六日目 午後
本日投稿三話目
アールスハインの部屋に到着。
休日なので、アールスハインの仕事も無いし、何しますかね?
「あー、訓練所にでも行くか?」
アールスハインの言葉に、
「残念ですが、本日は騎士の訓練はありません。教会の騒動の警戒のため、街中の見回りに出払っております」
「そうか…………………………ケータ、何かやりたいことは有るか?」
アールスハインはヤンキー顔なのに、基本とても真面目なので、休みの日でも、訓練なんかに充ててしまって、ろくに休まない感じ。
「んー、ちゅーぼーいきゅ」
「厨房?何をしに?」
「パンちゅくりゅ」
「パン?」
「あー、固いもんな、パン」
「あぁ、ケータ様は、歯がたちませんでしたね」
「あと、にきゅ、にゃんとかちたい(あと、肉、何とかしたい)」
「固いのね」
この世界の食べ物は、基本味が濃い。
幼児に食わせて良い味では無い。
そして果物や野菜以外が固すぎる。
今の菜食主義みたいな現状を、何とかしたい俺です。
なので、スチャッと助の頭にスタンバって、
「ちゅーぼーへゴー!」
掛け声を掛ければ、皆が動き出した。
厨房に向かう途中、窓の付近で何やら騒いでいるメイドさんが数人。
様子を窺っていると、後から駆けつけたモップを持ったメイドさんが、窓に向かってモップを構えている。
すぐ近くの窓から外を見てみると、巨大な蚊。
サッカーボール位ある胴体に、胴体と同じくらい長い嘴?それが、結構な数ブブブブブブブブと、騒音と共に飛んでいる。
視界の隅の鑑定文字を見てみると、
❨ビッグガガ・魔力と血液を吸い尽くす❩とか書いてある。
とても物騒。
だがしかし、ちょっとあることを思い付いてしまったので、窓に張り付いて、ビッグガガ目掛けて魔法発動!
ビッグガガをメイドさんにも見えるように、半透明のバリアに閉じ込め、驚いているメイドさん達に手を振る。
突然の事に驚いてはいたが、バリアが破られる心配は無いと、納得してくれたのか、お辞儀をして、離れて行った。
俺は窓を開けようとして、鍵の開け方が分からず、助に窓を開けるように叩いてみせる。
意図を理解して窓を開ける助。
バリアに包まれたビッグガガを、近くに寄せていると、
「ケータ?それは魔物だぞ?何かするのか?」
助に聞かれたので、
「はりとりゅ(針取る)」
と、答えて、バリアの調整をする。
針のみを通して本体は、通したく無いので、針の太さより少し狭い位の網目状のバリアに。
狙いどおり攻撃するために、一斉に針をバリアに通すビッグガガ。
そこをキュッとね!本体が潰れて針だけが残される。
潰れた本体は、バリア内に火を放って燃やしました!残された針を集めて任務完了!針をリュックにいれて、助の頭に戻る。
さて、改めて、
「ちゅーぼーゴー」
声を掛けたのに、一向に進まない。
「イヤイヤイヤイヤ、何事もなくは進めねーよ!今、サクッとエグい事したよね?!」
頭にいた俺を片手で持ち上げ、目の前に持って来られた。
「ねぇ、魔物よ魔物。何でそんな躊躇いなくエグい攻撃するかな?魔物初めて見たんでしょ?もうちょっと怖がったりとかしないわけ?」
「びーくりはちたけろー、かよ、か。かーみたりゃちゅぶしゅれしょー、どーぶちゅのまーもにょみたりゃ、こあいかも?(ビックリはしたけど、蚊よ、蚊。蚊見たら潰すでしょ、動物の魔物見たら、怖いかも?)」
「えー、そう言う問題?あの大きさにビビったりしないの?」
「まどとバリヤーありゅのに?」
「いや、そーだけどさー」
まだブツブツ言ってるけど、再び頭に戻って、
「ちゅーぼーゴー」
と言えば、渋々動き出した。
厨房は、昼食後の片付けもすんで、マッタリとした空気になっていたが、王子であるアールスハインが顔を出すと、全員がシャキッとして、ゴリゴリなマッチョなおっさんが、
「ハイン王子、どうされました?」
と、渋い声で聞いてきた。
「休んでいる所、すまんな。実は、ケータが料理に興味が有るらしく、見学させてもらえないだろうか?」
「ほう、そのお子様が?」
「けーたでつ、よーちくおねがーちまちゅ!」
第一印象は大事よね、元気良く挨拶すると、ゴリゴリマッチョなおっさんは、目尻をゆるめ、
「そ、そうか、だが危ない事はダメだぞ」
と注意するだけで、中に招いてくれた。
後ろの下っぱっぽいにーちゃんが驚いている。
普段は見た目通り厳しいのだろう。
一通り調理場の説明を受け、今度は食材の確認。
大事なのは小麦類と、肉類。
早速発見!デデンと塊肉!
