助視点
誤字報告、感想をありがとうございます!
Purrrrr-Purrrrr-Purrrrr
電話の音で起こされて、まだ寝ぼけたまま電話にでれば、幼馴染みと良く似た声だが、イントネーションが微妙に違う声で、
「助さん、英太です。お休みの所すいません」
「お~う英太久しぶり、珍しいな英太から電話なんて?」
「はい、あの、急な事なんですが、兄貴が死にまして」
「はあ?」
「俺等もまだ、上手く状況が呑み込めないんですが、事故で。歩道橋から転がり落ちてそのまま。即死だったらしく、俺等が病院に行った時には、もう………………」
「今、恵太は?」
「まだ病院に。葬儀屋の手配とかもあって、明日には実家に連れてこれるらしいですけど」
「皆も実家に?」
「はい、兄貴の会社の事とか分かんないんで、相談出来ればと思って」
「わかった、会社には俺から連絡しとく。明日、俺も実家にお邪魔して大丈夫か?」
「お願いします。はい、来て頂けるなら助かります。俺等もまだ混乱してて………」
「わかった。じゃあ明日」
「はい」
プツッと通話が切れて、呆然とする。
恵太が死んだ?
慌ててスマホの日付を確認する。
仕事を放り出して会社を出て2日。
家に帰り着いてそのままベッドに倒れ込んだので、未だスーツを着たまま。
取り敢えず頭をスッキリさせる為にシャワーを浴びる。
半裸で頭をガシガシ拭きながら、先程の電話の内容を思い出す。
恵太が死んだ?
夢ではなかったことを確認する為に、英太の着信履歴を意味なく何度も見る。
Tシャツとパーカー、ジャージを着て、インスタントのコーヒーを一口。
「はあ?恵太が死んだ?!」
改めて声に出して、現実の事なのだと理解してきた。
まだ信じられない気持ちが大きいが、
「会社に電話しないと」
スマホを手にして電話を掛ける。
「はーい、何よ助が電話掛けてくるなんて、珍しいじゃない!彼女でも出来て結婚でも決まった?」
能天気な声で電話に出たのは、出戻って実家に居る次女。
「あー、ツグ姉、さっき英太から電話があって、恵太が死んだって」
「はあ?何馬鹿言ってんの?タチ悪い冗談はやめなさいよ!」
「本当らしいよ、俺もさっき聞いたばっかで、信じらんないけど。明日にでも恵太の実家に行ってくるけど、事故だったって」
「………………マジで?!」
「マジで、英太はそう言うタチの悪い冗談は言わないし」
「…………ちょっと、おかーさん!五木さんちの恵太ちゃんが、事故に遭って亡くなったって!」
電話の向こうで姉が母に報告している。
パタパタと足音がして、
「あんた、そう言うタチの悪い冗談を大声で叫ぶんじゃないわよ!」
「それが、本当なんだって!事故で!ほら、助から電話!」
電話越しに向こうの声が丸聞こえ、相変わらず無駄に声のでかい姉と母に、更に現実感を突き付けられる。
「ちょっと助、本当なの?」
「俺もさっき聞いたばっか」
「それは、お葬式とかは?」
「それもまだ、会社にもこれから連絡するし、明日恵太の実家にお邪魔する」
「…………そう、急だったわね。会社の方は、あんたが確りやってあげなさいよ!あそこのうちは親御さんももう居ないんだから!」
「うん、分かってる。じゃ、葬式とか決まったら連絡する」
「ええ、シャキッとしなさいよ!」
母の声に背を押され、何とか動揺を抑えて会社に電話を入れる。
俺達が仕事をボイコットしたせいで、会社も大変な事になっているらしいが、恵太の死を知らせると、電話の向こう側がシンとなる。
兎に角伝えるだけ伝えて電話を切り、クローゼットの奥にしまっておいた礼服を近所のクリーニング屋に大至急で出し、恵太と共通の友人に電話を入れて、気付くと夜になっていた。
翌朝一番にクリーニング屋に礼服を取りに行き、まだ礼服は着ずに、黒っぽい服で恵太の実家に行った。
一時間半程で着いた恵太の実家。
インターホンを押すと、英太が出てきて家に入れて貰い、お茶を出される。
