帰国までの道のり 4
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荒野の旅はまあまあ順調。
来るときに退治したワームの発生場所を少し迂回するので、一日余計に時間がかかるようだけど、荒野は魔物も少ないので山岳地帯を通るよりも早く進める。
二日目の午後、車輪が割れちゃった商人の馬車を発見して、ちょっと手を貸したら、その後付かず離れずの距離で走ってたり。
夜営場所はだいたい被るので、微妙に距離を取って、キミッヒ伯爵令嬢は馬車から出さないように注意したり。
護衛騎士が言うには、どうにも気配が怪しいらしい。
俺達にはわからない何かを感じてピリピリしてる。
明らかに警戒している様子なので、そうなのかとよく観察してみる。
馬車は薄汚れた家紋も商会紋も無い馬車。
でもこれは普通の小中規模の商会にもよくあること。商会紋を国に認められるのは大商会からだし、勝手に商会紋を作って馬車に刻印してる商会もあるけど、そもそも商会紋を刻印することが凄く値段が高いから、滅多にいない。
冒険者風の人相の悪い人が五人くらい。商人を名乗る人は三人。
盗賊としては極少人数。
どこかに仲間でも隠れてるんだろうか?もしくは荷馬車に隠れてる?
特に気配は感じないけど?
まあ結局全然勘違いの警戒だったんだけど!ドンマイ!
警戒し過ぎて馬車から出してもらえなかったキミッヒ伯爵令嬢が不満爆発。爆発した勢いで、ずっと大人しかったのにユーグラムに突進してこようとして、メイドさんと護衛騎士に全力で阻止されてた。
荒野の旅が始まってからはずっと遠くから眺めてるだけで、周りを彷徨ったりはしなかったのにね?
メイドさんと護衛騎士の必死さがちょっと不思議。
何故あんなに必死なのか?皆も疑問に思ったらしく、一番騎士っぽい助がそれとなく聞き込みに行ったところ、ミクロ辺境伯令嬢から凄い剣幕で怒られたのだとか。
もし万が一ユーグラムがリュグナトフの元王子だったとしたら、キミッヒ伯爵令嬢の今までの無礼な行いを不快に思っていて、さらに不快な行動を繰り返した場合、キミッヒ伯爵家だけでなく、ミルリング国自体に被害が来る恐れがある、とかなんとか。
リュグナトフ国の王家は全員の仲が非常に良好で、確かに以前廃嫡された王子が一人いるとの噂。
それがユーグラムと考えたらしいミクロ辺境伯令嬢。
教会の神職に就くために、王族を離脱した、と考えたらしい。
そしてそんなユーグラムに付きまとい、迷惑でしかない好意を押し付けてくるミルリング国の伯爵令嬢。
リュグナトフ国からの報復の事まで考えてしまって、ミルリング国の貴族令嬢として!とか凄い剣幕で怒られたのだとか。
うん。乙女の妄想力侮れないね!
そして助とディーグリーが爆笑してる。
アールスハインも肩が震えてる。
ユーグラムは何時も以上に顔が固まってる。
昼飯時のタープの中なので、周りに会話は聞こえてないけど、爆笑してる様子は見えるので程々にね?
「いやいや~それにしても色々と惜しいね!そもそも王子違いだし!変に噂を聞き齧っているから、色々と想像でくっつけたりしちゃったのかね~?」
「だからって!国を滅ぼされる心配までするって!」
「そもそも何でそんなにユーグラムを王子にしたがるんだろうね~?アールスハイン王子だって王子らしく凄いイケメンなのに?」
「あー、あれじゃね?日焼け!ユーグラムとケータはどれだけ日に当たっても日焼け一つしてないのに、俺等は普通の冒険者と変わらないくらい日焼けしてるし」
「なるほど~、確かに高位貴族は令嬢だけでなく令息もほぼ日焼けとは無縁だね?」
「騎士の家系なら別だが、高位貴族程肌は白いよな?」
「いっそのこと教皇倪下の子息ですってバラす~?」
「いや、それはそれで妄想が捗るだけだろ?」
「じゃあ放置するしかないか~?」
「もしくはアールを王子だとばらすか?」
「止めろ!また変な方向に妄想が広がっても面倒だ!」
ディーグリーと助の掛け合いにアールスハインが心底嫌そうに突っ込む。
「そうだね~、近寄ってこなければ、害は無いし放置で良いか~」
と言うことで、勝手に遠ざかってくれるなら良しとして、放置の方向で決まりました。
その後のキミッヒ伯爵令嬢は、一度付いた勢いが衰えず、度々ユーグラムに突進しようとして、メイドさんや護衛騎士と攻防を繰り広げていた。
他所から見てるととても面白かった。
リュグナトフ国の辺境伯領に到着。
国境を守る巨大な門に居たのは、助の二番目の兄。名前は覚えてないけど。
「ようティー、随分早いお帰りじゃね~の?ダンジョンでつまずいて帰ってきたか?」
「あ?そんな訳ねーだろ!きっちり階層更新してきたわ!ドラゴンも倒してきたっつーの!」
「は?ミルリング国のダンジョンでドラゴン出るなんて聞いたことねーぞ?」
