1日目
メガネさんに、再度促されて、
「はぁ~い!頑張りま~す!」
ほんの数メートルの距離を離れるだけなのに、キャベンディッシュに小さく手を振り、怯えたふりでガチャの前に進む二股女。
板に手を置いた瞬間、先程と同じように、無色透明な部分が色づき始め、外枠は青、模様は、良く言えば迷彩模様、悪く言えばグチャグチャ、色の判別も難しい。
ただ、先程は無かった、外枠のさらに外側に、白く細い鎖のような物が巻き付いていた。
この結果があまり良くない事を表すように沈黙が広がる。
しかし、
「キャ~!私も王子と同じ、レア魔力になりました~!」
出た結果を見て、周りがシーンと沈んでいるのに、二股女は一人大はしゃぎ、小走りで王子に近づき抱きついた。
キャッキャとはしゃぐ二人に周りがドン引きするなか、メガネさんと王様が、深刻な顔をしていた。
「これは……どう判断を下すべきか」
「……そうですね、今の時点で属性を決めるのは難しいかと、それでも、聖女様の証である光の帯は現れましたし、聖女であることは確定してもよいでしょう、ただ、すぐにお披露目するよりも、先に魔法に慣れて頂くほうが宜しいかと思われます」
王様とメガネさんが深刻そうに相談している。
空気の読めない二人は、イチャイチャしている。
周りはザワザワしている。
俺はヒマしている。
ヒマなので、周りをキョロキョロしていると、王様と話しているメガネさんと目が合った。
メガネさんが王様に何か言うと、王様もこっちを見た。
王様がメガネさんに頷くと、メガネさんがこっちへ来た。
「次は貴方の番ですが………抱き上げてよろしいですか?」
聖女認定されたようなので、二股女改め二股聖女に向けるよりも、大分柔らかい表情と声で、俺に質問してくる。
確かに、今の小ささでは板に手が届きそうもないので、素直にメガネさんに両手を出す。
「失礼しますね」
メガネさんが声をかけてきて、抱き上げられる。
慣れてないのかぎこちないが、落とされはしないだろう。
メガネさんに抱っこされたまま、ガチャ前へ、
「さ、ここに手を置いて下さいね」
メガネさんが俺を板に近付ける。
小さな手をペタッとね。
その瞬間、ブワッと色が変わった。
外枠の色は虹色に輝き、広がる模様はまるで高級な万華鏡のように、緻密に豪華に極彩色にと次々色と模様を変えていく。
シーーーーン
「こ、これは………」
呟いたきり言葉の続かないメガネさん。
声も出ない周り。
ヤバいんだろうなーと焦る俺。
「ちょっと!これはどういうことよ!!あんた、私の魔力奪ったわね!!」
鬼のような形相で、二股聖女が迫って来た。
「私は、女神に頼まれてこの世界に来たのよ!その私より、あんたの方が力があるっておかしいでしょ!あんたが私に何かしたんでしょ!!」
唾を飛ばし、こちらに駆け寄って来ようとする二股聖女。
その豹変振りに唖然とする周り。
しかし二股聖女が迫って来るのを躱し、
メガネさんは素早く距離を取り、そのまま俺を男前にパス。
自分が二股聖女との間に入ってくれる。
メガネさんの行動に感動する。
「お待ち下さい!この子が貴方の魔力を奪う事など不可能です!どうか落ち着いて」
「じゃあどういうことよ!私と一緒にこっちに来たなら、元は同じ世界の人間てことでしょ!私の世界に魔力なんて無いんだから、女神に魔力を貰わなきゃ、こんな魔力出るはずないでしょ!そいつが私から魔力を奪ったってことでしょ!!」
「それは違います。女神様の魔力は特別なもので、女神様に選ばれた者にしか使いこなせないのです。仮に何かの方法で、この子が聖女様から魔力を奪ったとしても、それが体に馴染む前にこの子は、女神様のお力によって、死んでしまうでしょう。ですから、貴方の魔力をこの子が奪ったという事はありえません!その魔力を使って結果を出す事も不可能です!」
「だったら何で、私は青なのに、そいつが虹色なのよ!」
「それは、元々この子が持っていた資質です!貴方の世界の事は知りませんが、この世界の者は、生まれた時に持っている魔力の器の大きさによって魔力量が決まるのです。偶々、この子の魔力の器が、大きかっただけの事です。この世界にも、生まれながらに魔力の多い者はおります。稀な結果を出す者も!貴方に責められる事ではありません!」
冷静に反論され、納得はしたが、それでも自分より俺の方が上であることが面白くないのか、不貞腐れた顔で、
「じゃあ、模様があんなに豪華だったのは何よ!」
「それは、性質や経験から来るものです。その人の生き方や、どんな人に影響を受けたかによって、模様は変わ…」
