5日目続き
移動中に聞いた話では、この国は世界的に見ても、歴史も古く安定した国なので、前に歴史書で読んだ、300年前に最初の異世界聖女と共に滅んだ、ヒルアルミア聖国から、この国に本拠地を移したらしい。
なので、これから会う教皇猊下とは、この世界の宗教のトップの人なんだって。
ヒルアルミア聖国から移って来るときには、それはそれは過酷な旅を経験したそうで、その旅の途中で、生臭坊主的なのは自然淘汰され、新しくこの国で教会を建てた時には、ちょっと脳筋寄りな心身共に頑強な神職しか残らず、以後250年、腐敗の欠片も無い教会運営が為されているらしい。
教義の最初に[健全な肉体には健全な魂が宿る] とか書いてるらしいよ。
何か聞いた事有るような無いような?
助に言わせると、教会の半数がゴリマッチョなんだそう。
地位が上がる毎に、何故か細マッチョになって、より強くなるらしい。
教皇猊下最強説?
そんなこんなで着いたのは、さっきまで居た部屋の倍位の広さの、何も無い部屋。
高位貴族とか国賓とかが、王様に謁見する部屋だそうです。
王様は部屋の奥、宰相さんと将軍さんは二歩位手前、教皇猊下とお付きの神官?達は部屋の入り口付近、俺達は真ん中の壁際に配置され、
「教皇殿、火急の用件とは?長い挨拶などは省略して構わぬので、先ずは聞かせて貰えるだろうか?」
王様の言葉に、軽く会釈した。
教皇猊下は想像してた、武道の達人とか仙人みたいな老人では無く、王様達と同年代位の、銀色の腰まで有るロン毛、アルカイック!なスマイルの矢鱈綺麗な顔のおじさんだった。
マッチョかどうかは、だらっとした服なので分からんけど。
「国王様、話が早くて助かります。
この度、突然訪問させて頂いたのは、本日の朝の礼拝の折、突如女神像が粉々に崩れ去る、と言う現象が起き、確認しました所、近隣の教会でも同様の事が起きておりました。
もしや聖女様に何事か起きたのかと、確認させて頂きたく、参りました」
教皇猊下の話に皆ビックリ、粉々、ギャル男神の影がちらつくのは俺だけなんだろう。
「……………女神像の事は分からぬが、聖女殿は、本日も恙無く過ごされていると報告がある」
「体調等に変化は有りませんか?」
「聖女殿に付けている侍女からは、変わり無く、と報告を受けている。
本人に会って、確認してもらっても構わぬ」
「いえ、恙無く御過ごしであれば構いません。しかしそうなると、女神像が崩れた原因が……」
教皇猊下と王様の会話に、全員が深刻な顔をして黙り込むなか。
ーピリピリピリピリピリピリピリピリピリー
能天気な機械音が、着信を知らせて来る。
聞いた事が無いであろう皆が、一斉にビクッとした。
音の発信源は、俺が常に背負っているリュックから。
意味の分かってる助が一人アワアワしている。
俺は、リュックからスマホを出して、画面を見ると、テレビ電話通知。
画面をスワイプ。
❮あ、どーもー、お世話になってます、以前お会いした神ですが、覚えてますか?❯
「おぼーてましゅ」
❮それは良かった!それでですね、前にも話した通り、クソバカダ女神の処理が完了しましたので、ご迷惑をお掛けした貴方にも一応お知らせしとこうかと、連絡させて頂きました!もうね、大変でしたが、殺りました!今回の件には、クソバカダ女神以外の下級神も、多少の差があれ関わっていたので、それも纏めて処分してやりましたよ!❯
よっぽど鬱憤が溜まっていたのか、それはそれは清々しい笑顔で語るギャル男神。
「おちゅかれしゃまれーす」
❮ええ!ほんっっっとうに疲れましたが!殺りきりました!主犯のクソバカダ女神は、全ての能力を取り上げて、ただの人族にしましたし、他の関わっていた下級神共は、精霊に落として殺りました!勿論、大幅に能力を削いで!アハハ、アハ、アハハハハハハ!ザマーミロー!❯
「よかっちゃれしゅねー」
❮はっ!あ、失礼、少々興奮しました。それでですね、ご迷惑をお掛けした貴方には、下級神共から取り上げた幾つかの能力を、付けておきましたので!存分にこの世界をお楽しみ下さい!何か分からない事が有れば、ご連絡頂いて構いませんので!何か質問は有りますか?❯
「めぎゃみーいにゃくにゃって、しぇーじょーどーなりましゅか?あと、たしゅきゅは?(女神が居なくなって、聖女はどうなりますか?あと助は?)」
