一年たちました
学園卒業から一年後です。
おはようございます。
今日の天気は晴れです。
旅して一年。
途中の村や集落で、ディーグリーが行商をしたり、たまにある小さな教会でユーグラムがお祈りをしたりして、のんびりとした旅です。
教会にはそれぞれに神官さんが居て、前世で言う御朱印帳的な物に、教会の住所?と神官さんの名前を書いて貰えるそうです。
それを本教会に提出する事で、巡礼の旅の終了を認められ、見習い神官から一人前の神官になれるそうです。
ただ、巡った教会が少なすぎると、試練として過酷な場所にある教会に行ってこい!されることも有るとか無いとか。
ディーグリーが行商としてお店を開いてる間は、護衛の冒険者ぶって、アールスハインと助が両脇で睨みを利かせる。
先日取得したBランク冒険者タグを見せびらかして。
手ぶらで旅をする以上、マジックバッグを持ってるのがバレバレだからね!
商人が冒険者の護衛を雇うのは普通だし、お城ではだいぶ普及してきたけど、マジックバッグを狙われるのも普通。
まだまだレアだからね!
なので今の所、アールスハインと助の睨みが利いているのか、持ち逃げとか、万引きとか、つり銭の誤魔化しとかは出ていない。
まあ、敷物に使ってる布にデカデカとラバー商会の商会紋が入ってるのも影響はあるだろう。
ディーグリーの実家のラバー商会は、国一番の大商会だからね!
ある意味貴族を怒らせるより怖い事もあるかも?
冒険者として町から町へ旅をしてるんだけど、最初はボードに乗ってスイスイ飛んでたんだけど、それでは途中の街道に出る魔物退治の依頼を受けられない事に気付き、途中からは徒歩での移動になりました。
たまに、護衛依頼も受けたりして、更にのんびり旅になりました。
これはこれで良いものだよね!
旅をするのに手ぶらも怪しいので、途中からはカモフラージュにリュックを背負ってるし、見た目は一端の冒険者に見えるだろう。
俺は皆の無駄に長い足の速度に追い付けないので、巨大化したソラに乗ってます。
賢いソラは、乗り心地も日々改善してくれて、今はとても快適!
ハクは相変わらず誰かのポケットに潜んでるのがお気に入り。
ラニアンは、だいぶ走るのが早くなって、ソラの横を並走出来るようになりました!
まあ、まだ体力は少ないので、すぐにバテて、だいたいユーグラムに抱っこされてるけど!
プラムは俺とソラに乗ってます。
今の季節は夏から秋に掛けて。
前世の夏とは違って、カラッとした気候の爽やかな夏なので、日中歩いてても、それ程大変ではありません。
この一年でアールスハイン、ディーグリー、助はこんがりと焼けました。
ユーグラムと俺は何故か白いままだけど!
今は海沿いを南に向かって旅してるので、まだ夏の名残といったところ。
冒険者ギルドは、集落は無理でも、ちょっと大きな町にはあるので、積極的に依頼を受けながら旅してます。
どこのギルドで受けても、別のギルドで依頼達成の報告が出来るので、戻る必要が無くてとても便利!
普通の冒険者は、拠点になる街を中心に、近隣の集落等の依頼を受けたり、ダンジョンを中心に活動したりする。
俺達は、旅が目的なので、一つの街に留まる事は無いけどね。
ちょっと面倒臭い依頼でも、割りとスムーズに解決出来てしまう俺達の評判は中々のもの。
噂になっているのか、大きめの町のギルドに寄ると、キャーキャー言われる。
イケメン揃いなのも手伝って、女性冒険者からは、中々に積極的な勧誘を受けまくっている。
この一年で、上手に断る事も上手くなった。
途中、正月休みを利用して、イングリードに待ち伏せされ、アールスハイン、ユーグラム、ディーグリーは嬉し恥ずかしの娼館デビューもしてた。
年上の身内が、成人を祝う儀式とか何とか言ってたけどね!助は既に兄達によって済ませてるので除外。と言うか、娼婦さんに惚れ込んで、身を持ち崩すまでがセットの儀式だそうです。大丈夫か?スパーク辺境伯家?
新婚のイングリードと、家訓で結婚した後に奥さんの許可がないと娼館に通えない助と俺は、娼婦さんたちに接待されて宴会してました!幼児大人気でしたよ!
翌日の、アールスハイン達の、何とも気恥ずかしげな顔には、突っ込まなかったよ!大人だからね!ニヤニヤはしてたけど!
今は海沿いの町の依頼なので、海関係の依頼が多い。
その度に海産物が増えるのも大変お得!
何故か、陸上の魔物は食うくせに、海の魔物は食わない不思議。
旨いのにね~。
なので素材買い取りの時には、身の部分は返して貰います。
美味しく頂くので!
そう言うと、ギルドの人達はドン引きします。
なので毎回くらいギルドの厨房で、海鮮料理を振る舞ってます!
布教せねば!と謎の使命感を感じるので!
皆最初はドン引きしてるけど、アールスハイン等がバクバク食うので、つられて食って即、嵌まります!
