リス町味噌
誤字報告、感想、ブクマをありがとうございます!
トコトコと歩いて二十分くらい。
町の広さは幻獣の町と同じくらいの規模なのかな?
着いたのは地下に続く洞窟。
洞窟の入り口には四人の警備に当たるリスの人獣さんと獣人さん。
ニコラスにビシッと敬礼してるけど、皆さん身長低めで童顔なので、子供のごっこ遊びに見えて、変に微笑ましくなる。
中はそんなに広くはないけど、地下にあるので、少しだけ涼しい。
蟻の巣状に作られた人工的な洞窟は、一部屋八畳間くらいの広さで、そんな部屋が幾つもある。
その部屋ごとに色々な物が貯蔵されてる。
案内されたのは、入り口近くにある部屋で、木の樽がたくさん並んでる部屋。
リス人獣の女の人達が忙しなく動いている。
「皆おつかれー!ちょっと邪魔するよー」
「あら、ニコラス隊長、こんな所に珍しい、どうされたんです?」
「人間族のお客さんを案内してるんだよー」
「こんな所に?」
「人間族では、もう、ミソは結構流通してるらしくてね、うちで取れたミソと、味比べをさせて貰おうと思って!」
「まあ!それはとても良い案ですね!出来れば私達も参加させて頂けませんか?」
ニコラス隊長がディーグリーを見る、ディーグリーが俺を見る。
オーケーサインを出せば、ディーグリーもニコラス隊長に同じようにオーケーサインをする。
と言うことで、味見するためにリス町にある、ラバー商会のレストランに向かう途中、人気者のニコラス隊長に絡みに来たちびっこ達と遭遇。
「「「ニコラス隊長こんにちは~」」」
「はい、こんにちは!」
「ねえねえ、人間のお客さん来たんでしょ?何しに来たの?」
「彼等は冒険者だから、色々な町を回っているんだよ!」
こっちをチラチラチラチラチラ見ながら、ニコラスと話すちびっこ達。
その揺れる尻尾がラブリー。
ユーグラムが、無表情でホワホワしてる。
ジワジワ近寄ってきて、尻尾が無いことをとても不思議そうに見られる。
ソラに乗ったままの俺とプラムの事もガン見してる。
俺は、ちびっこ集団の後方にポツンと立って、一心に何かをガジガジしてるポッチャリ君を見ている。
とても気になるので、声を掛けてみよう!
ぴょいとソラから飛び降りて、
「にぇーにぇー、にゃにたびてんのー?(ねーねー、何食べてんの?)」
「むぐっ?」
「こいつが食ってんのは、ガリガリだろ、知らねーの?」
「はじめてみたー」
「食ってみるか?」
答えてくれたのは、ポッチャリ君ではなく十歳くらいの男の子。
言葉と同時にポケットからガリガリを出してこっちにくれる。
「ありあとー!」
お礼を言って受け取り、よくよく見る、匂いを嗅ぐ、端っこを齧ってみる。
全く歯は立たなかったけど、
「ひょーーーー!!」
ついつい叫んでしまったら、
「なんだケータ、雄叫びあげて、何か良いもん貰ったのか?」
「たしゅきゅ!しゃばぶちはっけん!(助!鯖節発見!)」
助に貰った物を掲げて見せたが、奴は不思議顔をするだけ。
「しゃばぶちって、なによ?」
「かちゅおぶちのー、しゃばのやちゅ!(鰹節のー、鯖のやつ!)」
「かちゅおぶち……………………鰹節?それのしゃばのやつ?ああ、サバ?鯖節!」
「しゃばぶちー!」
「あーー、そりゃ大発見だ!」
やっと通じた模様。
俺から鯖節を受け取った助は、繁々と眺め、匂いを嗅ぎ、端っこを齧ってみる。
やっぱり歯は立たなかったけど、
「あーうん、なんか懐かしい味な気はする?」
いまいち要領を得ないのは、鯖節を直接齧った経験が無いからだろう。
実際に鯖を使っているかは謎だが、風味は鯖節その物なので問題なし!
