トリ町からイヌ町
誤字報告、感想、ブクマをありがとうございます。
トリ町は、今までの町よりも規模が大きいからか、高い木の柵でぐるりと囲まれた、立派な門の入り口があり、門の両側に立つ巨大な丸太の天辺には、巨大な鳥の獣人が見張りに立っていた。
入り口には関所のように、身分を確認する場所があり、そこで身分証の冒険者タグを見せる。
関所の係官とは顔見知りなのか、クラックが二、三言話すと、
「ここでも連絡がついているのか、警備隊長が来るでやす」
と言って、町に入った門の横でちょっと待たされた。
バサバサバサッと音がして、空が陰ったので上空を見ると、巨大な鳥が降りて来た。
「待たせたかね?私が案内を仰せつかった、警備隊長のリードリーだ!」
トリ町の警備隊長は、巨大な鶏の獣人で、喋る度に鶏冠がブルンブルンするマッチョでした。
鶏って飛べるんですかね?
自己紹介して握手をすると、翼の先に妙に器用に動く羽があり、それが手のような役割をするらしかった。
前を全開にしたベストと、ニッカボッカみたいな、太もも部分が太く裾がキュッと細くなったズボンにブーツを履いてる。
そして何故か俺の目の前で、腰に手をあて、やたらと胸を突き出したポーズを取っている。
鳩胸ですか?鶏だけど。
ボケーっと見てたら、
「来ないのかね?」
と尋ねられた。
意味が分からずクラックを見ると、クラックも首を傾げていた。
その様子を見てリードリー隊長は、
「子供とは、立派な胸を見ると飛び込むものだろう?」
と尋ねられた。
聞いたこともないですけど?
更に首を傾げたら、
「ふむ、人間族ではそう言う習慣は無いのかね?」
とまた聞かれた。
「きーたことなーねー?」
「たぶんその習慣は、トリ族だけでやす」
「そうなのかね!?それは失礼した。それで諸君等は、我が町のどの辺りを見たいのかね?」
「有名な空中ダンスショーは、是非見たいです!」
「ハハハ!それは丁度良い!開演まで程好い時間だ!案内しよう!」
なんと言うか、やたらと歯切れ良く、滑舌良く話し語尾に!と付く話し方をする。
今まで見てきた巨大筋肉な人々は、戦いの中で鍛えられた筋肉だったけど、目の前で案内してくれてるリードリー隊長は、人工的に作られた筋肉、と言う感じ。
獣人だから分からないけど、前世なら、オイル塗ってテカテカさせてそう。
押しの強い笑顔を装備して。
町を歩くと、成る程。
先程リードリー隊長に尋ねられた意味を理解した。
擦れ違う子供達が、漏れ無くリードリー隊長の胸に一度は飛び付いてから何事もなく去っていく。
リードリー隊長は、ハハハ!と笑ってるだけでビクともしない。
何この儀式。
飛び付く子供達は、十歳くらいまでの年齢だけど、かなりな勢いで飛んでくる子供達を、難なく受け止めて流れるように受け流してる。
ユーグラムが若干羨ましそうなんですが?!
俺は参加しませんよ!大人ですから!
町中は飛んでる人半分、歩いてる人半分。
色取り取りの羽を持つ種族も、地味に目立たない種族も様々。
大きさも様々。
たまに上空の高いところを群れで飛んでる獣人もいる。
人獣は、獣人程飛行能力は高くないようで、町で露店の店主等をしてるのはだいたい人獣。
町の特色や露店の種類等を、とても丁寧に説明してくれるリードリー隊長。
説明し慣れてますね。
クラックよりも案内人らしい。
トリ町は、リス町やネコ町よりも、町の中に木が多く全体的に木の家が多い。
木の枝にも家が建ってたりする様子は、とても不思議。
木と木の間を飛び回る人達も不思議。
町を見ながら歩く事四十分。
確かに今までの町よりも広い。
そして巨大な木に囲まれた一角に入って行くと、入り口に料金所があり、料金を払って入場すると、プラネタリウムみたいに上を見易いように、寝椅子みたいな木の椅子が並び、指定された席に着くと間も無く、ジャーンジャーンジャーンとシンバル的な音が鳴って、上空中央に一人の地味目な獣人が現れた。
それはそれは綺麗な声で歌い始める鳥獣人。
ワーー!!っと歓声があがり、短い歌が終わると、周りの巨木から一斉に色鮮やかな鳥獣人が中央に向かい飛んできて、ぶつかる寸前で上空に飛び上がる。
その後は様々な編隊飛行を見せ、それに合わせて先程の綺麗な声で歌が聞こえる。
続いて現れたのは、小さな鳥獣人の子供達。
鮮やかな羽を広げ、低空飛行で花や木の実の菓子等を客に降らせる。
俺に大量に菓子を降らせるのは止めて下さい!
