ジュボーダン街に戻って来ました
誤字報告、ブクマをありがとうございます!
イヌ町を出て暫く歩き、イヌ町が完全に見えなくなった所で、道の脇に寄り、各々に魔道具を出す。
俺も同じ様に魔道具を出すと、クラックの側に寄って、
「のってー」
促したが、クラックは一向に動こうとしない。
足をペチペチ叩いても、脛を蹴ってみても動かないので、ソラが後ろからドーンと体当たりを食らわす。
前のめりに転んだクラックは、魔道具の席に変な格好で突っ伏しているが、構わず俺達も乗り込む。
ハクはユーグラムのポッケに入ってて、プラムはディーグリーの片足を抱え込んで立ち、ラニアンは助の頭にしがみついているので、乗ったのは俺と小さくなったデブ猫スタイルのソラだけだけど。
横倒しのクラックの腹の辺りに座り、フヨッと飛ぶ。
人獣の街ジュボーダンに向けて出発。
街道沿いの上空を、結構な速さで飛ぶ内、パラパラと雨が降ってきた。
雨はドンドン激しさを増し、ザーザーではなく、ドザーーーーーーっと音を立ててバリアを叩いている。
見通しは悪いが、方向は分かっているのでスイスイ進む。
邪魔の無い空は真っ直ぐ進めるし、スピードは出るしで、徒歩一日半の距離を二時間程で到着。
雨で視界が悪いので、かなり街の近くまでこれたのはラッキー。
魔道具をしまって、 街まで歩こうとするんだけど、クラックが魔道具から降りてくれませぬ。
仕方ないので助が、無理矢理降ろしたんだけど、中腰の変な体勢で固まってる。
何時もより復活がだいぶ遅い。
土砂降りの中、何時までも突っ立っているのも暇なので、クラックも巨大化ソラに乗せて出発。
多少足が引き摺られてるけど、それはほったらかしで!
人獣の街ジュボーダンの門に到着。
門柱の天辺の人獣さんは土砂降りのせいで見えない。
ソラに乗ってるクラックを、門の守衛さんが心配して、声を掛けてたけど、ボケーっと宙を見たままのクラックは何も答えなかった。
体調不良では無いことだけ伝えて、街の中へ。
伯爵邸に向かっていると、
「ぬわーーーー!!」
と叫んだクラックが、ソラから落ちた。
後頭部をぶつけたのか、地面を転がっている。
そしてハッと正気に戻り、周りを見回して、幾人かに笑われていて、その中に知り合いでも見つけたのか、
「イナリ!え?なんでイナリがイヌ町にいるでやす?!いや、イヌ町はもう出たでやす、ええ!ここってジュボーダンでやす?!はぁ?」
大変混乱されておる。
イナリと呼ばれた知り合いも、
「おい、クラック、お前大丈夫か?なんか何時もと違うぞ?頭でも打ったか?」
「イナリ、ここは本当にジュボーダンでやす?俺っちさっきまでイヌ町にいたでやす!本当に頭打って、二日くらい記憶を失くしたでやす?今日は何日でやす?闘技大会はどうなったでやす?」
「落ち着け!闘技大会はまだ今日入れて二日ある!まだ始まってもいねーよ!」
「??!!??」
混乱して言葉も出ない様子。
イナリは心配そうにクラックを見ているが、クラックは頭を抱えて踞って周りが見えて無い様子。
ど~しよっかな~?と眺めているだけの俺達。
一番最初に焦れたのはソラ。
クラックの後ろ首の生地を咥えて、ポイーンと投げ飛ばし、自分の背中に着地させると、有無を言わせず歩き出す。
ディーグリーがイナリになにか言って、他の皆は付いてきた。
クラックは降りようと暴れてるけど、ソラの尻尾とユーグラムのポッケから出てきたハクの触手で拘束されて動けなくなってる。
まるで罪人の様に連行されるクラック。
そして到着した伯爵邸の守衛さんが、とても不審な目でクラックを見ております。
やっとここまで来て、暴れるのを止めて大人しくなったクラックの拘束を外すソラとハク。
顔見知りだろう守衛さん達と、クラックの間に微妙な空気が。
空気は微妙でも、守衛さんは仕事はしっかりしてるので、間も無く伯爵邸内から、羊な執事さんが出てきた。
微妙な空気を読んだのか読んでないのか、特に何かを言う訳でもなく、普通に案内されて邸内へ。
応接室に通されて、巨大なカップでお茶を出される。
気を使ってくれたのか、俺の分は小さな木のコップにジュースが入って出てきたので、メイドさんに笑顔でお礼を言っときましたよ!
ホワ~っと笑顔を返されましたよ!
