実戦演習1日目
おはようございます。
お城で意識を飛ばして、目覚めたら学園の部屋で、一瞬混乱しましたが、すぐに納得した俺でした。
今日から演習が始まるそうです。
アールスハインの班は森から出発して、一週間毎に段々街に近付いて演習が進むそうです。
魔物がいる森って、全く想像が出来ません。
発声練習と準備体操をしながら、ぼんやりとこれからの予定を思い出していると、いつもよりもちょっと早目にシェルが部屋に来ました。
演習にはシェルは同行しません。
従者に丸投げして何もしない貴族のボンボンやお嬢を出さないためだそうです。
王族が従者無しなのに、いくら高位貴族でも従者を引き連れて行くことは出来ないので、入学時に侯爵以上の高位貴族には、誓約書を書かせるんだとか、面倒くさいね!
シェルが用意してくれた今日の服は、黒の袖無しの肌着と、カーキ色の長袖の厚地のシャツ、カーキ色のサスペンダー付きのハーフパンツに黒のハイソックス、いつもよりも硬い素材のちっさいブーツ、俺のリュック、その上にバサッと被せられる耳と尻尾付きの黒い雨合羽を持たされる。森に行ったら着てくださいって。
耳と尻尾は必要ですか?そうですか。
アールスハインは、何だか俺とお揃いっぽいシャツにパンツに、編み上げのゴツいブーツ、胸の所に皮と金属を合わせた様な胸当てをつけて、腰のベルトに剣とマジックバッグ、ポンチョ型の雨合羽マントを持った。
無駄に格好いい。
その格好のまま食堂へ、食堂に入った途端、
「「「「キャーーーーーーッ」」」」
っと令嬢達の黄色い悲鳴。
向けられているのはアールスハイン。
無駄に格好いいからね。
慣れているのか、特にリアクションも無くいつもの席へ、ユーグラムとディーグリーが苦笑している所を見ると、令嬢達は二人にも同じ反応を示したのだろう。
道理でいつもより人口密度が高い割りに、給仕さん達が忙しそうじゃ無いのね。
その姿は前世で見かけたアイドルの出待ちをする女子そのもの。
ユーグラムは、濃紺の長めの厚地の上着に、斜め掛けの大きめバッグ、下は濃い茶色のパンツにゴツいブーツ。
ディーグリーは濃い茶色の短い上着に、背負うタイプの大きめのバッグ、下は濃い緑のパンツにゴツいブーツ、腰には短剣と小さめの箱形のバッグをつけている。
二人共にアールスハインとお揃いのマントを脇に置いてる。
二人共に、俺が三人位入るサイズの皮のバッグを持っているが、とても重そう。
マジックバッグが無いと、こんなに大荷物になるのね?
アールスハインの荷物の少なさに驚く二人に、マジックバッグの存在を教えると、凄く凄く羨ましがられた。
ゴメンね、その内テイルスミヤ長官が広めてくれるはずだから!
朝食を済ませて、席を立った時に、
「「「「「キャーーーーーーッ」」」」
と令嬢達の悲鳴、誰?と見てみると、珍しく一人でいるキャベンディッシュ。
無駄にヒラヒラの付いたシャツに、なぜかキラキラしているパンツ、カッチリした形の上着に赤いマントを羽織り、腰に装飾過多の剣を差している。
顔だけは、良いので似合ってるけど、これから魔物と戦う格好では無い。
特に荷物は無いようだが、学園スタートなのだろうか?
食堂中央に仁王立ちして腕を組み、入口を睨むキャベンディッシュ。
そこへ再び、
「「「「「キャーーーーーーッ」」」」
令嬢達の悲鳴。
今度は、生徒会長の登場。
生徒会長は、全身黒い服と装備をつけてキャベンディッシュの前に立つ。
「よくぞ逃げずにここまで来たな!その勇気だけは誉めてやろう!だが今日から始まる演習で勝つのは私だ!貴様の出る幕など無いほど完璧に勝って、二度とリナに手出し出来ないようにしてくれる!覚悟しておけ!!」
「そっくりそのままお返ししますよ!リナ嬢は身分で人を判断などしない、素晴らしい女性です!必ずや私を選んでくれるでしょう!その時に身分を笠にきて、私達を引き裂くような無様な真似をしませんようにお願い致しますね!」
二人の間にバチバチと火花が散る様な緊迫した場面だが、取り合っているのはあの二股女である。
二股女に関わってから、評判の駄々下がりの二人である。
欠片も興味が湧かない。
ここに二股女まで参加したら、鬱陶しいことこの上無いので、早々に退散します!人から認識されにくいバリアを張って、食堂を後にします。
クラス毎に集合とかは無く、目的地別に学園が用意した馬車に乗って早速移動。
俺達が乗ってすぐに出発した馬車は、乗り合い馬車と言われる形で、王家の馬車より格段に揺れる。
アールスハインの膝に乗っているのに揺れる!
酔いそうです!
それでもまだ街中は良かった、街を出た途端に揺れは更に酷くなり、最早座っているのも困難に!