「こりぇ、どこうってーの?」
振り向いて、少年に聞いてみたが、
「んん?」
通じなかった模様。
「これはどこで買えるかな?」
助が通訳すれば、
「隣のネコ町に売ってるぞ!」
と教えてくれた。
「おお!にぇこまちいく!(おお!ネコ町行く!)」
少年が指差した方向に走り出そうとしたら、腹をキャッチされて止められた。
「こらこら、今すぐには行かねーよ!これから味噌の試食会でしょうが!」
「しょーらった(そうだった)」
「なんだよ、そんなに気に入ったのか?」
「うん!いっぱーほちい!(うん!いっぱい欲しい!)」
「ふーん、人間て変わってんな?ガリガリは、ネコ族とリス族くらいしか食わないのに」
「しょーなのー?」
「固いからな!」
そのまま食べる前提なんですね!
「あ、しょーだ、こりぇ、おれーね!(あ、そうだこれ、お礼ね!)」
道中貰った、俺には食えない菓子を、子供達にゴソッと渡すと、凄い喜ばれた。
「ええ!こんなに貰って良いのかよ!」
結構な量の菓子だったので、他の子達にも声を掛けた少年は、各々に持っていた鯖節を集めてくれた。
お互いにホクホクになって別れた。
そんな俺達のやり取りを、ニコラス隊長が心底不思議そうな顔で見てて、
「ええと、そのガリガリはとても固いから、君には食べられないんじゃないかな?」
そうね、菓子も食えない俺では、鯖節を直では食えないね!
「おりょーりちゅかうよ(お料理使うよ)」
「ええと?」
ニコラス隊長にも、俺の言葉は通じないが、
「あら、ガリガリって、お料理に使えるの?」
一緒に来たお姉さんには通じた!
「おいちーよー」
「使い方は教えて貰えるかしら?」
「いーよー」
「うふふ、それは楽しみね!」
ニコラス隊長そっちのけで、話が纏まったのでまた歩き出す。
道中に話したのは、ミソの作り方。
作り方と言っても、前世の、麹や大豆を使うわけではなく、バレーボール大の木の実を割り、中の種を取り出したら、果肉の部分をこそげ落とし、塩と混ぜて樽に詰め、週に一度の頻度で樽全体をかき混ぜると、三ヶ月程で出来上がるとのこと。
お姉さん達は、かき混ぜる作業が終わった所だったらしい。
そしてお姉さん達は、お姉さんだけどお母さんらしい。
皆、若いお母さんである。
そして着いたのは、ラバー商会傘下のレストラン。
休日で閉まってたレストランだが、ニコラス隊長が事情を話して、ディーグリーが顔を出すと、慌てて中に入れてくれた。
レストラン店主は、人間族でした。
「坊っちゃん、来やしたね!話はガジルから聞いてますぜ!」
「あれ?知り合い?行商だから知ってる、って感じでもなさそうだけど?」
「あれ?坊っちゃん言ってないんですかい?」
「あはは、あんまりかしこまられても面倒だから、行商しながら冒険者してるって言ってる~」
「あー、ですが、このニコラスは、腹は黒いですが、ちゃんとした奴ですぜ?」
「あーうん、えーと、では改めまして、ディーグリー・ラバー、ラバー商会会頭の次男です」
「成る程。確かに大声で名乗ると、面倒そうですね!理解しました」
「ええ、身の安全と面倒ごとの回避の為にも、大袈裟にしないでくれると助かります!」
お互いに笑顔の圧が強いですね!
