大型猿人町
誤字報告、感想をありがとうございます!
おはようございます。
今日の天気は快晴。
ヘビ町を出てから一週間、最初は街道をてくてく歩いて進んでいたけど、全然町に着かないのでボードで飛んで、テント泊して、たまに魔物倒しての繰り返しで、途中街道を見失って、一週間してやっとたどり着いた町は、大型猿人町。
町の門は今までに無い石の門で、門番はゴリラ獣人。
街道ではなく、森から出てきた俺達に、
「なんだお前ら?なんで街道を通ってこない?冒険者だからって無謀な事をすれば死ぬぞ?」
見た目は若い駆け出し冒険者に見えるだろう俺達に、親切に忠告してくれるゴリラ獣人。
冒険者タグを見せれば、
「若いのにAランクかよ!?だからって、森を突っ切るのは無謀だぞ!」
面倒見の良いゴリラさんである。
注意点を聞けば、特に人獣の街と変わらないと言うことで、問題無く町に入れた。
町の規模はかなり広く、イヌ町の倍程の面積があるそう。
種族としては、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、マントヒヒ他、大型の猿獣人はだいたいこの町にいるそうです。
全体的に大木が生い茂り、ジャングルの中にある町と言う感じで、木と木の間にツリーハウスがあったり、いたる所にロープがぶら下がっていて、そのロープを伝って移動したりしてる獣人や人獣が多く、かと思えば石を重ねた堅牢な家が並んでたりもする。
入り組んだ道は、すぐに方角を見失い迷子になりそう。
そんな町をブラブラと歩く。
突然樹上から子供のチンパンジーやオランウータンが落ちて来るのは驚くけど、必ずその辺に居る大人がキャッチして、また何事もなくその辺のロープをスルスルと登って行く。
そして当然なんだけど、全員漏れなく猿顔。
人獣も漏れなく猿顔。
意外と種族は見分けられる。
小学校の同級生の高梨君を思い出す。あと高校の同級生の伊丹君。
「伊丹君の親戚大集合」
ボソッと言った助が、同じことを考えていたことを知る。
二人してグフグフ笑ってたら、助の頭にオランウータンの子供が落ちてきた。
円らな瞳でキョトーンとしながら助の顔を覗き込んでいる。
「ああ、ごめんね~、ほら、遊んできな~!」
助の頭にいた子供を、ヒョイっと掴みポイッと木の上に投げるおばさん。
危なげなく木の枝を伝って移動する子供。
全体的にとてもアクロバティック!
何が楽しいのか、ずっと枝でブランブラン揺れてる子供もいるし。
なんて言うか、他の町より野性味が強い!
露店で売ってる物に変わった物は無く、敢えて言うなら果物類が多いくらい。
そして一際高級感のある石造りのお店には、バナナが大量に並んでた。
「こーきゅーばにゃにゃ」
思わず呟けば、
「な!すげえ値段だよな!」
助が同意し、
「ババナは輸入品だからね~」
とディーグリーの解説が入る。
ババナ。
言われれば、高級店はラバー商会でした!
ふらっと入っていくし!
店員が不思議そうな顔で迎え入れ、その奥から店長が慌てて出てきてディーグリーに挨拶をする。
奥の部屋に通され、高級なお茶を出された。
「いやいや、こんなに手厚く歓迎してくれなくても~」
「いやいや、坊っちゃんがジュボーダンで広めた肉の処理方法と、料理の数々が大変な反響で、話題が鳥族よりも早い速度で広まっておりますよ!」
「アハハ、俺だけの手柄じゃないけどね~、一週間でここまで届いてるのには感心してるよ~」
「街道を正しく通れば、ジュボーダンから一週間も掛かりませんよ?」
「アハハ、途中寄り道し捲って、街道を見失っちゃったからね~」
「よくそれでご無事でしたね?!」
「ちょっとはしゃいじゃった~」
「まあ、坊っちゃんもまだ若いですからね~、ですが呉々も無茶はしないで下さいよ!」
「うん、その辺は平気!」
「坊っちゃんが強いのは聞いてますけど。それとは別に、ヘビ町から坊っちゃんの紹介状を持った者が、新しい調味料を持って売り込みに来ましたけど、見たこともないもので、あれはどうすればいいんですかね?」
「試食はしてないの?」
「なんと言うか、持ってきたのがヘビ族の者ですし、得体が知れない物でしたので、一応買い取りはしましたが、販売はまだです」
「俺達が教えた物だから、安全は最優先にって言ってあるし、食べても大丈夫だよ~!何なら試食会する?」
「はい、是非!どうやって食べて良いかも分かりませんでしたし!」
と言うことで、社員食堂の隅へ移動して、担当の料理人と一緒に試食会をします。
用意してもらった物は、この辺でも普段から食べられている芋やサラダを中心に、後はお昼時なので肉やスープも付けてくれた。
サラダと芋には味付け無しで。
そこにヘビ町から買ったマヨネーズを滴し食べる。
サラダとは別に用意された野菜スティックには、ヘビ町マヨネーズとリス町味噌を合わせて、味噌マヨネーズにして付けて食べる。
モリモリ食べる俺達を見て、店長と料理人も恐る恐る食べて、完食するまで無言だった。
「………………旨いですね!今までに味わったことの無い複雑な味です。酸味と塩味とが程好く、それでいてまろやかな味。これは試食と共に出せば、瞬く間に売れるでしょう!」
「でもね~、一つだけ難点が」
「何です?」
「保存が利かないんだよ~、常に冷やして置かないとすぐ腐る。材料に生の卵を使っているからね~」
