妖精族の町
誤字報告、感想をありがとうございます!
おはようございます。
天気は快晴。
用がすんだのでドワーフの谷を後にして、只今移動中。
ドワーフの谷の先は荒野、その先は他国なので、一先ず谷を下るルートで空を飛んでおります。
底には赤々と燃えるマグマ、その深い谷の底には火属性の魔物が多く住んでるらしく、マグマが生きているかのように蠢いたり揺れたり跳ねたりしています。
ただし、そこの魔物は狩りません。
その魔物達のお陰で暫くするとマグマが無くなり、谷も浅くなり、湧き水の流れ出る細い川になるからです。
その川の上流に有るのが妖精族の町。
あまり良い思い出の無い妖精族ですが、一度くらいは見ておこうと言うことで、ちょっとだけ立ち寄る事になりました。
街道として一応踏み均されてはいるが、整備はあまりされていない道を通り、妖精族の町の前に。
今まで通ってきた町のような看板もなく、柵もなく見張りもいない町の入り口には、しめ縄みたいな太い縄がグルッと一周町を囲んでる様子。ちょっとだけ困惑して立ってたら、商人らしい旅装束のおじさんが、
「おや珍しい。こんにちは、冒険者の方々が妖精の町に何しにいらしたんで?」
怪しむではなく、心底不思議そうな顔で聞かれた。
「観光と行商です」
ディーグリーが簡単に答えると、
「ほお、わし以外にもこの辺鄙な場所まで、妖精族と商売をしようという物好きがおられましたか!」
「いえ、今回が初めての訪問で、その後も取引をするかは、まだわかりません」
「それは当然ですな。商人たるもの、直に商品になるものを見極める目を持ちませんと!」
「まだ修行中ですけどね~」
「いやいや、そのお歳で自ら行商に出ておられるのは、中々の心構え。最近の若者は、いかに楽をして稼ぐかしか考えておらん!まことに嘆かわしい!」
「はは、楽をしたい気持ちはありますが、今の所は旅をするのが楽しいですから~」
「ああ、いや失礼。申し遅れたが、わしは獣族を中心に、ドワーフ、エルフ、たまに妖精族を廻る行商人の、ケレントと申します」
行商札を見せながら挨拶してくれるケレントさん。
「丁寧にありがとうございます。私はラバー商会から行商に出ているグリーと申します」
年配の先輩行商人なので、ディーグリーも何時もより丁寧に挨拶。
ラバー商会の紋の入った行商札を見せれば、とても驚いた顔をされた。
「おお!そのお歳でラバー商会の行商札をお持ちとは!お見逸れいたしました!」
「いやいや、子供の頃から手伝いをしていたコネがあっただけですから~」
「それでも、支援ではなく商会紋が入った行商札をお持ちとは!素晴らしい才能をお持ちのようだ!」
「いやいや、運とタイミングが良かっただけですよ~」
「いやいやなかなか、お連れの冒険者方も、お若いのに只者では無い雰囲気。その方々をお供にされるのですから、既に一人前以上の能力はお持ちのようだ!」
「彼等はお供ではなく友人です。旅をするのが目的なので、共に行動していますが、私自身冒険者としても活動してますよ!」
「それはそれは、失礼しました!お詫びに、妖精族の町への入り方をお教えしましょう」
「?普通に入ることは出来ないんですか?」
「妖精族は、基本的に他の種族とあまり交流を持とうとはしません。エルフとはたまに魔力のやり取りのために交流しますが、獣族や人間族とは積極的に関わろうとはしないのです」
「では、いきなり行っても追い返されてしまうって事ですか?」
「いえ、そもそも町に入れません。一度でも妖精族と関わりを持った事があれば、町に入る事くらいは出来るでしょうが」
「ああ、それなら………」
「おお!妖精族とも関わりが有るのですか?!」
「あまり良い関わりではないですけどね」
「敵対していなければ、町に入る事は出来るでしょう。その後に商談が出来るかはまた別ですがね」
「まあ、目的の商品が有るわけでもないので、町の様子を見られれば、観光の目的は果たせますから~!」
「その様に気楽に考えておられるなら、問題は無いでしょうな!」
「妖精の町での注意事項等はありますか?」
「そうですな、当たり前の事として、妖精族がいかに可愛らしくても、町の外へ連れ出してはいけません!たまに子供の妖精族がポケット等に紛れていることがあるので、それは重々ご注意下さい!見付かれば総攻撃を受けますので!他には、妖精族特有の植物等も持ち出しは禁止です。族長殿の許可でもない限りは、妖精族の町を出た途端萎れて毒になります!後は………………」
延々続く注意事項。
妖精族はどんだけ他種族を信用していないのか、やたら注意事項が多い。
しかもそれだけの注意事項を設けておいて、入れるのは町のほんの一部だけだとか。
そんなんだから、他種族に迷惑掛けても謝る事も出来ないんだな、と納得。
族長のお爺ちゃんは、相当苦労してそうだ。
そしてやっと入れた妖精族の町。
ケレントさんがなにやら呪文のようなのを唱えると、それまでただの道だった場所の横に、扉が現れ、その扉を開くと妖精族の町だった。
