まだ、おっさん
ハッと我に返る。
相変わらず雲に埋まった状況。
何の変化も無いもんで、経緯を振り返るどころか、人生を振り返ってしまった。
死んだ現実を思い出したことで、
「成る程、今のが走馬灯と言うヤツか」
と納得。
長々と思い出したが、我ながら、平凡な人生だった。
最後の半年がクソだが、他は、特筆することの無い凡庸な人生。
一度くらいは結婚もしてみたかったが、後に残す未練がないと納得しよう。
ボンヤリと、とりとめもなく考えていると、視界の端に何かが映る。
そちらを見てみると、ギャル男がいた。
チャラ男と何が違うのかは、知らないが、ギャル男。
天然ぽい白髪の、目の眩むようなイケメンなのにギャル男。
着ているのは、一枚布の袖無しワンピースのような服だがギャル男。
色黒で、盛り盛りの髪型をした、肩が凝りそうな程にアクセサリーをジャランジャランさせるギャル男。
ギャル男は、俺から5メートル程先で止まり、雲の様子を確かめると、
「あんのクソバカダ女神!性懲りもなくまたやりやがってー!!今度と言う今度は、ぜってー許さねーかんな!!!」
吠えた。
ギャル男の怒りに反応したのか、そこら中の雲が、一斉に暗い色に変わり、すぐ近くに、雷が何度も落ちる。
「ぎゃーっ!!」
痛みは感じないがビリビリと痺れた驚きと、すぐ近くに落ちた雷に思わず叫ぶ。
「ええ?!」
俺の叫び声で、やっと俺の存在に気付いたギャル男が、不思議そうに近づいてきた。
「?ねー、貴方なんでそんなとこに埋まってんの?」
「それは、こちらが聞きたいです。死んだと思ったら、ここに埋まってたので。 ここはあの世じゃないんですか?」
「?んう?あの世?ん?んー、えーと、ちょっと待ってください」
言葉は通じるのに、話が通じない。
ギャル男は、暫くその辺を歩き、上を見て、下を見て、周りを見て、上に手をかざして、何やらブツブツ唱え、
「うわっ、あのクソバカダ女神!とうとうやらかしやがった!あれだけ言ったのに!!クソクソバカー!!」
叫んだ。
取り敢えず、叫んで落ち着いたのか、俺の前に戻ってきて、
「えーと、私達の管轄する区域に、クソバカダ女神と言うどーしょーもない女神がおりまして、このクソバカダ女神、貴方の元いた世界の、乙女ゲームなるものに嵌まったらしく、それをリアルに見たいが為に、自分の管轄する世界を、好き勝手に弄り出したんで」
「ちょ、ちょっと待って下さい、女神、管轄、世界……」
「あぁそうそう、ここは貴方の元いた世界とは別の神の世界で、私も神です」
俺の目の前に正座するギャル男は、神様らしいですよ。
話し方はギャル男ではないのに、なぜこの見た目なのか、疑問が尽きない。
「えー、続けますと、ええ、クソバカダ女神は、最初は自分の世界の人族を使って遊んでいたんですが、その内、更なる願望を叶える為に、異世界の死亡した魂を召喚する、と言う暴挙に出まして、今回で三度目なんですが、異なる世界と世界を繋ぐと言うのは、本来、とてもとっても危険な行為なんです!にも拘らず、あのクソバカダ女神は!自分の行為のもたらす危険をまるで分かってなーい!!」
説明しながらクソバカダ女神への怒りが再燃したのか、雲の地面をダスダス叩く。埋まってる俺にも響くので止めてほしい。
「あ、あー失礼。それでですね、簡単に言ってしまうと、貴方は巻き込まれました。本来やってはいけない事を、何度も繰り返したため、世界に穴が開いてしまい、クソバカダ女神が召還したかった少女と共に、貴方も巻き込まれてこちらの世界に来てしまったんですね」
「異世界、巻き込まれ、世界の穴…」
スケールの大きさについていけない。
しかもそれが、クソバカダ女神の趣味の為って。
「これから俺はどうなりますか?それと、俺の元いた世界は無事ですか?」
「それは今の所、心配要りません。繋がっているのは、神と神の世界なので、すぐにどうにかなる事はありません」
その言葉にひとまず安心した。
弟妹や甥っ子達は無事らしい。
