5日目
おはよーございます。
今日は朝から生憎の雨模様です。
何時もの様に柔軟体操をした後は、シェルに長袖シャツと、サスペンダー付きハーフパンツに着替えさせてもらって、何時ものメンバーと朝食を取り、魔法訓練の為に部屋から出ると、知らない男がノックの体勢で突っ立っていた。
「ティタクティス、遅かったな!」
「ハイン王子、遅くなり申し訳有りません。少々面倒な事になりまして、事情を話したいので、後程お時間を頂けませんか?」
「ああ、構わないが…………」
アールスハインと親しげに話す男を眺めてると、何故か無性に懐かしさを感じるのは何故だろう?
身長はアールスハインの方が2、3センチ高いが、体の厚みは男の方があり、髪はソフトモヒカン、目は細いがそこそこ男前な顔…………?目が細い?
「たしゅきゅー?」
「あ?ハイン王子、いつの間に子供なんてつくっ?…………………………………………けーた?」
意識して発した言葉では無かったが、男は俺を見て、その目に強烈な既視感を覚え、この世界では少々違和感のある発音の名前呼びを、前世で呼ばれていたのとピッタリ同じ音で呼ばれて、確信した。
途端、アールスハインの腕から飛び出し、男の顔面に張り付いてやった。
「たしきゅー!なんでーでかいにょー!あんときおちててったの、いちてたかー!(助ー!なんででかいの!あん時落ちてったけど、生きてたかー!)」
「おう!恵太!アハハハハハ!何でお前縮んでんだよ!アハハハハっお前、甥っ子と同じ顔してんじゃねーか!甥っ子よりちっせーし!」
「たしきゅはおちょこまえーなってよかっちゃらー、めーほしょいままらけろー!アハハハハハ(助は男前になって良かったなー、目は細いままだけど!)」
「「アハハハハハハハ!!」」
2人で向かい合って爆笑していると、「んんっ」て咳払いが聞こえて来て、見るとアールスハインとシェルが、とても不可解そうな顔で俺達を見てた。
「2人は、知り合い、なのか?」
疑問一杯のアールスハインの問い掛けに、シュタッと姿勢を正し、俺を片手に抱えたまま、
「失礼しました!ハイ、えー、知り合いです。その事も含め、話を聞いて頂いた方がいいと思いま」
「2人は知り合いなんだな?」
食い気味に確認してくるのに、つい、助と見つめ合ってから、アールスハインに頷いた。
「シェル」
アールスハインが一声掛けただけで、意図を理解したシェルが、足早に去って行った。
取り敢えず部屋に入り、ソファーに座る。
無言のアールスハイン、俺は助に抱えられたまま。
数分で帰ってきたシェルが、
「お会いになられるそうです」
「分かった、ティタクティス、ケータ移動して話を聞こう」
それだけ言って先に歩きだしたアールスハインについて行くと、見慣れた部屋。
ドアを開けても見慣れたメンバー。
しかし、途端に助が緊張して固まりだした。
「どちたー?」
顔をペチペチしてやると、
「バッカおまっ、この国の天辺の方々だぞ!緊張しねーわけねーだろ!こんなに間近に会うのなんか、一生に一度有るか無いかなんだぞ!」
「まーにちあってりゅよ?」
「まーにち?毎日?は?何それ拷問?緊張し過ぎて死ぬわっ!」
「しんじょーぎゃノミにぇー(心臓が蚤ねー)」
「いやいやいや!お前の心臓に剛毛が生えてるだけだから!俺が普通だから!」
ブフッて声に振り向くと、シェルが腹を抱えてバイブモードになっている。
前を向けば、アールスハインが苦笑して、他の面々は不可解そうな顔をしている。
「あー、まぁ何やら事情が有りそうだが、説明の為にも先ずは座ったらどうだ?」
「ももも、申し訳ありましぇん!」
「かんだ」
グフッ、シェルはバイブモード継続中。
