帰国までの道のり
【6/10 書籍発売】
誤字報告、感想をありがとうございます!
おはようございます。
天気は晴れ。
まだ雪は多く残ってるけど街道は除雪されているので出発には支障がないそうです。
この一週間は、皆はページュリーが態々借りた訓練場での訓練の日々。
ディーグリーだけはドラゴン素材を冒険者ギルドに売りに行ったり、オークションの見学に行ったりしてたけど。
俺は王太子殿下自ら頭を下げられたので、お料理教室を開催してた。
お城の料理人達は、王太子殿下自らに言い含められ、最初はとても不満そうな顔をしていたものの、作った料理の試食をさせたら、俄然やる気になって低姿勢になった。
取り敢えず肉の血抜きと処理の仕方、小麦粉の製粉の仕方を教えて、王家御用達の道具屋を呼びつけての石臼の改良が行われ、柔らかいパンと肉料理が完成した。
勿論、臭みを誤魔化す為の濃い味付けも改善されたので、俺でも食えるご飯になったよ!
王太子ご夫妻と弟王子殿下二人、お姫様と王妃様を招待しての昼食会は、とても上品でお淑やかなのに貪り食うと言う謎現象が起きて、おかわりの嵐だった!ドレスがきつくなる程女性陣も食べ過ぎて、弟王子殿下はひっくり返ってた!
料理人達も驚く程の食欲だったらしく、物凄く感謝された。
仕事で来られなかった王様は、お茶の時間に軽食として出されたそうだけど、お礼にって王様から直筆のお手紙付きで、ミルリング国自慢の宝石の原石を貰った。
価値が分からないし使い道もないのでいらないんだけど、お礼として渡されちゃったので、ありがたく笑顔で貰っといた。
後でディーグリーに相談しよう!
その後も暇なので幾つかの料理を教えたり、味付けが濃すぎると体にも悪いって話をしたり、ビッグガガの狩りに行ったり。
この国の料理人達も全員武闘派でした!
その割に繊細な見た目の菓子を作ってて、甘味も改良された美味しいお菓子を、お土産にいっぱい貰ってきた。
宝石の原石よりも断然嬉しかったのは内緒ね!
そんなこんなで一週間後。
伯爵家の騎士に守られた隊列に参加してリュグナトフ国に帰ります。
伯爵家は他にもベテランの冒険者を雇っているので、そんなに忙しい旅でもなく、ご令嬢が居るので来た時よりものんびりと進む旅。
旅は順調でとても退屈。
たまに出る魔物も特に手こずる事もなく、あっという間に片付いてしまい、皆の出番もない。
ただ一つ問題が有るとすれば、今回の旅の主役であるミラベル・キミッヒ伯爵令嬢が、ユーグラムに釘付けで、何かと近くに来ようとしたり、微妙に伯爵家の圧を使って側に置こうとしたり。
まあ、権力を使ってって程ではないので黙認してるけど。
今も窓から半身を乗り出すように馬に乗ってるユーグラムをうっとり眺めてる。
メイドさんや伯爵家の護衛騎士に何度注意されても聞いちゃいない。
一度、テントに勝手に入ってこようとして弾かれてたし。
俺のテントは特別製なんで登録した人しか入れないんだぜ!
教えてあげないけどね!