ひとつの町でひとつの料理を披露してるので、そろそろネタ切れになりそうです!
そんなにレパートリーは豊富ではありませんよ!
一冒険者としてこの世界を見ると、前世に比べて、当然だが命がとても軽い。
外壁に守られていない集落や町は、常時見張りの兵士が命懸けで守りを固めてるし、それでも守りきれない命がある。
冒険者も、一歩間違えばすぐに命を落とす。
そんな世界に生きる人達は、陽気で勤勉で、力強い。
亡くなった冒険者が居れば、誰彼関係なく死を悼み、酒を酌み交わして亡くなった冒険者の事を大声で話し、泣いて笑って、翌日にはケロッと日常に戻って行く。
町や村の人達も同様に、王都とは比べ物にならない程不便なのに、陽気に笑って、一生懸命日々を生きている。
とても逞しい人達が、なんと言うか、とても眩しく感じる時がある。
幾つもの領地を歩いたが、その土地を治める領地貴族によって、暮らし方もまちまち。
暮らしやすそうな領地も、そうでない領地も様々。
豊かな土地も、そうでない土地も。
あまり豊かではない領地でも、他国から来た冒険者にとっては、信じられない程暮らしやすいらしい。
他国は、そんなに酷いのか?と聞いたら、この国周辺はそうでもないけど、離れれば離れる程酷くなるらしい。
歴史の長いこの国の影響が、周辺国には大きく、離れる程少なくなる。
元世界一の強国だったレンガス帝国は、幾つもの小国に分断され、戦争が絶えないんだとか。
かつての宗教の総本山だったヒルアルミア聖国は、未だ魔物の影響が大きく残り、人の住めない土地だとか。
遠く離れた異国では、貴族の腐敗が多すぎて、平民は息をするのも命懸けだとか。
多くの冒険者が、命からがらこの国に来て、あまりの自由さに、最初は混乱したとか、皆笑って話してた。
王族であるアールスハインは、そんな話を聞くたびに、照れ臭そうな、誇らしそうな顔をする。
自国を誉められた皆も似たような顔をしてるんだけどね。
そうして多くの人と会い、依頼をこなし、誰が見ても冒険者然とした、高貴オーラもだいぶ薄まってきた今日この頃。
国境の街に到着。
国境の街とは言っても、大きな街が有るわけではなく、大きな門と壁は有るが、その先に広がるのは広大な森。
ここからはリュグナトフ国ではあるものの、多民族がある程度の自治権を持った、ちょっと文化やなんかが違う雰囲気になる。
見た目からして街ってより森だし。
元々人族の少ない世界は、世界の六割が海、残り三割が山や森、そして一割が人が住む土地みたいな世界なんだけど、獣族やエルフ、ドワーフと言われる民族は、森等の自然の多い土地を好んで住む。
リュグナトフ国は、多民族国家である。
純粋な人間以外を人族とは認めない国も多い中で、獣族、エルフ、ドワーフ等の多民族も人族として扱う珍しい国。
元々人間と違って、繁殖力が弱かったり、辺境の地に追いやられたりしたせいで生存率が低かった多民族は、リュグナトフ国に多く移住してきた為、世界の半分以上の多民族が、リュグナトフ国に住んでいると噂される程。
リュグナトフ国に移住してきて、やっと安住の地を得た多民族の者達は、リュグナトフ王家に忠誠を誓い、余計なトラブルを起こさない為にも、リュグナトフ国を二分する巨大な壁を作った。
大森林と呼ばれる他国と接する森側を自分達の住みかとし、暮らしやすく起伏の少ない土地を人間の住む土地として壁を作り、各々の民族性を活かした防衛策を講じ、リュグナトフ国を守っている。
勿論、全ての国境を守っているわけでは無いが、リュグナトフ国の三分の二の国境は、人間以外の多民族が守っている事には変わりない。
なので王家は感謝を込めて、各々の民族性を尊重し、ある程度の自治権を与えた。
これから入って行くのは、その壁の中、様々な民族の住まう大森林。
様々な民族が、独自の文化を築き、生活習慣にも違いが多く、種族ごとに町や村、集落を作り暮らしている。
人間との交流も盛んで、今回も商人の護衛依頼で同行している。
まず向かうは獣族の住む最大の街ジュボーダン。
そこを治めるのは、人獣ジュボーダン伯爵。
巨大な門を潜り、幾つにも分岐した道を進み、森の中を進んで行くと、巨大な丸太の壁に囲まれた街に到着。
門番は丸い縞々の耳にしなやかな尻尾を生やした、虎と思われる獣族。
イングリードよりも更に巨大な筋肉の塊。
獣族は、種族にもよるけど、肉食動物系は、大概人間よりも体格が良い。
つまり、更に俺の小ささが引き立つ!
何て事でしょう!アールスハインでさえ小柄に見える獣族、恐るべし!
今回護衛してきた商人は、獣族の街には馴染みなのか、軽く積荷の確認をされて通された。
俺達は冒険者タグで問題なく。
門を潜れば、そこは巨大な街でした。
王都とは別の意味で巨大。
一つ一つの建物が兎に角巨大。
中には小動物系の建物も有るのか、やたらと窓が細かく区切られた建物も有るけど、兎に角全体的に巨大。
そして石と木が多用された建物は武骨!