「すいません、今、絵美姉と光太が兄貴を迎えに病院に行ってて、もうすぐ帰る頃だと思うんですが」
「いや、俺はいいけど。その、事故って、聞いてもいい?」
「ああ、俺が一番先に病院に着いて、そしたら医者だけじゃなく、警察の人も居て、歩道橋の上で、女を取り合って喧嘩してた男二人に突き飛ばされた女が、落ちるときに兄貴を掴んだとかで、兄貴は完全な巻き込まれですね。喧嘩の通報があって駆け付けた警官が、病院にもそのまま来てくれて、事情を教えてくれました」
「……………普段の恵太なら、女一人くらいでぐらついたりはしなかっただろうに」
「仕事、きつかったんですってね」
「ここ半年位、糞上司のせいで、うちの部署は散々だったよ、何かもうやってられるか!って気分で、飛び出したのが悪かったのかなー」
「兄貴ね、死に顔が、何か笑ってるみたいで、突然の事故にあった割に穏やかな顔してたんですよ。何でだよ!って思ってたけど、眠かったのかなー」
「あー、俺もスーツ脱ぐ間も無く寝てたわ、英太に電話貰った時もまだスーツだったし」
「兄貴も、やっと寝れたのが嬉しかったんかなー」
「何馬鹿な話してんの、もうすぐ着くよ!」
後ろから声を掛けて来たのは、次女の理美。
「子供らは?」
「お嫁ちゃん達が見てる。秀太と竜と雷も呼んだから、兄ちゃん運んで!」
「わかった」
「助さんはこっち手伝ってくれます?」
「うん」
理美に言われるまま色々やらされて、運ばれてきた恵太が、白い布団に寝かされた。
三日前に見た恵太よりも、更に窶れているように見えて、でも妙に穏やかな顔で笑っているようにも見えて、恵太らしいと思った。
「何で兄ちゃん笑ってんだろうね?」
号泣しながら秀太が言うのに、
「理由は分かんないけど、兄ちゃんらしい顔よね」
と、絵美が泣き笑いの顔で答え、全員が妙な納得の仕方をしたのだった。
葬式には多くの人が参列し、会社の同僚や、先輩、後輩も、うちの部署ではない上司の人も何人か参列してた。
取引先の社長まで来てくれたらしく、営業部で恵太と同期だった人が驚いてた。
恵太が引っ越してくる前に住んでた山奥の村出身の爺ちゃん婆ちゃんも何人か来て、文句を言いながら号泣してた。
同級生も多く来て、元彼女も何人か。
そしてその参列してた人のほぼ全員が、一列に並んだ、まるで恵太の成長記録のように、全員がそっくりな甥っ子達に、より笑いと涙を誘われてた。
途中、事故の原因になった、歩道橋で喧嘩をしていた二人の少年が来て、号泣しながら謝罪してきて、あまりの憔悴っぷりに事情を聞いてみると、二股女の親に訴えられそうなのだとか。
あまりに恥知らずなその行為に、姉が呼ばれ少年達の事情を話すと、その場で弁護を引き受けてしまった。
その後に聞いた話だと、二股女は二股処ではなく、他にも三人ほど男がいて、葬式でかち合って、自分達は、どうしようもない女を相手にしていたと、心から反省してたそうだ。
若くして死んだ恵太の葬式の割には、悲壮感は薄く、葬儀屋の人達が不思議がってたけど、恵太らしい、穏やかな葬式になった。
五木恵太と言う男は、妙に人懐っこく、童顔で大男なのに威圧感は皆無。
ヒョロヒョロなのに喧嘩が強く、そこそこモテるのにすぐ振られて、弟妹と相思相愛の重度のブラコンで、家事が完璧で、甥っ子達を育てるのが趣味で、酒がザルどころか枠な位強いのに、酒好きではなくて、仕事は程々に出来て、後輩の面倒見が良くて、先輩には可愛がられ、取引先の社長をあだ名で呼び、その社長の孫にやたら気に入られる。
そんな男で、恵太の話をする人は、何故か皆妙に穏やかな顔をして、笑いながら恵太を語る、と言う、謎現象が起こる。
本人はいたって飄々とした、細かいことを気にしない大雑把な奴なのに、周りからの評判は中々に良い、そんな男。
小学校の高学年の時に転校してきて、兄弟の事で喧嘩になりボコボコにされて以来の仲で、高校を卒業するまでずっとつるんでた。
