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シェル視点

沢山の感想をありがとうございました!

他者視点の話になります。

なるべく順序よく投稿しますが、時系列が前後する場合もあります。

その辺は多めに見て頂けると有り難いです。

 1004年8の月2週目2の日


 今日は色々有りすぎて、本当に疲れた。


 まず、何時ものように朝を過ごし、今日も一日退屈で平和な日になるのだろうかとあくびを一つしたところで、騎士から陛下がお呼びだと知らせを受け、アールスハイン殿下と共に陛下の執務室へ向かうと、キャベンディッシュ殿下の動きが怪しいからと見張りを言い付けられた。

 キャベンディッシュ殿下の場所を聞けば、城内にある、使用人用の小さな礼拝堂であると言う。

 そんなところで何を?と不思議には思ったが、行ってみない事には何も分からないので、取り敢えず礼拝堂に向かってみた。

 礼拝堂の扉の前にはキャベンディッシュ殿下の護衛を任された騎士が立ち塞がり、礼拝に来た人々を追い返していた。

 確かに怪しい行動である。

 アールスハイン殿下も同じ様に怪しんで、礼拝堂の隣に密かに作られた隠し通路から中を覗く事になった。


 この隠し通路は、城のいたる所に作られ、主だった通路は成人した王族とその側近と認められた者には開示されるのだが、アールスハイン殿下と乳兄弟である私は、子供の頃からこの隠し通路を遊び場にしていたので、この隠し通路を知っている人間の中でも、かなり詳しくなったと思っていたが、大叔父であるデュランにはまだまだだと言われている。

 たぶんこの城でも、王族の主治医である先生に次いで歳かさであるのに、未だ現役な大叔父には、何一つ勝てたためしがない。

 身内ながら謎で底の見えない人物である。


 隠し通路の覗き穴から見た礼拝堂の中は、それ程広くはなく、祭壇の所に人が何人か居るだけで、特に変わった様子はなかったが、その何人かが少々興奮した様子で、だが無言で一心に祭壇の上を凝視していた。

 人が邪魔で祭壇の上は見えないが、何やら光っているように見える。

 キャベンディッシュ殿下もその中心に居て、見た目だけは良いその顔を、興奮の為か赤らめて、やや鼻息を荒らげていた。

 何をしているのか全くの謎な行為に首を傾げていると、隣で覗いていたアールスハイン殿下が、声を落として、


「これは、聖女降臨かもしれない」


 とボソッと漏らした。

 ピンとこなくてアールスハイン殿下を見ると、


「100年に一度現れると言う、聖女降臨。聖女は光の繭から生まれると、書物で読んだ覚えがある」


「それは、大事ではないですか!」


「ああ、何故それを兄上が隠しているのかは分からんが、至急父上に報告した方が良い。俺が報告してくるから、シェルはここを見張っててくれ」


「それならば私が報告に向かいます、いざと言う時、私ではキャベンディッシュ殿下を止められませんから」


「わかった」


 私は来た道をそっと戻り、大急ぎで、しかし冷静に周りを気にしながら陛下の執務室へ向かった。

 大叔父であるデュランに取り次ぎを頼み、陛下の前に立ち、アールスハイン殿下の予想を告げた。

 陛下はすぐさま宰相様と将軍様を呼び、アールスハインの予想だが、と告げてから聖女降臨の可能性を話した。

 宰相様も将軍様も非常に驚き、でも頭から否定することも無く、その予想が本当だった場合の対処を意見しあった。

 キャベンディッシュ殿下が何を思って、聖女降臨と言う世界の一大事を隠したのかは分からなかったが、将軍様の言うように、自分の手柄のように振る舞いたいのだろうと言う予想が、外れていないと思う。

 以前からキャベンディッシュ殿下と言われる方は、尊大で傲慢で、人を見下したような人物であると有名で、何かとアールスハイン殿下に張り合っては、魔法が使えないアールスハイン殿下を馬鹿にしてきた。

