お城でも魔法練習
騎士団訓練所には、多くの騎士達がいた。
中央にはイングリード程もある丸太が3本立てて置いてある。
王様と宰相さんは見学。
なぜか王様の膝の上で俺も見学。
アールスハイン、ユーグラム、ディーグリーが中央に向かい、軽く体をほぐしたら、先ずはアールスハイン。
剣に魔法を纏わせ、丸太を斜めに切りつけると、何の抵抗も無く斜めに切られた丸太がスルンガランガランと音をたてて転がる。
「「「「「はあーーーー?」」」」」
騎士達から、驚きの声が上がる。
それに構わず、次はユーグラム。
丸太から距離を取るユーグラムに、騎士達から訝しげな視線が集まる。
指揮棒を構え、棒の先から魔法発射、着弾した円盤型の風魔法は、丸太を真っ二つに切り裂いてガランガランと転がる音に、
「「「「「えええええ?」」」」」
意味わからん!とばかりに叫ぶ騎士達。
ハイお次はディーグリー。
両手に短剣を構え、魔法を纏わせた途端両手の短剣はバチバチと音をたてる。
そのまま丸太に突っ込んだディーグリーは、勢いのまま片手を丸太に突き刺した。
手を引き抜くと、丸太には丸く穴が貫通しており、
「「「「「うええええ?!」」」」」
と声が上がる。
「以上が今回御報告します魔法剣の威力です。私達も昨日練習を始めたばかりなので、この魔法剣の真の威力を引き出せている訳では無いことも、合わせて御報告致します」
「おいおいおい!ハイン!すげぇな!何だ今の!やべー!アハハハハハ」
イングリードが興奮の最高潮に達したのか、大笑いしながらアールスハインの背をバンバン叩いている。
「時にケータ殿?過去の聖女の残した文献には、ケータ殿が以前住んでいた世界は、魔法の存在しない世界だったと書いてあるが、先程アールスハインの見せた魔法剣なるものは、ケータ殿から教えを受けたと、手紙に書いてあった。これはどう言う事だろうか?」
王様が話かけてきて、その内容に宰相さんも興味津々なのか、こっちを見ている。
「んーと、まえしゅんでたしぇかいは、じゅーっとじゅーっとむかちは、まほーがあったってちんじてりゅしとがいて、いまにょしぇかいには、もにょがたりとか、おちばいとかでまほーにょはにゃしが、いっぱいあリュよ(んーと、前住んでた世界は、ずーっとずーっと昔は、魔法があったって信じてる人がいて、今の世界には、物語とか、お芝居とかで魔法の話が、いっぱいあるよ)」
ん?と王様が首を傾げた。
通じて無いらしい。
最近は、問題無く会話が出来ていたので、不便さを感じていなかったが、やはり俺の呂律はまだまだらしい。
「フム、昔は魔法があったと信じる人が多くいたが、今の世界には、物語や芝居の中にしか魔法は存在しないと?」
宰相さんが通訳してくれた!大体あってるので、うんうん頷いた。
「?作り話と思われているのなら、なぜケータ殿は、魔法剣などやってみようと思ったんだ?」
「おとーとが、まほーときゃ、ちぎゃうしぇかいとか、おはにゃしがだいしゅきでー、よきゅ、はなちてて、まほーのありゅこのしぇかいなりゃ、できりゅかなーって?(弟が、魔法とか、違う世界とか、お話が大好きで、よく、話してて、魔法のあるこの世界なら、出来るかなーって)」
王様が、もう俺の話を理解するのを放棄して、宰相さんに目線で解説を求めている。
「ケータ殿には弟君がいて、その弟君が、魔法や違う世界の物語が大好きで、よく話していたから、魔法のあるこの世界なら、実現出来るかもと考えた、と?」
「しょーしょー、しぇーかーい!」
宰相さんが完璧に訳してくれたので、拍手しておく。
宰相さん、顔怖いのに実に良きパパである!
「成る程?魔法の基本はイメージと言うが、ケータ殿のいた世界には、それだけ多くの文献が有るのか?」
「んー?ぶんけんちなう、こどもぎゃ、あしょびでよむおはなちのほん(んー?文献違う、子供が、遊びで読むお話の本)」
「子供が遊びで読む本?」
「しょー」
「それは、ケータ殿は以前住んでいた世界では、貴族だったと言う事か?」
「んーん、しょみんらったよ(ううん、庶民だったよ)」
「庶民の子供は、字は読めんだろう?」
「?ああ!けーたにょしゅんでたくには、ほとんどじぇんいん、じよめりゅよ(?ああ!けーたの住んでた国には、ほとんど全員、字読めたよ)」
「国民のほとんど全員が字が読める?それは、凄い国だな!」
「しょーにぇー、しぇかいでいちばんじのよめりゅくにらったよ(そうねー、世界で一番字の読める国だったよ)」
「それは、世界一の強国と言う事か?」
「ちなうちなう、ちったいしまぐにらったよ!しぇまいくにらから、きょーいくが、いきとどいちゃのよ(違う違う、ちっさい島国だったよ!狭い国だから、教育が行き届いたんだよ)」
「狭い国だからと言って、国中の民が字を読める様になるとは、その政策は是非学びたい物だな!」
「ちららいよ?」
「はは、そうか、確かに政策とは、為政者側でないとわからんものな!」
「しょーしょー」
小さい国だが、この国よりはだいぶ人口が多いけどね!