ユーグラムは好みではないらしく、やんわりと断ってるんだけど、全く聞く気がなくてうんざりしてる。
ハクを頻りに揉んでるし、プラムまで励ますように一緒の馬に乗ってるし、段々ストレスが溜まってきてる様子。
それでも盗賊や手強い魔物に会うこともなく順調に進む。
でもここからは崖の道を通らないといけないので、馬車から身を乗り出すのは本当に危険。
って、伯爵家で雇った冒険者にも、騎士にもメイドさんにも言い聞かされてるのに、聞いちゃいない令嬢。
馬車がガタンと揺れる度にバランスを崩して何度も落ちそうになってるし、その度にメイドさんが必死になって令嬢の体を引っ張ってるし。
護衛対象である令嬢が怪我したり谷に落ちて行方不明にでもなれば、こちらの責任にもなるので、とても面倒だがユーグラム本人が令嬢に言い聞かせる事に。
「ユーグラム様!」
近寄っただけで目をハートにさせて体をゆらゆらさせる令嬢。
「貴女は何度注意されれば覚えるのですか?馬車から身を乗り出すな、と何度も注意されたでしょう?貴女に怪我やもしもの事があれば、我々の責任問題にもなる事をご存知ないのか?次に注意されたことを守らなければ、貴女を身動き出来ないようにする魔法を掛けますよ?」
ユーグラムの低音ボイスにゾクゾクと体を震わせ、ポ~っとなって話を聞いているのかは謎。
ユーグラムもそう思ったのか、
「聞いているのですか?!」
ちょっときつめに言ったら、ビクッとしてモジモジして、
「あ、あの!それなら提案がありますわ!ユーグラム様がわたくしと同じ馬車に乗ってくださいませ!それならば身を乗り出したり致しませんわ!」
「お断りします」
「なぜですの?!ユーグラム様はわたくしの護衛の為に雇われたのでしょう?雇い主であるわたくしの言葉を聞いて下さらないの?!」
「勘違いをされているようですが、私共を雇われたのは王太子妃殿下です。依頼内容は貴女をリュグナトフ国王都まで無事にお送りする事。体に害が無いのなら、休憩以外の時間は眠らせる事も可能ですが?」
これは後ろに居るメイドさんや騎士にも向けた言葉。
ユーグラムが相手にしないことに、ほっとしているくせにお嬢様を蔑ろにして!みたいな睨みも向けてくる。
その理不尽さにもストレスを溜めていたユーグラム。
お前らがちゃんと言い聞かせろよ!って意味も込められてる。
メイドさんや騎士達はその意味にちゃんと気付いて気まずそうな顔で目を背けるけど、恋する乙女は何処までもポジティブシンキングなのか、ポポポと頬を染めて、
「まあ、フフフ。わたくしを眠らせてキスで起こしてくれるおつもりなのかしら?キャッ!」
顔を両手で隠し、小さく跳び跳ねてる令嬢。
本人以外無表情になって無言になってる。
「では眠りではなく、単に動けなくなる魔法を掛けましょうね!」
ユーグラムは常に無表情なんだけど、雰囲気で感情は伝わりやすい。
それを周りも察知して、ユーグラムが本気であることを感じとり、慌てて令嬢を回収して馬車に押し込んでいる。
令嬢本人だけが理解せずに、無理矢理引き離されたかのように悲鳴をあげてる。
うん、とても迷惑なので、馬車にバリア張ってやりました!
馬車にぴったり張り付くように張ったので、窓から指一本出せません!
網戸のように細かい網あみにしたので窒息の心配はありません。
透明だから見えないしね!
勢いよく身を乗り出そうとした令嬢が、網戸バリアに顔面から突っ込んで、令嬢にはあるまじきお顔になってたけど見ないふりしてあげたよ!
ユーグラムがひっっっっくい声でずっとフフフフフフフって笑ってたけど!