仕方がないので、天井の梁の部分に紐を結び付け、板に魔法で穴を空けて、紐を通す。
俺が何をしているのか分からず、不思議そうに作業を見ている周囲の視線など気にもせず、完成させたブランコに座る。
「「「おおお!」」」
「「「「「まああ!可愛い!」」」」」
男子と女子の歓声が重なる。
ブランコに座ると、多少揺れがマシになる。
これで安心。
そうして俺は目的地まで、人々に眺められながら過ごした。
目的地までは2時間位で到着。
時間の長さは前世とほぼ同じ、正確な時計は無いので大体だけど、9時位。
数人の教師に先導されて、班毎にスタート地点に待機。
10時位に鐘の合図で出発。
午後4時に学園の用意した拠点に到着するまでに、どれだけ魔物を倒せるかを競うのが演習の目的。
魔物にはそれぞれに点数が振られ、弱い魔物を沢山倒すか、大物を狙うかは班の判断で決める。
万が一の事があれば、魔道具で合図を送り、教師に助けを求める。
その場合は、今日1日分の点数が無効になる。
拠点の救護所は利用しても良いが、弱い魔物3匹分の点数を引かれる。
この班は拠点に向かいながら、なるべく大物を狙って行く方針らしい。
途中邪魔になる小物は狩っていくが、追いかける事はしないらしい。
リーンゴーンリーンゴーン
森に似つかわしく無い鐘が鳴る。
スタートの合図だ。
流石に魔物のいる森の中で、抱っこされてる訳にはいかないので、アールスハインの右肩辺りを飛んで移動。
種族的な特徴なのか、俺はずっと飛んでいても魔力が殆ど減らないので、飛ぶことは苦ではない。
普段抱っこ移動なのは、周りに騒がれないためである。
別に楽チンだからではない、と思う。
街中とは違って薄暗い森の中は、子供の頃に過ごした山を思い出す。
懐かしくなりながらキョロキョロしていると、何やら右斜め前方に、黒い靄を纏った巨大甲虫がいる。
俺と同じ位の大きさの甲虫は、まだこちらに気付いていないが、あんな甲虫は男の子の夢を壊すと思う。
アールスハインの肩をつついて知らせると、他の二人にも知らせて臨戦体勢を取る。
虫の苦手なユーグラムが、初めて見るしかめた顔で、風魔法を発射!サクッと真っ二つになる甲虫。
死んだ途端黒い靄が霧散する。
靄に邪魔されて見えなかったが、頭部に角が多い!後口に肉が詰まってた!肉食?!と驚いていると、魔物は全て肉食だって教えられました。
成る程、魔物は肉食で黒い靄を背負っているのね、と納得してササッと回収。
マジックバッグがあるので、他の班よりだいぶ有利だが、持ち物は個人の責任なので文句を言ってはいけません。
俺のマジックバッグには、シェルが予め色々詰めておくと良いですよ!と色々渡された物を詰めているので、便利です。
まだまだ余裕もあるので、魔物も詰められる。
黒い靄を探すと、結構と魔物がいるが、虫ばかり捕っていたら、ユーグラムがドンドン顔をしかめていくので、虫は程々にってストップがかかった。
後は、ウサギ型の魔物とキツネ型の魔物が何匹か、全ての魔物が靄が消えると頭部に角が多い!そしてデカイ!兎なのに虎くらいの大きさ。
可愛くない!倒すのに躊躇せずにすむけどね。
虫の魔物をスルーするとサクサク進む。
こんなんで良いのか?と思ってたら、一際黒い靄の塊を発見!アールスハインに知らせると、皆に緊張が走る。
「ゴワーーーッググワッゴワーーーッ」
こちらの存在に気付いた魔物が、背を起こし雄叫びを上げた。
空気を震わせるその雄叫びを聞いても、それ程恐怖を感じないのはなぜだろう?
4メートルはある熊型の魔物は、ヨダレを垂らし、血走った目でこちらを睨む、四つ足をついて、後ろ足で土を蹴っているのは、突進する前触れか?
昔じいちゃんと山を歩いていた時に遠目に見た熊の方が、ずっと小さかったのに今の100倍怖かった。
地鳴りをさせ、土煙をたててスピードを上げ向かってくる魔物熊、軽自動車位ある巨体が、結構な速さで近付いて来る。
アールスハイン等は、陣形を整え、向かってくる魔物熊を迎え撃つ気でいるようだ。
ふむ、さっきから気になっているのだが、魔物熊の目線が俺に固定されてる気がする。
試しに横にずれて見ると、向かう方向を変えてくる。
成る程、魔物ってだけあって、魔力の多い者を狙って来るのか?と予想をたてて、皆からちょっと距離を取って見ると、アールスハインらを丸無視で俺に向かってくる。
おいおいおいお前、俺に向かってくるのか?だったら俺だってやっちゃうぞ?
トップスピードに乗った魔物熊が、全力で俺に向かってくる、俺は魔物熊の前方に土魔法で、頑丈な壁を出す。
ドガガガガーーーーーーン
止まれずに正面衝突した魔物熊は、首の骨を折り、呆気なくお亡くなりになった。
アッサリと着いてしまった決着に、武器を構えたまま呆気に取られるアールスハイン達、エヘッて笑ったら、
「「「ハァーーーーーーーーーー」」」
と3人揃って溜め息を吐かれた。
靄の無くなった魔物熊は、俺のマジックバッグに仕舞われた。