大学に入って、俺が学生結婚なんかしちゃって、付き合いが遠くなったけど、浮気されて別れて、子供が実は俺の子供では無かった事実に落ち込んで、弁護士の姉がガッツリ慰謝料を取ってきて、心機一転、転職先に選んだ会社に恵太がいた。
それからはまたつるむようになって、お互い爺になっても付き合いが続くんだろうと、ぼんやり考えてたのに、突然居なくなって。
葬式を終えて、一人暮らしの部屋に戻った途端、涙が止まらなくなった。
一晩泣いて寝落ちして、翌朝、会社からの電話で起こされて、社長が解任になったことを知らされた。
俺は面識が無かったけど、社長の長男が、入社当時に恵太が世話した事で、とても感謝してて、葬式でも号泣してたとか、そして恵太の会社での待遇に非常に怒り、社長を退陣に追い込んだそうだ。
新社長は元社長の弟で、専務をしていたとても仕事のできる人らしい。
部署の仲間内で、労働基準局に訴える相談は、会社からの提案を呑む形で、一応決着は着いた。
俺達の部署は、一月の有給と、誤魔化されていた分の残業代と余計に回されていた仕事の分の給料を改めて計算し直され、正当な金額を貰い、恵太の家族には慰謝料と退職金が支払われた。
恵太の部屋の片付けをしていた絵美と理美から連絡が来て、片付けをする前に、何か形見に持っていってくれ、と恵太の部屋に呼び出された。
生前の通り綺麗に片付いた部屋は、三ヶ月程まともに帰れなかった住人のせいで少し埃っぽかった。
恵太の周りで煙草を吸うのは俺だけで、俺の為に置かれてた灰皿を貰った。
妹達の話では、恵太は結構な額の生命保険に入っていて、退職金と慰謝料まで貰って、どう使ったら良いか分からないらしい。
部屋を片付けながら、親も早くに亡くし、残ったのは頼りない兄弟ばかり、こうなったらお互いを見張る為にも、全員で近くに住むしかない!と理美が言い出し、その場で兄弟全員に集合をかけ、実家の近くに住むことを決めてしまった。
三兄弟は実家をリフォームして三世帯で住むことに、双子妹はそれぞれ近くに引っ越してくるそうだ。
夫に相談はしないのか?と一応聞いて見たが、そんなものは何とでもする!とあっさり言ってのける強い妹達。
三兄弟は、奥さん達がとても仲が良く、元々三世帯とか良いよねーと話していたそうです。
五木兄弟の仲の良さは、大人になっても変わらないらしい。
その事に妙に安心した。
そして一人家に帰り、離婚しても面倒で特に見直していなかった生命保険の受取人名義を、元妻から母に変えた。
一月の有給を、ボンヤリと部屋の片付け等をして過ごし、休み明け初出社。
変わらない部署の面子と会って、ぽっかり開いた恵太の席に気落ちして、新しく配属された課長に挨拶をして、仕事して、帰りに新課長に誘われて、部署の全員で呑みに行った。
新課長も、入社当時に恵太が教育係になり、恵太に世話になったらしい。
それからは恵太を偲ぶ会になり、恵太の話ばかりした。
恵太の自作弁当の卵焼きが美味しかった話は、全員共通の話題で、実は具沢山のオムレツが一番の得意料理だったと話したら、皆が食べて見たかった!と泣き笑いになった。
流れで恵太の事故の現場に花を手向けに行った。
人通りの多い歩道橋の下には、同じ様な考えを持った誰かの花が手向けてあり、俺達もそこに花を置き、手を合わせた。
去り際に何気なく振り向いた俺の目には、真っ直ぐにこっちに向かってくるトラックのライト、咄嗟に前を歩く同僚の背を思いっきり押した、事までは覚えてた。
「んあ?」
「ごらーティー、寝てんじゃねーぞ!踏まれてーのか!」
怒鳴り声と頭に軽い衝撃を受けて覚醒する。
そして混乱する。
俺、さっきトラックに跳ねられたよね?
どこにも痛みの無い自分の体に違和感が。
周りを見ると、ゲームの中でしか見たことの無い光景が。
牙を剥き襲い掛かってくる見たこともない獣の群れ、それと戦う多くの男達、中には長い髪を振り乱して戦う女性も居る。
地響きを立てて突進してくる猪に似た獣を咄嗟に避ける。
避けたついでに反射のようにその首に、持っていた剣で切りつける俺。
俺?
