こらっ!妖精族こらっ!
誤字報告、ブクマ、評価をありがとうございます!
知ってるか?光太、子供の頃、兄弟の中で一番の虫取名人だった三男光太。
蝉も蝶もトンボも、飛んでるのを素手で捕まえてた光太。
異世界の蝉は黒い靄を纏って、鼓膜にダイレクトアタックな鳴き声をあげ、酸のおしっこで攻撃してくる恐ろしい生き物なんだぞ!
流石の光太でもあれに素手で挑むのは無理そうだよ!
大丈夫、兄ちゃんには反撃バリアがあるので、逆に自分の酸で溶けると言う、とてもグロい事になってるけど、兄ちゃんは無傷だ。
こんにちは。
今日の天気は晴れです。
只今絶賛迷走中です。
大型猿人町を出てから二週間。
最初は普通に街道を歩き、前回の反省を生かして、ボードで飛ぶ時も街道を見失わないように注意してました!
してた、筈なんだけどね~?
何故か突然街道を見失って、森の巨木に全員で突っ込んでました。
そして今日で二週間、絶賛迷子中。
たぶん、森の中を進んではいる。
微妙過ぎて分かりにくいけど、植生が変わってきてるし、出てくる虫の魔物の種類にも変化がみられる。
大型の魔物は出てこないけど、鳥とか虫とかの魔物はワサワサ出てくる。
ユーグラムが、フフフフフってしながら鉄壁のバリアの中に引きこもってるし!
上空に上がって周りを見ても、森森森森森、森が延々と続いてる。
これは明らかに異常事態と思い、一旦進むのを止めて、全員で会議。
かなりの上空に上がっても森しか見えないとは、現実的にあり得ないので、これは何らかの幻術にでも掛かっている疑い。
これまで何度もその可能性を疑ったけど、聖獣である俺に見破れない幻術って有るだろうか?となって、取り敢えず進めるだけ進むって方針でここまで来た。
でも流石に手詰まりになってきたので、今度は籠城作戦。
たぶん、幻術を掛けてる奴は、こっちを見張ってる筈。
微妙に植生や魔物変わってたりするのは、想定外に進んでる俺達に、新たに幻術を掛けているからだと予想。
なので、このまま最速のスピードで幻術の範囲外に出る作戦もあるけど、犯人を見付けられないのも癪に障るので、テントに籠って犯人自ら出てくるのを待ちます。
幸い食料は有り余る程持っているので!
その辺の町よりも断然快適なテント生活五日目。
昼食の用意をしていた俺と助とディーグリー。
今日のメニューは親子丼。
後はキュウリの浅漬けと根菜の味噌汁と、ナスの煮浸し。
匂いは敢えてテントの外にも届くように!
うまうまと美味しく食べている最中、テントのバリアに何かが触れる感覚。
俺の手が止まったのを見て、皆も警戒態勢に入る。
そして本日も絶好調のハクさんが、誰よりも早く気配を消して、テントの中を窺っているものを捕獲。
「キャーー!助けてーーー!!」
聞こえてきたのは女の子の声。
テントの外に出てみれば、ハクの触手に捕獲された、小さい何か。
近寄ってよくよく見れば、虫の羽を生やした、十五センチくらいの、葉っぱで作ったような衣装の女の子。
「あー、この子って妖精じゃん!」
「と言うことは、ここは妖精の森ですか?その割には境界線は見当たりませんでしたが?」
「大型猿人町でも、近くに妖精の森があるとは言ってなかったな?」
「そもそも、間違って入れないように、妖精の森ってのは境界線をはっきりしとくもんだろう?俺達全員が気付かず通り過ぎるってことは無いだろう?」
それぞれに思案しながら話していれば、
「キャーーー!妖精殺しーー!おかされるーー!助けてーーー!!」
