、余りの爽やかさに、おっさんの精神がクラクラする。
別にアールスハインらが、爽やかではない、訳ではないが、何か違う、容姿とかではなく瞳の輝きが違う感じ。
「しゃーわわかね~(爽やかねー)」
「ああ、あの三人はね~、何か違う空気吸ってる感じするよね~」
「確かに、綺麗なものだけ見て生きてる感じがしますね」
ディーグリーとユーグラムの感想には、微かな羨望と毒を感じます。
「でも三人共優秀だろう?」
アールスハインのフォローに、
「そーそー、子爵家の出身なのに魔力が青判定で、実力もあってAクラスって珍しいって、噂になってたからね~」
「それを言うなら、平民出身でSクラスの貴方の方がよっぽど噂になってましたよね!」
「アハハハハハ、幼年学園の頃は散々裏口だ!とか生意気だ!って因縁つけられたけどねー」
「全て返り討ちにしてましたからね」
「おー、でぃーぐでぃーかっきぇー!(おー!ディーグリーかっけぇー)」
「アハハハ、そうでもないよ~、たまにやり過ぎて、先生に怒られたし!」
ディーグリーのやんちゃなエピソードが出た。
が、今は落ち着いたようだ。
食事も終わり、お茶を飲みながら午後の予定を相談していると、
カラーンカラーンカラーン
と、授業でも無いのに鐘が鳴って、不思議に思っていると、食堂の配膳口の上部の真っ白い壁に文字が浮かんでくる。
内容は、緊急の集会が開かれるので、午後は講堂に集まる様に、と言うお知らせだった。
午後の予定が決まったので、早目に移動しようと席を立ち食堂の入口を出た所で、二股女達と擦れ違った。
相変わらずキャベンディッシュと生徒会長の腕を両手に抱え、取り巻きになった子息達と能天気に話している。
昨日の自分の行動など、何でも無い事かの様に。
二股女を見る、令嬢達の視線は昨日までよりも、遥かに冷え冷えとしているのに、一切気にする素振りすら無い。
二股女が、元聖女であると知ってから、初めて見る彼女に、ユーグラムとディーグリーの視線もとても冷たい。
バリアのせいでこちらに気付かれないうちに、通り過ぎる。
講堂にはまだ人は疎らで、だがその少ない人の中に、助の姿を見つけた。
向こうもこっちに気付いて、友人に何か言うと、こっちに来た。
「アールスハイン王子、けーた、昨日は活躍されたそうで!」
「いや、俺はそれ程。ケータは大活躍だったがな」
誉められたので、フフンと胸を張ったら、笑いながら頭をグシャグシャにされた。
「そっちはどうだ?」
騎士科の生徒は、王都から程近いダンジョンと言われる魔物の巣窟での演習をしているらしい。
安全の為に、本物の騎士も城から派遣されているんだとか。
「あーこっちは…………」
「どうした?何か問題か?」
「いや、問題と言うか、革新的な新技術とかで、騎士の皆さんが張り切り過ぎて魔物を殲滅する勢いですかね~、それで学園側と多少揉めたくらいです」
アハハーと力無く笑う助に、全員で目を反らしました。
ザワザワと人の集まった講堂、壇上に学園長が上がると、静まっていく。
「皆さん、本日臨時の集会を開いたのは、昨日の演習で魔物が多発した際の皆さんの行動に対しての事です。
我が学園は国を代表する由緒有る学園と自負しておりますが、皆さんの昨日の行動を見て、私は酷く落胆致しました。
森に向かった生徒達以外は、魔物に抵抗する意思すら見せずに逃げ出した者が、多数存在したとか。
皆さんには、演習の意味をもう一度確りと考えて頂きたいと思います。
次にこのような不甲斐ない行動を取る者が現れた場合、私は学園長としての権限を以て、その者を退学処分と致します。
昨日の演習によって、不和の生じた班が複数出ました、そのクラスは午前中に話し合いの場を設けましたが、結論の出ないクラスもあったとか、班変えを希望していないクラスはこのまま解散して頂いて結構です、が班変えを希望した上でまだ班の決まっていないクラスは、講堂に残り、学年、男女の区別なく、演習場所のみを考慮して班を再編成し直して下さい。
当然成績は下がりますが、それでも決まらない場合は、一人でも演習に出て頂きます。
班行動の出来ない者に命の保証はしません。話は以上です。それでは班変えの希望を出していないクラスは解散して下さい」
学園長の厳しい言葉と、それ以上に厳しい視線に誰も声も出ないが、俺達のクラスは班変えの希望者がいないので、早々に講堂を出た。
「学園長厳しかったね~」