 魔法が使えない事以外は何一つ勝った事もないくせに。


 報告を終えた私は、また急いで礼拝堂の隠し通路に向かうと、アールスハイン殿下の隣から礼拝堂の中を覗く。

 祭壇の上の光が、さっき見た時よりも強く、だが鼓動を刻むように明滅している。

 無言だがザワザワする彼等、暫くそれが続いたが、徐々に明滅の間隔が狭まり、一際強く光ったのに目が眩み一瞬目を離した隙に、部屋の中からワッと声が上がった。

 慌ててそちらを見れば、見たことも無い型の服を着た、足を露にした破廉恥な少女が、驚いたような顔で周りをキョロキョロしていた。


 それを見届けてから、私は急いで陛下の執務室へ向かい、アールスハイン殿下の予想が当たっていた事を報告した。


「あの王子、城の主だった大臣を奥の謁見室に呼び出してやがった。ルーグリア侯爵の奴が張り切って人を集めてやがる」


「陛下、キャベンディッシュ殿下の侍従が面会を願っております」


 部屋の外にいた騎士が、陛下へと面会の許可を尋ねる声をかけてきた。

 一瞬で部屋がシンと静まり空気が重くなった。


「通せ」


 陛下の了承の声に扉が開かれ、深く頭を下げたキャベンディッシュ殿下の侍従が部屋に入ってきた。


「突然の面会とは、何用だ?」


 陛下の低い声に一瞬ビクッと肩を揺らした侍従は、それでも、


「は、突然の事ではございますが、ご報告申し上げます。この度、キャベンディッシュ殿下により、聖女様の御光臨が恙無く執り行われました!城内の主だった大臣への披露目の準備も整いましたので、どうか陛下のご登壇をお願い申し上げます!」


 喜色を隠しきれない声で告げる侍従、頭を下げたままなので、この部屋に居る人達の厳しい目に気付いていない。


「………………順番が逆であった理由は?」


「え、は?」


「聖女降臨とは、この国のみならず世界の一大事である。その聖女降臨には、七日程前から前兆があると文献には書かれている。にも関わらず、降臨が行われた後になって、私への報告を行った。その理由を聞いている」


 その時になって初めて、陛下の声が怒りの為に低くなっていた事に気付いた侍従は、全身を震わせた後、恐る恐る陛下を上目遣いで見上げた。

 そこには陛下だけでなく、宰相様、将軍様も、陛下と同じ様に厳しい眼差しで侍従を見ていた。


「あ、あ、あ、あの、私は、キャベンディッシュ殿下の命令で、あの、せい、聖女様の御光臨が、問題なく執り行われるようにと、き、聞いておりました」


「それに従っただけだと言いたい訳か、貴様は殿下の乳兄弟だったな、主を諌めることも出来なくて、侍従とは笑わせる。職務怠慢により貴様の職務を解任する。さっさと城から出ていけ」


 宰相様の底冷えするような眼光と言葉に、唖然として固まる侍従を、部屋の外にいた騎士が連れ出し、


「まずはその聖女様には会わねばならぬな」


 そう言って陛下を筆頭に礼拝堂に向かうと、中ではキャベンディッシュ殿下と聖女と思われる少女が、手を取り合って見つめ合っている所だった。

 部屋の隅には気配を消したアールスハイン殿下。


 それからは怒涛の展開だった。


 聖女は見た目どおりの破廉恥な女だったらしく、キャベンディッシュ殿下とやたら距離が近く、魔力測定でも酷い結果を出し、何より頭が悪そうだった。


 それに比べて、不覚にもアールスハイン殿下が抱き上げるまでその存在にも気付かなかった幼児が、前代未聞の魔力量と精緻な模様を現し、全員の度胆をぬいた。

 その円らな目には理性が有り、言葉は拙いものの、聖女よりも遥かに賢い対応をして見せた。


 しまいに誰も気付いてさえいなかった、アールスハイン殿下の呪いを解く始末。


 大叔父デュランがずっとフフフフって笑ってるし!


