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帰国までの道のり 3

【書籍発売中】


誤字報告、感想、買ったよ報告をありがとうございます!

 令嬢達に同席の許しを得て、席に着くと同時くらいにユーグラムも宿に戻ってきた。

 物凄く、物凄く気が乗らない雰囲気を醸し出しながら同席したユーグラムも一緒に話を聞く。


 改めて名乗られた領主のご息女は、ミクロ辺境伯家の長女でメイカー嬢。

 キミッヒ伯爵令嬢とは学園での友人らしい。

 昨夜はキミッヒ伯爵令嬢の話を聞き、婚約破棄されたばかりである事実や、その噂から逃れるために急遽留学と言う手段に出たこと、身分の違いが有ること、ミクロ辺境伯令嬢から見た印象では、ユーグラムがとても迷惑そうな雰囲気を出していた事を突き付け、説教をしてくれたそう。

 その晩はキミッヒ伯爵令嬢も反省していたように見えて、後は女子トークで盛り上がったとか。

 だけど今朝になって、ミクロ辺境伯令嬢は辺境伯と言う家柄的に、多くの冒険者とも交流があるらしく、一つの噂を思い出した。

 リュグナトフ国から来たAランクの冒険者は、実は隠してはいるけど高貴な身分の出身で、見目麗しく実力も確かだとか何とか。

 それを聞いたキミッヒ伯爵令嬢がユーグラムの所へ突撃しようとしたのを、慌てて追いかけてきたそうな。


 つまり噂を信じたキミッヒ伯爵令嬢は、昨晩のミクロ辺境伯令嬢の言葉で反省など欠片もしていなかった、と。

 自分と身分が釣り合う可能性を聞いて突撃してくる程には、まだまだユーグラムに夢中ってことだね!


 一応の説明が終わるまでは、おとなしく椅子に座ってモジモジとユーグラムをガン見してたキミッヒ伯爵令嬢は、ミクロ辺境伯令嬢の説明が終わったと同時に、バンッと机に両手を付いて立ち上がり、


「ユーグラム様!貴方様は実は身分をお隠しになっている王子様なのでしょう?!わたくしは伯爵家の娘です!これで身分の問題は失くなりましたわ!リュグナトフ国では王族との婚姻に必要なのは伯爵家以上の身分と聞いたことがあります!もうお気持ちをお隠しになることは無いのですよ!わたくしは何時でもユーグラム様の求めに応じる心の準備は出来ております!」