「生の卵を?!それは、他の町では作れないですね!ヘビ町独自の特産になることでしょう」
「そうだね~、卵の管理が出来ないと、無理な物だからね~。運搬にも冷蔵の魔道具が必須だし~」
「冷蔵の魔道具は、だいぶ普及してきたとはいえ、まだ高級品ですからね。ヘビ町からは魔法で常に冷やして持ってきたそうですよ」
「うん、だからね、売るのも気を付けなきゃいけないんだよね~」
「それならいっそ、人間領の貴族専門の店に出してはどうですか?」
「それも一つの手ではあるけど、折角獣族の町で作ってるなら、獣族の人達にも食べて欲しいよね~」
「そうですね。それならば、まずは露店やレストランで料理として売って、味を知ってもらってから、店で売りましょうか。販売するのも、食べきれるように小分けにして、買ったその日のうちに食べるように言えば、トラブルも少なくてすむと思いますし」
「ちょっと手間は掛かるけど、そうしてもらえると安全だね~」
「ええ、ではそのように。ヘビ町へは追加の注文を出しましょう」
「もう追加の注文を出すの?」
「これは売れますよ!主食の芋にこれ程相性の良い調味料は、画期的です!最近は、米やパンも流通してきてますが、慣れ親しんだ芋も当然食べますからね。新しい食べ方と言うより、付け足すだけでかなり違うのですから、手軽ですし!」
「うん、その辺は任せるのでよろしく~」
「はい!早速定量納品の契約をしてきますよ!毒消しを大量に買わなくては!」
「あれ?ミコスは魔力高いからバリア張れたよね?バリアがあれば、毒は効かないよね?」
「?バリアで毒が防げる等、聞いたこともないですよ?」
「……………あ~、こっちまではまだ届いてないかな?バリアは慣れれば、体全体を覆う方が、効率は良いし強度もかなり上がるんだよ~」
「全体を覆うバリア、どこかで聞いた覚えはありますね?ですが私には無理ではないですか?魔法の才能はあまり無いので」
「でも部分バリアは出来るよね~?」
「はい、一応。行商に出る前の研修で、必死に覚えましたから!」
「ちょっとやってみてくれる~?」
「いいですけど」
ディーグリーの言葉に、ミコス店長がバリアを張る。
ミコス店長の前面、体をギリギリ覆うくらいの板のようなバリア。
「うん、そ~ね~、一度俺が張るバリアを見て、真似してみて?」
言葉と同時に、可視化した球体のバリアを張るディーグリー。
唖然とするミコス店長と、食堂に居た人々。
学園でも騎士団でも、当然のように球体のバリアを皆が使っていたので、驚かれるのがちょっと変な感じ。
「いやいやいやいや、無理でしょう!何ですかそのバリア!めちゃめちゃ強そうですよ!」
「いや、慣れだから!黄色魔力あればいけるから!使い慣れれば、魔力消費も抑えられるし、強度を上げることも出来るよ~」
「え~?本当ですか~?」
「ほら、まずはやってみる!」
「ええ、それじゃぁ」
渋々でもやり始めたミコス店長。
何度もやり直し、その度にディーグリーから注意がいく。
「ですから無理ですって~!」
「あのね、魔法はイメージが大事なの!出来ないと思うから出来ないんであって、自分は出来る!って思い込むことも大事なんだよ!」
更に何度も試すミコス店長。
しかし、成功したのはミコス店長を見て、ディーグリーを見て真似してた、お店の護衛を勤めている兵士さん。
「おお!出来たー!」
「ええ?!お前すげえな!」
「アハハ、こいつホントに出来てやがる!」
食堂の反対側隅に居た護衛の兵士達から上がった声に、食堂に居た全員の視線が行く。
すかさずディーグリーが、
「ほら~、出来てる人がいるじゃん!ミコスが出来ないのは、思い込みのせいじゃ~ん!」
抗議のような声を上げて、兵士を指差すディーグリーに、気まずそうな顔のミコス店長。
その後数分で出来るようになったミコス店長。
お礼に、とお詫びにバナナを貰いました。
販売出来るギリギリのちょっと黒くなったバナナ。
それでもかなりの値段がするのに。
もう少し練習をしたら、自分がヘビ町に買付けと契約に行くって、張りきっていました。
バリアを張れた兵士も連れて行くそうです。
宿を紹介してもらってお店を出ました。
また町をブラブラ歩く。
たまに降ってくる小猿を投げてみる助やアールスハイン。
ユーグラムは一度撫でてから投げてる。
人間族が珍しいのか、他の大人達より多く降ってくる小猿達。
たまに間違って俺の方に降ってくる小猿は、ソラが華麗に尻尾でキャッチして投げている。
ウキキーー!っと飛んでいく小猿達。
楽しそうで何より。
不機嫌なディーグリーには降ってこない。
それで更に不貞腐れるディーグリー。
その辺の人に宿の場所を確認しながら到着したのは、宿と言うよりツリーハウス風ロッジ。
階段で登った木の上にある建物が宿だそうです。
部屋に入ると、普通の宿と同じ様な作りで、ベッドが有るだけの部屋。
ベッドが木ではなく、蔦を編んだような、ちょっと変わったベッドだったけど。
お風呂は無く、近くにある泉で体を洗い、夕飯はゴリラ人獣のおばさんが、籠に山盛りの果物を入れて運んで来てくれた。
木を伝って。
ただ、それでは人間の俺達には物足りないので、作り置きのチャーシューとレタスを挟んだサンドイッチを作り、不機嫌継続中のディーグリーの為に、貰ったバナナと生?クリームでバナナサンドも作った。
ご機嫌も直った所で本日は終了。