各々にお茶を飲んで一息ついた所で、廊下からドスンドスンと足音がして、でっかいドアからでっかいジュボーダン伯爵が登場。
やはりデカイ。何度見てもデカイ。
ジュボーダン伯爵を見たからか、途端に落ち着いた様子のクラック。
立ち上がってお互いに挨拶をして、また席に。
「どうですかな?獣族の地はお楽しみ頂いておりますか?」
「はい、各々の種族特性に因って、特色が違う町、と言うのは新鮮でしたし、珍しい品も幾つか発見出来ましたし、まだ廻っていない町も楽しみですね」
余所行きの顔でアールスハインが答えれば、ジュボーダン伯爵は嬉しそうに頷いて、
「幻獣の町にも行かれたとか。近年減る一方だった子玉が、かつて無い程の量、街の教会に届き大騒ぎになりました」
「運良く行き着いたので、色々と町を回った際に、カッパ族と会い、話を聞いた所、手助け出来るようだったので、少々協力致しました」
「話は聞いておりますが、それ程の魔力を一度に使って、体調などは大丈夫なのですか?」
「ええ、問題有りません。我々は人間族の中でも魔力は多い方ですし、ケータは我々以上に魔力が多いですから」
「それは安心しました。それに、カッパ族への定期的な聖魔法使いの派遣も、話を付けて頂いて助かりました」
「それについてですが、最近は、聖魔法を充分に分けてもらえないと聞きましたが?」
「以前は、聖魔法を使える種族は複数おりまして、中でもユニコーンやストーンマン等の種族には、特殊個体が多く生まれており、聖魔法を他の種族に分け与えても、力が有り余る者も多くおったのですが、どういう訳か、ここ十数年は一切特殊個体が生まれる事が無く、我々も調査に乗り出した所でした。これ以上、子玉が少なくなれば、各方面で問題が起こる可能性がありましたので」
「今回の事で、ギリギリ間に合ったと言うことですか?」
「ええ、まさに。天の助けかと思いました!」
「我々が訪れたのは偶然ですが、助けになったのなら良かったです」
「本当に有り難うございます。お陰様で、幾つかの種族が、絶滅の危機に怯えずにすみそうです」
「そこまで深刻な問題だったのですか?」
「まだ深刻と言う程ではありません。子玉を必要とする種族は少なく、それも長命な種族ばかりなので、本人達はいたって暢気なものです。ただ、加工した子玉には、使用期限は有りますので、確保している子玉の期限が迫っているものが多くなってきたもので、少々焦りを感じておりました」
「そうですか。人間族の間でも、子玉を希望するものは多くおりますが、近年は出回る量が極端に減っているとは、噂として聞いてはいました」
「ええ、調査の結果はまだですが、今回助けて頂いた事で、充分以上に出回る事でしょう」
そこで一旦皆でお茶を口にして、端っこに座るクラックに目を向けたジュボーダン伯爵は、
「それにクラックも、お世話になったようで」
ビクッとするクラック。
「いえ、それについては我々は何も」
「まさか、私も、昔拾った子供が、稀有な妖狐族の雄とは知らず、人獣として育ててしまいましたが、奇跡のような偶然で、出自が判明するとは。良かったなクラック!」
「あー、それは、大変有難いでやす。お陰様で 魔法も使えるようになったでやす」
含みを持たせたような、不満そうな、納得いかなそうな顔のクラック。
「なんだ?魔法の訓練でもきつかったのか?」
不思議顔のジュボーダン伯爵に、
「確かにそれもきつかったでやす!吐く程きつかったでやす!眠らせてももらえなかったでやす!でも!そんなことよりも!ジュボーダン様、この人達は何者でやす?!俺っちは、案内人になって、色々な人間族も見てきたでやす!でも!こんな人間族は知らないでやす!おかしいでやす!妖獣が強すぎるでやす!なんで聖魔法があめ玉みたいになるでやす?!なんでロックリザード一撃で倒せるでやす?!なんで空飛ぶでやすーーーー!!??」
だんだん声が大きくなって、最後は叫びだしたクラック。
ゼイゼイと肩で息をしながら俺達を指差して、ジュボーダン伯爵に詰め寄っている。
ポカーンとするジュボーダン伯爵。
「?言ってる意味が分からん?あめ玉の聖魔法?空を飛ぶ?」
「この人達がやったでやす!昼にイヌ町を出たのに、今、ジュボーダンの街に居るのは、おかしいでやす!異常でやす!!」
酷い言われよう。
ジュボーダン伯爵はポカーンとしたまま。
羊な執事さんも顔が引き攣っている。
落ち着くためか、お茶を一口飲んで、ふうーーとため息をついた後、
「クラックの言ってる意味が分からんのだが、なにか心当たりはあるだろうか?」
こっちに振ってきた。
「ああ、はい。妖獣は、ケータが連れているものです。大きさを変えられるのは、出会った当初からなので、我々の責任ではありません。聖魔法玉は、訓練すれば出来ますし、ロックリザードを切った魔法も、これからお話しする予定でした。空を飛んだのは、魔道具を使いました」
淡々と説明するアールスハイン。
ジュボーダン伯爵は蟀谷を押さえている。
「……………………なにから質問すれば良いのか。妖獣の事は、そう言う出会いも有るのだろうと理解して、聖魔法玉とは何ですかな?訓練すればとは言われましたが、我々でも出来ますか?」
「聖属性をお持ちなら」
アールスハインがこっちを見るので、俺とユーグラムが聖魔法玉を作って見せる。
「………………なるほど」
聖魔法玉をラニアンとプラムに食べさせて、
「ロックリザードを切った魔法ですが、厳密には魔法ではありません。あれは、体内の魔力を、意思の力で活性化するもので、魔力の弱い者でも、継続時間は短いですが使えます。イヌ町の警備副隊長とも話をしましたが、希望者がおられれば、騎士団から教師を派遣することも出来ます」
「はぁ…………」
「最後に、空を飛んだのは、新しく開発された魔道具を使いました」
「…………………ふむ。言葉を聞いただけでは理解が出来ませんが、なにか我々にも有用な方法なのでしょう。是非とも実際に見せて頂きたいのだが、可能だろうか?」
「構いませんよ」
「そんな簡単に?!」
クラックが凄い驚いてるけど、イヌ町の副隊長とも話してたよね?聞いてなかったのだろうか?