前回森で幻術に掛かった時も思ったんだけど、幻獣族は場所に向かって幻術を掛けるが、妖精族は他種族と言う人に向かって幻術を掛けてる様子。
直接自分に向かって掛けられる幻術は、なかなか見破れなくて困る。
妖精族の町に入ったは良いものの、十畳くらいの広さに区切られたその場所は、周りを木々で覆われ景色等は一切見えず、大きなテーブルがあるだけの場所で、ケレントさんはそこに荷物を次々に並べ、金額を書いた紙と何かの植物の名前らしいものを書いた紙を置いて、テーブルから離れた場所にある椅子に座った。
「ええと、ケレントさん、何をなさっているんですか?」
「ああ、これが妖精族との取引のやり方なんです。こちらの希望する植物を書き、前回訪問した時に希望された商品を届ける。暫く待つと担当の妖精が来て、金額と照らし合わせて植物を置いていってくれるんです」
「……………それは、妖精族に取って有利に過ぎる交渉では?」
「ほとんどの植物はエルフの町でも買える物なので、それ程法外な金額は取られませんし、妖精族特有の植物は、多少高くても需要は有りますから」
「それでも一切町に入れない、と言うのはどうなんですか?」
「グリー殿、確かに徒党を組んで無理に押し入る事は可能ですが、それをすれば、妖精族は決定的に人間族を嫌悪するようになるでしょう。そうなっては取引どころの話ではなくなります。妖精族にしか栽培できない植物がある、それをこちらが必要としている限りは、無茶なことはなさらない方が賢明とは思いませんか?」
「…………………確かにそういう考え方もあるのかもしれませんが、この扱いはあまりに信用されていないように感じます。商売には信用が第一と教えられて育った私には、納得しかねますね」
「だからと言って、無理に押し入る事は控えて頂きたい。これは長年掛けて我々が築いてきた関係なのですから!」
「ええ、そこはわかっています。ただ、私が妖精族と交渉するのは自由ですよね?」
「……………それは好きになされば良い。まあ、無理だと思いますがね!」
ちょっと空気が悪くなったけど、ケレントさんも了承したので話は終わり。
間も無く小さな姿が木々の間から出てきて、無言のままケレントさんの置いた荷物を確認し出した。
確認が終わると、妖精は小さな笛を出し、ピーーーーっと甲高い音で何かを呼んだ様子。
次に現れたのは体毛が緑の狐。
次々に荷物を背中の籠に乗せて運び出して行く。
それが済むと、今度は白い狸が現れ、束になった植物をテーブルに置いていく。
それは持ってきた商品とは釣り合わないような少量の植物。
「今回は少々量が足りないように見えますが?」
ケレントさんが聞けば、
「今回はこれだけだ!」
「ならば先程の荷物を幾らか返して頂かなくては、割に合いませんね」
「そんなことは知らん!我々は献上された物を受け取って、施しをしているだけだ!文句があるならもう来るな!」
「そんな!それでは話が違います!それにこれは献上品等ではなく、商取引の対価です!我々は施しを受けに来たのではない!その様な事を仰るのなら、先程の品物は全て返して下さい!取引は中止させて頂く!」
「うるさいうるさいうるさい!貰った物は返さん!これもいらないのならやらん!これ以上騒ぐなら、攻撃するからな!」
「流石にそれは聞き捨てならないな~、今までは一応とは言え、取引出来てたのに、一方的に関係を切るってなら、こっちにも反撃する権利はあるよね~?」
「なんだお前は!関係ない奴は出てくるな!」
「俺も商人です~、関係有ります~!」
「妖精族は人間となんか取引しない!帰れ!」
「一方的に品物盗んどいて、帰れって、妖精族は犯罪者集団にでもなるの?」
「ふざけるな!妖精族は精霊族に次ぐ、高位なる魂を持った一族だぞ!人間族の決まりごと等、妖精族が聞く意味等無い!」
「この国に守られて生き残った少数民族に違いはないだろう?それを人間族風情、ねえ?妖精族はまた過去のように狩り尽くされたいってわけ~?」
ディーグリーの声がいつになく低い。
背中から怒りのオーラが出ているよう。
普段怒らない分、ユーグラムよりも更に怖い感じになってます!
ケレントさんは、怒るディーグリーに口を挟めなくなってる。
でもそれに全く気付いてない妖精は、
「黙れ!人間の分際で!妖精族を狩り尽くす?ハッ!出来るわけが無いだろう!我々は膨大な魔力を自在に操る種族だぞ!指一本触れる事も出来ずにお前達等消し炭にしてやる!」
魔力をその小さな掌に集め出す妖精。
実力行使に出る様子。
「はきゅほきゃく!(ハク捕獲!)」
俺の命令を速やかに実行したハクは、ユーグラムのポケットから触手だけ出して、妖精をぐるぐる巻きにした。
モガーーーーーーー!と叫んでいる妖精。
指示待ちで待機してた白い狸に、
「じょくちょー、よんでちて!(族長呼んできて!)」
と言ったら、無言で走り去っていった。
妖精が更に、ムガーーーーー!って叫んでた。
ケレントさんは何故か部屋の隅で青い顔してた。




