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チャラ男の質問に、ユーグラムは平坦な声で、
「ディーグリーですか、おはようございます、アールスハイン王子とは、朝食の席でちょっと有りまして、謝罪していただけですよ」
「ああ、聞いたよ~、あれでしょ、キャベンディッシュ王子が連れてきた外国人転入生の女子に絡まれたってヤツ!何とも無くて良かったね~。あ!すみません、アールスハイン王子おはようございます!」
ユーグラムと話している途中に、アールスハインの存在を思いだし、しかも兄であるキャベンディッシュの話題でもあったので、慌て出すチャラ男。
「おはよう、ラバー殿」
「いやいや、王子様に殿なんてつけて呼ばれる身分じゃ無いんで!俺、いや、私の事は気軽にディーグリーとお呼び下さい。」
「あぁ、それじゃあディーグリーと呼ばせてもらおう」
「はい、どーぞどーぞ!……所で、アールスハイン王子、質問しても宜しいですか?」
「あぁ構わないが」
「それじゃあ、先程から気になって仕方ないんですけど、そちらにいる子供さんは、王子の?」
「ブハッブフゥ」
やっと笑いの収まってきたシェルがまた吹いた。
こっちに背を向けて、必死に声を抑えているけど、腹を抱えて笑っているのが丸わかりである。
この話題3度目だけど、彼のツボを連打するらしく、聞く度に爆笑している。
助もそっぽを向いているが、肩が震えているし。
「けーたでつ、よーしぇーじょくでつ」
アールスハインが答える前に、チャラ男に自己紹介してみたけど、チャラ男には全く通じなかった。
地味に凹む俺をポンポンして、
「いや、この子は突然変異の妖精族で、俺を気に入って側にいるんだ」
「へー!妖精族は何度か見ましたけど、こんなに大きくて存在感のある妖精は、初めて見ました!突然変異!へー世の中には、こんな子もいるんですねー、えーと、妖精君、俺は、ラバー商会会頭の息子で、ディーグリー・ラバーって言うんだ、よろしくな!ディーグリーって呼んでくれると嬉しいな」
ニコッと笑顔で自己紹介してくれたディーグリー、俺のちっちゃい手を取り、握手してくる。
「うわっ、手ーちっちゃ!」
「こらディーグリー!乱暴にしてはいけませんよ!そっとですよそっと!加減しないとすぐに怪我をさせてしまいますからね!」
「いや、大丈夫、ケータはその位で怪我なんかしないし、本当に嫌なら自力でバリア張って触れないように出来るから」
ユーグラムの赤ん坊扱いにアールスハインがフォローを入れてくれると、
「へー!凄いなーじゃぁ遠慮無く、ほーら高いたかーい」
と俺を持ち上げた、よく知らない人間に、何度も上下に振られるのは、気持ちの良いものでは無い。
なので、上に上げられて力が一瞬緩んだ隙に、さっさと飛んで逃げた。
アールスハインの膝に着地すると、ユーグラムとディーグリーは、ポカーンと口を開けてこちらを見る。
ディーグリーなんか、手を上げた状態で固まっているので、シェルに更なる笑いを提供している。
ハッと我に返ったユーグラムが、キラッキラの目で俺を見ながら、
「ケータ様は、可愛らしいだけでなく魔法も使える、更に飛べるなんて!素晴らしいですね!」
何だろう?満面の無表情とでも呼べば良いのだろうか?
ユーグラムの周りに、爛漫に咲き誇る華が見える気がする。
ディーグリーもやっと手を下ろして、心底感心したように、
「ほえー、妖精族って本当だったんだー!おちびちゃんすごいねー!」
「おちびちなう!おりぇはけーた!」
「あぁごめんね、ケータ君ね!改めて、よろしくな~」
俺が、抗議するとすぐさま言い直してくれるのは嬉しいが、君て、不服さが顔に出ていたのか、アールスハインにポンポン宥められていると、
「ディーグリー、いけませんよ!妖精族とは我々人族よりも高位な魂を持っておられるのだから、君付けで呼ぶなど不敬になります!様か少なくとも殿は付けるべきです!」
「えー、でもこんなに可愛いのに?」
「確かに!とても可愛らしいですが!一説では妖精族はエルフよりも長命だとか、もしかしたらケータ様も、我々よりも年上の可能性も………」
言ってて自分でも納得いかなくなったのか、ユーグラムがこちらを窺ってくる。
アールスハインやシェルが、苦笑して見るので、答えてあげましょう!実年齢を!
「よんじゅーにたい」
ご丁寧に、ちっこい指で4と2を示してやったさ!
