食堂で と 森演習3日目
本日二話目です。
黒猫を抱っこした俺を抱っこしたアールスハインが、食堂に入ると、一斉に令嬢達の視線が突き刺さる!俺とアールスハインは慣れた物だが、黒猫には不快だったのか、俺の脇に顔を埋める。
縫いぐるみだとでも思っていたのか、多くの令嬢が黒猫の動きにザワッとする。
黒猫が動いた事で、令嬢達だけではない視線も集まる。
アールスハインは構わず進んでしまうので、せめて声だけでも遮ろうと遮音のバリアを張ってやると、黒猫が驚いて顔を上げたが、視線はそのままなのですぐに顔を伏せてしまった。
先に来ていたディーグリーが苦笑している。
遅れてきたユーグラムは、周りを見て俺を見て状況を理解したのか、黒猫には触れないので俺の頭を撫でてきた。
席に着いたので、遮音のバリアだけでなく給仕の人以外には認識しにくくなるバリアを張り直すと、黒猫は安心したのかソロソロと顔を上げ、俺の腕から出てきた。
注文を取りにきた給仕さんが、慣れたもので先に子供椅子を持ってきてくれた、と思ったら、子供椅子の座面の横に後付け出来る平らな台が付いていて、そこに子猫が座って一緒にご飯を食べられる様にしてくれた!さっき連れてきたばかりなのに、もう用意してくれるなんて、仕事が速すぎる!と驚いていると、隣に座ったシェルがこっちを見て、親指を立てていたので、シェルの差し金らしい。
勿論シェルにも給仕さんにも笑顔でお礼を言いました。
注文も済み、今日の演習の話をしていると、食堂入口付近がザワッとした。
外からは良く見えないが、内側からは普通に見えるバリアの向こうは、音を遮らずともシンと静まりかえっているのが分かる。
入口付近を見てみれば、いつもの二股女とキャベンディッシュ、生徒会長の姿があり、何に驚いているのか分からなかったが、良く見ると3人の後ろにもう2人程別の人物がいる。
見たことの無い生徒は、親しげに二股女と話していて、キャベンディッシュと生徒会長に睨まれている。
二人はキャベンディッシュや生徒会長程ではないが、そこそこイケメンで、その間に挟まれた二股女は、それは嬉しそうに会話している。
いよいよ二股所では無くなってきたが、時々振り返ってはキャベンディッシュや生徒会長に意味深な視線を送る。
意識して計算しているその仕種に、恐ろしさしか感じない。
ちょっとだけ興味があったので、バリアの遮音を解いて周りの話を聞いてみると、二股女の側にいる二人はキャベンディッシュの班のメンバーで、共に伯爵家の子息らしい。
王子の取り巻きと言うやつらしいが、キャベンディッシュをほったらかしで良いのだろうか?疑問は残るが興味が無くなったのでバリアを張り直し、ご飯を食べます。
黒猫も用意された食事を見ていたが、この食事は従魔の魔物用なので、綺麗に盛り付けられた生肉でも、このままでは食べられない。
ササッと浄化の魔法を掛けてあげると、嬉しそうにニャンと鳴いてから食べ始めた。
食事が終わり席を立つ頃、入口に見慣れた姿が、テイルスミヤ長官がバリアがあるにも関わらず、こちらを見て手招きをしてきた。
近寄って行くと、
「予定が無ければちょっとお時間を頂けますか?」
と言うので、全員でついていった。
食堂からそれ程離れていない部屋に入り、立ったままテイルスミヤ長官が話し出した。
「明日の演習で例の計画を実行します」
「父上の許可が下りたのか?」
「はい、彼女等の行動は常に監視され、城に報告されていましたから、許可はすんなり下りました。ただ魔道具の調整にちょっと時間がかかりまして、2日程遅れました」
「そうか、父上の許可があるなら問題無い。ただ失敗の無いように慎重に」
「はい、承知しております。それでは」
明日、二股女の魅了魔法を確かめるための罠が仕掛けられるらしい。
俺達にはすることも無いのだが、一応事情を知っている者として、報告してくれたらしい。
これでもし魅了魔法が使用された形跡が見られれば、即退学、教会監禁コースだ。
明日、俺に出来る事は無いので、結果を待つだけなのだが。
何だか嫌な予感がする。
モヤモヤしながらも、横になれば幼児の体は、抵抗虚しくあっと言う間に意識を飛ばした。
おはようございます。
横になった途端眠りに落ちた俺です!