助はほんのり顔を赤くして、
「お前ちょっといいから、黙ってて!」
俺に小声で注意して、姿勢を正すと片膝をつき、
「失礼しました、私は………」
「いいから、お前の事は皆知ってるから、先ずは座れ、そして落ち着け」
アールスハインの言葉に、他の人も頷いてるので、礼をしてからアールスハインの隣に座る。
「それで、ハイン王子、今日は何事が有りましたか?」
宰相さんの声で仕切り直し。
「ティタクティスが予定より一週間遅れて、先程戻ったのですが、ケータと知り合いの様子、ティタクティス自身何か事情が有る様だったので、皆さんにも聞いて頂いた方がいいと考えました」
「成る程、今朝戻った者が、五日前に現れたケータ殿と知り合う機会は無かった、が、先程のやり取りから見ても、2人は知り合いの様子。ティタクティス、ケータ殿、説明をして貰えるだろうか?」
宰相さんの纏めに、助が緊張して言葉が上手く出ないので、
「じぇんしぇーのおじゃにゃにゃじみ(前世の幼馴染み)」
と簡潔に説明してみた。
「んん?それは、異なる世界で、と言う事だろうか?」
「しょー」
「時間が合わないように思うが?」
「たしきゅーが、とちゅーはじかりたー」
「恥かいた?」
「めぎゃみーの、ひかりのみちかりゃ、はじかりたー」
「女神様の光の道から弾かれた?」
「ウム、分からん!ティタクティスよ、お前から話せ!何やら以前と気配も変わっている様子、その辺の事情もな!」
将軍さんにバッサリ切られた。
声をかけられた助はビクッと体を震わせた後、
「は、あ、えー、おれ、いや私は………」
「おちちゅけー」
アールスハインの膝の上から、隣に座る助の腿を軽く蹴ってやると、
「わ、分かってるよ!えー、事情と言いますのは、単刀直入に申し上げますと、五日程前に鬼属の覚醒が有りまして、それと同時にぼんやりとしていた前世の記憶が戻りました。
その事で親父、いや、父が大変興奮して、突然私を当主に据える、等と言い出し、兄達とかなり揉めまして、同時に魔の森から魔物の襲撃があり、その対処に追われ、やはり覚醒した鬼属の力は、想像以上なもので、少々、感覚を掴むのに時間がかかりました。
私は、当主になる気はサラサラ無く、その事を兄達にも伝え、先ずは鬼属の覚醒を城に報告する事が最優先であると、父を説得し、急ぎ戻りました。魔物の後処理の為、父からの正式な報告は、後程となります。
恵太とは、前世の幼馴染みです」
うんざりしたような顔で報告した助に、
「あー、先ずは、鬼属の覚醒おめでとう、当主云々の話は、辺境伯が来たらまた話すとして………………前世の記憶と言うのは、君自身も異なる世界で、死亡した後この世界に来た、と言うことだろうか?辺境伯にはその事も?」
宰相さんに質問された途端、ビクッとする助。
「いえ、父には鬼属の覚醒の事のみ話しました。前世の記憶等と言っても父は理解しないでしょうから」
「成る程、辺境伯は少々頭の固い所があるからな………五日前と言うのは、ケータ殿と聖女様が降臨した日。当然関係は有るだろうな。
酷な事を思い出させるようで悪いが、君が前世で亡くなった時の事を聞いてもいいだろうか?それとこの世界に来た時の状況も」
宰相さんに声を掛けられる度に、ビクッとする助が面白くて、足でツンツンしてたら、アールスハインに向きを変えられた。
「はい、えー、私が死んだのは、恵太が死んでから一月後位で、恵太の葬式の後、会社、あー、この世界で言う商会に勤めていた私達は、商会と揉めていまして、恵太の事故も働きすぎによる過労も一因で有ると、商会に認めさせ、揉め事の処理が終わり、同僚達と恵太を偲んで呑んだ帰りに、恵太の事故があった歩道橋に行ったら、トラック、いや、私も事故に遇いました。