段々王様も俺の言葉に慣れてきてしまった!後半普通に会話しちゃったし、これは、呂律の改善を急がねば!
俺と王様、たまに宰相さんで会話してる内に、訓練所では、早くも魔法剣らしきものを身につけ始めた人がいた。
ユーグラムも、何やら金属の棒のような物を振り回しているし、両手剣を持った騎士とディーグリーが、動きの確認中。
アールスハインはなぜかイングリードと打ち合っているし、訓練は順調のようである。
どうしよう、優雅な見た目のユーグラムが鉄パイプ振り回してるんだが!?
俺を膝に乗せた王様と、宰相さんも何やらソワソワしているし、実は二人も交ざりたいのか?
「まじゃってくりぇば?(交ざってくれば?)」
二人に向かって言うと、ハッと俺を見て、お互いを見て、
「じゃじゃぁ、折角の新しい技ですので、いつか他国に披露する機会も有るかも知れません、私達が全く使えなくては格好がつかないので、基本だけ、基本だけ習っておきましょうか!」
宰相さんが、ちょっと恥ずかしそうに言い訳しながら、王様を誘って訓練に交ざり始めた。
イングリードと打ち合っていたアールスハインが気付いて、打ち合いを止めて王様達に教え始めた。
一人取り残された俺の側には、ザ・執事なデュランさんが来てくれた。
「ケータ様、退屈ではありませんか?お茶をお持ちしましょうか?」
「でゅらんしゃん、かじゅうだけにょってありゅ?(デュランさん、果汁だけのってある?)」
「ええ、有りますが、このまま飲まれるのはお勧めしませんよ?」
「うん、らいじょーぶ、でゅらんしゃんここしゅわって(うん、大丈夫、デュランさんここ座って)」
てしてし隣の席を勧めると、不思議そうにしながらも座ってくれるので、そんなに大きくない深目のバリアの皿を用意して、サラサラと氷の玉を削って行く。
ちゃっかりと、デュランさんとは反対隣に座っているシェルと、俺の3人分の氷を用意して、デュランさんに貰った果汁を掛けて、差し出す。
すぐに食べ始めたシェルを見て、かき氷を見て、俺を見て、恐る恐る一口食べて目を見張るデュランさん。
普段冷静沈着な人が、動揺するのは、しかも自分で仕掛けた事だと、とても面白い!シェルが密かに笑ってるし!
「これは、ケータ様、魔法にこのような使い方があり、しかも氷にこのような食べ方があるなど、私全く知りませんでした」
「ケータ様は、他にも魔法を使った恐ろしく旨い菓子もお作りになられるんですよ!」
「そうなのですか?それは素晴らしいですね!是非食べてみたいものです」
「それはもう!素晴らしい味と食感で、どの国の料理でも見たこともない菓子です!」
「ほう?シェルが言うのであれば、それは素晴らしいのでしょうね」
「はい!私も今必死で練習しています!叔父上にも後程、作り方と材料をお教えしますね!」
「それは楽しみです!」
会話しながらも、二人はあっと言う間にかき氷を食べ終わる。
シェルなんか、まだ物欲しそうな顔だが、これ以上は、昨日の二の舞になるので止めておいた方が良いよ。
魔法剣は、人によって修得に差が出るようで、頭で考える系の人は中々上手くならないが、脳筋さん達は、ガハガハ笑いながら、技を繰り出して闘い始めている者もいる。
イングリードと将軍さんが、周りの被害など全く考えず、さっきからずっと大笑いしながら闘っている。
その内誰かに怒られるヤツだな。
そんな事を考えながら観察していると、ザ・執事なデュランさんが騎士の一人に何か言って、言われた騎士は、訓練所の隅に走って行き、ガガーーンガガーーンと銅鑼のような鐘を鳴らした。
途端に動きを止める騎士達。
何?何なの?と狼狽える俺に、シェルがお昼の鐘ですよ、と教えてくれた。
何だよ驚かすなよ!
今日は、お客さんのユーグラムとディーグリーがいるので、王族宮の食事室ではなく、別の部屋で食べるそうです。
その前に身嗜みを整えに一旦解散!の前に、洗浄の魔法を皆に教えてみたら?ってアールスハインに言ったら、今から教えても、昼飯の時間が遅れるだけだって却下されました。