「私は身分を隠した王子殿下ではありませんし、貴女に向けた気持ちなど欠片もありません」


 ユーグラムに向けて両手を広げ、ウェルカム状態で告白しろ!と迫ってくるキミッヒ伯爵令嬢を、微動だにせず切って捨てるユーグラム。

 固まるキミッヒ伯爵令嬢。

 微妙な空気が流れる食堂。


「ユーグラム様?何か隠さねばならない深刻な事情があるのですか?」


「事情などありませんし、事実私の身分は平民です。そして貴女への気持ちなど欠片もありません」


 同じこと二回言ってる。

 これだけきっぱりと言ってるのに、キミッヒ伯爵令嬢はキョトンとした顔で、


「もし、やんごとない事情で身分を名乗れないのだとしても、わたくしの家の力を使えば、しかるべき身分の家に養子に入ってからの婚約なども可能ですのよ?」


「貴女に気持ちが無いのに、何故そんな面倒な手続きをしなければいけないのでしょう?それに私は我が家から養子になど出る気はありません」


 シーーーーンと静まる食堂内。

 ミクロ辺境伯令嬢が深く溜め息を吐いた後に、


「そんな気はしていたのだけど、確認させて頂ける?」


 ミクロ辺境伯令嬢がユーグラムを見て声を掛けたので、ユーグラムも了承してミクロ辺境伯令嬢を見る。


「貴方は身分を隠しているの?」


「いいえ、私の身分は平民です。こちらを見て頂ければご理解頂けますよね?」


 ユーグラムが出したのは、神官見習いの巡礼札。

 元々の身分がどうであれ、神官として教会に入るとまず見習いになって、身分は等しく平民となる。

 色々な場所を巡り歩く修行中の身であることの証。


「まあ!神官見習いなのですね?!それならば間違いなく身分は平民ですわね」


「でもそれって、教会に入る前までは高貴な身分だったと言うことではなくて?!」


「いいえ。生まれた時から私の身分は平民です」


「ちょっとミラベルは黙ってなさい!今はわたくしがお話しさせて頂いてるのよ!」


「そんなのズルい!メイカーばかりユーグラム様とお話しするなんて!」


「ミラベル、わたくしは、黙れ、と言ったのよ?」


 ミクロ辺境伯令嬢の圧が凄い!ビクッと体を震わせたキミッヒ伯爵令嬢がおとなしく席に座る。


「それでは質問を続けさせて頂くわね?貴方はミラベルに好意を持っている?」


「いいえ、全く」


 ユーグラムの簡潔な答えに、ミクロ辺境伯令嬢がこめかみを揉んでいる。


「ちょっとくらいは無いの?」


「ええ、欠片もありません」


「そうなの、分かったわ。貴方方は冒険者として雇われているようだけど、貴方方に一切非が無いことはわたくしが証言しても良い、この依頼を断れる?」


「断るのは構いませんが、私達に依頼をされたのは王太子妃殿下ですよ?」


「え?何故そこで王太子妃殿下のお名前が?」


「キミッヒ伯爵令嬢が婚約破棄をされたパーティーは、私達のダンジョン階層更新を祝う為に王太子妃殿下が主催して下さったパーティーでした。そこで起きた騒動でしたので、王太子妃殿下もキミッヒ伯爵令嬢に配慮されたのでは?」


「何て事なの?!あの馬鹿息子は王太子妃殿下の主催されるパーティーでやらかすなんて!本当に馬鹿なのね!でもそう、王太子妃殿下が依頼主では、わたくしがいくら証言をしたとしても、お断りするのは無礼よね。分かったわ、ミラベルの事はわたくしが責任を持って説得致します!ですから貴方方は旅の間、極力ミラベルの側に寄らないように!」


「ありがとうございます。とても助かります!」


 無表情ながら心からの言葉だと伝わるお礼を、ミクロ辺境伯令嬢は苦笑いで受け取ってた。

 うん、これからの方が長い旅なので、何とかなりそうで良かった!

 ミクロ辺境伯令嬢に連れられてキミッヒ伯爵令嬢は渋々帰っていった。

 凄く疲れた!

 ユーグラムは机に突っ伏してるし。

 労るように肩を叩いたら抱っこされた。

 そして部屋に帰ったら、プラムに頼んで巨大化させて、抱きついて動かなくなった。

 我がペット達もユーグラムを労って、くっついてあげてた。

 お疲れ~!


「それにしても王子と間違われるとはね~?俺、思わずオシイ!って言いそうになった~」


「それな!確かに高貴な顔はしてるけど、リュグナトフの王族は伴侶以外は全員金髪って有名だろうに?」


「今の父上と兄弟達が金髪だってだけで、その前の世代では茶髪や銀髪、黒髪も居たぞ?外国だからそこまでの知識が無いのかもしれないし」


「だからってユーグラムが王子って!女の子の妄想って突飛だよね~?」


「いやいやいや、男の妄想ってのも手に負えないぞ?男の方が欲望に直結する分即物的で陰湿になることも多いし?」


「女の子の妄想って、自分の理想に当て嵌める感じだから、聞いてると現実との落差に笑うしかないよね~」


「それは分かる。兄貴達も付き合った女の子に毎回そんな人だと思わなかった!って振られてるし!じゃあどんな人だと思ってたんだよ?!って自棄酒あおってるし」


「まあ、俺もユーグラムも子供の頃は散々言われたね~。ちょっと悪戯して引っ掛かった奴を笑ってたら、女の子達にユーグラム様になんて事させるの!って怒られたし、木に登っても、剣術ごっこしてても怒られたし」


