六日目 午前中
アールスハインに抱っこされ、皆と合流すると、すかさずアンネローゼに捕獲され、揉みくちゃにされている。
スリスリスリスリスリスリされて、そろそろほっぺたから出火しそうです。
見かねた王妃様が俺を取り上げ、文句を言おうとしたアンネローゼを無言で威圧。
そのまま王妃様の抱っこで移動。
プランプランしている足を、双子王子が下からつついてはキャッキャしてる。
可愛いけど、流石に歩き辛かったのか、俺を抱いたまましゃがむ王妃様。
キャーキャー言いながら、王妃様ごと俺にも抱きついてくる。
苦笑して双子王子を撫でる王妃様。
一向に進まないので、フワンと飛んで、助の頭に着地。
肩車しようとして、座ると、目の前が頭。
俺が小さすぎるせいで、上手く肩車にならない。
腹が立ったので、肩に立ち、頭頂付近にある二本の角を両手で持つ。
攻撃にも使われる角だ、幼児に握られるくらい何て事無いだろう。
安定した立ち位置を確保。
それを見ていたイングリードが、笑いながら双子王子を両肩に一人ずつ乗っけると、キャーキャー喜ぶ双子王子。
アンネローゼが不貞腐れていると、アールスハインが近付いて抱っこ。
「な!な、ハイン兄様、わたくし赤ちゃんではありません!」
赤ちゃん抱っこされて、更に剥れるアンネローゼ。
「おひめしゃは、おひめしゃらっこれしょー(お姫様は、お姫様抱っこでしょー)」
俺の言葉に皆が一斉に笑う。
アールスハインがお姫様抱っこに変えると、満更でも無い顔をするアンネローゼに、また笑い、ちびっこの片付いた面々は、歩く速度が上がり、間も無く、王家専用の礼拝堂に到着。
ザ・執事なデュランさんとシェルが、扉を開けると、
「なぜ!どうしてだ!どうして今、神の代替わりなどおこるのだ!」
キャベンディッシュが、牧師さん?的な人に掴みかかっていた。
相手はびくともしてないけど。
「キャベンディッシュ、何をしている!直ぐ様その手を離せ!」
綺麗な教会内部に、王様の怒声が響く。
「ち、ちちうえ!」
不味い所を見られた!とばかりに、後ずさるキャベンディッシュ。
「キャベンディッシュ、自分が何をしたか分かっているのか?」
「わ、私は、その」
「まぁまぁ国王様、それくらいに。キャベンディッシュ王子も、突然の神々の交代劇に、混乱されておいでなのでしょう」
そう言って、王様を宥めたのは、髪も髭も真っ白なのに、ビシッと背筋の伸びた、何か武道の達人!みたいなじいさんだった。
「ギリス枢機卿、しかし……」
「教会も、昨日から大混乱しております。人々が混乱するのも仕方ない事でしょう」
そうね、たった数時間の内に、女神像が粉々になったと思ったら、勝手に新しい像がたてば、そりゃ混乱するよね。
しかも何か、ふざけてるし。
窓から差し込む、美しい朝の光を後光のように立つ、ギャル男神像。
うん、ふざけてるとしか思えないね!
「おんにゃじぽーじゅで、ちょりーしゅゆうべき?(同じポーズで、チョリーッスって言うべき?)」
「止めなさい!余計混乱さすから」
小声で助に聞いたら、怒られた。
「教会の混乱は収まったのですか?」
「まだ落ち着いてはおりませんが、教皇猊下の指揮の元、神の代替わりは速やかに周知される事でしょう。神像と言う奇跡を目の当たりにすれば、すぐ収まります」
穏やかに話すギリス枢機卿は、顔の深い皺も相まって、笑うととても癒し系。
黙ってると、ちょっと怖い感じだけどね。
ギリス枢機卿に促されて、神像の前に。
膝をついて軽く頭を下げ、胸に片手を当てる。
ギリス枢機卿が、何かよく聞き取れない祈りの言葉的なものを唱えて、礼拝終了。
後は、またぞろぞろと帰るだけ。
何故か皆して、食事室の隣の、いつもデザート食ってる部屋に移動。
俺は捕獲されて、アールスハインの膝に。
ザ・執事なデュランさんが、皆にお茶を淹れて、一息ついた所で、
「キャベンディッシュ、理解したか?」
教会の時よりは、大分落ち着いた声で、王様がキャベンディッシュに問う。
場の空気を読んでいるのか、双子王子もおとなしく王妃様に張り付いている。
「……………………はい、父上、先程は取り乱しまして、申し訳ありません。ギリス枢機卿にも、後程謝罪に参ります」
完全には納得してなさそうな、悔しさの滲む顔で、それでも謝罪の言葉が出るだけ、ましなのかもしれない。
王様が頷いたので、そのままキャベンディッシュは部屋を出て行った。
その途端、キャーと雄叫びを上げながら、双子王子が俺に突進してきた。
揉みくちゃにされる俺再び。
今まで、大して絡んで来なかったのに急にどおした?と思ったら、大人組も何だか何時もよりゆったりしてる。
加減の下手な子供達の揉みくちゃが、段々遠慮無くなってきたので、飛んで回避。
キャーキャー言いながら追い回される。
澄ました顔してお茶を飲んでいたアンネローゼも、我慢できずに参戦。
キャッキャとはしゃぐ姿を、大人組が、笑顔で見学。
ーーバタンーー
「ただいま帰りましたわ!」
ババーンと、登場した派手な美女二人。
ビビクッと俺と姫と双子王子。
腰に手を当て、ドドーンと仁王立ちするそっくりな美女二人。
キャーっと走りよって、それぞれに抱き着く双子王子。
「かーしゃまー」
「ねえたまー」
