ちったい俺登場
初日なので、三話投稿。よろしくお願いします。
ゴチンと落ちて目が覚めた。
ベッドからでも落ちたかと、ぶつけたデコをさすりながら起き上がると、俺を見つめる複数の目。
驚いて周りを見ると、細長い窓を背に女神像が有り、通路を挟んで俺の乗ってる2畳位の白い台、一段下がった向こうは、ベンチみたいな木の椅子が並ぶ。
俺の記憶の中で一番近いのは、妹が結婚式を挙げた、小さな教会。
所々違いはあるが、独特の雰囲気が似てる。
ただ、俺の乗ってる台の真ん中に、模様の書かれた丸い円が光っているのが、意味不明。
台を囲むように身を乗り出して、こっちをガン見している複数の若者。
光る円の中、俺の隣にはどっかで見覚えのあるJKが寝ている。
だが、俺にJKの知り合いはいない。
どこで会ったか思い出していると、「ンウ」とか言って、JKが起きた。
目を開けたJKを見て思い出した。
俺が、死ぬ原因になった二股女だった。
起き上がった二股女を見て違和感。
二股女が、巨大化したのだ。
寝ている時は気付かなかったが、起き上がると、俺の倍以上の大きさがあった。
生前の俺は、身長188センチあった。
そんな俺の倍以上って……慌てて自分の体を見てみると、床に着いた両手が、3歳の甥っ子よりも小さかった。
着ている物は、死ぬ時に着ていたスーツだが、ウエストがポッコリ膨らみ、していたベルトは、サスペンダーになっていた。背負ったリュックも小さくなって、隣の二股女と比べても、赤ん坊サイズに体が縮んでいた。
混乱の極みにいる俺の事など、眼中に無いかのように、二股女に手を差し伸べるイケメン。
二股女は、状況を分かっているのか、ただイケメンに手を差し伸べられるのが気分良いのか、ニッコリと笑っている。
イケメンが、二股女を聖女様と呼び、自分はこの国の王子であると告げる。
自然な仕草で、二股女の指先に口付けるイケメン王子。
完全空気の俺。
なぜか、今会ったばかりなのに、ピンクな空気を醸し出す二人。
そこへ、バタバタと複数の足音。
バタン!とドアが開いて、雪崩れ込む人達。
「キャベンディッシュ、これはどう言う事だ!説明しろ!」
イケメン王子を怒鳴り付けたのは、イケメン王子と同じ色の金髪の、40歳位のイケメンおっさん。
目の色は、イケメン王子が緑色でイケメンおっさんが紫だった。
「ああ父上、今!今聖女様がこちらに御光臨されました!」
キャベンディッシュと呼ばれたイケメン王子は、二股女の手を取って、父親らしいイケメンおっさんに、満面の笑みで紹介した。
紹介されたイケメンおっさんは、額に青筋を浮かべ、
「キャベンディッシュ、私は、どう言う事か説明しろと申した。お前はなぜ、国の重大事である聖女降臨を隠した!なぜ王である私に報せなかった!なぜ、人を使ってまでこの部屋を封鎖した!今すぐ説明せよ!」
やっとそこで、王様らしいイケメンおっさんが、怒っていることに気付いたイケメン王子、途端に顔を青ざめさせる。
空気の読めない王子のようだ。
「そ、それは……」
しどろもどろで言葉の続かない王子。
そこに、更に空気の読めない二股女が、
「王子様をそんなに怒らないであげて下さ~い、王子様は~、きっと私の為に考えてくれたんだと思いますぅ~」
と青ざめる王子の腕に、自分の腕を絡ませた。
王子を見てニッコリ。
「そ、そうです!これは皆、聖女様の為に!異なる世界から御光臨される聖女様を怖がらせる事の無いよう、少人数でお迎えしたのです!」
今、思いついた!とばかりに声を張って訴える王子。
その間ずっと王子に張り付いている二股女。
完全にロックオンされとる。
そんな二人に、王様深い深い溜め息。
「その事は、後程話そう。まずは、そちらの女性が、正しく聖女であるかの魔力測定が済んでからだ」
と背を向けて歩き出した。
王様と一緒に駆けつけた人達も続き、王子にエスコートされて二股女も出て行き、初めからここにいた、数人も出て行き、一人残された俺。
ついていくべきか悩む俺に、いつの間にか近寄っていた人が、
「大丈夫か?怖い思いをさせたな、一先ずお前も魔力測定の間に行こう。これからの事も決めねばならないからな」
そう言って、軽々と俺を抱っこする男。
抱っこ、そう抱っこ。
お姫様抱っこではなく、片腕に尻をのせ、背を支える赤ちゃん抱っこ。
した記憶は数々ある、何せ甥っ子が11人もいる、3歳から二十歳までの11人、ねだられて散々してきた抱っこ。
まさか自分がされる側になるなど、考えた事もない抱っこ。
驚き過ぎて固まる俺を、あやすかのように、背をポンポンしてくる男。
恐る恐る見上げると、眉間にシワを寄せ口端を僅かに上げる男。
短く整えられた金髪は、王様よりも大分薄い色、プラチナブロンドと言うやつだろうか?目尻が切れ上がった鋭い目、鼻は高く、唇は薄目、まとめると、非常に整ったヤンキー顔。
「ヤンキーは雨の中、捨て猫に傘を差し出してこそよ!お兄は拾って来て飼い主を探し出しちゃうからダメよ!」と、昔グレかけた俺に謎理論で、説教をした妹の言葉が甦る。
