世界樹 成長の兆し?!
誤字報告、感想をありがとうございます!
おはようございます。
天気は晴れ。
朝食を食べたら、世界樹の様子を見に行く。
上空から確認しても異常は見られずそれでも確認のために一周してみた。
大丈夫そうなので、下りて最初に吸い込まれた場所の幹に触れてみる。
案の定吸い込まれた。
ズルルーーーと滑って、根っこに囲まれた空間に着くと、最初には無かった聖輝石が、根っこに持ち上げられるように光り輝いていた。
「おわったー」
『ああ、感謝する。本体が傷つけられると身動きがままならんでな』
「くしゅりは、いまちゅくってるよ(薬は今作ってるよ)」
『ああ、有難い。礼には何をしてやろうか?何か困り事は無いか?我に出来る事なら叶えよう』
「ん~?」
日常生活では特に困ってはいない、が、ちょっと聞いてみよう。
「しぇかいじゅーのみー、たびても、しぇーちょーちないのにゃんで?(世界樹の実を食べても成長しないのは何で?)」
『成長する必要が有るのか?それ程力に満ちていれば、成長の必要を感じぬが?』
「かりゃだ、ちったいとふーべん!(体が小さいままだと不便!)」
『………………成る程。普通、聖獣とは魂や力の成長を望むものだが、お主は肉体の成長を望んでいると言うことか?』
「しょー!しぇかいじゅーのみー、たびても、おおきくなりぇない!(そう!世界樹の実を食べても大きくなれない!)」
『ふむ…………………』
世界樹の細い根っこが俺の方に延ばされてきたので握ってみた。
何かを調べるように魔力が動いた後に、
『成る程。お主の魂は違う場所に多くの未練を残しておる。それが肉体の成長を阻害しておるようだ。心当たりは有るか?』
「あ~りゅね~、じぇんしぇーの、かじょく(あーるね、前世の家族に)」
『前世とは?』
「もちょめぎゃみーのしぇーで、このしぇかいにちゅりぇてこらりたんらよー(元女神のせいで、この世界に連れてこられたんだよ)」
『元女神が神の世界から下ろされたのは知っておるが、そのような世界を危機に陥れるような行為をしておったとは!成る程、それで前世か』
「しょ。じぇんしぇーおとならったから、いま、しゅごくふーべん!(前世は大人だったから、今、凄く不便!)」
『ふむ。事情は分かったが、お主は聖獣である。成長はゆるりと行われよう。だが、力はある、それを少しばかり肉体の成長に促す事は可能だ。それを手伝おう』
「おねがーしましゅ!(お願いします!)」
『わかった』
細い根っこがスルスルと伸びて、俺の体を包む。
ゆっくりと揺らされる揺り篭のようにユラユラ揺れる。
まだ起きたばかりなのに、心地好い揺れに眠気を誘われる。
ふあ~っと欠伸が出た所でまた、スルスルと根っこが戻っていく。
『これで良い。どこまで成長するかは分からぬが、通常の聖獣に比べれば、速い速度で肉体も成長しよう』
「ありあとーごじゃます!(ありがとうございます!)」
良かった!成長するって!
用も終わったのでまたズルルーーーっと木の外に出される。
「ムフ~~~!」
思わずご機嫌な声が出てしまったが、俺だけでなく世界樹も心成しかサワサワと木が揺れている感じがする、巨大な木の事、気のせいかもしれないけど。
エルフ族の族長さん達に、害虫駆除は終了したことを報告して、薬の進捗を聞く。
今のところは順調に進んでるそうです。
途中、ちょっとねかせる必要もあるので、出来上がりは来週になるそう。
それまでは一応、この街に滞在して様子をみる事になった。
さて、ではエルフ街の観光に行きますかね!
エルフは人間や獣族よりも寿命が長い種族なので、時々物凄く突き詰めるタイプの職人が生まれる。
その長い寿命を活かして、更に技術を磨くために旅に出たりもして、他種族の技術を取り入れて、更に腕を磨く。
そんな職人さんなエルフのお店にきた。
毛の一本一本まで細かに彫られたフェンリル、羽の一枚一枚が風に揺れる様までも表現されてるフェニックス、うねる体が今にも動き出しそうな、鱗の一枚一枚も繊細に彫られた青龍。
それらが、純白の光沢を放つ骨なのか、木なのか分からない物で彫られた彫刻、がデデンと店先に飾られた店舗は、道側の半分が彫刻を置くスペース、半分から奥には素材が並び、その片隅で一心に彫刻をするエルフな職人さん。
エルフなのに長髪でもほっそりでもなく、細いがマッチョと言って良い程筋肉があり、髪はボウズに近い短髪。
そんなエルフらしからぬ職人さんは今も、客などお構いなしに彫刻をしている。
なぜこの店に来たかと言うと、さあ観光だ!と盛り上がってた俺達に、案内します!と申し出てきたわりと若い族長さんの一人が、一番最初に連れてきてくれたのがこの店だった。
彫刻を買う予定は有りませんよ?
