大型猿人町 2
いつもいつも、誤字報告ありがとうございます。
未だに前半部分のご指摘も頂いたり、キリのない作業ですが、大変有り難く思ってます!
頑張ります!
おはようございます。
今日の天気も快晴です。
頭がモソモソして起きました。
プラムが寝ぼけているのかと頭上を見れば、チンパンジー獣人の子供が、俺の頭で蚤取りしてました。
俺の頭に蚤は居ませんよ!
俺と目の合ったチンパンジー獣人の子供は、
「ウキャーーー」
と吠えて窓から飛び出して行きました。
俺のマジックバッグを背負って。
チンパンジー獣人の子供の声で、他の皆も起こされました。
「何があった?」
寝癖のついた頭のままアールスハインが聞いてきて、
「のみとりしゃれてー、ばっくーにしゅまれたー(蚤取りされて、バッグ盗まれた)」
「ええ!?ヤバいじゃん!ケータちゃんのバッグって、入ってる物もヤバいし、バッグ自体もヤバいじゃん!取り返さないと!」
爆発頭のディーグリーが、慌てて窓から追おうとするが、
「いや、ケータのマジックバッグは、ケータにしか使えないから危険は無い」
アールスハインの言葉に、一先ず窓枠から足を下ろしたディーグリー。
ほとんど思い出さないけど、俺の前世からの持ち越しのリュックは、神様製のマジックバッグに魔改造されたので、他人には入れる事は出来ても、出すことは出来ないし、時間経過も無く、前世からの食品は勝手に補充され、そして盗まれても勝手に返ってくる、と言うあり得ないチート仕様なのだ。
これはたぶん、勝手に次元に穴を空けて、異世界から人を拐ってきたお詫びの意味も有って、ついでに、この世界に早々に順応しちゃった助と、元聖女に振り分ける予定だったチート能力を、諸々の事情で俺にしか付けられなかったので、バッグの性能もおかしな事になってるんだと思う。
で、盗まれたバッグがどうやって返ってくるかと言うと、俺から一定距離離れると一瞬で転移、とかでは無く、伸びたゴムが縮む様にビヨ~ンと返ってくる。
そう、バッグを背負った犯人ごと返ってくる。
「ムキキーーギュアーーー!!」
耳障りな叫び声と共に、後ろ向きに引っ張られながら、チンパンジー獣人の子供が窓から飛んできた。
俺を目掛けて飛んでくるバッグ、チンパンジーごと。
ぶつかる寸前にサッと避ける。
寸前に避けるのがコツです!
あまり早く避けると、マジックバッグが軌道を変えるんですよ!
チート能力間違ってない?!
ゴヅンッと壁に激突して気絶するチンパンジー獣人の子供。
皆して覗き込んでる所に、朝食を運んで来てくれた、ゴリラ獣人のおばさんが、
「な、あんた達!その子に何してんだい!いくら他所から来た客だって、こんな小さい子に暴力振るうなんて、許される事じゃないよ!兵士に通報するからね!」
一方的に叫んで出ていってしまった。
チンパンジー獣人の子供残したままなんですけど?
普通、被害者と思われる子供は連れて行かない?
ゴリラ獣人おばさん慌てすぎじゃない?
そして間も無く駆けつける兵士達。
その手に持ってるのは、木で出来たサスマタ。
俺達は、取り敢えず無抵抗を示す為に、両手を上げて気絶する子供とは反対側の壁際に。
流石に兵士さん達は落ち着いているので、一方的に無いこと無いこと捏造するゴリラおばさんの話より、俺達の状況を見ている。
ゴリラおばさんの話では、俺達は隣国から来た奴隷商人らしいよ?