「たしゅきゅ、にきゅ!」
「ハイハイ肉ですねー」
「このにきゅいりゅ!」
「いるって、お前、こんなデカイ塊どうすんのよ?」
「ちーにゅきと、しゅじとり(血抜きと、筋取り)」
「えぇ?筋取りは分かるけど、血抜きはこの状態じゃ無理でしょ」
「だだーん!がぎゃはりー(ジャジャーン!ガガ針ー)」
「ん?どうすんのそれを?」
「ぶっしゃしゅ!」
リュックから出したビッグガガの針を掲げてやったら、助だけでなくアールスハイン達までもええーって顔で見てきた。
「まーりょきゅとちーにゅくのよー」
「魔力と血を抜く?その針で?」
「しょー」
「ホントにー?」
「やってみー?」
「ふむ、確かに。本当にその方法で血が抜けるなら、試す価値は有るな。よしやってみよう」
ゴリゴリマッチョなおっさんは、片手で肉塊を鷲掴むと、水場にドスンと置き、ビッグガガの針を綺麗に洗ってから、躊躇いもなくぶっ刺した。
想像以上にダクダクと血が流れ出て、こんだけ血が残ってたら、そりゃクセェよ!と妙に納得した。
「……………思った以上に血が出るな」
アールスハインの感想に、全員が頷く。
血は細菌の繁殖が早いので、死亡後すぐに血抜きをしないと肉が臭くなるんだけど、魔物の場合は、魔力が完全に抜けるまでは、細菌の繁殖が抑えられるらしい。
鑑定眼と言う、神の感想眼が初めて役にたった!❨魔物肉・血を抜けば臭くないよ!❩
心なしか肉塊も縮んだように感じるが、これ程完璧に血抜きが出来れば、調理後の臭みは、大分軽減されるだろう。
ゴリゴリマッチョなおっさんも、これ程の量が肉に残っていたことに、ショックを受けている様子。
なので、リュックから残りのビッグガガの針を、そっと渡してみた。
「……………感謝する」
深々と頭を下げられた。
「はいちゅぎはー、しゅじきり!(はい次は、筋取り!)」
助の頭の上から指示を出す。
先程は、俺の言葉を信じなかった助は、無言で血の出なくなった肉塊を、調理台に運び、料理人から借りた肉切り包丁で、大きな筋を取り除いていく。
前世食品会社勤務だった俺達は、入社して一番最初に配属される、食肉加工工場で、ある程度の処理を経験している。
その手際は、ブランクどころか、今世では一切の経験も無いのに、危なげなく筋を切っていく。
「わしゅりぇてにゃいにぇー(忘れてないねー)」
「ま、地元では魔物の解体とかもやってたからな、前世よりか慣れてるよ」
「ふぇー、ここちょここ、しゅじにょこってーけど(へー、こことここ、筋残ってる)」
「はい、すんません」
得意気に慣れてるとか言う割に、筋が残ってる箇所を指摘してやると、素直に謝って、言われた箇所の筋を切り取っていく。
「慣れておるな」
ゴリゴリマッチョなおじさんが、感心するように言うもんで、周りの料理人さんも見にきた。
筋切りが終ったところで、一旦肉を程よい大きさに切って、焼いてみる。
肉切りの手際の良さに、信用してもらえたのか、焼くのも自分達に任せてもらえるらしい。
ジュージューと肉の焼ける音、味付けは塩のみで、臭みや固さを確める。
助は実は、切ったり焼いたりは問題無いが、味付けすると、途端に素材をダメにする特技を持っている。
今世もそうとは限らないが、前世の経験から危険であると判断したので、塩を振るのは俺がやりました。
小さく切り分け一口。
臭みが劇的に軽減され、筋を切った肉は、前世の肉とは比べられないが、幼児の俺でも何とか噛みきれる固さになった。
周りを見ると、
「うわっ、やわらけー!何だこれ!今まで食ってた肉と全然違う!それに塩しか振ってねーのに、臭みが全く無い!マジか!」
大体こんな感想。
ゴリゴリマッチョなおっさんは、眉間に物凄く深い皺を寄せて、腕組みしたまま肉を噛み締めている。
周りの料理人達も、ゴリゴリマッチョなおっさんの様子に気付いて、場がシーンとなる。
「………………………………ケータ殿、と言ったか、それとティタクティス、この技術をお教え願えないだろうか」
深々と頭を下げられた。
周りの料理人の人達が、料理長!とか言ってる。
それから暫く、肉の筋切り指導を行った。
ビッグガガの針は、10回位使うと、縦割れを起こす事が判明したので、下っぱや、見習いらしい若手が、狩ってきます!とか言って、厨房を飛び出して行った。
獲物の自力調達ですか?だから皆ゴリマッチョなんですか?