のび◯か!?けーたでした。
今日の天気は曇りです。
朝食を済ませ、馬車に揺られ森へ、今日は既に、スタート地点に担当の冒険者が待機していてくれて、スムーズにスタートした。
3日目なので、もう道らしきものの出来つつある森の中、曇りのせいかいつもより暗い道に嫌な予感がする。
それでも昼前は前2日と同じ様に進み、休憩場所の草原に到着。
ホカホカにした携帯食料を食べながら、ニスタさんが、
「なーんか嫌な空気だなー、午後はちっと早目に拠点に移動した方が良いかもな」
「嫌な空気、ですか?」
「あぁ、こう言う空気の日は、俺の経験上、厄介な魔物に遭ったり、大した魔物でもねーのに誰かが大怪我したりすんだよ、上手く説明出来ねーが、一応先輩としては、いつもより慎重に警戒する事を勧めるね!」
「分かりました。気を引き締めて慎重に進みます!」
「おう!そうしてくれや」
嫌な予感は俺だけでは無かったらしい。
この班は、常に皆がバリアを張って行動しているが、更に一段強いバリアを張って行こう。
いつもより気持ち早目に休憩を切り上げて、警戒しながらも魔物を狩って行く。
拠点まで後半分まで来た所、前方に他の班を発見。
いつもなら避けて通るが、どうにも見えている班の様子がおかしい様に見えて気になる。
じっと見ていると、ニスタさんも気づいたのか、おかしな様子の班に首を傾げ、
「ちっと気になるな、様子だけ見ていくか?」
班の行動は基本生徒に任されているので、アールスハイン達に確認するニスタさんに、全員が真剣な顔で頷く。
そっと気配を消して警戒しながら近づく、ハッキリと他の班が見える位置まで行くと、彼等がおかしく見えた原因に気づく。
彼等は、立ったまま眠っているかの様にユラユラ揺れるばかりで、意識が有るようには見えなかった。
彼等に何が起こっているのかは分からないが、何者かに操られてでもいるような状態は異常だ。
敵の姿を探すが見当たらず、困惑していると、俺の腕の中にいた黒猫が突然背後に向かって唸った。
俺が振り向くのと、何者かの攻撃がバリアに弾かれるのは同時だった。
バヂヂとバリアに弾かれて、跳ね返されバランスを崩し姿を現したのは、巨大な蜘蛛の魔物。
「チィッ、ポイズンスパイダーだ!気をつけろ!」
ポイズンてからには毒が有るのだろう、巨大蜘蛛の魔物は、毒々しい黒と紫の胴体に、びっしりと刺の生えた脚、背中には鮮やかな蛍光黄色の模様がある。
ユーグラムが顔を盛大に引き攣らせ、魔法を連発しているが、固いのか中々致命傷には至らない。
近づくのは危険なので、アールスハインもディーグリーもバリアの中から魔法を撃っている。
ニスタさんが飛び出そうかと思案しているが、バリアが強力な事を知ると、ちょっと様子を見る態勢になった。
俺は、操られて?いる他の班の人達に、毒消しの魔法玉を撃っていた。
彼等は正気に戻るなり、闘っている俺達を見て、恐怖の叫びを上げながら、拠点に向かって走り去って行った。
ええー、協力しないまでも、助けた俺達にお礼も言わないで去るってどうなの?
と思ったが、今はそれどころでは無いので、彼等は放置して蜘蛛の魔物との闘いに参加する。
バヂヂバヂィ
と何度弾かれても同じ攻撃をする蜘蛛の魔物はあまり知能は高く無いらしい。
あの毒の滴る足が邪魔だな!と思った俺は、風魔法を薄く円盤型に造り回転を加える。
風魔法で造った回転する円盤は、大工道具の丸ノコの刃の部分だけを取り出した様な形状で、チュィーンと音まで似ている。
その円盤型風魔法を、蜘蛛の魔物の脚の付け根にぶつける。
予想通り関節部分は他よりも柔らかく、あっさりと脚の一本を切り落とす事に成功!続けて2本目に取り掛かろうとすると、隣からチュィーンと音がして、ユーグラムが俺と同じ様に風魔法で丸ノコを造り、蜘蛛の魔物に向かってぶつけようとしていた。
二人掛かりで脚を切り落とされた蜘蛛の魔物は、胴体だけになりながらも、鋭い牙の生えた口で攻撃しようとしているが、そんな攻撃に当たるはずも無く、アールスハインとディーグリーによって、頭を切り落とされ絶命した。
黒い靄の消えた蜘蛛の魔物は、死んだ後は無毒化するらしく、ニスタさんが普通に触っていた。
マジックバッグにしまい、拠点に向かう。
「いやー、お前ら強いな!こんなにあっさり毒の有る魔物を倒せるとは!しかも無傷で!俺が後20若けりゃパーティーに誘ったのによ!アハハハ!」
陽気に笑いながらも警戒を怠らない姿は流石だが、声が大きい!と言いたい。




