理由を聞いてみよう
【2巻発売中】
怒濤の誤字修正祭りが取り敢えず終わりました!
お世話になりました!
感想も沢山頂いて、ありがとうございました!
日本語って難しい!
ところで、1ヶ月近く旅を続けているのだが、北大陸を半分に割った辺りに砂漠が広がり、その東西を分けて東側。
東側の中心部分は元帝国の首都があった場所で、今も多くの国がその首都のあった場所を狙って小競り合いが絶えないそうなんだけど、どう見てもその首都があった辺りが、ずっと雨降ってんだよね?
ずーーーーーっとこの1ヶ月、元首都方面が暗雲立ち込めてて、渦巻く雲から土砂降りの雨が降り続けてるように見える。
傭兵の人達とは喧嘩しかしてないので詳しい話が聞けないし、盗賊は話す間も無く潰しちゃうし、住民の人達は冒険者が傭兵団に見えるらしく、遠巻きに見てるだけで近寄っても来ない。
何なんだろうね?あの魔力が感じられる暗雲は?
疑問に思いながらも旅は続き、人と話す機会も無いので凄くサクサク進む。
脚長兎はあまり力がない筈なんだけど、高性能魔改造馬車なので、大した重さも感じずに馬より速く走ってる。
そしてこの脚長兎さんは、兎の癖にピョンピョン跳ねないで、ティラノサウルスみたいな走り方をする。
尻尾でバランス取れないのに、安定した走り方をする不思議生物である。
たまに行商の人らしい荷馬車をヌルッと抜く。
行商の人が腰を抜かす程驚いて途中で止まってしまうこともしばしば。
うん、不思議と言うより不可解生物ですな!
数少ないちゃんと機能している冒険者ギルドに行き当たったので、雨の理由を聞いてみる。
「あ~、あれはですね、神の怒りですよ!争いをやめない人間に嫌気が差して、延々と雨を降らせてるとの教会の発表が、もう数十年前にされてますね~。昔は1ヶ月降って1ヶ月止むのを繰り返してたらしいんですけど、今ではずっと降り続けてますね~。お陰で野菜や何かが値上がりしまくってて、大変でね~」
受付のお姉さんと言うよりおばちゃんが、溜め息まじりに教えてくれる。
でもなんて言うか、神様の気配はしないんだよね?
神銀で神像作った時に感じた神様の力の気配は、あの雲からは感じられない。
別の魔力は感じるけどね?
でも教会からは正式に発表されてるそうだし?余計に謎が深まって、分かんなくなったね?
ユーグラムも不思議な顔してるし。
そして旅の途中にあった教会にも立ち寄ってみたら、
「あー、あれは神のお告げでもなんでもありませんよ!当時の司祭様が争いを止めない奴等を見て、そんなことを言ってみただけの事らしくてですね、それでも争いを止めない奴等を教会は見放しましてね。なので中央地帯には教会が一軒もありませんので、近寄らない方が良いですよ!」
何でもない事のように言う神官。
ユーグラムが複雑な顔を、ではなく雰囲気を醸し出してる。
顔は相変わらず無表情だ。
そんな微妙な話を聞いた後も、旅は続く。
人との交流の無い旅は、とても味気ないもので、途中で面倒になった俺達は脚長兎を返却して、ボードで飛んで海側を一周しただけで退散した。
それでも2ヶ月かかったけど!
3ヶ月掛けて北大陸を半周した俺達は、砂漠の縁を飛んでディーグリーの爺ちゃん家に帰ってきた。
人気のない所でボードを下りて国に入り、爺ちゃん家に向かう。
「こりゃまた随分と早く帰ってきたな?」
爺ちゃんの開口一番の言葉に苦笑するしかない俺達。
応接間に通されて様子を聞かれるままに話せば、呆れたような諦めたような顔をされた。
「確かにの、どこもかしこも殺伐として、安らぐ事もなく戦いに明け暮れておる。元は豊かな穀倉地帯だった場所も、今では多くの血を吸って農地になど出来んしの!」
「近頃はこの国にも多くの傭兵団が食料の買い付けに来るそうよ、今のところ値段の変化は無いけれど、これ以上争いが長引けば、この国も巻き込まれかねないわね」
爺ちゃんが怒りながら言えば、婆ちゃんは困ったように言う。
「西に行くか?」
「それも考えなくてはいけないかしらね?でもあの子達もやっとこちらに慣れてきたようですし?」
あの子達とはナタクとヤサク兄弟の事。
爺ちゃんと婆ちゃんは大人を怖がる二人が、生活に慣れるまではと家からの通いで預かってくれてたらしい。
今はその訓練所に行ってるらしく留守だけど。
そんな二人を放り出して西に行く決断も出来ないらしい。
ナタクとヤサクが倒れてた砂漠の場所から考えると、たぶん西側から運ばれてきただろうし。
もし二人やその他の子供達を捨てた奴隷商に出会っちゃったら、ナタクとヤサクはどうなるか分かんないしね?
