ダンジョンまでの道
【6/10書籍発売】
誤字報告をありがとうございます!
ミルリング国は、リュグナトフ国と同盟を組んでからはリュグナトフ国の影響を受け、エルフやドワーフ、獣族達を少しずつ受け入れるようになり、それぞれの暮らす町は別だがゆるく交流はされていて、種族によって差別されることも少なくなってきたそうだ。
王太子妃様から許可証を貰いその次の次の日の朝に宿を訪ねてきた騎士に案内されて、貸し馬でダンジョンのある鉱山に向かって旅をして二日。
同行してくれる騎士の名前はページュリー。
イングリードと同年代で、でもその実力を認められ近衛騎士の隊長をしてるそうな。
そんな人が案内人?と思ったが、若くして隊長に任命されてしまったので、色々と風当たりが強く居心地がとても悪いので、今回の任務は良い息抜きなんだとか。
ページュリーは子爵家の次男で、歳の離れた兄が早々に家を継いで子も出来たので、騎士の道を選んだそう。
実力がありトントン拍子に出世して近衛騎士になったまでは良かったものの、隊長に任命されてからは身分の事や若さの事を理由に歳上の部下達から反発をくらい、上司には日々嫌味を言われ通しなのだとか。
正に板挟み状態!
うんうん、面倒極まりないよね!
俺が頷いてる事に納得がいかないのか、とても不思議な生き物を見る目で見られた。
他の皆は苦笑してた。
ページュリーと旅をしてると、確かに実力を認められるくらいには強く、複数の盗賊相手でもかすり傷程度で殲滅出来る腕の持ち主だが、アールスハイン達には敵わない。
「さ、すが、Aランクの冒険者だけあるな!その武器もすさまじいし!B以上のランクの冒険者ってのは別ものってのは聞いてたが、あんたらは更に上じゃねーの?」
めっちゃ感心された。
そして夜営用のテントを出したら腰を抜かしてた。
「はあ?見た目と中身の広さがちげぇ!なんだこれ?入っただけで体が綺麗になった!個室?風呂!このフカフカのクッション?飯がうめぇええええええええ!!」
大興奮で大騒ぎ。
その反応がもはや懐かしい。
スラム出身の冒険者ルルーさん元気かな?
そして朝、共有スペースの絨毯の上で寝てるのもルルーさんと一緒。
フカフカのベッドは逆に落ち着かないらしい。
「リュグナトフって国はすげぇんだな~、Aランクの冒険者とは言えこんな魔道具が手に入るなんて、俺も冒険者になろうかな~」
とか言い出した。
「まあ、気楽で楽しくは有るけど、この魔道具が手に入るかはまた別の話だからね~」
「え?それだけ高いとか?」
「値段もそうだけど、コネとタイミングも必要だよね!」
「あー、コネってのは大事だよな!最近つくづく思うわ!近衛騎士なんてやってると余計によ!普通の騎士に戻りて~!」
「異動願いとか出さないの?」
「それはそれで落伍者ってレッテルを貼られて、実家に迷惑掛かりそうだしよ」
「ならもう誰一人敵わない実力を見せつけるしかないね!」
「俺も自分は強いつもりでいたんだが、あんたら見てると、自分はまだまだだなと思ったよ」
「ふふふふ、そんな君には特別に俺達の使っている肉体強化の方法を伝授してやろう!」
「あー、やっぱり!特別な方法が有ったのか!道理で強いわけだ!そんな方法を俺に教えて良いのかよ?」
「別に隠してる訳じゃないんだけど、習得するには結構大変で時間も掛かるからね」
「…………………よろしく頼む!俺はもっと強くなりてぇ!」
皆して気に入ったんだね!