「エルキュリア!エルキュリア!おい!エルキュリア!」
何度呼んでも全く聞こえていない職人エルフさんに、しまいに手が出る族長の一人、ラナイムラビルさん。
ベシッとエルキュリアと呼び掛けている職人さんの後頭部を叩くラナイムラビル族長。
どうでも良いが、エルフの人の名前を、正確に呼べる気が全くしません!
まあ、今のところ誰の名前も呼べてないけど!
後頭部を叩かれたことで、やっと手を止めこっちを見たエルキュリアさん。
とても目付きが悪い!
「おいこらテメー、俺の創作活動を邪魔するたぁ、良い度胸だなぁ?覚悟はあんだろうなぁ?」
ガラもとても悪そう。
「店に居るくせに客の相手もしないお前が悪い!それと、俺の話を聞けば、お前は俺に感謝の土下座をするだろう!」
「はあ?ラナイムラビル、てめえちょっと族長になったからって、調子乗ってんじゃね~ぞごらっ!」
「そうか。話を聞く気も無いのなら、レールキュラ老に話を持っていこう!レールキュラ老なら、冥土の土産として魂を捧げる勢いで作品を仕上げて下さるだろう!一応、幼馴染みとしてお前に一番に話を持ってきたのだが、お前はとても忙しそうだ」
「レールキュラ老に持っていく程の話かよ?しかも冥土の土産としてって、あの方はまだまだピンピンしてるだろうが!」
「ああ、そのピンピンしているレールキュラ老でも、精魂籠めて命懸ける勢いで、作品を仕上げて下さる事間違いなしの題材だからな!お前は聞く気も無いのだろう?悪かったな邪魔をして!じゃあな!せいぜい悔しがれ!」
なんだかとても大人気ない会話になってきた。
ラナイムラビル族長は、何かをとても自慢したい様子。
だがヘソを曲げて他に行くようです。
「ちょっと待てよ!聞かないとは言ってない!それに今彫ってたのは、お前の姉ちゃんの依頼だぞ!幼馴染みだからって、無茶な要求された俺の身にもなれ!普通一月掛かる作品を二週間で作れって無茶振りされてんだぞ!お前に八つ当たりしたくなるのもしょうがねーだろうが!」
「……………………たぶんそれは、友達の結婚式の贈り物だな。行き遅れ仲間が突然結婚するって報告してきて、姉ちゃん相当驚いてたからな、嫌味も込めてお前の彫刻を注文したんだろうよ。絶対間に合う日取りじゃないのに、幼馴染みって事で催促してきたらしい」
「ああ、そう言ってたよ、倍額払うから頼むってな!だいたいそんな催促する奴は友達じゃねーだろー?」
「ライバル的な位置付けの友達らしいぞ?」
「俺、関係ねーだろうが!」
「はあ、まあ悪かったよ。それでその依頼は?」
「もう終わる。昼には取りに来るとよ!」
「わかった。じゃあその後にまた来よう」
「レールキュラ老はどうすんだよ?」
「まだ伺ってもいない」
「あっそ、なら俺に回せよ!お前が自慢する程の依頼には興味がある」
「ああ、泣いて喜ぶだろうよ!」
話はまとまった様なので、店を出て別の場所に移動。
別の集落に案内してくれるそうです。
そして案内されたのはレストラン。
今度のこだわり職人は料理人。
魔の森の食材を活かした創作料理の店だそうです。
よその町からも態々食べに来るお客さんがいる程の有名店で、族長権限で予約を入れてくれたそうです。
食べられない物だけ聞かれ後はお任せで、何が出てくるかはその日の食材と料理人次第。
エルフ族の食事は、野菜と肉と、魚と果物。
主食は小麦粉を水や牛乳で溶いて薄く焼いた平たいパン。
それを千切って食べる。
露店だと具材を巻いて出す店もある。
良く言えば素材の味を活かした料理。
悪く言うとあまり味がしない料理。
とにかく薄味。人間族とは反対。
固くはないので俺でも食えるけど。
創作料理の店で最初に出てきたのはサラダ。彩り良く見目も美しいサラダ。ただ、ドレッシング等はかかっておらず、ほんの気持ち程度の塩がパラッとかけてあるだけのサラダ。
野菜自体が美味しいので食べられるけど、ちょっと物足りない。
次に出てきたのはスープ。
根菜類をコトコト煮込んだスープ。
これも超薄味。
一緒に出されたちょっとだけ厚みのある平らなパンを、千切って浸して食べる感じ。
次が川魚のパン粉焼きかな?