「何があった?」
駆けつけた兵士さんの中でも、一際落ち着いた雰囲気のオランウータン獣人が、意外と高い声で聞いてきた。
「俺達が起きた時には、部屋にその子が居て、ケータちゃんのバッグを盗んで窓から飛び出して行きました」
「ならば何故この子は気絶している?」
「ケータちゃんのバッグは、特別な魔道具で、ケータちゃんから一定距離離れると、自動で戻る仕掛けが有るんです。で、その子が背負ったままバッグが戻って来ちゃったもんだから、壁に激突して気絶しました。俺達は、指一本その子に触れていません」
「……………………検証の為、そのバッグを貸してもらえるか?貴重な品は出しても構わない」
説明してたディーグリーが俺を見るので、
「どーじょー」
と了承すれば、チンパンジー獣人の子供からバッグを取って、一人足の早そうなマンドリル?獣人に渡して、走るマンドリル獣人。
だいたい二十メートルくらい離れた所で止まり、後はビヨ~ンと戻ってくる。
結構な勢いだったけど、戻ってくるのが分かっていれば、何とか無事に着地できた。
「……………………成る程。信じられん性能だが、事実のようだ。ならばこの子は犯人と言う事だな?」
「いたずらのつもりだったのかも知れませんけどね~?」
「いや、宿に泊まっている客の物を盗めば、ただの窃盗よりも罪は重い。この場合は完全に親の責任だ」
「あ~、俺達は、この町の法に従います。ただ、荷物は無事戻ってるので、あまり重い罪には問わないであげて下さい」
「ああ、その辺はこちらに任せて欲しい。騒がせて悪かった」
「いえいえ~、冷静に状況を見て下さって、ありがとうございます~」
ディーグリーが皮肉を込めて言えば、兵士さんはゴリラおばさんを見て、
「その辺も任せてくれ」
と、ゴリラおばさんと、チンパンジー子供を連れて去っていった。
「朝から酷いトラブルに巻き込まれましたね」
「兵士さんが冷静で良かったよね~!」
「ホントにな!おばさんの話を鵜呑みにして、逮捕でもされちゃー大変なことになってたな!」
「話す度に、ドンドン凶悪犯になってたな」
「あれは酷かったね~!」
一種の笑い話としては面白いのかも知れない。
ゴリラおばさんが持ってきて、放り投げっぱなしの果物を、籠に入れ直して部屋の隅に置き、自前の朝食を食べる。
茹でた芋にマヨネーズとキュウリ、ニンジン、玉ねぎを入れて混ぜたポテサラと、鳥ハムを挟んだサンドイッチ。
朝からボリューム満点。
食べ終わったら、顔を洗って町の散策。
町を歩きながら見て回っていると、なんだかそこら中でヒソヒソされてる。
そして頭上を飛び回っている子供達から木の実を投げられる。
全部バリアに弾かれて、一個も当たってないけど!
これはあれだね、ゴリラおばさんの声が、想定外に大きかったってことだね!
あまりに感じ悪い冤罪なので、町を守る兵団の詰め所に向かう。
詰め所に入った途端、ギロリと音がしそうな程、詰め所中の視線がこっちに向かってきた。
何だろうかこれは?
こっちは窃盗の被害者なんですけど?!
「噂のご本人達の登場とは、で?自首でもしに来たか?」
睨みながらニヤニヤする、と言う器用な表情のマントヒヒ獣人。
「こっちは窃盗の被害者なんだが、その態度は何だ?大型猿人町では、まともな捜査も出来ず、被害者は被害にあった間抜けとして、町中で笑い者にするのが常識なのか?」
アールスハインの何時に無い挑発的な物言いに、
「あ~、じゃあこの町じゃ~、まともな商売は出来そうもないね~?ラバー商会にもそう報告しなきゃね~」
「人道にもとる行為が、公然と行われているのなら、教会も手を引くでしょうね?」
ディーグリーとユーグラムも続く。
チラッと助を見れば、首を振られた。
(騎士団になら、多少顔は利くんじゃね?)
(いやいやいや~、ここって騎士団あんま関係ねーし!)
そっと目で会話をしていると、
「ああん?誘拐犯がでかい面して町を歩いてりゃ~攻撃されても文句言えねーだろ?」
「そんな事実はどこにも無いのに?」
「今は、証拠が揃わねーだけだ!この町から出られると思うなよ!」
話が全く通じてない。
完全にこっちを犯人と決めつけて、今にも飛び掛かって来そうな程、全員が身構えている。
「隊長を呼んでもらおうか」
「何で犯罪者の為に、隊長を呼ばなきゃなんねー?」
「お前では話が通じないからだ」
「何だとテメー!!」
ますますヒートアップする兵士達。
「さっさと隊長を呼べ、と言っている。頭だけじゃなく、耳も悪いのか?」
「上等だこらー!!」
一気に飛び掛かってくる兵士達。
そして全員一度に反撃される兵士達。
俺のバリアに。
何が起こったのか理解できずに、立ち上がり警戒する兵士達。
「これは何事だ?」