❮あー、聖女とか呼ばれる少女は、クソバカダ女神の加護が無くなったので、普通の、一般的な人族と変わらなくなりました。あの少女も、調べてはみたんですが、性質があまり良くないので、能力の増強はしませんでした!あと、貴方の上に落ちて来た彼は、肉体の強化のみしておきました!彼は、この世界に魂が馴染み過ぎていて、これ以上やると魔物化するおそれが有ったので、貴方程には無理でした!あ!そうそう、クソバカダ女神が造った魔王とやらも、製造途中でしたので、多少強い魔物程度になりましたので、ご安心下さい!今後は私がこの世界の管理を行いますので、宜しくお願いします!それでは!❯
ーブツップープープープーー
ふぅと一息、テンションアゲアゲの人と話すのは疲れる。
「ケータ?今、誰かと話してたか?」
「うん、かみしゃまとはなちてた。ききょえにゃかった?(うん、神様と話してた。聞こえなかった?)」
アールスハインは俺を抱っこしてるので、当然聞こえてると思ってたら、
「いや?ケータの声しか聞こえ無かったが、神様?女神様の事か?」
あんなにテンション高く声も大きめで話してたのに、聞こえなかったらしいよ。
「んーん、めぎゃみーは、かみしゃまちっかくなったかりゃー、ちぎゃうかみしゃま(女神は、神様失格になったから、違う神様)」
「女神様が、神様失格?」
「それは本当ですか?!」
アールスハインと話してたら、教皇猊下が突っ込んで来た!近い近い!
周りにはいつの間にか、王様達もいるし。
「めぎゃみーは、ちっかくなってーひとじょくなったっちぇー(女神は、失格になって人族になったって)」
「女神様が失格になって、人族になった?」
「しょー、ほきゃのかみしゃまらちは、せーれーなったちぇー(そう、他の神様達は、精霊になったって)」
「他の神々が精霊になった?」
教皇猊下が呆然としております。
そこにズイッと来た宰相さん。
「ケータ殿、何かそれを証明することは出来ますかな?」
「しぇーじょーが、めぎゃみーのかご?にゃくにゃってー、まおーが、ただのまもにょなったー(聖女が、女神の加護?無くなって、魔王がただの魔物になった)」
「成る程、聖女様が、女神の加護を失くし、ただの人になり、魔王がただの魔物になった?いや、それはおかしい、魔王が現れるから、女神様が聖女様を遣わしてくれるのだろう?」
「まおーちゅくったの、めぎゃみーよ?(魔王造ったの女神よ?)」
「!そんな!何の為に?!女神様とは、我々を正しき道に導いてくれる存在ではないのか?」
宰相さんとの会話に、又もや教皇猊下。
ワナワナしております。
「わりゅいことちたかりゃ、ちっかくなったでしょー?(悪いことをしたから、失格になったんでしょ?)」
「うむ、兎に角、すぐに調べられる事から確めていくとしよう。
聖女殿をもう一度魔力測定玉にかければ、女神様の加護の有無も判るだろう」
王様の纏めに教皇猊下が納得して、皆で移動。
「にゃーにゃー、たしゅきゅは、かみしゃまのこえきこーにゃかった?(なーなー、助は神様の声聞こえなかった?)」
「いや、全然?恵太の声だけ聞こえて、業務連絡でもしてんのかと思った」
「ありゅいみ、ぎょーむりぇんりゃくらな(ある意味、業務連絡だな)」
「いやいやいや、何その高次元な業務連絡?恵太も神にでもなんの?」
「かみしゃまのちかりゃはもらっちゃよ?めーわきゅりょーて(神様の力は貰ったよ?迷惑料って)」
「律儀な神様ですね!でも神の力って何?ちょっと怖いんですけど!あと中二臭い!」
「たしゅきゅももらっちぇりゅよ?ちんたーきょーからって(助も貰ってるよ?身体強化だって)」
「ちんたー?もしかして身体強化?」
「しょーしょりぇ!」
「ええ!いつの間に?いや、だから鬼属か?」
「愉快な話をしているな?身体強化を神から与えられたとは、今後の訓練が楽しみだ!」
突然後ろから将軍に話しかけられ、
「いやいやいや!まだ制御出来てませんから!いきなり将軍の全力とか無理ですからね!」
「何、多少の加減位はするさ!ハハハハ!」
そう言って去って行く将軍さん。
実に楽しそう。
それに引き換え、助の絶望した顔。
「俺、次の訓練で死ぬかも」
何とも情けない顔と言葉に、アールスハインが背を叩いてやっている。
そして以前にも来た魔力測定玉の有る部屋。
先に着いていたのか、ビッチ聖女が仁王立ちで剥れている。
「突然呼び出して何よ!」
「少々確認したい事があって、貴方にはもう一度魔力測定を行ってもらいたい」
「ふーん、今日の課題を無しにしてくれるなら、受けてやってもいいけど?」
王様の言葉に、物凄い上から目線で答えるビッチ聖女。
こいつは自分を何様と思っているのだろうか?