あとユーグラムが花に埋もれております!
鳥獣人の好みは知らないけど、ユーグラム大人気です!
そしてフィニッシュは、男性の鳥獣人による火の輪潜り。
アクロバットな動きで現れた、男性の鳥獣人は、魔法で作られた火の輪を次々に掻い潜り、素早い動きで動き回る。
火の輪と戦っているかのよう。
最後に、だんだん小さくなる火の輪を、羽をたたんだ状態で矢のように潜り抜けて、火の輪が弾けて終わる。
ワーー!!っと歓声と拍手の中、出演した全員が上空で輪になって礼をして、それぞれに客にアピールして巨木に帰り見えなくなって終了。
青空に映える色取り取りの鳥獣人を見て、面白かったけど目がチカチカする。
この、大量の菓子は持って帰って良いそうです。
食えないんですけど!
ショーの後は、町をブラブラ歩きリードリー隊長のお薦めの宿を取る。
何か珍しい物があると良いね!
町の区画は大雑把には分かれていて、言ってしまえば肉食系と草食系。
後は体の大小で、だいたいで分かれているらしい。
町の中央付近は商業区、端に行くほど生産区といわれる職人が多く住む区画。
その外側に農場があるらしい。
農場では様々な野菜、木の実、中にはミミズ畑もあるとか。
ユーグラムの顔が、無表情なのに引き攣ってます。
町では特に珍しい物はなく、適当に探索を終えたら宿に戻って早目に寝ました。
夕飯は普通に、サラダと芋とシチューでした。
ユーグラムが心底ホッとしてました!
他の面々もね!
良かったミミズとか出なくて!
ちなみにリードリー隊長は、肉食系鳥獣人で、好物はワームと呼ばれるミミズの魔物だそうです。
聞かなくて良い情報です!
おはようございます。
今日は曇りです。
昨日の夕飯と同じメニューの朝食を食べ、宿を出ると、
「おはよう!諸君!」
朝から暑苦しい笑顔のリードリー隊長に挨拶され、町の門まで見送られた。
ユーグラムが、リードリー隊長と距離を取ってたのは、気付かなかったのかスルーしたのか。
またおいで!と手を振られ町を出た。
門の上の獣人さんは、微動だにしてなかった。
トコトコと街道を戻る。
分岐点まで戻った所でお昼時になったので、テントは出さずにタープだけ出して、キッチンセットを設置。
夕べも今朝もベジタリアンなメニューだったので、肉スキーなメンバーに肉料理をリクエストされた。
クラックも狐人獣なので、肉好きだそうです。
妖狐族は生肉もいけるそうです。
人間には生肉、生魚は危険です!
お昼のメニューはハンバーグです。
ユーグラムが良い声で鼻唄を歌いながら肉をミンチにするのを、クラックがドン引きで見ています。
いつもの事だよ!
あとは簡単な千切るだけのサラダに、リス町で買った木の実を砕いて乗せて、スープはネコ町で買った鰹節で出汁を取り、リス町味噌の味噌汁。
あとはご飯ね!ハンバーグのソースはキノコソースです。
それではいただきます!
