次は、初めてのお買い物
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誤字脱字報告もありがとうございます。
次はお買い物です!
学園の敷地内には、小さな町と言っていい規模の商業区がある。
学園で使う様々な道具や雑貨、衣料品や生活に必要なちょっとした魔道具なんかも売っている。
飲食店は、普段学生は食堂を利用しているので、お洒落なカフェやテイクアウトできる菓子店、貴族は中々利用する機会の無い露店等がある。
さて、今日のお買い物は、森での演習に必要な道具のお買い物です。
俺には何が必要なのか分からないので、ただ抱っこされて見てるだけだけど、用途不明の品物を見てるだけで、それなりに楽しめる。
目的地は決まっているらしく、皆迷い無く歩き、辿り着いたのは、一際大きなお店。
上品な看板にはラバー商会と書いてある。
んん?これってディーグリーの実家がやってるお店?
入口を潜ると、何だか如何にもやり手って感じのおじさんが出迎えてくれて、
「ようこそ我がラバー商会へ、アールスハイン王子に足をお運び頂き光栄に存じます」
と深々と頭を下げた。
「ああ、ラバー殿、頭を上げて下さい。今日はお世話になります」
「親父、あんまり畏まられると、買い物もろくに出来ないから!」
ディーグリーパパですって。
良く見れば似てるね!ディーグリーの緩さを抜いて皺をいい感じに増やしたらそっくりになるかも?
緩く無いディーグリーが想像出来ないけどね!
ディーグリーがパパさんを退散させて、店の中を案内してくれる。
デパートみたいな内装の店内は、とても清潔に保たれていて、好感が持てる。
そう言えばこの世界、電気も無いのに上下水道が整備されてて、トイレだって水洗式だし、お風呂の習慣もちゃんとある。
まぁお風呂の習慣は、貴族の特権みたいな扱いだけどね。
元日本人としてはありがたい限り。
これも乙女ゲームに影響を受けたクソバカダ女神の変な拘りなのかと思うと、もっと別の所を発展させろよ!と思うけどね。
この世界、本当に人口少なすぎる。
世界一安全な、大国と言われるこの国の総人口が、日本の半分位ってどうなの?
国土面積は20倍以上あるのに。
聖女の存在を特別視させるためか、疫病とか災害とか魔物の氾濫とか、人を減らし過ぎだよ!バカか!それでも神か!
何だか、何日かに一度位の頻度で女神に怒りを覚えるんだけど、頼むよギャル男神!
内心でプリプリ怒っていても、抱っこされてるので、はぐれる心配はない。
目的の売場に到着。
前世のアウトドアコーナーを、武骨にして、アースカラーのみでまとめたような品揃え。
テントや簡易調理器具、野外用なのかテントより大きな蚊帳らしき物もある。
演習は日帰りなので、テントなんかは今回必要ありません。
ちょっと残念。
ユーグラムが、売場に着くなり、大量の虫除けを両手一杯に抱えて、店員さんに効果の違いを聞いている。
バリア張ればいいのでは?と思ったけど、横顔が物凄く真剣で話し掛けづらかったので、アールスハインに言ってみたら、聞いていたディーグリーが、面白いから内緒って言ったので黙っていた。
森歩き用のローブって言うマントが必要だってディーグリーが言うので、見に行ったら、迷彩色のポンチョのような雨合羽が出てきた。
多少の攻撃にも耐える、雨避けにもなる寒さも防げる品ですって店員さんが自慢気でした。
ラバー商会オリジナルなんだって。
お値段は60000グリー。
単位は世界共通のグリー。
1グリー1円位の価値くらい?
六万円の雨合羽ってどうなの?って思うけど、この世界、装備一つで命に関わるので、装備は値切ってはダメなんだってさ。
厳しい世界でござる。
当然俺のサイズは無い訳で、ユーグラム、ディーグリー、アールスハインが試着の間ぼけっと見てたら、いつの間にか背後にシェルが!
「ケータ様のローブはこちらで用意してありますよ」
って、バリアがあるからいらないよって言ったのに、もう用意しちゃいましたって言われたら、ねぇ?
俺のサイズを着られる人はいないので、ありがたく頂きますよ。
気配もなく現れたシェルに、皆も驚いてたけど、そもそも従者科の生徒は演習に参加しないそうです。
ただし、従者科には専用の特殊訓練実習が有るとか、何それ怖い。
シェルは元々、王家に仕える前提で幼い頃から訓練を受けていたので、学園に入っても、特に学ぶことは無いんだけど、アールスハインが学園に行くし、その間暇なので、アールスハインの入学に合わせて、シェルも学園に入学したんだって。
実はシェルは、アールスハイン達より二歳年上だった。
主人に合わせて入学を遅らせる従者は多いらしく、従者科には、二十歳過ぎの生徒も結構いるんだって。
3人は、お揃いの外套を買うらしい。
そんなに色のバリエーションが無いし、同じ班ですって分かりやすいからね。
後は、ユーグラムが厳選した虫除けを多目に買って、藪などを掻き分ける用に小さな鉈と、スパイクのついたブーツ、傷薬と毒消しと魔力薬、魔物の皮で作られた水筒、等々。
細々と結構な量の買い物が済み、荷物はそれぞれ3等分して部屋に届けてくれるらしいのでお願いします。
後は、日程の調整って何するの?
