トリ町
いつも読んで頂いてありがとうございます!
おはようございます。
今日の天気は晴れ。
本日の予定は、ネコ町を出て、また違う町に行く予定。
川魚と芋の朝食を食べて、宿を出ると、
「皆さんおはよー!」
にこやかに挨拶してくるニコラス隊長。
隣には、人相の悪い茶トラネコ獣人さんが居て、ペコリと軽く頭を下げてきた。
皆して挨拶を返すと、
「今日町を出るって聞いたから、一応、ネコ町の警備隊長も紹介しとこうと思って!この無愛想なのが、ネコ町警備隊長の、ニクスって言うんだー!愛想悪いし無口だけど強いよー!」
「……………ニクスだ」
「冒険者のアールだ」
「同じくユーグです」
「タスクだ」
「グリーです!行商もしてます!」
「ケータでつ!」
各々に自己紹介して軽く握手。
俺の時だけ雰囲気がホワッとするのは、見た目と違って子供好き?
子供には怖がられそうだけど。
挨拶も終わったので、町の入り口に移動。
雑談しながら歩いていると、
「ああ、夕べは教えてもらったねこまんま?で、大変な事になったんだよー」
「何があったんです?」
「壮絶な戦いが繰り広げられたよ」
ニコラスが深刻な顔で言うので、
「ねこまんまーで?」
って聞いたら、重々しくウンと頷き、
「リス町とネコ町は隣接してるから、見回りも合同で行う事が多いんだけど、夕飯時に、教えてもらったようにガリガリを削って、ご飯に掛けてたら、食堂に居たネコ族の全員がこっちを凝視しだして、ジワジワ近寄ってくるわ、ずっとフンフン匂いを嗅がれるわ、しまいには奪われそうになるわ、大変だったよー」
「それを阻止するために乱闘になったのを、宥めるのが大変だった」
ボソッとニクス隊長が捕捉した。
「フフ~ン、僕の料理を奪おうとするのが悪いのさ~」
「群がる奴らを蹴散らして、涼しい顔で飯食ってた」
「僕の実力で黙らせたのさ!」
「その後、テールの露店に押し掛け、ゲム爺さんの所にも押し掛け、乱闘になった」
「ゲム爺さん圧勝だったね~!しかもゲム爺さんもねこまんま?大量に食ってたし!いつもより高い値段で売ってたし!」
ケラケラと笑いながら話すニコラス隊長。
わざとですか?わざわざ詰め所で見せびらかして食ったんですか?
そう言えば、昨日のレストランの料理長も腹黒って言ってたね!
可愛い顔の愉快犯ですね!
町の柵に着くと、クラックと合流。
昨日リス町に到着した時に、クラックの顔色が微妙に悪かったので、ニコラス隊長がリス町の宿に突っ込んで、今まで放置してたのでした。
鰹節の事に夢中で、クラックの事を完全に忘れてたよ!ごめんね!
ニコラス隊長的にも顔色の良くなったクラック。
軽く挨拶して、ニコラス隊長とニクス隊長と別れた。
「またおいで~!」
と輝く笑顔で手を振るニコラス隊長。
見た目美少年な腹黒隊長に、手を振り返し別れた。
クラックにリス町とネコ町の話をしながら街道を歩く。
クラックとニコラス隊長は、付き合いも長いらしく、腹黒エピソードに苦笑してた。
街道の二股に別れた場所に着くと、
「右に行くとイヌ町、左に行くとトリ町でやす。どっちに行くでやす?」
「それぞれの特徴は?」
「どっちの町も、リス町とネコ町の倍以上の広さがあるでやす、後はイヌ町なら犬種が沢山居るでやす。トリ町は種族が沢山でやす」
「見所は?」
「そうでやすね~、イヌ町なら獣族のレースは有名でやす。トリ町は空中ダンスショーが有名でやす」
「う~ん、どっちも見てみたいな~」
「どっちもは、日程上無理でやす。闘技大会に間に合うように帰れないでやす」
「闘技大会は五日後だよね?」
「どっちの町も、偶数日にしかレースもダンスショーもやらないでやす。少なくとも二日前には町を出ないと、宿が取れないでやす」
「それなら、どっちも見ても間に合うでしょ?」
「この先、イヌ町にも、トリ町に行くにも、半日は歩く距離でやす。急いで帰っても一日は移動に使うでやす。そしたら帰りが間に合わないでやす」
「?今日は偶数日だから、イヌ町のレースを見て一泊、次の日トリ町に行って、一泊してダンスショー見れば間に合うでしょ?」
「帰りの一泊を忘れてるでやす!」
「帰りの一泊?」
「イヌ町でも、トリ町でも、行った帰りに途中の町に一泊するでやす」
「飛んで帰るからそんなに掛からないでしょ?」
「とぶ?」
ディーグリーとクラックの会話が噛み合ってない。
「ああ、クラックにはまだ見せたことがありませんよね!私達は、馬車よりも早い移動手段を持っているので、帰りの時間的な心配は要りませんよ!」
「ああ、そっか!ゴメンゴメン、説明してなかった!」
「………それが、とぶ、でやすか?」
「説明するより見せた方が早いか~」
ユーグラムの説明で、クラックに何が通じてないか、やっと理解したディーグリーが、おもむろにボードを出す。
「これに乗って空を飛べば、一日くらいの距離なら、数時間で到着出来るよ!」
言葉と同時にボードに乗ってスイッと周囲を一周。
クラックはそれを見て、アングリと口を開け固まった。
暫く固まったまま瞬きもしないので、ボードから降りてドヤ顔をしてたディーグリーが、クラックの目の前で手をパチンと打ち合わせた。
「な、な、な、なんでやす?!今のはーー!!」
「これはね~、ボードって言う魔道具で空を飛べる道具だよ~」
「に、人間族は恐ろしい道具を作るでやす!」
「別に恐ろしくは無いよ?」
「恐ろしいでやす!そんなのに乗って、爆弾でも降らせたら無傷で町を壊滅出来るでやす!」
「ええ~、クラックの考え方の方が恐ろしいんだけど~!今のところ、騎士団と、王都の上級兵士にしか支給されてないから、爆弾が降る心配はしなくて良いかな~」
「………………本当でやすか~?それなら何であんた達は持ってるでやすか~?」
「それは俺達が学生時代に、この魔道具の開発に関わったからだね~」
俺の存在を大っぴらにしないために、便宜上そう言う事になりました!