それからは肉体強化の訓練とバリアの訓練をしながらの旅。
鉱山までは五日の日程で、ダンジョンの案内もしてくれる予定なので、王都に帰るまでみっちりと訓練出来る。
今は物凄く真剣な顔で訓練を受けてるページュリーも、その内肉体強化を成功させたら爆笑しだすのか、と憂鬱になるのは俺だけのようです。
皆は馬で、俺はソラかラニアンに乗っての旅の目的地、アシュリ鉱山についた。
道中は盗賊も出ず、魔物は小物だけだったので肉体強化の訓練に明け暮れた。
バリアは何とか形になってきたけど、まだまだ強度はいまいち。
アシュリ鉱山は連なった山々を総称して呼ばれる巨大な鉱山で、入り口は厳重に騎士達によって守られ、許可証の無いものは通る事も出来ない。
入り口には多くの人々が並び身体検査と持ち物検査をされている。
中には許可証を持った冒険者も居るが、一チームに一人見張りのような人が付く。
これは宝石や鉱石の原石の盗掘を防ぐ為の措置で、見張り役は国の審査を通った屈強な人が選ばれる。
給料は高いが、身元調査も厳しい為成り手は少ないのだとか。
これで見張り役もぐるになっての盗掘はほぼ防げ、それでも万が一盗掘などがあれば、推薦した貴族が責任を取らされる。
ページュリーも今回は見張り役として同行しているが、王太子妃様が俺達を疑っている訳ではない。
形として同行者が必要だったために態々選んでくれたようだ。
勿論盗掘などしませんよ!アマテ国のダンジョンで山程宝石手に入ったし、使い道無いし!
長いこと順番を待たされ入った先は、巨大な円形のカルデラみたいな場所だった。
入り口は長いトンネルで、そこから出るとカルデラの底のような所に出て、見上げると山が削られたように何層もに区切られ、そこら中を坑夫達が掘ったり砕いたり削ったりしてる。
カルデラの底を真っ直ぐに突っ切って正面にはまた別な門があり、その門から先はダンジョンとなっているらしく、また景色が変わってる。
何層にも区切られてるのは同じだが、幾つもの扉がありその扉のどれかを選びながらどんどん上の階層を目指すようで、たまに怪我してよろけながら出てくる冒険者も見える。
どう言う仕組みかは知らないが、ここからボードで飛んで上を目指す事は出来ないらしく、転移も出来ないダンジョンなので、一度入ったら長期間入りっぱなしと言う冒険者も多いそうです。
見えてるのに入れないとはこれいかに?
ダンジョンは謎が多いね!
そしてこのダンジョンに出る魔物はリザード系が多いそうです。
それを聞いた俺と助とディーグリーの声が、
「「「肉」」」
で揃ったのは言うまでもない。
アールスハインは頷き、ユーグラムは雰囲気が笑ってる。
ページュリーだけが意味不明と言った顔。
と言う事で、肉ダンジョンいってみよ~!
門を入ってすぐの所に有る扉に取り敢えず入ってみる。
通路のような場所が奥まで延びていて、現れた魔物はトカゲ。
三十センチくらいのツルンとした見た目のトカゲ。
額に小さな角が有るけど。
試しに助が踏んでみたら尻尾を切り離して逃げてった。
次に現れたトカゲは胴体部分を踏んでみたらあっさり討伐出来た。
ドロップ品はトカゲの皮。
そのまま進むとちょっと大きなトカゲがいて、蹴飛ばしたら討伐完了。
ドロップ品は鍵。
そして行き止まり。
ページュリーの説明では、鍵が出ると次の階層に行けるらしい。
踏んだだけで?
次の階層に行くには、階段前のドアをドロップ品の鍵で解錠しないと進めない仕様。
鍵穴は五つあって全部の鍵を差さないと開かない。
一階層につき五部屋選んで鍵を手に入れるしかないようだ。
ただ外れの部屋もあるらしい。
次の部屋の魔物もトカゲ。
その次もその次も、進む毎にトカゲは大きくなっていくけど、蹴ったら倒せる程度の強さ。
そして五本集まった鍵を差して次の二階層へ。
今度はリザード系が出た。
ただのトカゲよりも肌がガサガサしててちょっと硬そう。
ディーグリーが肉体強化で蹴ったら、吹っ飛んでいって他のリザードを巻き込んで討伐出来ちゃったけど!