俺、何で剣なんか持ってんの?しかも今普通に切ったよね!?何これ、俺の眠っていた才能が目覚めた?!
と馬鹿な事を考えながら反射で獣を倒す自分に、特に違和感は感じていない不思議。
条件反射のように次々と獣を倒していく自分。
自分よりも巨大な角の生えた熊を前に、恐怖よりも好戦的な気分が高まっている自分。
3D映画を初めて見た時のような現実感の無さでは無く、血の匂いも、切った感触もリアル、生まれて初めて立った戦場なのに、当然のように動く体、思考だけが置いてきぼりを食らっている感覚。
何が何だか分からないが、相手は待ってくれそうもないので、体が動くままに獣を倒していく。
そうしてどれくらい戦ったのか、空が赤く染まる頃、周りで次々に上がる雄叫びに、戦いの終了を知って、体から力が抜ける。
周囲には夥しい数の獣の死体。
噎せ返るような血の匂い、返り血でひきつる肌、痺れて感覚のおかしい手。
何もかもがリアルなのに、未だ自分の置かれた状況を理解出来ない。
「おーう、ティーお疲れ!」
バンと背を叩き声を掛けてきた男を見れば、
「ああ、ユー兄さんお疲れ」
「何だお前、ボケッとして、疲れたのか?」
「あー、そうかも、何か頭が働かない」
「まー頭が働かねーのはいつもの事だ!気にすんな!それより風呂入って飯食おーぜ!」
肩を組まれそのまま歩き出す、自分が自然と兄と呼んだ男にそのまま付いていく。
風呂に入り、冷水で血を落とし、更に体を石鹸で洗い、広い湯船に浸かったところで、ドワッと走馬灯が!
自分の生まれてからこれまでの記憶が、脳内を通り過ぎる。
ああ、自分はトラックに跳ねられて、生まれ変わったのだと理解した。
そしてこの世界に来た時に、恵太と会った事も思い出した。
ああ、恵太を探さないと。
最初に思ったのはそれ。
何故、今日の戦場で、前世の記憶を取り戻したのかは謎だけど、思い出したからには恵太を探さないと、と当然の事のように思った。
この世界の家族は前世の家族に似て、真面目で融通の利かない父と、天然気味な母、姉では無く兄が四人も居たが、前世も今世も乱暴者で恋愛脳なのは変わらなかった。
ボンヤリとした末っ子を乱暴に可愛がる所も変わらない。
数日前に鬼属に覚醒した俺を急に当主にすると言い出した親父とはバトルになったが、無事長男が圧勝したので、本当なら昨日の朝には城に向かって出発する予定だったが、突然の魔物の氾濫で、予定が狂った。
まあ、無事に治まったので明日にでも城に向かえそうだが。
恵太を探すのは、学園を無事卒業して、冒険者にでもなれば、自由な時間も出来るだろうし、奴の事だから、無自覚に何かやらかしてるだろうし、それ程探すのは難しく無いかもしれない。
幸い自分はまだ若い。
爺になる前には見つかるだろう。
城に向かう道中に、大雑把な計画を立てていたのだけどね。
城に到着したのは夜だったので、与えられた部屋で一晩ゆっくりして、朝一で向かったアールスハイン殿下の部屋、部屋前で警備に当たっている近衛騎士に軽く挨拶をして、ノックをしようとしたら部屋の扉が開き、本人が出てきた。
アールスハイン殿下にも軽く挨拶をしてたら、
「たしゅきゅー?」
小さな呟くような声が下から聞こえて、声のした方を見てみれば、何と!アールスハイン殿下の腕には、
「あ?アールスハイン王子、いつの間に子供なんかつく?………………………………………けーた?」
前世の葬式で見た、一列に並んだ恵太クローンな甥っ子の一番端に三人並んでた、チビッ子恵太よりもなお小さい、でも間違えようの無い恵太が、アールスハイン殿下に抱っこされてこっちを見てた。
何で居んの恵太さん。
恵太は愉快なチート生物に転生した模様。
この世界でも、腐れ縁は続き、愉快な日々が始まるようです?
一旦、完結作品としましたが、完結タグを付けると、番外編が投稿出来ないので、他者視点の話が終わったら、また完結タグを付けます。