まあ、何はともあれ、
「そんで?今日は、昼飯を食いに来たって訳でもなさそうだが?」
「うん。急で悪いんだけど、厨房を借りても良いかな?ミソの試食会をしたいんだよ!」
「へー、そりゃ興味深い!俺も去年、王都で一回食っただけだから、いまいち味の違いがわかんねーんだよな。んで、俺は調理を担当か?」
「あ、調理は俺達がやるよ~、センデは味見して!」
「はあ?坊っちゃんが料理!?食えんのかい?」
「フフン、馬鹿にしちゃいけないよ~、この一年、冒険者稼業と共に、色んな所で色んな料理だってしてきたからね~!」
ディーグリーがドヤ顔です。
まあ、この一年で、皆成長したよね!ユーグラム以外は!
とても疑わしそうな顔のセンデ料理長に見守られながら、調理をします。
さてさて何を作りましょうかね?
まずは、味噌の味自体を知るために、スティック状に切ったキュウリで、味噌をちょいっと掬ってボリボリ。
他の面々もボリボリ。
アマテ国の味噌は、完熟した黒っぽい味噌、リス町の味噌は、色も薄く出来立ての新味噌って感じの味の違い。
風味も違うし。
黒っぽい味噌の方は、醤油のような風味もある。
リス町味噌は若い感じ。
これはあれだね!両方美味しいし、使い方次第だね!
まずは味噌汁。
水に乾燥昆布を沈めておいて。
さっき貰った鯖節を、カッターで削ぐ。
切れ味が半端無いのでスラッスラッと削げますよ!そのうちどこかで、ちゃんとした削り節器作って貰うけど!
薄く削がれた鯖節が山になったので、昆布の沈んだ鍋を火に掛ける。
沸騰寸前で削がれた鯖節を入れ、沸騰させないようにちょっとだけ煮たら、ザザーっとガーゼのような布を敷いたザルで濾す。
鯖節なので、香り豊かな綺麗な黄金色の出汁、とは言えないけど、深いコクの有る出汁の完成!
一応皆にも味見してもらう。
魚臭く感じる人もたまにいるからね。
皆は大丈夫そう。
味噌汁の具は、アマテ国味噌にはなめこに似たキノコ。
リス町味噌には大根。
その他のメニューは、リス町味噌で味噌おにぎりと、料理に良く使われる大きな葉っぱで、キノコと鯛に似た魚と味噌を包んで焼いた、朴葉焼きモドキ。アマテ国味噌で肉野菜炒め、後肉味噌も作った。
このところ、野菜と芋とたまに川魚しか食ってなかったので、肉が多めのメニューなのは仕方ない。
味噌の味比べなので、味噌メニューばかりだから、味はちょっと薄目。
皆さんバクバク食ってます。
お姉さん達も、バクバク食ってます。
あれだね、前から思ってたけど、この世界、男女の食事量がそんなに変わんないよね!
女の人でも、肉体労働とか普通にするし、男の人でも非力な人もいるし、だからかはわからないけど、女の人だからって少食って事も無い。
各々の体に合った量食べる。
たまに異常な量食べて、ほっそりな人もいる。
まあそれは前世にも居たけど。
肉味噌を更に食べる為に、米を追加で炊かされました!
皆さん心行くまで食べ尽くしたのか、凄く満ち足りた顔をしてらっさる。
「いや~、リス町のミソも美味しかったね~!全然売りに出して良いじゃん!これは売れるよ!早速仕入れなくちゃ!」
「料理によって変えるとは、坊っちゃん達も侮れませんな!いや~、坊っちゃんがこんなに料理上手になってるとは!俺もウカウカしてられませんぜ!」
「そうだねー、うちの町のミソは、あっさりしてて、アマテ国のミソとはちょっと違うけど、これはこれで美味しかったな~」
ニコラス隊長がウヘヘーって顔で言う。
満足そうですね!
お姉さん達も各々に、こんな料理は?あれに混ぜたら、とか意見交換に夢中。
好評のようで何よりです。
ディーグリーが手紙を書いて、ラバー商会で正式販売するようです。
その前に、自分達の分は当然確保したよ!
さて、腹も満ちたし、他には特に見るべき所も無いので、木の実の露店を回ったら、お隣のネコ町に行きますよ!
鰹節もあると良いなーー!!