物凄い叫んでる妖精がとても五月蝿い。
あまりの五月蝿さに、ハクさんが口を塞いでる。
大丈夫、呼吸は出来てる!はず。
やっとおとなしくなった妖精。
しかし、散々叫んだ声を聞き付けた他の妖精が現れた。
わらわらと出てきた二十程の妖精が、全員臨戦態勢。
しかし、一度に襲ってくる訳ではなく、中でも年配なのだろう長い髪と髭のせいで顔のほとんどが見えない妖精が、
「人間よ、何故我々の森に許可もなく入り、妖精を捕らえた?事と次第によっては、我々の総力を持ってそなた達を亡き者にするが、覚悟は良いか?」
とても物騒な事を仰る。
「我々に妖精の森に入る意思は無かった。しかし妖精族の境界を知らせる印も無く、突然幻術に掛けられ、三週間もの間森を彷徨わされた。先程やっと我々に幻術を掛けた犯人を捕らえたところだ」
「嘘よ!うそうそー!私だけが幻術掛けてたんじゃないものー!何で私だけ!」
ハクの触手から口許だけ抜け出した妖精族の女の子が叫ぶ。
「…………何故その者と断定する?魔物の幻術の可能性も考えられるだろう?」
「姿は見えず、捕らえられもしなかったが、このラニアンがこいつの匂いを覚えている」
「そのような子犬に頼るなど、人間とは浅はかな生き物だ」
「この子が、ただの子犬と判断するとは、妖精族も落ちたものだ」
受け答えするアールスハインの声に、棘が混じる。
「貴様、我々妖精族を愚弄するか!?我々妖精族の里には、時折とは言え聖獣様も降臨為さるのだぞ!人間ごときが、易々と入って良い土地では無いのだ!」
激オコである。
聖獣、ここに二匹も居るのに。
そして、ただの子犬扱いされたラニアンも激オコである。
可愛い顔なのに、歯を剥き出して、毛を逆立てて全身で威嚇している。
子犬に見えても実は聖獣なので、魔力がビリビリ渦巻くようにラニアンに集まっていく。
それを理解できない現象として、妖精族のお年寄りは、
「貴様!我々と戦うつもりか?!なんだその魔力は?!」
とか言ってる。
見た目は可愛いポメラニアンなので、完全に嘗められている様子。
ラニアンを馬鹿にされて、ソラとハクとプラムも怒り出した。
妖獣って、妖精族を守る存在じゃなかったっけ?
自分達を守ってくれる生き物の見分けもつかないって、大丈夫?と激しく疑問。
そのせいで、怒るタイミングを逃してる俺です。
さて、この収拾をどうつけよう?と考えていたら、上空から巨大な魔力が!
『おお、我が子よ!それ程時を経たずして、これ程大きくなるとは!』
乱入してきた巨大な影に全員がポカーン顔。
ラニアンだけが怒りがふっ飛び、大はしゃぎ。
現れたのはラニアンママ。
フェンリルと呼ばれる聖獣。
聖域で療養中じゃなかったの?
『おお、そこにおるは小さき聖獣!よくぞ我が子をここまで育ててくれた!そして、よくぞ我の元へ連れてきてくれた!感謝するぞ!』
テンション高く、ラニアンに高速スリスリ&ベロンベロンするラニアンママ。
唖然とする妖精族。
ちょっと面白そうな顔してるこっちのメンバー。
親子でイチャイチャしてるのを呆然と見ていた妖精族のお年寄りが、ハッと我に返って、土下座しながら、
「せ、せ、せ、せい、聖獣様の御光臨をお喜び申し上げます!よくぞ我々の妖精の森にお越し下さいました!一族総出で歓迎の用意をさせて頂きます!」
慌ててカミカミの口上を述べるお年寄りの後ろには、やはり慌てて土下座体勢になる妖精族。
態度違いすぎない?俺って一応聖獣の端くれの筈ですけど?