東側よりも西側の方がまだ安全と噂されてはいるが、そちらはそちらで民族間での争いがある。
他種族と人間族との争いが。
人間族よりも魔力に長けるエルフ族や妖精族、体力や力のある獣族、技術に優れたドワーフ族を奴隷として捕えたい人間族。
数が多い分人間族の有利に見えるが、個々の力では圧倒的に人間族の負け。
この微妙な均衡を崩そうと人間族は度々魔の森に火を放ったりしてるらしい。
それで多くの魔物が暴れだし、多くの人間や人間に奴隷にされた他種族が死んでいっているとか。
穏やかじゃないねぇ?北大陸!
そもそも何でしつこく同じ場所で争ってるんだろうね?
元帝国の首都に何かあるのかな?
爺ちゃんと婆ちゃんは知らないそうです。
じゃあ知ってるかも知れない人に聞いてみようか?
マジックバッグからスマホを取り出し電話してみる。
ーーprrrrrprrrrrprrrrrーー
『はいは~い』
「ど~も、おししゃしぶりです。ケータです。覚えてますか?」
『勿論覚えてますよ~!どうですか?楽しんでますか?』
「楽しんでましゅ。ちょっと聞きたいことあるんですけど良いですか?」
『ええ、良いですよ』
「北たいりくに雨降らしぇてるの、かみしゃまですか?」
『北大陸、雨?いいえ?私が直接力を使った場合、相当気を使っても大陸どころか世界全体に降らせる事になってしまうでしょうね~?』
「さばくにしてるのは?」
『1ヶ所で雨が降り続けているなら、周りの水分はどんどん無くなるでしょうね~?』
「なるほど~、分かりまちた。ありがと~ごじゃいます」
『たぶん聖獣が関わってるかと思うんですが、私が直接手を出せば、世界全体に被害が出てしまうかも知れないので、ちょっと難しいですね~?』
「分かりまちた、こっちでにゃんとかしてみましゅ」
『お願い出来ればありがたいですね~、北大陸は人が死にすぎてますからね~』
「頑張ってみま~しゅ」
そこで会話は終わり。
結局どの聖獣が関わっているかは分からなかったけど。
ああ見えて元クソバカダ女神と違って、上級神な神様は幾つかの世界を見張ってるらしく、この世界にかかりきりと言う訳ではない。
そしたら誰に聞けば分かるかな?
基本聖獣は個人主義が多いので、偶然会った時に会話するくらいで、あまり他の聖獣と関わろうとはしてない様子。
うん、取り敢えず世界樹の爺ちゃんに聞いてみよう!世界中に根っこを伸ばしてるらしいし、古い聖獣の事にも詳しそうだしね。
「ちょっちょ、お出掛けしてくる~!」
宣言してソファから飛び下りようとしたら、
「ちょっと待て!」
アールスハインに捕獲されました。
「にゃに~?」
「はぁ、聞きたくはないが、さっき電話してたのは誰だ?そして何処へ行く?」
「かみしゃまに、雨ふらしてんの誰か聞いた~。せーじゅーらって言ってたけど、どのせーじゅーかは分かんなかったから、せかいじゅの爺ちゃんに聞いてくりゅ~」
頭痛が痛いみたいな顔をされた。
「あの元帝国首都に雨を降らせてるのは聖獣なんだな?」
「うん」
「砂漠化も?」
「しゃばくにふる雨を奪ってんね」
「成る程。で?世界樹がこの近くに生えてるのか?」
「街のいりぐちの近くに生えてんね」
「…………………分かった」
抱っこされたままアールスハインだけでなく他のメンバーも立ち上がる。
大丈夫、流石に俺でもディーグリー爺ちゃんと婆ちゃんの前では電話してないから!ちゃんと部屋に戻ってから電話してるから!
感想でも指摘されたのですが、兄ちゃんは意識を取り戻してからも暫くはぼんやりしてます。
過酷な環境から抜け出した直後なので、頭がパーンとなってます。
今後は確りとした兄ちゃんになると思うので、温い目で見守っていただけると嬉しいです。
まあ、あまり出番はないんだけど。