「何でディーグリーばっか怒られんの?」


「木登りや剣術ごっこや悪戯は、ユーグラムに似合わないんだって!」


「あー、それが理想ってか妄想を押し付けた末ってことね?」


「そうそう、ユーグラムは窓辺で小難しい本を読んでるイメージなんだって!」


「確かに似合いそうだが、ユーグラムだって普通の男だろう?」


「まあ、ユーグラムに好意を持つ女の子の妄想だから、付き合ってやる義理は無いし、普通に駆けずり回って遊んでたしね~」


「当然でしょう?話した事もない女子から理想を押し付けられても迷惑なだけですから。私は私の好きなことをしますよ!」


 復活したユーグラムが加わってきた。


「まあ当然だわな!」


「そうそう!外野の声なんか気にしな~い!人に迷惑掛けてないんだから、好きなことやればいいよ~」


 夕飯は外に行くのも面倒なので、作り置きの親子丼を食べました。


 翌日は平和に過ごし、その次の日。

 集合場所に向かうと、既に準備は整っていて、後はキミッヒ伯爵令嬢とお付きのメイドや騎士が来るのを待つだけ。

 伯爵家で雇った冒険者達と情報交換しながら待つこと暫し。

 騎士を先頭にキミッヒ伯爵令嬢達が来て、何故かキミッヒ伯爵令嬢はメイドを連れてこっちに来た。

 そしてキミッヒ伯爵令嬢は、今にも泣きそうな涙を湛えた目でユーグラムを見上げ、


「ユーグラム様、今までご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。わたくしは、ですがこの気持ちを捨て去るまでは、もう少しの、この旅の間だけでも!貴方様を想う事だけはお許し下さい!この旅が終わり、リュグナトフ国に到着したならば、もうこの恋を引き摺ることの無いよう努めますので」


 そう言ってボロボロと涙を溢し始めた。


「こちらに迷惑を掛けないのならご自由に」


 ユーグラムのあまりに素っ気ない言葉に、お付きのメイドさんが睨んでくる。

 ユーグラムが無言で見返すと、悔しそうな顔をしてキミッヒ伯爵令嬢を連れて馬車に乗り込む。


「モテる男も苦労があんだな~?」


 場の空気を吹き飛ばすようにあっけらかんと声を掛けてきたのは、伯爵家で雇った冒険者。


「あそこまで思い込みが激しいのも珍しいですがね?」


「あんたくらい綺麗な顔じゃ~苦労も多そうだな?いや、あんただけじゃなく、他の面子もか?モテる男は羨ましかったが、ちょっと認識が変わったわ!」


 アハハ~と笑って肩を叩いて出発準備に入った冒険者。

 場の空気が和んだので、俺達も馬に乗る。

 冒険者は馬と馬車に別れ交代で全体を警戒にあたる。

 俺はアールスハイン達と行動を共にする。

 一応俺達も冒険者チームとして頭数には入っているけど、見た目が幼児とペット達なので、アールスハインチームのオマケ扱い。

 楽だから良いけど!夜の見張りも免除されてるし!体は幼児なので夜は睡魔を我慢できませぬ!


ストックがそろそろ切れそうです!

やっと仕事が落ち着いてきたので、頑張って続きを書こうと思ってはいるのですが、ちょっとつまずき気味。

なので書きためてた短編を二作投稿して、ストックが溜まり次第また再開となります。

よろしくお願いいたします。

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4巻の発売日は6月9日で、公式ページは以下になります。 https://books.tugikuru.jp/202306-21551/ よろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
[一言] 何というか。恋は盲目は良いんだが。 一応今冒険者という建前に身を置いているから今後も不問になるだろうけど。 事実を知ったら身分が釣り合うの合わないのというより。 同盟国の伯爵家の令嬢の人とな…
[一言] 無理なさらず続けて下さい。 大好きな作品の続きが読める事が嬉しいです。
[一言] 「いやいやいや、男の妄想ってのも手に負えないぞ?男の方が欲望に直結する分即物的で陰湿になることも多いし?」 どっかの元兄貴も酷かったよね 元王族の
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