クラックの食い付きが凄いことに。
量は皆と同じくらいなんだけど、食べるのが早い。
一緒になって、フォークとナイフで食べるプラムにビックリして、暫く固まってたのに、食べ終わるのは同時だった。
デザートに、昨日トリ町のダンスショーで貰った菓子を出したら、不評だった。
固さは人間の菓子と変わらなかったけど、味が微妙にハーブ臭かった。
あまり好みではないハーブが、大量に練り込まれてた。残念。
まあ、俺はどっちみち食えないけどね!
腹も満ちたので、再度出発。
イヌ町に向けて進んでいると、前方にキャインキャインと子犬の声。
何事?と思い近付くと、スライムに襲われてる子犬の獣人を発見!
そして誰よりも先に動いたのは、ユーグラムのポッケに居たハク。
ポッケから半身を出して、触手でプスッと核を一突きして終了。
何事も無かったかのようにポッケに戻った。
突然動きの止まったスライムを、木の棒で滅多打ちにしてる子犬獣人と、スライムに絡まれてギャン泣きしている子犬獣人。
クラックが一方の木の棒を抑え、助がビローンとスライムを剥がして、怪我の確認をしたけど無傷。
「なんで君らはこんな所に居るでやす?まだ町の外に出る資格は持ってない歳でやす」
助かった事を理解して、二人抱き合ってギャン泣きする子供達に、水を飲ませて落ち着かせたあと、クラックが呆れたような、不思議そうな顔で聞いてみれば、
「お、お、おがあさんが、病気になっで、たがら、良く効く薬草が、町の外にあるっで、取りに来たんだ」
「お父さんはどうしたでやす?」
「おどうざんは、しごどで、帰ってこなくて、たがら、僕たち二人で何とかしようとおもっで!」
ズビズビ泣きなからも、事情を説明する子供達。
二人は兄弟のようで、スライムに襲われてたのが弟、棒で戦ってたのが兄のよう。
取り敢えず落ち着いてきたので、町まで一緒に行くことになった。
ひきつけを起こす程泣いてた弟君が、歩くのもヨロヨロだったので、ソラに乗せてやったら、物凄く慌てて、何度も落ちそうになったので、後ろに兄も乗せた。
俺はアールスハインの抱っこ。
プラムはディーグリーの抱っこになった。
イヌ町に着く頃には二人も落ち着いてきて、今はお父さんに叱られる事に怯えている。
兄はリルコ、弟はレルコと名乗った。
イヌ町も、トリ町同様立派な門と柵があり、何故か門ド真ん前で仁王立ちするイヌ獣人の巨人が居た。
その巨人イヌ獣人を見た途端、アワアワと慌てるリルコとレルコ。
成る程、お父さんね!
巨人イヌ獣人は、鼻をスンと動かし、真っ直ぐにこっちを見たかと思うと、何故か背中に背負った巨大な剣で斬りかかってきた!
慌てはしませんよ、バリア張ってるし。
ただビックリはするよね。
なので、バリアの反撃食らってひっくり返り、後頭部を強打したのは自業自得ですよ!
慌てて駆け寄るリルコとレルコ。
お父さんは何とか起き上がり、こっちに敵意満々の目を向けて、威嚇なのか牙が剥き出しになっている。
「俺の息子達をどうするつもりだった貴様等!!」
野太いひっっっっくい声で聞いてきた。
突然の攻撃に驚いて、バリアに驚いて、反撃に驚いて固まってたクラックが慌てて前に出て、
「ちょっちょっ、ちょっと待つでやす!ミルコ隊長!俺っち達は、子供を助けただけでやす!剣を納めるでやす!」
「貴様、クラック!悪党の片棒を担ぐほど落ちたか!?」
隊長?これが?
子供達も、何とかお父さんを宥めようとしているのに、一向に人の話を聞かないこれが?
これはどうするのが正解か、面倒臭いから一回、倒しちゃえば良くない?とか考えてたら、ゴスッ、と、さっきぶつけた後頭部を狙って、剣の柄で一突きした人物が!
後頭部を押さえ、悶える隊長?