はい、気を取り直して次に行きます!
協力的になった、ゴリゴリマッチョなおっさん料理長が、パンの材料を調理台に並べてくれる。
早速鑑定!
❨薄力粉・ケーキ等菓子作りに最適❩ ❨強力粉・殻付き❩ ❨イストの実・殻付きで調理すると固くなる❩
後は、水と油と塩と砂糖。
城に置いてある材料なので、この国での最高級食材だろう。
フム、製粉の技術が発展していない様子。
これって魔法で何とかなりますかな?
やってみよう!って事で、イメージは、昔住んでた我が家に有った石臼。
ゴリゴリ回して、殻と粉を分離するイメージ!
俺がスッポリ収まりそうな巨大ボウルの前で、両手で取っ手を回す動きをしていると、
「ケータ殿、それは何かの儀式か?」
と、ゴリゴリマッチョな料理長に聞かれた。
だが答えずに続けていると、次第にボウルの外に殻が吐き出され、残った白い実も綺麗な更々の粉になった。
「あぁ、成る程、魔法で製粉したのね!」
と助が、説明した。
「?製粉なら専用の魔道具が有るが?」
「あーえーと、普段の製粉よりも、一段多く製粉する、と言うか、普段はこの粒丸ごと製粉しますよね?それをけーたは、粒の殻を剥くように製粉しています」
「ほう?それで殻を剥いた粉はどう違うのかね?」
「予想では、パンの仕上がりが柔らかくなります」
「それは興味深い!」
周りと言うか、頭上では何か会話がなされているが、構わず、やっと製粉が終わった。
次に取り掛かるのは、見たこともないこのイストの実。
これがたぶんイースト菌の代わりになるのだろう、名前から言っても、材料的にも。
野球ボール位のカチカチの実。
「たしゅきゅ、わって」
助に差し出せば、
「これも割るのかね?」
そう言ってゴリゴリマッチョな料理長が、イストの実を取り上げ、鉈みたいな刃物でガンガンやって割ってくれた。
後は普段通りにパンを作る工程を料理長にお願いして見学。
途中、一次発酵のまま成型して焼こうとしたので、二次発酵を教え、成型、焼き上がったパンの完成!
形はコッペパンだけど、割った時にパリっもちっとなったので、出来上がりはフランスパンに近い感じ。
ガブッとね!外はカリカリ中はもちっと!
風味も良く、何より噛みきれる!
「う、うまぁ!すげぇ柔らかい!味はパンなのに柔らかいだけで、さらに何倍も旨く感じる!」
大好評のようで何より。
ゴリゴリマッチョな料理長が、製粉の仕方を聞いてきたので、石臼の説明をしてきたよ!やる気マンマンだったので、近いうちに柔らかいパンが食卓に上るでしょう!
発酵待ちの間に、薄力粉の製粉もして、簡単なお菓子も作ってみたけど、やっぱり製粉しただけで、劇的に固さが軽減されたしね!
殻、どんだけ固いかよ!と心の中で突っ込んだ。
後は、子供の食事は、味薄目で!ってお願いして厨房を後にしました。
アールスハインの部屋に戻る途中、何人かの調理人らしき若者が、ギャーギャー言いながら大きな虫取網でビッグガガを追いかけ回していた。
中には素手で針を掴み、胴体部分を地面に叩きつけると言う荒業で倒している猛者もいた。
やはり、食材自力調達?そう言えば、メイドさんもモップで戦おうとしてたな!強いわー、この世界の人達の逞しさを知りました。
部屋に戻ったら、夕飯までダラダラしました。