次の部屋は肌がゴツゴツしてた。
その次の部屋はイガイガしてた。
その次の部屋は、ボコボコ泡を噴いてた。
その次の部屋は、シューシューと毒っぽい物を吹き出してた。
その次の部屋は、ヌメッとしてた。
全部肉体強化の蹴りとバリアで解決しちゃったけど!
三階層からは、本格的に森で遭遇するようなリザード。
ストーンリザード、ロックリザード、ポイズンリザード、アシッドリザードと続く。
ストーンリザードもロックリザードも森で討伐したことが有るし、ポイズンはバリアが有るから効かない。
アシッドって何?と思ったら酸を纏ったリザードでした。
触ると溶けるそうです。
こわっ!
まぁ、魔法で燃やしたら、酸が飛んでバリアが溶けかかったので、慌てて凍らせたら倒せたけど!
その次の部屋は、ミミクリーリザード。
部屋に入ったら何も居なくて、そのまま進んだら尻尾でバインと打たれました!
ミミクリーって擬態するって事なのね?
そう理解してよ~く観察すると微妙に気配が感じられる。
そこを剣で突くとあっさり倒せた。
不意打ち以外は弱いのかよ!と突っ込んだ。
四階層に進むと、冒険者が沢山居た。
この辺の階層で一人前かそれ以上かが試されるそうです。
意外とおじさんの冒険者が多い。
意気揚々と部屋から出てきた冒険者だが、着てるものがボロボロ。
でも自慢気に皮を担いでる。
緑色のツルンとした皮。
肉は拾わないんですか?と疑問。
リザード系の肉は旨いのに!ダンジョンの肉は既に血抜きがされてるお手軽肉なのに?!
リザード系が出てくる二階層からは漏れ無く肉もドロップするのに?
肉より皮とは理解できない思考回路だが、人それぞれと思い直し、俺達は全力で肉を持って帰りますよ!
意気揚々と出ていったおじさん冒険者の部屋に入る。
ツルンとした見た目の緑色のグリーンリザードは、入ってった途端風の魔法で攻撃してきた!
バリアが有るので効かないけど軽いので吹っ飛ばされた俺、をキャッチして微妙な顔をするページュリー。
部屋内にはゆるい風が吹いているので、ディーグリーが眠りの粉をサラサラ~っと撒いたら、あっさり眠ったグリーンリザード。
サクッと狩るよね!
無傷で出てきた俺達を、他の冒険者がガン見してくる。
特に気にせず次の部屋へ。
今度は火魔法を使うレッドリザード。
凍らせましたけど何か?
次は水魔法のブルーリザード、ディーグリーの電撃魔法剣一撃でした。
次は土魔法のイエローリザード。
土を纏って礫を放ってきたり、足元を泥に変えたりしてくるので水で洗い流したった!
そしてこの階最後はウッドリザード。
狭い通路のような部屋なのに木が密集してて先に進めない。
燃やしました。
リザードも燃えました。
ここまでの間ずっとポカーンと口を開けて見てるだけだったページュリーが、五階層の鍵を開けて入ってドアを閉めた途端、
「なあ、進むの早すぎねぇ?何なのお前ら?強すぎねぇ?何でストーンやロックリザードサクサク切れんの?魔法の威力もおかしいし!無傷で五階層っておかしくない?!」
吠えました。
他の冒険者達も驚いてこっち見てる。
「え~?俺達Aランク冒険者だよ?これくらい普通普通!」
ディーグリーが普段よりも少し大きな声でゆるく答えると、Aランク冒険者ってのが効いたのか、他の冒険者達は元に戻って自分達に集中しだした。
ページュリーだけが置いてけぼり。
だけど構わず進みますよ~!