崖を越えて峠を越えて、難所を通りすぎて、あとは多少のアップダウンがあるくらい。
馬車は外からは簡単に開けられるようになっているので、休憩時は用件を聞いてから護衛騎士がドアを開ける。トイレ事情などがない場合は開けない。
令嬢は何としても出ようとしてるけど、その辺はメイドさんが頑張っている。
護衛騎士も令嬢よりもメイドさんの言葉を聞いて行動してるし。
ただ、昼食や町での宿泊となると別問題で、令嬢は何としてもユーグラムを同じ宿に泊めようとして、ユーグラムはそれを嫌がっての攻防が毎日起きてる。
メイドさんや護衛騎士達は、令嬢とユーグラムの間に万が一が起こっては大変なので、絶対に令嬢の言うことは聞かないんだけど、恋する乙女の行動力は時に凄まじく、メイドさんの目を盗んで窓から脱走し、別の宿に泊まってた俺達の部屋に侵入しようとして、ハクの触手に捕まったり、護衛騎士に無理矢理命令して俺達の部屋に居座って、ラニアンに咥えられてポイされたりしてた。
昼食時は、タープだけ出して料理する俺達の周りを彷徨いたり、ユーグラムが調理した料理を強奪しようとしたり。
自分の作った料理を食べさせようと、無理矢理調理に参加して、お茶一つ淹れたことの無い令嬢が料理出来る訳もなく、黒焦げにしたり食材を駄目にしたり。
何とか出来上がったゲテモノと呼ばれそうな物体をユーグラムに無理矢理食べさせようとしたり。
「人に食べさせる前に、ご自分で味見をするのは料理したものの務めですよ?」
と穏やかな声で言われて食べてみたら、口を押さえて何処かに消えていったり。
とても迷惑でしょうもない事になってた。
王都を出て四日、国境の街に到着。
ここで最終の補給と休息の為に三日間滞在。
令嬢とそのお付きの方々はこの街の領主館に泊まり、俺達冒険者は宿を取る。
その前に一応正式な護衛依頼を受けているので、伯爵家一行として領主様に挨拶に向かう。
領主様の娘は、伯爵令嬢と同じ年頃。顔見知りなのか、挨拶の場にも同席してる。
令嬢が見るからにゲッソリしてるけど、本人は恋窶れだと主張して、今日もうっとりとユーグラムを眺めてる。
その事に領主様の令嬢が物凄く驚いて、伯爵令嬢を凝視してる。
ユーグラムは普段の無表情が鉄仮面のように固まって、ヒクリとも動かなくなってる。
挨拶も終わったので俺達冒険者は街の宿へ。
向かおうとしたんだけどね、伯爵令嬢がユーグラムの腕をガッチリホールドして離さない。
力尽くで引き離す事も出来ず、ニッコニコ微笑んでうっとりしてる伯爵令嬢以外は、皆死んだ目になってた。
そこへすかさず領主様の令嬢が、
「なになになになに?!ミラベルったら、アヴァンス公爵令息に婚約破棄されたって聞いたけど、実は貴女にも恋人が居たの?!お相手が冒険者では公には出来ないものね!ウフフ、素敵ね!」
「違います。私はキミッヒ伯爵令嬢とは何の関係もありません」
ユーグラムが切って捨てるように言うと、その声と言い方に領主様のご令嬢はビクッと体を震わせる程驚いて、ユーグラムと伯爵令嬢を見比べている。
「ミラベル、いくらお相手を気に入ったからって、地位を振りかざして無理矢理お付き合いしようとするのは感心しないわよ?!」
「無理矢理なんて!わたくしはただ純粋にユーグラム様のお側に居たいだけだわ!」
「冒険者にとって、依頼された護衛対象である貴女が、常に自分にベッタリとくっついて居られるのはとても迷惑な話ではなくて?貴女は純粋に好意を持っていても、お相手の立場を考えられないなら、あの男爵令嬢と同じことよ!」
「まあ!わたくしをピッコリーノ男爵令嬢と同じだと言うの?!酷い侮辱だわ!」
「何が違うと言うの?メイドや護衛騎士の顔を見てみなさい!周りの迷惑も省みず、自分の好きなように振る舞う所なんかそっくりじゃない?」
慌てて周りを見る伯爵令嬢。
皆呆れた顔してるね!
「わたくし、わたくしは…………」
そっとユーグラムの腕を離し、後ずさってる。
「話を聞くわ、貴女の部屋はこっちよ」
そう言って伯爵令嬢を連れていく領主様の令嬢。
とても助かりました!
どっと疲れて宿を取ったら、部屋でぐったりしました。
当事者じゃなくても疲れるね!
今後の予定としましては、書いてある分、後数話分を更新したら、ちったいさんまたお休みさせて頂きます。
もう書き貯めた分が全く無いので、少しストックを貯めてから更新したいので。
申し訳ありません!必ず続きは書きますので、お待ち頂けると有難いです。