普通の日本人の感覚なら、王様とか言われたら、子供だってもうちょっと礼儀正しく出来るだろうに。
「なーなー恵太、あれホントに聖女?常識無さすぎない?」
「びっちしぇーじょー、あたまわりゅい(ビッチ聖女、頭悪い)」
「いや、でも流石に王様相手にあの態度って、頭悪過ぎだろ?何様気取りだよ」
助とこそこそ話してたら、魔力測定玉の用意が出来たらしく、
いつの間に来たのか、テイルスミヤ長官が、ビッチ聖女に測定玉に触れるよう促している。
「分かったわよ、やれば良いんでしょ!」
そう言って触れた魔力測定玉は、前回と明らかに違う部分が有った。
グチャグチャの模様に変化は無く、魔力量も同じ、しかし、前回有った白い帯が、完全に消えていた。
「こ、これは」
教皇猊下が又もやワナワナしております。
「決定だな」
王様の重い声に、何かを感じたのか、聖女では失くなったビッチ女が、
「何よ!前と変わんないじゃない!何の説明もないわけ?」
「変わらない?大きな、一番重要な部分が変わっているでしょう?」
テイルスミヤ長官は、何の説明も受けて無いのに、魔力を見ただけで理解したらしい。
「は?別に前と同じじゃない」
「分かりませんか?貴方は、聖女の資格を失っていますよ?」
「はあ?そんなわけ無いじゃん!女神に選ばれた私が聖女じゃなければ、誰が聖女だって言うのよ?頭悪いの?それとも目が腐ってんの?もう一度やってやるから、ちゃんと見なさいよね!」
そう言って触れた魔力測定玉には、当然女神の加護と言われる白い帯は現れず、
「ちょっと、何よこれ!どういう事?この機械壊れてんじゃないの?」
錯乱したように、何度もバンバン測定玉を叩くビッチ女。
「壊れてなどいない。
ただ、お前を加護していた女神が居なくなっただけだ」
王様の重い声に、
「はあ?意味分かんない!女神って、神様なんでしょ?居なくなるとかあり得ないでしょ!」
「事実、お前の加護が無くなっているだろう」
「これは!だから機械の故障でしょ!ちょっとあんた、早くなおしなさいよ!」
怒鳴られたテイルスミヤ長官が、無言のまま魔力測定玉に手を当てると、赤色魔力の、精緻なアラベスク模様になった。
「壊れておりません」
「はあ?どうなってんのよ?女神が居なくなった?じゃあ乙女ゲームは?私の逆ハーは?」
「お前が何を言っているかは分からぬが、聖女で無い以上、この城に置いておく意味は無いな。異界から来たことも考慮し、お前は修道院に送るとしよう」
王様の言葉に、
「イヤよ!私そんな所行かないからね!そっちが勝手に呼んだんだから、責任取って私の逆ハー位用意しなさいよ!」
「お前を呼んだのは我々ではなく女神だ。責任とやらは女神に取って貰え。女神は今、人に落とされて、この世界のどこかにいるらしいからな。
衛兵、連れて行け、修道院が嫌なら、当座の生活費位はくれてやるから、何処へなりとも行くが良い」
「イヤよイヤイヤーーー」
ビッチ女の声が、ドップラーしながら遠ざかって行った。