「私の性格が悪いって言うの!!」
「そうは言っておりません!そうではなく、魔法を使った事のない幼子は、貴方の魔力測定のように、模様として表れない者もおります。魔法を使うには、想像力と効果範囲の指定と、威力の計算が必要になるのです。それらを学ぶと言う事は、それ相応の知識と経験が身に付くと言う事です。何事もコツコツと基礎から学ぶ事は退屈で辛抱のいる事ですが、それを乗り越え、更に能力を高めて来た者は、当然、辛抱強い性質となり、経験も積むと言う事です」
「それならやっぱりおかしいでしょ!こいつ赤ん坊じゃん!辛抱とか経験とかあるわけ無いじゃん!」
「ごく稀に、魂そのものの格が高い者がおります。確か、今代の教皇様がそうであったと記憶しておりますが?」
メガネさんは王様に確認の問いかけをする。
「あぁ、そう聞いている。教皇は魔力量はそれ程でもないが、複雑精緻な模様を表したとか」
「はい、私もそのように聞いております。それに、エルフ族や妖精族であれば、更に格上の魂を持つ者もいるとか、この子が格の高い魂の持ち主であることは、珍しくはありますが、貴方の魔力や属性には何ら関係はありません」
王様にまでうんうん頷かれて、メガネさんに完全に言い負かされて、ブン剥れる二股聖女。
鬼のような顔で、こっちに迫って来たところから、固まって動けなかったキャベンディッシュが、慌てて二股聖女を回収して慰め始める。
キャベンディッシュには、ニコニコと笑顔を見せているが、こっちを見る顔の怖い事怖い事。
チビリそうである。
大人なので我慢するが、幼児な体は今にも泣きそうに目を潤ませる。
パンパンと手を叩き、空気を入れ換えるように、
「さて、魔力測定も済み、聖女認定も無事済んだ、国民への披露目はまだ先になるが、高位貴族への紹介くらいはせねばならん、移動しよう」
王様が移動すると、ぞろぞろと皆が続く、二股聖女とキャベンディッシュも腕を組んでイチャ付きながら移動する。
俺は、男前の抱っこのまま最後尾を移動する。
また、暫く歩いて着いたのは、3メートル位ある大きな扉の部屋で、甥っ子の学校の体育館位の高さ、広さ、その中に3、40人のキラキラしい衣装の人達が、部屋に入ってくる俺達を見てる。
部屋の奥には、数段の段差の上、キラッキラの立派な椅子が五脚。
そこに座るのは、さっきまで着ていなかったのに、真っ赤なマントを新たに着込んだ王様。
その右側には、玉座に負けない程ギランギランに着飾った、元は美人だっただろうに、厚化粧で台無しにしている、座り位置からして王妃様?左側に座るのは、素直に美人!と思える着飾ってはいるけれど、目に優しい色合いのドレスを着た、こちらも王妃様?
1段下には、やたら威厳のあるおじさんが二人立っている。
50代くらいの、頭の良さそうなのと、強そうなの。
二人共、髭がカッコいい。
真ん中には赤絨毯、両脇には高位貴族らしい高そうな服の人達。
赤絨毯の真ん中に跪き頭を下げたキャベンディッシュ、つっ立ってるだけの二股聖女。
凄い違和感、そしてシュール。
俺を抱っこした男前が、キャベンディッシュの隣に跪き頭を下げる。
立てた膝に俺を座らせて。
美人の方の王妃様?が、俺を興味津々で見てくる。
手を振った方が良い?
「頭を上げよ、起立を許可する」
さっきまでの王様より威厳があり、声が低くてカッコいい。
キャベンディッシュが立ち上がり、男前も立ち上がる。
俺は抱っこされたまま。
「我が国の高貴なる貴族諸兄、女神様の思し召しにより聖女様がここに御光臨された、我々は民と、国と、世界の為に、戦わねばならない、来るべき災厄に備えよ!」
強そうなおじさんの声に、おう!と一斉に応える声。
映画の一場面を見ているようだ、ここに居る人達全員が、物凄く深刻な顔をしている。
そこにいる幼児の自分が信じられない。
何なんだろうかこれは、女神の道楽のはずなのに、人が、決死の覚悟で戦おうとしている。
女神にとっては、人が死ぬことも道楽の一部なんだろうか、何だかそれは、とても、ムカつくな!
だからギャル男神にクソバカダ女神なんて言われてるんだろう。
人間だけじゃないだろうけど、生かしてこそ神だろうに、たぶんあの時俺と助を追い払ったのが女神なんだろうけど。
クソバカダ女神の選んだ聖女だって、ただのビッチじゃねーか!あんなビッチが世界救えるわけねーだろ!!
沸々と沸き上がる怒りに拳を握りしめ、決意する。
乙女ゲームぶっ潰す!
握った拳がとても小さく可愛いけども!