なんだか納得いかないでいると、ラニアンも何か思う所があったのか、思い出したように妖精達に威嚇をし出した。
『おう、どうした我が子よ?何をそんなに怒りを露にしておる?なんぞこの妖精共がお前を不快にしたのか?』
「キャン!グーーワンワン!ワン!グーー!!」
懸命に吠えるラニアンの言葉は俺には分からないけど、ママには通じた模様。
『なんだと?木っ端妖精の分際で、我が子と我が友を愚弄し、卑劣な罠に落としたと?それは見過ごせぬな!このような木っ端妖精の里等要らぬな!我の力を持って更地にしてくれよう!』
「キャンキャン!ク~ン、キャン」
言ってることは分からないけど、ラニアンたらママを完全に煽ってる!
ママすご~い!とか絶対言ってる!
「お、お、お、恐れ多くも我々は聖獣様を害する心など微塵も持ってはおりませぬ!何やら不幸な行き違いがありましたようで!ど、ど、どおかお怒りをお納め下さり、我々の事情もお聞き頂ければ!どうぞ!お願い申し上げます!」
地面に頭をめり込ませるように土下座するお年寄り。
その後ろの妖精達も土下座してる。
とても神妙な態度だけど、さっきと違いすぎない?
さっきまで子犬呼ばわりで完全に嘗めてたラニアンにも、キラキラした目を向けてるし。
嫌な気分になるのは仕方無いと思うの。
その時、空気を読まずに、クゥ~と可愛らしい音がした。
何の音か分からなくて周りを見たら、プラムが自分の腹を撫でていた。
そう言えば昼御飯が途中だったね。
なので、必死の妖精族は放っておいて、テントに戻って昼御飯の続き。
普通にラニアンママも付いてきた。
ラニアンと一緒ならラニアンママも入れるので、テントのリビングスペースで寛ぎだした。
微妙に体を縮めているし。
人をダメにする感じのクッションが気に入った様子。
ご飯はいらないそうです。
ゆっくりとご飯を食って、お茶を飲みながら寛いでいる。
その間、食ってる途中からずっと、テントのバリアに複数の妖精達がぶつかる感覚を感じていたが無視。
ラニアンも久しぶりにママに甘え倒しているので、もう少しゆっくりする。
そしてそろそろ外の騒音に耐えられなくなってきたので、テントの外に出てみれば、妖精達が五体投地で泣き喚いていた。
体は小さいくせに、凄く五月蝿い。
号泣しながらの聞き取り辛い言葉を要約すると、妖精族の森と呼ばれる場所に住んでいた妖精達は、町を治める大妖精が喧嘩をしたことで、妖精族が二分され、日に日に里は険悪な空気になり、年若い大妖精が突然里を出る決意をして、付いてきた妖精達と、新たな森を自分達の新たな妖精の森と定め里を作った。
そこに俺達が不法侵入してきたので、排除しようと妖精総出で幻術に掛けたそうだ。
「……………そもそもの間違いは、勝手に森を占拠して里を作ったこと。里を作るにしても、一番最初に作るべき境界線の印を作らなかったこと。お前達は獣族の取り決めを軽視しすぎている。これはただの妖精族の問題だけでは収まらんぞ?それを分かっているのか?」
「人間との決め事など我々は知らぬ!偉そうに物を言いおって!何様のつもりだ!」
『愚かな妖精だの、人間族に庇護されているからこそ、平和に暮らしていけているのであろうに、それも理解せず、人間族と下に見て、魔力の質を見る目も失っておる』
ちなみにラニアンママの声は、ちゃんと他の人にも聞こえるように魔力を込めてくれてます!
じゃないと話にならないからね!
ラニアンママの言葉は納得いかないけど、逆らうのも怖いって顔でグヌグヌしてる妖精達。
『まずはその大妖精とやらの所に案内せよ。何の理由が有っても、我が子を不快にさせた責任を取ってもらわねばな!』
逆らえない妖精達は、大妖精に丸投げすることを決めたのか、シズシズと先導していく。
当然のように付いていく俺達を、凄い目で睨んでるけど!