部屋の中では危険なので、屋内訓練所に移動することに。
ジュボーダン伯爵の先導で着いた先には、肉食系だろう人獣さん達が多く居た。
皆デカイ。
ジュボーダン伯爵が一番デカイけど、巨大だと思ってたイングリードよりも二回りデカイ。
そして目付きが悪い。
ガラも悪い。
小動物を抱いた皆と、俺を抱っこしてるアールスハイン。
絶賛睨まれ中です!
別に怖くないけど!
クラックの腰が引けてる。
「悪いな、ちょっと場所を借りるぞ!」
ジュボーダン伯爵が大きな声で断りを入れると、ザザッと一斉に礼をする人獣さん達。
軍隊ってより、ヤクザなイメージ。
ジュボーダン伯爵は親分ですか?
中の一際体格の良い、ライオンっぽい鬣みたいな髪の人獣さんが近付いて来て、
「ジュボーダン様、何用ですか?」
渋いハスキーボイスで尋ねてきた。
女の子をイチコロですか?
「こちらの方々が、新しい魔法を披露してくれるそうでな。上手く行けば、我々でも使えるかもしれん。一度見せて頂こう!」
「分かりました」
分かりましたって言って、場所は空けてくれたけど、なんか不満そう。
空けられたスペースに立つのはアールスハインと助。
模造剣をかりて軽く打ち合う。
騎士団にあった模造剣とは少し重さや長さが違うのか、慣らすためにちょっと長めに打ち合った後、互いに距離を取り、肉体強化発動。
二人の体が、一瞬淡く光り、次の瞬間には目にも留まらぬ速さで打ち合う。
さっきまでのカキンカキンとしてた軽い音では無く、ガガガッギャリンとか鳴ってる。
そして二人が同時に距離を取ると、バンッ、と軽い音と共に、模造剣が細かく割れた。
シーーーーーンと静まる訓練所。
「申し訳ない伯爵、模造剣は弁償します」
アールスハインが謝れば、
「いや!それには及ばん!いや、素晴らしい打ち合いだった!話だけでは想像も出来なかったが、これは素晴らしい!だが、本当にこの魔法を、我々獣族でも使えるのかね?」
「先程も言いましたが、これは厳密には魔法ではありません。簡単に言ってしまえば、火事場の馬鹿力を意図的に使う方法、のようなものです」
「火事場の馬鹿力?」
「ええ、人獣の方なら、獣人の方に張り合うために、何時もより力が出る事や、速さが勝った、等の経験はあるかと思います。それは無意識の内に、体内の魔力循環を速めているものと考えられます」
「それを自分の意思で行うのですな?」
「はい、訓練を積めば、自在に肉体を強化出来ます」
「そ、それは、素晴らしい事ですな!人獣と獣人の格差も減るやもしれません!」
周りのガラの悪い人獣さん達も、ザワザワしてる。
人獣と獣人の格差って、思ったよりも根深いのかも?
ジュボーダン伯爵にも、是非に!ってお願いされて、訓練を付けてくれる騎士の派遣が決まった。
ただし、暫くの間は、人獣さんだけで訓練をするらしいよ!
人獣は、獣人よりは魔力が多いらしく、先に訓練を始めれば、それだけ有利な立場に立てる的な事をブツブツ言ってた。
その後はちょっとだけ、伯爵家の人獣さん達と打ち合って、強さを証明したら、皆さん途端にフレンドリーになり、俄然やる気になってた。
伯爵邸で夕飯をご馳走になって、羊な執事さんが取ってくれた宿で就寝しました。
夕飯は、芋とスープとサラダ。
象さんは草食だからね!
いつになったら誤字の修正は終るのだろう、見直しはしてるはずなんだけどな~?(遠い目)