あの時、妹が何を言いたかったのかは、未だに謎だが、このヤンキー顔の男前は、笑顔が下手な割に、子供を抱っこする事自体は慣れている様子から、弟妹持ちであろう事は分かった。
俺が呑気に男前観察をしていても、男前は、言葉通り魔力測定の間へと運んでくれている。
周りを見ると、広い廊下に色々な人がいて、外側の大理石風な石の廊下に、カフェには居ないだろう本物のメイドさん、その内側の黄色に柄の入った絨毯の敷かれた廊下にお揃いのローブ?マント?を着た人達、真ん中の赤い絨毯の敷かれた廊下に、見るからに金の懸かった衣装を着た人達が、全員がど真ん中を通る、俺を抱っこした男前を、驚き、三度見くらいしながら、頭を下げている。
男前は、偉いさんらしい。
男前のなっっっがい足でも暫く歩いて、やっと辿り着いたドアの両脇に、全身鎧を着た騎士がいた。
初め置物だと思ったのに、男前がドアの前に立ったら、槍を交差してとおせんぼされた。
驚いて男前にしがみついてしまったら、背中をポンポンされて、
「聖女様と共に異世界から御光臨された方をお連れした」
「確認して参りますので、少々お待ち下さい」
ガッションガッションしながら片方がドアの中へ、残された方は槍を斜めにとおせんぼのまま。
またガッションガッションしながら騎士が戻って来て、
「どうぞ」
とだけ言ってドアを開けてくれた。
部屋は、天井のかなり高い、広さは二十畳位の正方形の部屋で、真ん中に4、5メートルはある空っぽの巨大ガチャガチャが、異様な存在感で置いてあった。
俺達が入って行くと、部屋の中央、絨毯敷きの部分に集まっていた二十人位の人達が、一斉にこっちを見た。
「その子供が?」
王様の声に、
「はい、教会の祭壇に聖女様と共におりましたが、置き去りにされていたのでお連れしました」
男前が、チラッとキャベンディッシュを見て、また王様を見る。
王様、キャベンディッシュを見て溜め息。
「聖女様の神々しさに目を奪われ、その他のものなど目に入りませんでした!」
堂々と胸を張ってバカ発言。
王様、こめかみを押さえる。
キャベンディッシュの言葉が嬉しかったのか、二股女がキャベンディッシュに絡みつく。
「ハァー、いい、説明を続けよ」
深い深い深い溜め息をついた王様は、中断された何かの説明を、再開させた。
巨大ガチャガチャが魔力測定装置らしいよ。
ガチャガチャのお金を入れる部分には、金属なのか石なのか分からない板が付いており、そこに魔力の有る生き物が触れると、その魔力の量に応じて上の玉っぽい部分に、色や柄が表れる仕様なんだって。
随分とファンタジーな話になってきた。
説明してくれた人は、長いローブ?マント?を着た、30歳位の男の人で、長い髪を後ろで一本に縛り、メガネをやたらと光らせる人だった。
メガネさんが、
「では、早速。聖女様どうぞ」
と促すが、
「えぇ~、なんかぁ~怖いんですけど~」
とキャベンディッシュに絡むばかりで、一向に部屋の前に進もうとしない。
周りは呆れて困惑した視線を送る。
「能力を測定し、聖女様と判明しない事には、貴方を聖女様とは認められませんが」
メガネさんが言うと、キャベンディッシュはいきり立ち、
「何を言う!聖女様が教会の祭壇に御光臨されるのを、この目で見届けた私が信じられないと申すか!」
「本来、聖女様の御光臨とは、国の、世界の重大事、王を始め、教皇、高位貴族を集め、その方達に見届けて頂いた上で更に、魔力測定をして初めて聖女様と認められるのです、何を思い、聖女様の御光臨を王子が隠されたかは存じませんが、王子とその他数名が見届けたからと、聖女様と判断を下す事は出来ません」
と、冷静に返された。
キャベンディッシュは「グム、グギ」
とか言って言い返せない。
「それでは、安全の確認の為に、私が一度、魔力測定を行いますので、その後…」
「私が!聖女様の安全の為に!先に魔力測定をして見せよう!!」
メガネさんを遮って、キャベンディッシュが、名乗り出た。
周りは呆れるばかり。
二股女の腕を外し、巨大ガチャの前に立つキャベンディッシュ。
一度二股女を振り返り、無駄に笑顔を振りまいて徐に、板に手を置く。
無色透明だった玉の部分に、徐々に色が付いてきて、玉の外枠を囲むように青が広がり、中央に五色位の派手なチェック柄が表れた。
周りがザワッとして、キャベンディッシュがドヤ顔をして二股女の隣に戻った。
すかさずメガネさんが解説してくれる。
「先程の結果ですが、玉の外枠が、魔力量、表れた模様が、扱える属性を表します。
魔力量は、六段階で、下から白、黄、緑、青、赤、虹の色に分かれ、緑以上の魔力量はなかなか現れません。そして模様の表す属性は……」
「えぇ~!じゃあじゃあ、王子様はスゴイ魔力を持ってるってこと~?すごいすご~い!」
メガネさんの説明はまだ続いているのに、キャーキャー言いながらキャベンディッシュに抱きつく二股女。
周りが既に、呆れた視線になりつつある。
「………これで安全の確認は済んだでしょう、次は貴方の番です」