「噂ですが、昨日の演習で、逃げ出した生徒を追って来た魔物によって、街の人間に被害が出たとか、草原から街に逃げ帰った生徒を追って商人の荷物が被害に遭ったとか」
「マジか~、ホントに皆闘わずに逃げただけなんだ、普通なら闘ってそれでも敵わない魔物なら、先ずは拠点に戻って報告って流れだろうに」
「報告もせずに、ただ逃げ出しただけの様ですね」
「せめて報告だけでもしてれば、臨時でも、冒険者に助っ人を頼むなり、手はあっただろうからね~」
「そうしていれば、被害も最小限で済んだでしょうしね」
「でもさ~、ちょっとおかしくない?1年なら初めての演習って事で、パニクって逃げ出しちゃう事も有るだろうけど、2、3年生も何もせずに逃げ出したって言うじゃん」
「そう言われるとおかしいですね、何か精神に影響を与える様な攻撃でも受けたのでしょうか?」
「もしそうだとしても、範囲が広すぎるだろう?」
「そ~だよね~、それに学園の生徒のみがパニクって逃げ出すって、それもおかしいしね~」
話す程、謎は深まるばかり。
結論の出ない話しは置いといて、真面目な彼らは今日も訓練をするらしい。
いつもの訓練所は屋外なので、雨の今日は使えない。
なので職員室で許可を貰って、屋内訓練所に向かう。
屋外訓練所よりは狭いけど、前世の学校の体育館4つ分位の広さはあるだろう。
既に訓練をしている生徒の邪魔にならない様に、隅の方に移動して、アールスハインとディーグリーが魔法剣で打ち合う。
ユーグラムは、鉄パイプみたいな棒を持って、シェルの投げた的を次々撃ち落とす。
俺は?特にやることも無いので、ボケーと訓練を見ている。
そんな俺を後ろから捕獲しようとした人物がいたが、当然張っている透明バリアに阻まれて、失敗に終わる。
振り向けば、昨日森の拠点で治療を担当していた教師だった。
「にゃんでしゅか」
捕獲はされなかったが、ちょっと驚いたので半目になるのは仕方ない。
「スマン、つい驚かして見たくなった!おっさんの遊び心だ!そんでよ、折り入って頼みがあんだよ、昨日のあのスゲー治癒魔法、あれおっさんに教えてくれよ!な?頼むよ!」
自分の事をおっさんと呼ぶ教師は、30代前半に見える。
前世の俺より年下だろうに、周りを若者に囲まれると、自分のおっさん度が気になるのだろうか?
「おしゅえりゅって、にゃにおー?(教えるって、何を?)」
「魔力反発を起こさない治癒魔法とか、1度に何人も解毒する魔法とか、色々やったろう?昨日」
「まりょきゅはんぱちゅは、よーしぇーじょくらからでー、げどきゅは、ばりあはってー、げどきゅのまほーいりぇたよ?(魔力反発は、妖精族だからで、解毒は、バリア張って、解毒の魔法入れたよ?)」
「種族出すのはズルいだろー?後、解毒の魔法とバリアの魔法を両方一遍に使うのは無理だろー?」
「?でちりゅよー?」
「二つの魔法を、同時に使えるのか?」
凄く疑った目で見られております。
昨日だって、何度か目の前で使っただろうに、見てなかったのかこの人?
言葉では何言っても信じなさそうなので、右手に火魔法、左手に水魔法を出して見せてやる。
「は?おいおいまじか?ホントに二つも同時に魔法使ってんのか?まじか!」
目の前で起きている現実が認められないらしい。
手を振って魔法を消すと、教師は、酷く落ち込んで、肩を落としてしまった。
「あー、テイルスミヤ先生に言われた事は、本当だったんだなー、こりゃお前さんにしか出来ない芸当だろうよ!あー、何か秘策でもあんのかと思った俺が甘かったかー」
「でも、りぇんしゅーしゅりぇばでちるでしょー?(でも、練習すれば出来るでしょ?)」
「いやいやいや!二つの魔法を同時にとか、魔法庁のエリートだって出来るヤツすくねーわ!」
俺は無言でアールスハイン達を指差す。
アールスハイン達も、当然普段からバリアを張っているし、その上で魔法剣を使っている。
呆然と見つめる教師。
「おいおい、あいつら普通に魔法同時発動とかしてんじゃねーか?」
「してりゅねー」
「ホントに練習したら出きんのか?」
「やってりゅねー」
「おし、俺だって生徒に負けてられっか!やってやるぜ!俺はやるぜー!」
急に熱血し出した教師は、どこかへ走り去った。
無駄に元気なおっさんは、若者の倍鬱陶しいと知った午後でした。
その後も、何人かの生徒に昨日助けたお礼を言われたり、アールスハイン達の魔法剣に興味の有る生徒に囲まれたり、黒猫と遊んだり、昼寝したりして過ごしました。
昼寝を終えてもまだ時間が余った、今は午後3時過ぎ位。
おやつですな!