それで、死んだなー、と思ったら、空から落ちて誰かを巻き込んで更に落ちて、白い世界に着いたら、恵太がいて、女に難癖つけられて、魔法で吹き飛ばされて、空から落ちて、光の穴に落ちて、途中俺だけ弾き出されて、気付いたら今の俺でした」
「ウム、やはり分からん!兎に角2人は別々に死んだのに、一緒にこの世界に来たって事か?ケータ殿は、一月の間何をしていた?」
この世界では通じない事も多くあるので、つっかえつっかえの助の説明も、将軍にバッサリ切られた。
「たびゅん、くもにうまっちぇた(たぶん、雲に埋まってた)」
「くも?」
「しょー、かみしゃまのしぇかいのくも(そう、神様の世界の雲)」
「神の世界とは雲の上に有るのか?」
「しゃー?そりゃとくもちかにゃかった。あと、かみしゃま(さー?空と雲しかなかった。あと神様)」
「女神様に会ったのか?」
「ぎゃりゅおちん(ギャル男神)」
「ぎゃりゅ?」
「おとこのかみしゃま」
「女神様の配下の神か?」
「?どっちかっちゅーと、うえのかみしゃま?」
「………………女神様の上級神?聞いたことが無いが、まぁひとまずそれは後で聞くとして、その神の世界の雲とやらに、一月も埋まっていたのか?」
「じきゃんは、わかんにゃいけろー、かみしゃまとはなちちてるとちに、たしゅきゅがうえかりゃおちててた」
「神様と話してる時に、ティタクティスが上から落ちてきた?」
「しょー」
「……………神の世界ともなれば、時の早さが違う事も有るだろうが、ティタクティスはその男性神とは会ったのか?」
将軍さんの声にもピクッとしてから、
「いえ、私は恵太が言ったように、ただ落ちただけなので、何かを巻き込んだ感触以外は分かりませんでした」
「……………女神様には会ってないのか?」
「たびゅん、おりぇとたしゅきゅをぶっとばちたのが、めぎゃみー」
「ぶっ飛ばす?」
「あー、恵太が埋まってた雲の更に下に、雲で出来た部屋?の様なものが有り、そこに居られたのが女神様かと。
私と恵太が突然落ちて来た事に、お怒りになったのか、その御力で、私と恵太は吹き飛ばされました」
「…………………何と言うか、理由も聞かずに吹き飛ばされたのか?」
「めっちゃきりぇてた」
「?めっちゃ?きりぇ?」
「酷くお怒りのご様子でした」
「…………………女神様とは、慈悲深い方のはず、何か失礼な事でもしたのか?」
「おちたらけー」
将軍さんの言う女神と、俺達の見た女神には随分とギャップが有るらしい。
全然萌えないけど。
この世界の宗教の位置付けがどうなっているのか分からないので、下手な事は言えないけど、ギャル男神曰く、クソバカダ女神らしいので、あまり期待しない方が良いと思うよ。
微妙な沈黙の中、
「失礼致します、国王、教皇猊下が至急のお目通りを、と、申されておられます」
ザ・執事なデュランさんが、王様に言った。
「用件は?」
「女神様に関する事だと、詳しい事はお会いしてから話されるそうです」
今まで女神について話していた所に、教会のトップが登場。
「わかった、皆も来てくれ」
王様に言われたので、皆で移動。
「ハイン王子、俺もですか?このメンバーに教皇様まで加わったら、俺の心臓が止まりそうなんすけど!」
「ティタクティス、仕方あるまい、お前も当事者の一人だ」
「あー、心臓の前に胃がぶっ壊れる!」
助は、前世でも会議やプレゼンの前には、胃薬をラムネのように食うやつだった。
却って胃を壊しそうだったので、一度中身をミントタブレットに代えてやった事があったが、緊張し過ぎて全然気付かなかった。
会議後に「からっ!」と、大騒ぎしてるのを、皆して笑った記憶がある。




