幻獣の町
誤字報告、感想をありがとうございます!
羊な執事さんが去った後、ギルドの食堂で改めてクラックと向き合う。
「え~、そんで?あんたらはこの後どうしたいんでやす?」
「そ~だね~、観光はしてみたいけど、この街には名所とかある~?」
「名所でやすか~?この街は、人獣が多く住むってだけの街なんで~、特に珍しいもんはないでやす~。あえて言うなら、色んな人獣が見れるくらいでやすかね~?まあ、闘技大会は有名でやすが~」
「ん~、それは十日後だって言うし、チケットは頼んであるし、んじゃ~この周辺の見所は?」
「あ~、そ~でやすね~、幻獣族の里なんかは、そりゃ~珍しいもんでやすが、あすこはね~、入れないでやすからね~」
「へ~、幻獣族!それはまだ見たこともないな~!」
「あすこは、仕来たりや風習とかでうるさい事はないんでやすが、まず里に入るのが難しいでやすからね~」
「ええ?それは誰かの許可が要るとか?」
「ああいや、幻獣の里は、地図上ではこのすぐ近くでやすが、実際に辿り着けるのはほんの数種の人獣か、獣人だけなんでやす~」
「ええと?それは罠が有るとか?」
「いやいや、ああ!幻獣族を知らない人間族の方は知らないでやすか?幻獣族は、基本、その体から幻術を常に発している種族でやして、無意識に発する幻術で、里への道が見付からないんでやす~。幻獣族同士なら、幻術は見破れるらしいでやすが」
「へ~、そんな話初めて聞いた~。じゃあ、他の種族はどうやって幻獣族の里に行くの?」
「基本は招待してもらうんでやす~。そうでない場合は、嗅覚や聴覚のよっぽど優れた獣人の案内人を雇うかでやすね~。あ!ちなみに、俺っちには無理でやす~」
「ふ~ん、幻獣族か~、見てみたかったけどね~」
「案内人を探しやすか?それとも自力で辿り着けるか、チャレンジしやすか?」
「ええ?自力でチャレンジとかもありなの?」
「まあ、それもひとつの観光としてありやすからね~、辿り着ける奴はほぼいないでやすがね~」
「はは、何だかそれも面白そうだね!」
「フフフ、チャレンジと言うのも面白いですね」
「まあ、無理とは思うが、暇だしな!」
「んじゃまあ、一度試してみますか!」
「そ~でやすか~?それじゃあ、チャレンジしてダメな時は、その周辺の町でも回りやすか?」
「ああ、それで頼む」
「りょ~かいでやす~!」
と言うことで、宿をチェックアウトしたら、幻獣の里チャレンジに行くことになりました!
街門を出た途端巨大化したソラに、クラックが腰を抜かし、俺とプラムが乗ってもビクともせずに歩き出すソラに目を剥いて、
「そ、そ、そ、それってば妖獣でやすか?!大きさを自在に変えられる妖獣なんて、随分と希少な種族を従魔にしてるなんて!あんたらはいったい何なんでやすか~?!」
大きさを自在に変えられるのって、普通じゃないの?
「よーじゅー、おおきしゃかえりゅの、ふつーららいの?」
「ふぇ?」
「あー、妖獣とは、大きさを変えられるのは、普通ではないのか?」
「いやいやいやいや!普通なんかであるわけないでやす!妖獣の中でも、ほんの一握りの力の特出した個体が、大きさを変えられるようになるでやす!それを従えられるなんて、大妖精だけでやす!」
「だいよーしぇーって?」
「だ、大妖精は、三百年以上生きた、妖精族の纏め役を任される、力の強い妖精族の長の事でやす!」
「ふぇー」
「いやいやいやいや、あんたら何者でやす?!」
クラックが物凄い目で見てくるんですが!
「あー、いや、この子は、妖精族の突然変異で、ソラは怪我をしている時に助けた事があって、それからはケータに従ってくれている」
「妖精族の突然変異?!そんなの聞いたことないでやす!その子はあんたの息子じゃないんでやす?!」
「俺に息子は居ない」
クラックにガン見されております!
アールスハインと俺とクラック以外は、皆背を向けて笑いを堪えてるし!
道中も散々言われたからね!
子供連れで冒険者なんて、無謀だ!とか怒られる事もあったし。
まあ、実力で黙らせたけどね!ドヤァ!