ちょうど手の空いていたシェルに、
「しぇりゅー、こむにこほちー(シェル、小麦粉欲しい)」
と訴える。
少し考えたシェルは、満面の笑顔で小麦粉を渡してくれます。
この小麦粉は、城から持ってきた、以前製粉し直したやつです。
バリアボウルを用意して、マジックバッグに大量に入っている卵を割ります。このちっさい手では巨大卵を割りながら卵黄を分ける事が出来ないので、卵上部を風魔法でサクッと割って、手に洗浄を掛けて、直に卵黄を取り出します。
卵黄と卵白を分けたら、卵白に風魔法を当てて、泡立てていきます。
風魔法の泡立ては、調節が難しいけどあっと言う間に泡立ってとても楽です。
八分立て位になったら砂糖を少しずつ加えて行きます。
フワッフワのメレンゲが完成。
取り分けていた卵黄も、色が変わるまで混ぜ混ぜします。
なぜかマジックバッグに入っていた、お玉サイズの木のスプーンをシェルに渡して、ミルクを足して混ぜ混ぜしてもらいます。
小麦粉を卵黄の方のボウルに混ぜ混ぜ。
最後に二つのボウルを少しずつ混ぜ合わせて、バターを薄く塗った鉄板型バリアを、下から火魔法で熱した上に、スプーンで生地を落としてもらう。
いちいちやってもらわないとならないのがもどかしいです!
鉄板型バリアを蓋型バリアで覆い、弱火にした火魔法で、生地が膨らむのを、じっくり待ちます。
隣でずっと見ていたシェルが、徐々に膨らんでいく生地に、子供の様に目を輝かせています。
あ、そう言えばひっくり返す為のヘラが有りません!マジックバッグを漁っても出てこないので、
「しぇりゅー、へりゃほちー(シェル、ヘラ欲しい)」
「へりゃ、ですか?」
「こりぇを、ひっくりかえしゅやちゅ(これを、ひっくり返すやつ)」
鉄板型バリアを指差して言えば、
「あぁ成る程………これなんて使えますか?」
出て来たのは、お好み焼きに使うようなヘラ。
形状もほとんど同じで持ち手の部分は木で出来ている。
俺の手にはちょっと大きいけど、なんとか使えない事もない。
シェルから受け取って、早速端の方にある物からひっくり返して見る。
完璧な焼き色ですな!
次々ひっくり返し、再び蓋をする。
更に膨らむ生地を見て、シェルの目がキラッキラしてる。
ふっくら膨らみ切った所で火魔法を消し、でもまだです!
余熱で膨らみが落ち着くまでちょっと待ちます。
隣ではシェルが皿を持ってスタンバっている。
差し出される皿に載せたホットケーキはフルンと震える柔らかさ、3センチを超える厚みがある。
バターと蜂蜜を掛けて出来上がり!
いつの間に集まったのか、皆揃っていただきます。
全部が目分量だった割りに、我ながら良い出来である。
前世の妹達の好物で、散々作らされた経験は、この世界でも役にたったようだ。
皆を見ると、なぜかフルフルと震えている。
一人三枚の予定で作ったホットケーキは、既に俺の分以外残されていない。
早過ぎない?
堅焼き煎餅並みの菓子ばかり食べているから、フワフワのホットケーキなんて、飲み物扱いなのかもしれない。
名残惜しそうに皿を見る皆。
仕方が無いので、残った二つのホットケーキを、半分ずつ皆に配ったら、それはそれは大事そうに食べていた。
美味しかったようで何より。
その後はまた訓練に戻り、俺は黒猫と遊んでたよ。