「えー42歳?こんなに小さくて可愛いのに?俺ってまともに言えないのに~?」
ディーグリーのまるで信じていない言葉に、無意識に頬が膨らむ。
剥れてそっぽを向いた俺に、
「まぁまぁ、ディーグリーそれくらいで、妖精族と我々人族では成長の速度が違うのでしょう、人族は18歳で成人ですが、ドワーフ族は30歳、エルフ族に至っては50歳で成人と聞きます。その事を踏まえれば、エルフ族よりも長命らしい妖精族のケータ様が、42歳でこの姿なのも納得出来ます」
「あーまー、そう言われるとそんな気もする、かなぁ?」
ディーグリーが、ぼんやりと納得している側で、アールスハインとシェルが、俺を微妙な視線で見てくる。
「…………そう言えば、ケータ様の年齢を気にした事はありませんでしたね、お姿がお姿なので、詳しく聞く必要を感じませんでした」
「……確かに、赤ん坊のような姿の割に、受け答えが確りしていたから、せいっ、妖精族とはそう言うものかと納得したように思う」
ずっと助が音もなく笑い続けているし、今、サラッと聖獣って言おうとしたな王子様め、シェルにつねられて言い直したけど、内緒なんでしょーと、ぺしぺし膝を叩いてやりました。
ま、容姿の事はもう既に俺の中で諦めがついているので、今更だが、周りの人間が納得するかは、そっちの問題なので、俺は放置します!
「まぁ、可愛らしい事に変わりは有りません!問題無いでしょう!ケータ様、改めて、仲良くして下さいね!」
満面の無表情で、握手を求めて手を差し出すユーグラム。
この人はあれだね、前世の2番目の妹と同じ、可愛いは正義!とか言う、よく分からない思想の人だね、俺にはとても都合が良いので、笑顔で握手しといたよ!
皆もそれで、何となく納得する雰囲気になったし、ま、良いよね!
ちょうどそこで鐘の音がした。
何?と思ったら、シェルが始業の合図ですよ、と教えてくれた。
へーこの学園では、鐘が鳴るのね、カラーンカラーンて教会の鐘の音のようね。
前の方のドアが開き、教師らしき人が二人入って来る。
そのうちの一人が、どうにも見慣れた人物に見えるのは、気のせいだろうか?
あ、こっち見て手を振った。
何してんだい、テイルスミヤ長官様?
もう一人の教師は、ザ・インテリヤクザって感じの、強面のシャープな人で、緩くオールバックにした焦げ茶の髪、四角いメガネ、黒に近いグレーの三つ揃いのスーツをちょっと着崩しているのが、妙にエロい、とても教師には見えない人だった。
「このクラスの担任になったカイル・オドネルだ。この後、全校集会があるから速やかに講堂に移動しろ、以上」
「ちょちょちょ、カイル、以上じゃ無いでしょう!私の紹介もしてくださいよ」
「そんなもんは、テメーでやればいいだろう」
「貴方って人は、昔から何も変わってないですね!」
「いいから、やるならさっさとしろ」
「はいはい分かりました!えー皆さん私は今年度のみ、臨時の魔法教師となりました、テイルスミヤ・レスト・フォルトゥナートと申します。よろしくお願いしますね」
「終わったな?んじゃさっさと移動しろー」
テイルスミヤ長官と担任の教師は、知り合いのようで、親しげに話している。
パラパラと生徒が教室を出て行く。
アールスハインも俺を抱っこして教室を出ると、テイルスミヤ長官が寄ってきて、物凄いドヤ顔で、小さなポーチを俺に差し出して来た。
また作れって事なのかと受け取ったら、そのポーチには、既に魔法がかけられているのが、何となく分かって、よく見てみると、ドヤ顔の意味が理解出来た。
ポーチはマジックバッグになっていた。
イェーイとハイタッチのポーズを取ると、ちょっと恥ずかしそうに両手でタッチしてきたテイルスミヤ長官。
改めてよく見てみると、容量は俺の作ったマジックバッグの方が大きかったが、テイルスミヤ長官の作ったマジックバッグも、アールスハインの部屋の半分位の容量になっていた。
「みや長官やっちゃにゃ!」
「はい、ケータ様のお陰です!ケータ様が実際に目の前で作って見せて下さったお陰で、私も成功致しました!長年研究はしてきたのですが、成功のイメージが出来ずにいたので。ケータ様、本当にありがとうございました!」
感無量!と、隈の目立つ目に涙を浮かべるテイルスミヤ長官。
生暖かい目で見ているアールスハインとシェルに助、何コイツらって目で見てる担任教師、変な空気を破ったのは、ディーグリー、後ろにユーグラムもいる。
「なになに?ケータ殿ってば、もう先生苛めてんの?早くない?」
「ぶー」
「ち、違いますよ!これは、長年研究していた事のヒントをケータ様に頂いて、遂に結果を出せた事の感動で、感極まっただけです!」
テイルスミヤ長官がすかさずフォローしてくれたので、教師苛め等の不名誉を回避しました。
誰とも無く歩き出したので、講堂に向かっているのだろう、ディーグリーがテイルスミヤ長官に、研究の内容を聞いているが、今はまだ国家機密です!って教えてもらえなくて、え?あれ国家機密なの?と俺が驚いていると、アールスハインが、内緒な、と念押ししてきたので、うんうん頷いて、その間中ずっと俺をガン見しているユーグラムがいて、ボケーと歩いている担任教師がいて、知らん顔の助、澄まして一番後ろを歩くシェルがいて。
講堂についたのは、俺達が最後だった。