王都の建物は、木の枠組みにレンガのような均一な石を組み合わせたような建物だったし、ここまで来る途中の家は、だいたい木で出来ていた。
でもこの街の家々は、自然石と木を組み合わせたような建物が多い。
昔ドラマで見た、北海道にある五郎さんの家を巨大な石で作ったみたい。
道は土をならしただけの道で、街を歩く人達は、各々の種族の特徴のある人々。
獣族は大まかに分けて二種類。
獣人族と人獣族。
獣人族は、そのまま動物の顔に身体的特徴を持ち、人語を解する二足歩行の種族。
人獣族は、人間に近い身体的特徴を持つが、耳や尻尾等の種族特性を持った種族。
この街は人獣族が多く住む街のようで、耳や尻尾を見なければ、それほど人間と変わらない生活のようだ。
カッポカッポと馬車に揺られながら大通りを進み、最終目的地の大きな商店の前に到着。
ここまでで護衛依頼も終了し、依頼書にサインを貰う。
軽く挨拶をして、冒険者ギルドの場所を聞いて別れた。
着いた冒険者ギルドは、これまた巨大な建物で、ソラに乗っててもウエスタンドアに掠りもしないで通過出来た。
中に入ると、人獣族だろう冒険者七割と人間の冒険者三割と言ったところ。
依頼達成の報告にカウンターに向かえば、人間用と人獣族用が別れており、人間用のカウンターで依頼書を出せば、問題なく処理され依頼料を貰う。
それをすかさずバッグにしまい、冒険者ギルドお薦めの宿を聞く。
兎獣族のお姉さんが、長い耳をピコピコさせながら、
「そうですね~、人間族の方なら、宵闇亭か~満腹亭でしょうか~?」
「そこまでの地図を貰えますか?」
「地図はいらないですよ~、隣と向かいなので~、ただ、先に予約だけでも入れておかないと、満室になっちゃうので、ご注意くださ~い!」
「ありがとう、早速行ってみるよ~」
「はい、お疲れ様でございました~」
見た目に合ったフワフワとした喋り方で送り出されてギルドを出れば、道を挟んだ目の前に宵闇亭が、右隣を見れば満腹亭があった。
今までの経験で、満腹亭の方は料理自慢な宿で、宵闇亭は寝具などが充実しているのだろうと思われる。
幸腹亭とか、満足亭とか、似たような宿があったしね。
俺達は議論するまでもなく宵闇亭に向かう。
無事部屋も取れたので、夕飯を求めて宿の外へ。
宵闇亭は一応食堂もあるんだけど、持ち込みも自由なので、外で済ます人や外で買ってくる人がほとんど、料理はお薦めしないって、旦那さん自ら言ってたし。
王都から離れたこの地では、まだまだ固い肉が主流。主食は芋。
魚介類を食べる習慣も無いので、ほぼ俺の食える物が無い。
なので、出店で買うのは果物と飲み物くらい。
それらを持って宿に戻り、買ってきましたよーとばかりに、マジックバッグに入れてた自作の料理を出す。
ハンバーガーとポテト、買ってきた果物はディーグリーがサクッと剥いてくれる。
バッグから出した途端に漂った香りに、注目を集めたが、知らん顔でガブッとね!
うまうまと食ってると、
ーーーーバンッーーーー
と扉が開き、ほぼ人間族しか居ない宿にノッシノッシと大柄な猫科だろう獣人の巨大筋肉が入ってきた。
ギョロギョロと血走った目で周りを見て、俺達の座る席にロックオンして、近付いて来る。
宿の主人がオロオロするばかりで、止められないでいるうちに、目の前に到着。
「おうおう、随分と旨そうな匂いをさせてるな!それは何処で手に入れた?」
ガランガランとした迫力のある大声で聞いてくるので、
「悪いが俺達は、さっきこの街に着いたばかりで、場所を特定することは出来ない。ただ適当に目についた物を買っただけだな」
アールスハインが淡々と答えれば、
「んーそうか、あんまり旨そうな匂いなんで、つい声を掛けちまった、悪かったな!俺も探してみるとするよ!」
絡まれる事もなくすんなり引き下がった巨大猫科獣人。
ノッシノッシと宿を出て行った。
宿の主人があからさまに胸を撫で下ろしてた。
また絡まれても面倒なので、急いで食べて、部屋に行く。
四人部屋に入って、ベッドに腰掛けると、全員がほっと一息。
「あ~びっくりした!あんな絡まれ方もあるんだね~!」
「ええ、ギルドではなく、食事の事で絡まれるとは!」
「ま~絡まれるって程じゃなかったし、まだよかったけど!」
「そうだな、獣人と言うのは、人間族よりも嗅覚に優れていると聞く、匂いにつられただけだろう」
「まあそうだよなー、目の前で旨そうな物食ってる奴が居れば、それ何処で買った?ってのは普通の事だし!」
その後は井戸で体を洗い、本日は早めの就寝。