「学生が、なんてもんを開発してるでやすか!?」
「いやだって、自由に空を飛ぶのって夢があるでしょ~?」
「トリ町の周辺は、絶対飛んだらダメでやすよ!」
「何かあるの?」
「トリ町のテリトリーを勝手に飛ぶのは、問答無用で攻撃対象になるでやす!」
「町の上空だけじゃなく?」
「好戦的な若い奴等の、格好の攻撃対象になるでやす!」
「あ~、了解」
「では先にトリ町に行って、その後イヌ町に、帰りに飛ぶのなら問題無いですね?」
「まあ、それなら。でも俺っちは付いて行けないでやす」
「のしぇてくよー!(乗せてくよ!)」
「なんでやす?」
「ケータちゃんの魔道具に乗せてくれるって!」
「そんな複数人乗れる魔道具も作ったでやす?!」
「いや、ケータちゃんの魔道具は、ダンジョンから出た、古代魔道具だよ~」
「そ、それなら、まあ、安心でやす?」
「いやいやいや、俺達のボードだって安心だから!」
「そうでやすか~?落ちたら死ぬでやす!」
「落ちても自動で拾ってくれる、安全設計です~!」
「なんでやす!その高度な技術!?ほんとに開発に関わったでやす?」
「うわっ、完全に疑われてるー!こう見えて俺達は、高等魔法学園を飛び級で卒業した、チョ~優秀な生徒なんだけど~!」
「本当でやす~?高等魔法学園って、金も頭も良くないと卒業出来ない学園でやすよ~?」
「そこまで疑うなら、証拠を見せてやる!これを見よ!学園を卒業した証のメダルだぞー!」
ディーグリーが見せたのは、冒険者タグと共にぶら下げてた、卒業メダル。
裏に卒業した年月日が刻印された、学園の校章のメダル。
「これは、本物でやす!」
「やっと信じた~?」
「本当に、高等魔法学園を卒業したならなんで冒険者なんかやってるでやす?卒業生なら、城勤めの資格も取れるでやす」
「趣味です~!」
「うわー、金持ちの考える事は理解できないでやす~!」
「まあ、金持ちなのは親だからね~、旅に出てからは援助は一切受けてないよ~?」
「実力があるのは良いでやすが、なんでわざわざ自分から苦労する道を選ぶのか、理解できないでやす~」
「?特に苦労はしてないよ?楽しいし!」
「…………楽しい。冒険者は、命の危険に常に晒される職業でやす!」
「…………………晒された覚えがないな~?」
「冒険者稼業初心者なら仕方ないでやす」
「一年以上旅してるけど?」
「………………それで危険な目に合わないのは、余程依頼を選んだんでやす?」
「ランクに合った依頼を受けたよ?」
「それはおかしいでやす!皆さんのランクは、何ランクでやす?」
「全員Bだね」
「それで危険な依頼を受けてないっておかしいでやす!普通は大怪我の一つや二つ経験してるでやす!」
「覚えが無いな~?」
どこまでも噛み合わない会話を続ける二人をよそに、前方にはトリ町が見えてきた。
「おーい、クラック、そろそろトリ町に着くけどー?注意事項は?」
「ハッ!あ、ああ、トリ町では種族によって、食べるものが違うでやす。もしも持ってる食料があるとしても、それは出さない方が良いでやす。その場に売ってるものを、その場で飲み食いするのが間違いないでやす」
「居住場所によって変わるとか?」
「居住場所は、複雑に混じってるでやす。本当に店のその場で食べるのが無難でやす」
「了解。他は?」
「種族によっては、虫を食べる種族もいるでやす。人間族の、特に女性は悲鳴をあげる人もいるでやす。喧嘩になるので注意するでやす」
クラック以外全員が、ユーグラムを見る。
「……………………善処します」
目を逸らしながら、一応でも返事をしたので、そんな場面に遭遇しても、騒いだりはしないだろう。
い~い声の悲鳴ってのも聞いてみたいけどね!
その他にもちょっとした注意を受けて、トリ町の門前に到着。