ちょっと高めの声が響いた。
「「「「「お疲れ様です」」」」」
兵士達が一斉に頭を下げて挨拶をする。
「俺は、何事だと聞いている」
「この犯罪者達が、兵舎に殴り込みに来ました!」
事実無根である。
高めの声の主は、先程宿であった兵士で、俺達が無実だと知っている人物。
「先程会ってからそれ程時間はたっていないが、その間に犯罪を犯したのかね?」
「いいえ。我々は犯罪の被害者にも関わらず、町全体から疑いの目を向けられ、子供達からは、木の実を投げつけられました。なので、どのような捜査が行われ、結果がどうなったかの確認に来た所、こちらの方々は、完全に我々を犯人扱いして攻撃してきたので、反撃しました」
「それは事実か?」
俺達にではなく、兵士達に確認する高めの声の主。
ビクッとした後、俺達の対応していた奴が、
「こいつ等は誘拐犯でしょう?何で捕まえちゃいけねーんです?!」
「彼等は窃盗の被害者だが、誰が誘拐犯等と言いふらした?」
「え?いや、町中で噂になってるし、子供らも木の実投げてるし……」
最後の方はゴニョゴニョ言ってるだけになった。
「つまり、お前達は町での噂を鵜呑みにして、無実の人物に罪を着せようとした、と?その上、全員での攻撃、ねえ?」
「でもそいつ等無傷でした!」
「そんな問題ではない!!公平平等を旨とする我々兵団が、ただの噂を鵜呑みにして、碌な捜査も裏付けもなく、一般民に攻撃を仕掛けた事こそが、間違っていると言っている!お前達の内、誰か一人でも彼等の言い分を確かめた者は居るのか?誰か一人でも噂の真偽を確かめた者は居るのか?」
声高く尋ねられた兵士達は、誰一人うつむいた顔を上げられない。
「真偽も分からぬ噂に踊らされる兵士等要らぬ!とっとと去れ!!」
そう命令されても、動けない兵士達。
そこに、
「え~、なによなによ~、なんか深刻な空気じゃな~い?私のお出迎えも無いなんて、ひどくな~い?」
スコーンと明るい声と共に入ってきたのは、闘技大会で見た覚えのあるゴリラ獣人。
ワニ獣人を豪快にジャイアントスイングしてた人物。
「隊長、お疲れ様でございます!」
「「「「「隊長、お疲れ様です!!!」」」」
「ただいま~!それで?この状況は何なの?帰ってきて早々、問題とか、面倒臭いんですけど~!」
「そうですね。まずは説明致しますので、被害者の方々と場所を移しましょう」
案内された部屋でお茶を飲みながら話す。
「ふ~ん、それで?その窃盗小猿はどうなったの?」
「一応と思い、家宅捜索を行った所、小猿の部屋からは、親の買い与えた記憶の無い物品の数々が発見され、今回の事が初犯では無かった事が確認されました。ですが未だ年端もいかぬ子供ゆえ、家での監視に止めております。刑罰は隊長がお帰りになってから相談しようと思っておりました」
「まあそうね~、で?何故彼等は町で噂に成る程、凶悪犯の疑いを掛けられてるの?」
「それは、宿屋のゴリラ婦人が、騒ぎ立ててるためかと」
「あ~、あの人はね~。でもそれは何時もの事じゃない?何で今回はこんなに騒ぎになってるの?何時もは誰も信じないで終わるじゃない?」
「それは、彼等が他所から来た冒険者だからですかね?駆け出しに見える人間族の冒険者が、獣族の町を彷徨くのは珍しいですから」
「……………ん~、彼等が駆け出しに見えるって言うのは、皆の見る目が無いのね~。彼等はたぶん、私より強いわよ?」
「は?」
「最低でもB以上のランクよね~?」
尋ねられたので、Aランク冒険者タグを見せましたよ!
俺のもね!
「………………………………」
「ね?だから見る目無いって言ったじゃな~い!」
「これは、失礼致しました」
深々と頭を下げられた。
「それで?噂を鵜呑みにした馬鹿達が、彼等に危害を加えようとした、ってことね?」
「はい。まあ返り討ちに合っておりましたが」
「ブフッ、ホントに馬鹿ね~!じゃ、事情も分かったし、奴等を懲らしめて、ゴリラババーと小猿をキュッと絞めないとね!」
颯爽と立ち上がり部屋を出ていく隊長。
「おらっ、お前ら全員訓練所に集合!そのだらけた根性叩き直してやらぁ!!」
部屋中に響く声で怒鳴り、訓練所へと去っていく。
そのギャップには萌えない。
何故か俺達も付いていく流れに。
実は副隊長だったオランウータン獣人さんも交ざって、兵士達を千切っては投げ、蹴っては投げてボッコボコにしている。
あんなに大型の猿でも飛ぶのね~と呑気に見てた。
息をするのがやっと、と言うまでボコられた兵士達に、
「冤罪の被害者を作り出そうとした馬鹿共には、三ヶ月間の減給と通常の倍の訓練を科す!」
兵士達に引導を渡す隊長。
死んだ目になる兵士達に構わず、
「さ!次行くわよ~!」
朗らかな声で歩き出した。