アールスハインに聞いてみると、他の学年と出発位置をずらすように調整するんだって。
演習は、一年生は日帰り、二年生は一週間の泊まり込み、三年生はなるべく長く泊まり込むと成績が上がるらしい。
学年が違えば、実力も違うので、3年生と1年生が同じ場所からスタートすると、獲物を3年生に取られちゃって、1年生が課題をクリア出来ない事が昔は結構あったんだって。
だから今は、学年毎にスタート場所をずらして、3年生はより危険な場所からのスタートにするんだって。
課題を分ければ?って言ったら、自分の実力に合った魔物をどれだけ捕獲し、規定の場所に運ぶのかが課題だから、分けるのは難しいらしいよ。
実力を過大評価して怪我する人も、過小評価して小物しか捕獲しない人も、毎年結構な数出てくるんだって。
職員室に到着。
我等がインテリヤクザな担任に、買った物リストと、個人で用意する装備、魔物の皮で作った皮鎧とか、得意な武器とか携帯食とかのリストを提出。
ザッと目を通しただけで返される。
良いとも悪いとも言われない。
持ち物は完全自己責任で、現地調達も出来るならやれば良いって事。
足りない物を本部と呼ばれる救護所で借りる事も出来る。
けど、成績は減点されるんだって。
で、インテリヤクザな担任の言う事には、他のクラスも学年も未だ班長さんを決め終わってないので、好きな場所を選び放題なんだって。
班長決めってそんなに時間掛けること?とは思ったけど、貴族の色々は面倒くさいので聞きません。
インテリヤクザな担任が、職員室内の応接セットに大きな地図を広げ、どこが良い?って聞いてきた。
六班七班の場所を拡大した地図は、3D地図で、土地の起伏まで分かる精密な物だが、六班七班の場所は森。
地図にも木木木木木たまに湖、たまに原っぱ、後は木木木木、何も面白く無い。
湖の場所には赤い×印この場所が救護所。
その他に白い×印もあって、1×は1年生の選べるスタート地点、2×は2年生って事ね。
3人は話し合って、どこの班とも被らない、1個だけちょっと他より離れた×印を選んだ。
インテリヤクザな担任が選んだ×印を見てニヤリと笑った。
その笑いはどっちの意味ですか?
とにかく、今日の予定が早々に終了しました。
早目の昼ご飯を食べたら、また魔法の訓練です。
インテリヤクザな担任に、訓練所の利用許可をもらって、食堂にゴー!
インテリヤクザな担任の言う通り、他の学年もクラスも班長決めが長引いているので、俺達しかいない食堂に到着。
誰もいないので、いつもとは違う調理場の近くに座る。
俺がいつものお子様ランチを頼むと、調理場からチラチラと視線が、手を振ってみたら、ウオオオと声がして、さっきよりもガッションバッタン音がして、いつもよりも早い時間で食事が届いた。
美味しく頂いた後、フヨフヨ飛んで配膳口へ、いつもは給仕さんに言ってたけど、折角なので料理人の人に直接言ってみよう。
「ごちとーたまでちた!」
俺に注目してたらしい料理人の皆さんは、声を揃えてオウ!と応えてくれた。
料理人さんて、ゴリゴリのマッチョしかいないのね。
アールスハインの元に戻ると、アールスハインとユーグラムに頭を撫でられた。
午後は、魔法の訓練です。
訓練所には、インテリヤクザな担任とテイルスミヤ長官がいて、テイルスミヤ長官が笑顔で手を出して来るので、魔力錬成の玉を渡したら、インテリヤクザな担任に渡していた。
苦い顔をしながらも、文句も言わずに色変えをするインテリヤクザな担任。
実はとても真面目ね!
ユーグラムとディーグリーにもそれぞれ魔力錬成の玉を渡して、アールスハインとテイルスミヤ長官と一緒に、昨日の続きのクレー魔法の練習です。
飛んできた的に次々に魔法を当てて行く。
チュンパキュッ、チュンパキュッと、気の抜ける音が響く。
どんどん速度の速くなる的を、外す事無く命中させて、訓練所での最高速度も難なく打ち落としたら、テイルスミヤ長官に溜め息をつかれた。
「ケータ様、この装置の最高速度は、魔法庁に有るものと同じ速さが出ます。ケータ様は、この装置で訓練する必要が無くなってしまいました。どうされますか?次に行かれますか?」
「んー?ちゅぎってにゃにしゅりゅの?(んー?次って何するの?)」
「そうですね、これ以上の攻撃魔法を覚えてしまうと、この先退屈になってしまうので、治癒魔法なんてどうですか?」
「おお!ちゆまほー!やりゅやりゅ!」
「それでは専用の人形を用意しますね」
「おねぎゃーしゅましゅ」
テイルスミヤ長官が、リモコンを操作すると、舞台の隅から、人が3人は入れそうな大きな箱が近付いて来て、目の前で止まった。
側面についた扉が自動で開いた。
中には、壊れて手足のもげた、焼けて煤けた、割れてゲルのような中身の出ている人形が、5体程入っていた。
ホラーな見た目にびびった俺は、最速でアールスハインの所に戻り、しがみついたよ!怖いよ!先に言ってよ!
「あぁ!ケータ様すみません、脅かしてしまいましたか、先に言っておけば良かったですね。すみません、これは壊れた人形です。人と同じ動きをする人形は、治癒の魔法で治療出来るので、訓練で使っているのですよ」
アールスハインにポンポンされて、落ち着いた俺は、恐る恐る箱に近付いて、人形を覗き込んだ。
さっきはいきなりだったのでびびったけど、冷静に見れば大丈夫。
では、治癒魔法を覚えますかね。