軽々と双子王子を抱き上げて、チュッチュしてる美女二人。
「…………お帰り、二人とも、何の問題も無さそうだな」
「ロクサーヌ母上、モアナ姉上、お帰り!」
「ロクサーヌ様、クレモアナ様、お帰りなさい、ご無事に帰られて良かった」
「ロクサーヌ母上、アナ姉様お帰りなさい」
「ロクサーヌ母様、アナお姉様お帰りなさい!お土産は?」
上から王様、イングリード、王妃様、アールスハイン、アンネローゼの順で挨拶。
次期女王になるために、近隣諸国に挨拶廻りをしていた二人が、今、帰国したらしい。
流石に次期女王様、何か迫力がある。
もう一人の第一王妃様も、何故か左頬に大きな傷があるが、そんなことは何ひとつ気にする素振りすら無く、豪快に笑って、双子王子の片割れをチュッチュしてる。
チュッチュしながら、
「ああ、何の問題も無く予定の国は廻り終えた!」
「お母様、流石に何の問題も無く、とは言えませんわ、後から外交官達の報告もあるのですから」
「?特に問題など無かったろう?多少魔獣が出たが、問題なく蹴散らしたし」
「魔獣の事など言っておりません、二つ隣の小国の王子が、不遜にも、次期女王であるわたくしを嫁にと求婚してきた上に、丁寧に断ったら決闘を申し込んで来て、返り討ちにしたら、怪我をしたから慰謝料を払えなどと言い出し、それを聞いたお母様が大暴れして大変な騒ぎになったではありませんか」
「最終的に、将軍とやらをボコボコにしてやったら、向こうの王が謝ってきて、問題にはならなかっただろう?」
「そう言う問題では無く、お母様は何かと力業で解決しようとする所が、どうかと思いますわ!同行した外交官が泣いてましてよ!その後の国々でも、外交官達が必死に止めているのに、すぐに軍の訓練に乱入しようとしてらして!わたくし恥ずかしくなりましたわ!」
「そ、それは、仕方ないだろう!移動移動で運動不足だったのだ」
非常に脳筋な第一王妃様を、次期女王様が説教している。
皆がそれを苦笑しながら見ている。
双子王子でさえ口出しせずに、おとなしくニコニコして見ているだけ。
通常営業のようです。
第一王妃様が脳筋、第二王妃がヒステリー、第三王妃様がおっとり、って、王様守備範囲広いな!?
これが好みってより、政略結婚てやつなのか?
そんな事を考えながら、ぼんやりと第一王妃様と次期女王様のやり取りを眺めていると、不意にこっちを見た次期女王様と目があった。
次期女王様は、目があった途端、クワッと目を見開き、アールスハインの膝の上にいた俺に、ズンズン近付いて来て、加減はしているが、グワシッと俺を片手で抱き上げた。
もう片手には双子王子の片方ネルロ王子がいるからね。
とても怖いです!かなり怖いです!
「まあまあまあまあ!お父様、いつの間に新しい王子をお作りになったの?これはまた毛色の変わった、でも素晴らしく可愛らしい王子ですこと!新しいお母様は、今どちらに?わたくし早くご挨拶したいわ?」
さっきまで第一王妃様に説教してた声よりも、2トーン位高い声で、王様に詰め寄っている間中、ずっと俺をチュッチュチュッチュしてる。
派手で迫力はあるが、間違いなく美女にチュッチュされるのは、悪い気はしない。
それに反応したのは、第一王妃様、次期女王様に抱っこされたままの俺に近付いて、反対側からチュッチュしだした。
「おお!これは愛らしい!よくやったジュリアス!また家族が増えるな!」
大歓迎されているが、ちょっとチュッチュされ過ぎではないだろうか。
これは、加減の出来るアンネローゼだな。
止めなければ、いつまでも続くやつだ。
なので、フワンと飛んで脱出し、アールスハインの膝に戻ると、唖然とした顔の美女二人。
「あー、二人とも、ケータ殿は新たな王子ではない。その事も話すから、まずは茶でも飲んで、落ち着け」
王様の声に、ザ・執事なデュランさんがすかさず空いてる席にお茶を用意して、二人を誘導する。
おとなしく座って、お茶を一口飲んだ所で、王様が、俺の事、アールスハインの呪いの事、聖女の事、神様の事を簡潔に話していく。
「……………………………はー、わたくし達が居ない間に、大変な事がありましたのね」
「全くだな、聖女が現れたにも関わらず、早々に退場するなど聞いた事も無い、しかも神の代替わりなどと!もう一日早く帰れれば、奇跡の瞬間を見られたものを!惜しかった!」
そう言って、カラカラ笑う第一王妃様。
血は繋がってないのに、イングリードそっくりである。
第二王妃とキャベンディッシュを除く王族は、非常に仲が良いようです。
和やかに談笑していると、今日が休みであることがわかった。
一年は365日で、一月は5週間、一週間は6日、残りの5日は年末年始で、神への感謝祭が行われる。
大体朝6時から夜0時までの間に、3時間おき位に教会で鐘がならされて、それを元に生活が回っている。
教会がどうやって時間を計っているかと言うと、何とこの世界、月が8個も有るそうで、その月に合わせて時間を計っている。
そんな話をアンネローゼが、とても得意気に話すので、俺と双子王子以外は、とても微笑ましげにチビッ子組を見ている。
その中の一人なのが、何か居たたまれない。
その和やかな流れで、昼食もすませ、午後は各々に別れて行動となった。
 