「妖精族の突然変異。ま、まぁ、それが本当なら、希少な妖獣を従えるのも、無理が無い?んでやすかね~?」
何だか無理やり自分を納得させてるようなクラック。
でもね、
「もーいっぴきいりゅよ?」
俺がクラックの方に、掌を上に向けて出せば、ユーグラムのポケットからピョーンと飛び出したハクが、掌に乗る。
ギョッと後ずさるクラック。
そのまま掌を下に向ければ、落ちると同時に大きくなるハク。
クラックに触手を振っている。
「んなーーーー!!」
クラックの尻尾が凄い事になっている。
倍くらいの太さになった尻尾を、思わず撫でちゃった!ら、
「うひゃあ!」
とか言って、飛び上がり、股の間に挟んだ。
「ふぅーふぅーふぅー、ええと、人獣も、獣人も、尻尾は急所の一つなんで、突然触るのは、勘弁してほしいでやす。そんで、もう妖獣は居ないでやすか?」
肩で息をしながら、自分を落ち着けようとしているのか、ジト目で見ながら質問するクラック。
「ラニアンとー、ぷりゃむいりゅよ!」
足元に居たラニアンと、ソラに乗ってるプラムを指差して言えば、
「…………………………何なんでやすか?妖獣集めて、どっかの街でも襲うんでやすか?俺っち平和主義なんで、揉め事には関わりたくないでやす!」
「ともらちなったらけよー?(友達になっただけよー?)」
「どっかに攻め込む準備じゃないんでやすか?」
「けーたも、へーわしゅぎよー?」
「これだけの戦力が有りやすのに?」
「けーたのが、ちゅよいよ?」
「…………………………妖精族の突然変異」
何だか恐ろしい物を見たような目で見られております!
害は有りませんよー!
「本当に、何処かと争うつもりも、何かを壊すつもりもないぞ?」
一応アールスハインがフォローを入れるが、まだ納得出来ない様子。
その後も暫くブツブツしたあと、ガシュガシュと頭をかき回し、バンバンと両頬を叩いたかと思うと、
「よし!俺っちはただの案内人!街に被害が無い限り、俺っちの責任じゃない!んじゃ~行きやすよ~!」
気持ちの整理がついたらしい。
だいぶ投げ遣りだったけど。
たまに出てくる魔物を適当に倒しながら進む。
街道沿いなので、それ程厄介な魔物も出ずにサクサク進む。
クラックは、たまにユーグラムの胸ポケットを見て、ソラを見て、ラニアンとプラムを見て、最後に俺を見て溜め息を吐く。
微妙に距離もとられてるし。
一体どう思われてるのか分からないけど、まあ、その内慣れるだろう。
街道を徒歩で三十分程の何もない所でクラックが止まる。
「ど~したの~?」
ディーグリーが聞けば、
「こっから先は、幻獣族の里への道になりやす。既に幻術が掛かってて、案内人でもなけりゃ~見分けは付かないでやす」
街道の横を指差しながら言うクラック。
指先を見れば、確かに何もない?
んん?意識して見れば、道が見えるね。
「そりゃみえりゅー?」
「ガウ」
ソラも問題なく見える様子。
「見えるのか?」
「みえりゅねー。はきゅー?」
「ム!」
「ラニアン?」
「キャン!」
「ぷりゃむー?」
「ヤー、ヤヤ」
ハクとラニアンは問題なく見え、プラムはぼんやり見える感じかな?