「それでですね、貴方の今後についてですが、貴方には、証拠になっていただきます」
「証拠?自分の状況も把握出来てないのに?」
「ああ、それは心配無いです。貴方がいてくれるだけで証拠になりますから。今回で三度目の召喚ですが、前二回の時は、クソバカダ女神の言う乙女ゲームなるものが、終了し、召喚された少女が完全に世界に馴染んでしまった後になって、召喚されたことに気付いたので、証拠がないんです」
「何かなかったんですか?世界に穴が開くような大変な事が起きて、誰も気付かないとかあるんですか?」
「それがですね、怪しい点は幾つか有るのですが、それを指摘しても、惚ける躱す、しらばっくれる!おまけにあのクソバカダ女神は、愛想だけは良いので、上級神に取り入って、誤魔化すしで、さいっっっっあくなんですよ!それが、今回は、貴方と言う証拠が!ありがとうございます!!これであのクソバカダ女神を断罪できる!フハッハッハアーハッハッハッハー」
爆笑するギャル男神、相当溜まっていたようです。
「それで俺は?」
「フハッ?そ、そうですね、貴方には、生まれ変わっていただきます。このままここに留まれば、貴方の魂は異物として消滅してしまいます。クソバカダ女神に巻き込まれたとは言え、こちらに来てしまった以上、魂を無意味に消滅させる事など神として許されない事ですからね」
「生まれ変わるとは、新しい命として?それとも何かに乗り移る的な?今ある記憶はリセットされますか?」
「いえいえいえ!記憶は持っておいてください!リセットなどしたら、証拠になりません!記憶のリセットとは、記憶の洗浄でもあるのです、そんな事をしたら、この世界の魂としてカウントされてしまうので、この世界の魂と見分けがつかなくなります!!貴方は貴方のままで生まれ変わっていただきます!体の方は、私が作っておきますので、心配ありません」
「あ、あぁそうですか、まぁ元の世界に戻れたとしても、死んじゃった事は取り消せないだろうし、特に何か使命とかやるべき事とかは無いですよね?」
「ありません!あるとすれば、寿命を全うすることですかね」
「なら、生まれ変わります」
「ありがとうございます!それでは、体の方は、この神の世界を抜ければ、自動で貴方の体と結び付くようにしてありますので、ご迷惑をお掛けした分、普通の人族よりも頑丈にしときますんで。存分にこの世界をお楽しみ下さい。それと…」
「どぅうぇえええええええ!!!」
ギャル男神の言葉を遮るように、上から声が降ってきた。
驚いて見上げたギャル男神と俺、降ってきたのは男で、俺の知ってる奴に見えた。
が、確認する間もなく男は俺に突っ込んで、俺諸共に雲を突き抜けた。
ドゥリュゥンと雲を抜け、着いたのは、また雲の上。
折り重なって落ちたが、幸い雲の上なので痛みはなく、離れてから確認すると、やはり落ちてきた男は、俺のよく知る男、三栗谷助だった。
お互いに驚き声もなく見つめあっていると、
「ちょっとー!あんた達どっから入って来てんのよ!何勝手に入って来てんのよ!誰の許可で入って来てんのよー!!」
と、キンキン声で怒鳴られた。
見ると、長い白髪をおさげにし、前見えてんの?と聞きたくなるような分厚いレンズの眼鏡の、袖無しワンピースを着た女がいた。
卓袱台に、煎餅片手に、茶を飲みながら。
輪郭やスタイルは綺麗なのに、物凄い残念臭のする女だった。
「BLぶったってダメなんだからね!モブ顔のBLなんてぜっんぜん萌えないんだから!BLだって、乙ゲーだって美形がやるから意味あんのよ!見てて楽しいのよ!あんた達みたいなモブさっさと出て行きなさいよ!モブがこっち見んな!!」
一方的に叫び散らし、茶を置いた女は、俺達に向かって、手を払う仕草をした。
俺達は、見えない何かの力に吹き飛ばされた。
再び雲を抜けた先は、空。
ヤバいと焦る俺達の下に、突如現れる白い穴。
抵抗する間もなく落ちる。
何も見えない穴の中、途中助が弾かれたのがなぜか分かったが、その後すぐに意識を失って助けられなかった。