パン粉にしては細かくて、小麦粉にしてはざらついてる。
食べて見るとザクッとした食感が面白い。川魚特有の臭みもなく食べやすい。
次が肉料理。焼いただけの肉。
何の肉かは分かんないけど、焦げる寸前まで焼いて、塩をパラッとしただけの肉。
これらの料理が出来た順番でなのか、次々テーブルに並べられてく。
テーブルを料理でいっぱいにするのが、エルフ族のおもてなしなんだそう。
大皿に乗ってドドンと出されたのを、給仕の人が取り分けてくれる。
ラナイムラビル族長は嬉々として食べてるけど、俺達はモソモソ食ってる。
極薄味の料理って、中々食が進まないよね。
宿での食事は、部屋に運んで貰って、調味料を足して食べてたから問題無かったんだけど。
創作料理人さんが、モソモソ食ってる俺達に気付きこっちに来た。
「私の料理は口に合いませんか?」
「………素材の味を活かした、見目も良い料理の数々ですね」
一応アールスハインが褒めてみる。
「その割には進んでおられないようだが?」
「すみません、我々は先日この街に来たばかりで、この街の料理に慣れていないもので、まだ少々戸惑っております」
ディーグリーのフォロー。
「他の街の方々にも、それなりに評価を得ていると自負していたのですが、あなた方の口には合わなかったようで残念です」
こだわり料理人なので、こっちが悪者みたいになってきたぞ!
微妙な空気の中、朗らかに明るく声を掛けてきたのは、ラバー商会エルフ街支店長さん。
「あれ、ディー坊っちゃん、偶然ですね~、ここは中々予約の取れない店なのに、ああ、ラナイムラビル族長の紹介ですか!でも、ドワーフの町から来たばかりのディー坊っちゃん達には、この店の味は合わないでしょう?うちのレストランに来れば宜しかったのに」
「ドワーフの町から?ならば途中の町にも寄っただろう?エルフ族の料理の事は聞いたはずだが?」
料理人さんが聞いてくるのに、
「この方々は、特殊な移動手段をお持ちなので、ドワーフの町から直接この街に来られたそうですよ!エルフ族の料理は、昨日泊まった宿が初めてでしょうね」
「…………仮令予備知識が無くとも、料理の旨い不味いくらいは分かるだろう?」
「ドワーフの町の料理をご存知でしょう?そこから直接この街に来たのなら、その落差に戸惑うのは仕方無い事です。それに彼等は私達の持たない技術を持ち、独特の料理を作り出している。あなたの料理の価値観だけで、物事を悪のように仰るのはどうかと思いますが?」
「私の料理よりも旨い料理が彼等に作れると?それは興味深い!是非とも作って頂こう!」
支店長さんの言葉に、いたくプライドを刺激されたようで、挑発的な目で見られてます!
でも、せっかくの料理が勿体無いので、ちょっとだけ味を足してやりましょう!
取り分けられた俺の皿に、サラダにマヨネーズを、スープに塩コショウを、魚に大根おろしと醤油をかけただけで、料理人に差し出してみる。
物凄く不服そうな顔をしていたが、支店長さんが先に味見をしちゃって、絶賛しだしたので、ちょんと掬って一口。
カッ!と目を見開いて残りを一口で口に入れて、咀嚼咀嚼咀嚼。
スープも魚も食べて、撃沈。
テーブルよりも低い位置で膝を抱えて俯いております!
慰めるのは後にして、俺達は冷めないうちにご飯を食べてしまいます。
味変した食事は、大変美味でしたよ!
調理の腕は確かなんだけど、エルフ味に慣れすぎて、どんどん薄味になっていったんだろう。
食べ終わった後に慰めました!
暫くの間、お店を閉めてラバー商会で修行するそうです。
ラバー商会には、人間の従業員も居るので、程々の味付けがされてるし、ディーグリーが昨日持ち込んだ、最新の調味料も揃ってるしね!がんばれー!
あくまで兆し?!