皆の返事に、アールスハインも納得して、取り敢えず俺を抱っこした。
ラニアンは助が抱っこ。
ハクは元々ユーグラムのポケットだし、プラムは自らディーグリーに抱っこされに行った。
残ったソラはデブ猫スタイルになり、体型に見合わぬ身軽さで、クラックの頭に乗っかった。
「どぅうぇぇぇ!なんでやんすか?!」
「道案内だ」
アールスハインが簡潔に言うと、物凄く複雑な顔で納得してた。
進む道は踏み均された土の道。
ただし、そこに3Dな映像が重なっている感じ。
砂漠や渓谷、荒野や湖沼、ジャングルや竹林なんかも。
次々変わる映像が、どこかのアトラクションにでも入った感じ。
だからと言って道を見失う程でも無い。
途中、プラムを抱いたディーグリーが何処か別の方向に行きそうになったのを、ハクが触手で捕まえたりもしたけど、三十分も歩いたら、薄い幕を通り抜けたような感触の後、無事幻獣の里に到着。
着いた途端、目の前に居た第一里人のユニコーンの獣人さんが、
「あんれまぁ、めんずらすぃ、おめさんら、自力で来ただか?ん?おお、おめさんは妖狐族けぇ?男で妖狐族ちゅーのもめんずらしなや!まぁ、来たんなら、ゆっくりしてけぇ。宿はここ、まっつぐ行って突き当たりにあんべよ!」
朗らかに笑いながら歓迎してくれるユニコーンの獣人さん。
お礼を行って通り過ぎたけど、
「なんか、想像してたユニコーンと違う」
「ああ、訛ってたよな」
「純潔の乙女の前にしか現れないんじゃなかったんですかね?」
「いやいや、さっきのは獣人でやすから!」
「あんな歯茎剥き出しで笑うイメージ無かったなー、すげえ訛ってたし!」
「ま、まぁ、王都とは違うでやすよ~」
擁護しようとしてるクラックの語尾も弱い。
農民服の馬面って、インパクト半端ないね!角有るし!キリッとした顔なのに、歯茎剥き出しで笑うし!
インパクトの強さに半ば呆然と感想を言いながら歩いていたら、目の前に紹介された宿。
扉を開くと、カロンカロンと長閑なベルの音がなり、小さな受付と、その奥に食堂らしき部屋と、奥に続く廊下、二階に続く階段が見える。
廊下の奥から、ダスダスダスと重い足音がして、現れたのは、二本の角を生やした、真っ黒の馬面。
「なんだいなんだい、食堂が開くのはまだちっと早いよ!」
声が女性なんですが!
よく見ると服装も女性。
スカート履いてるし。
向こうも俺達にビックリしたのか、
「あんれまぁ、あんたらお客さんかい?めんずらしなや!めったに宿の客なんか、来ねぇもんで、油断してたわぁ!アッハッハッ!」
間違いなくおばちゃんである。
二本の角が凶悪だろうと、黒光りするほど艶やかな毛並みだろうと、口から出る言葉は、間違いなく田舎のおばちゃんである。
おばちゃんは種族を越えるんだなぁと、妙に納得しました。
バイコーンと呼ばれる種族のおばちゃんに案内されて、部屋に荷物を置いて、出されたお茶を飲みながら昼食が出来るのを待つ。
旦那さんはユニコーンのおじさんで、寡黙な感じで厨房からペコッとお辞儀してすぐに引っ込んだ。
「無愛想でごめんね~、でも料理はこの里一番だから、期待してな!あたしはちょっと仕事かたしてくるから、ゆっくりしてな~」
ダスダスダスと去っていくおばちゃん。
「……………うん、幻獣の里。思ってたんと違う事は分かった!」
「そうですね、なんと言うか、もう少し、幻想的な光景を見せられるのかと」
「アハハ~、俺っちも、幻獣の里には詳しくないんで、何とも言えないでやす~」
「まあでも、姿が多少違うだけで、人間族の集落とそんな変わんないかな?」
「そんな感じだな」
「うん、幻獣とか言うから、ちょっと想像力逞しくし過ぎたかな~?」
「あ~、俺っちが思ってたのとも違うでやす~。幻獣の里の案内人の話とも違う気がするでやす~」
「まぁ、お昼食べたら、もうちょっと色々見て回ろうよ!幻想的な所もあるかも知れないし~」
「そうですね!」
その後続々と食堂に来た客で賑わってきて、その客全員に驚かれて、やたらとフレンドリーに話し掛けられた。
客はユニコーン、バイコーン、グリフォン、妖狐等々。
中でも妖狐族の綺麗で色っぽいお姉さんが、クラックに物凄くズイズイ話し掛けている。
クラックは、赤ん坊の頃にジュボーダン伯爵に拾われた孤児で、人獣族の街の孤児院で育ったので、自分は狐族の人獣だと思ってたらしい。
まさかここで自分の出自を知るとは思ってもいなかったそうで、本人が一番驚いている。
午後はお姉さんの案内で、妖狐族の族長に会いに行くことになりました。
あ、ちなみにご飯は、芋とサラダが中心の、ベジタリアンな食事でした。
味は普通。
普通に食べられるって素敵!
量は物凄かったけどね!