「ちょっとちょっと隊長~、少しは冷静に物事を見て下さいよ~。この人達、どう見ても子供達を送ってきてくれた人達でしょ~よ。子供達が居なくなって慌ててたのは分かりますが、いきなり剣を抜くって、隊長としてど~なんですか~?」
細身で半分閉じたような眠そうな目の、やる気の無さそうな人獣が、力の抜ける話し方で隊長?を宥めた。
「貴様!後ろから不意打ちとは卑怯な!」
「ヘ~、それなら何の構えもしていない冒険者に、いきなり斬りかかるのは卑怯じゃないと?しかも相手は赤ん坊を抱えた相手なのに~?」
そこでやっと、ちょっと冷静になった隊長?は、俺達を改めて良く見た。
バチッと目が合う。
目を見開く隊長?
そして自分の足にしがみついて、泣きながら止めようとしている我が子達。
周りを見て、自分の剣を見て、眠そうな男を見て、子供達を見て、俺達を見て。
やっと状況を理解した隊長?は、ガバッとその場に土下座した。
「申し訳ない!私の早とちりであったようだ!」
物凄い大声で、怒鳴るように謝った。
シーーーンと静まる場。
頭をボリボリ掻いて、眠そうな男が、
「あ~、すいませんね~。この人直情型なんで、一旦頭に血がのぼると、人の話が聞こえなくなるもんで~、勘弁してやってもらえませんかね~?」
「あーまー、こちらは何の被害も無いので構わないが」
「それはありがとうございます~。ほら隊長、立って!まずは事情を聞きますよ~」
土下座してる隊長のケツを蹴って立たせる眠そうな男。
男に促されて、ゾロゾロと付いていく。
簡素な応接室に通されると、一応身分証の確認をされてから、まず子供達が話し出した。
確認の為に俺達の話も聞いて、やっと理解した隊長。
子供達をまず家に帰し、改めて謝罪された。
「本当に申し訳なかった!妻が倒れ、子供達が居なくなったと聞いて、町中を探し回ったが見つからず、外に探しに行こうかと思案している時に、我が子を連れた者が現れたので、てっきり誘拐犯なのかと早とちりをした!我が子の命の恩人とは知らず、剣を向けるなど!私は何と愚かな!」
土下座の頭が床にめり込みそうです。
ソファに座って足を組み、眠そうな男が、
「だから~、俺、言いましたよね~?慌てず、状況を良く見て下さいって~。なのに人の話も聞かずに、飛び出してって走り回って、挙げ句に恩人に斬りかかるって~、最悪ですよ~」
容赦なく追い討ちをかける。
この人何者?
「分かっている!この上は、隊長職を返上…………」
「それは俺が面倒臭いんで、止めて下さいね~!幸い、相手は隊長に斬りかかられたのに無傷だし~、誠心誠意謝って、許してもらって下さいよ~」
「それは当然そうするが。私のような者が隊長では、下のものに示しがつかんだろう」
「そこは~、俺が適当に良いようにしとくんで~、隊長とか面倒臭いのは、隊長がやっといて下さい~」
何なんだろうかこのやり取りは?
力関係がメチャメチャじゃない?
出ていって良いですか?
ボケーっと見てる事しか出来ない俺達。
クラックは、微妙な顔で苦笑してる。
「まぁまぁ、ユーリス副隊長、そのくらいで。俺達も無傷で、特に気にしてないでやす」
「そ~お~?悪いなクラック、お連れさん達も、うちの隊長がすみませんね~。よ~く言い聞かせておくんで、許してやって下さい」
副隊長だったの?
副隊長にもゆる~く謝られて、やっと部屋から出られた。
お詫びにって、隊長のポケットマネーで宿を取ってくれるそうです。
宿は副隊長のお薦めの、ちょっと良い宿だそうです。
そこまでしてくれなくても、って辞退しようとしたけど、隊長に押しきられた。
なるべく予約投稿するつもりではいますが、ここの所、私生活の方でお葬式が立て込んでいて、中々時間が取れません。
うっかり忘れたり、遅れたりしたらごめんなさい!