「階層更新すれば出てくるんだよ!」
「へ~ドラゴンね、ドラゴン良いね~、ドラゴンメイル作んのか?俺にも一回着させろよ!」
「まだどうすっかは決めてねーよ!無駄に目立つのも面倒だしよ」
「あー確かに。Sランクまで上っちまえば誰も文句言えなくなるけどな~?目指すか?」
「Sランクね~?上がる為の条件知ってる?」
「いや知らね~。ギルドで聞きゃ~良いだろ?」
「まあ気が向いたらな」
キミッヒ伯爵令嬢の荷物検査中に雑談していた助と助兄。
荷物検査が終わったので、雑談も済ませてそのまま通過していこうとする助に、
「うちに顔出さねーのかよ?」
「今護衛依頼の仕事中~」
軽く答えて通りすぎた。
それを見ていた伯爵家の護衛騎士が、不思議そうな顔で助に尋ねる。
「随分と辺境伯家の方と親しいんですね?」
「兄弟ですから」
「は?」
「ここ、俺の実家で辺境伯は親父なんで」
何て事無いようにバラすと、あんぐりと口を開けて言葉も無い護衛騎士。
その顔が段々青くなっていく。
「リュグナトフ国のスパーク辺境伯様のご子息、なんですか?」
「五男ですけど?」
それを聞いた護衛騎士は、深々と一礼した後に慌ててキミッヒ伯爵令嬢の馬車の方に駆けていった。
ミルリング国での辺境伯は伯爵家より少し上くらいの立ち位置だが、リュグナトフ国での辺境伯の立ち位置は、ほぼ侯爵家と同列。
その家の子息ともなれば高位貴族扱い。
アールスハイン達のチームに高位貴族の出身者が一人居るって噂は、助の事だと理解したのだろう。
今まで視界にも入れなかった人物が、高位貴族だった事実に大慌てになっている。
そして半端な噂しか知らなかったミクロ辺境伯令嬢の話によれば、Aランクの身分を隠してる高位貴族は一人って話になってるので、助が高位貴族ならば当然ユーグラムは高位貴族ではない、って思い込むはず。
実際は高位貴族の助と王族のアールスハインが居て、ユーグラムとディーグリーは平民なんだけどね。
キミッヒ伯爵令嬢の馬車からは何やら悲鳴のような声が聞こえるけど、まあ気にしな~い!
そしてメイドさんが確認しに来た。
「本当にユーグラム様ではなく、あなた様が辺境伯家のご令息様なのですね?」
「そうですけど?」
「では、失礼ですがユーグラム様のご身分をお聞きしてもよろしいですか?」
「平民ですと申し上げております」
「何処かの貴族家から教会に入られたのではなく?」
「生まれも育ちも教会ですが?」
「…………………………そうですか。大変失礼致しました!」
潔くと言うより豪快に頭を下げたメイドさん。
よろよろしながら馬車に戻り、また馬車から悲鳴が聞こえた。
事実ではあるけど、さっきユーグラムは敢えて言葉を少なく話した。
さっきの言い方では、教会の孤児院で育った身寄りのない平民です、と聞いた多くの人が思うだろう。
実際は教皇倪下の子息なので、父も母も居る教会で生まれ育ったってだけなんだけどね!
その後の旅は、驚く程静かになったキミッヒ伯爵令嬢。
そして護衛騎士やメイドさんの態度が、助が相手だと驚く程丁寧になった。
ちょっと露骨過ぎる態度の変化に笑いそうになった!
助の身分をバラしたのは、通り道だったし、一番害が無いから。
王族のアールスハインも教皇倪下の子息も、ちょっとバレると面倒事にしかならないだろうからね!
一週間くらいは馬車から出るのも最低限にして、顔を見るたび窶れてたキミッヒ伯爵令嬢は、旅が続き宿を替えるたびに段々元気になってきた。
どうも、リュグナトフ国の宿屋の食事が気に入ったらしい。
メイドさん達も護衛騎士達も、伯爵家で雇った冒険者達も、毎回大騒ぎしながら食事してる。
そして食欲が抑えられなくなってる。
大きな宿だと、食堂で全員揃って食事、って事にもなるんだけど、皆さん物凄い量食ってる!
令嬢もメイドさんも騎士に負けないくらい食ってる!
もうユーグラムの事なんか眼中にないほど食ってる!
乙女の恋心って、食欲に負けるのかね?
それはそれで面白かったけどね!
リュグナトフ国では柔らかいパンと肉がだいぶ普及してきて、普通よりちょっとだけランクが上の宿では日常的に柔らかいパンと肉が出されるようになった。
他国のとは言え伯爵令嬢なので、それなりのランクの宿に泊まる。
ミルリング国とは比べ物にならない程美味しい食事。
食欲が爆発しちゃってるね?もう令嬢とかメイドとか身分性別関係なく腹がパンパンになる程毎回爆食いしてるね!それとも自棄食いなのかな?
ユーグラムに目が行かなくなったので、ユーグラムもとても穏やかに過ごせてる。
毎食爆食いしてるのに、宿の近くのカフェやケーキ屋さんでも爆買いしてるメイドさん。
馬車の中でも甘いものは別腹とばかりにスイーツを食ってる。
旅が終わる頃には、服が小さくなってたりしてね?