 どうやら我が主は、珍妙な生き物の世話を任されるらしい。

 見た目に合わず、真面目で堅物な我が主には、良い刺激になるのかもしれない。


 さて、まず侍従である私がやるべきは、彼の身の回りの品を揃える事かな?あの小ささでは双子殿下方のお下がりでは大きすぎるだろう。

 双子殿下方の産着を加工するか、新たに作らなくては。

 アールスハイン殿下は、仕事の手当てをほとんど使っていないので、少し位使ってもいいだろう。

 最近では、アンネローゼ殿下の衣装は外注に出される事も多くなり、双子殿下の好みの動きやすさ重視の簡素で丈夫な服ばかり作っている、城のお針子部隊が、久々に可愛い服を作れるとなれば、それはそれは張り切ってくれることだろう。

 部屋のほうは、本人の意思を聞いてからになるが、見た目どおりの幼児扱いをしては失礼になるかもしれないので、一応アールスハイン殿下の部屋の近くに一室用意して、小姓の一人も付ければ当分はなんとかなるかな?

 後は文字の読み書きなどは出来るだろうか?話は通じてるらしいが、書く方はどうだろう、これも一応絵本を数冊図書館から借りてくるべきか?


 もろもろ考えながら必要な部屋に行き、担当者に注文していく、用意がすみ次第アールスハイン殿下の部屋に届けて貰うよう手配して。


 案の定、お針子部隊には質問攻めにされたが、愛らしい幼児の服を作れるとあって、皆さん張り切っていた。

 王妃様のドレスの直しを後回しにする勢いだったが、大丈夫だろうか?

 話しながらも今夜の寝間着に、と渡された双子殿下の産着も、目の前で縫い直して渡されたし、オムツも幾つか貰った。

 はたして意思の疎通の出来る幼児にオムツは必要だろうか?疑問ではあるが、受け取っておいた。


 アールスハイン殿下の部屋で準備して待っていると、アールスハイン殿下に抱っこされて現れた幼児。


「初めまして、私はアールスハイン王子の侍従をしております、シェル・クライムと申します。気軽にシェルとお呼び下さい」


「いちゅきけーたでつ、よーちくおねがーちまちゅ」


 言葉が通じることは知っていたので、正式に自己紹介をしてみたら、笑顔で挨拶された。

 うむ可愛い!

 双子殿下も可愛らしいが、元気が良すぎて何を仕出かすか気が気でなく、可愛らしさよりも先にハラハラさせられる方が強いので、こう、ただただ愛らしい存在と言うのは、数年前の双子殿下の乳児期以来である。


 実家の兄が無類の動物好きで、普段は隙の無い男なのに、動物相手になると、途端に幼児言葉を話す兄に慣れていたせいか、ケータ様の言葉もそこそこ理解できて、アールスハイン殿下との通訳のような事も出来た。

 言葉を通訳するたびに、ケータ様の目がキラキラするのが面白い。


 真面目な我が主が仕事を後回しにする事も出来ず、ケータ様をほうって仕事を始めてしまったので、私が相手をしようとすると、ケータ様の目が本棚を向いている。

 字が読めるかの確認の為にも本棚の前に連れていくと、自分で棚に掴まりながら本を選び、読み出したのは歴史書。

 文字は無事読めるようで、パラパラとページを捲る手は止まらない。

 これは暫く放置しても良さそうなので、アールスハイン殿下の所に行き、何時ものように仕事の手伝いを始めた。


 たまにケータ様の様子を窺いながら、仕事が一段落する所まで進めて、またケータ様を見てみると、ケータ様はほぼ一冊本を読み切り、何やら拳を突き上げている。

 アールスハイン殿下と共にそれを見ていた事に気付いたケータ様は、フイッと視線を外し何事も無かったように本を本棚に戻した。


「ブフッ」


 思わず吹いてしまったのは仕方無いと思う。

 その後笑う私達に対して、プクーっと頬を膨らますのもまた可愛いらしく、笑いを誘う。


 平和で平坦な日常に、愉快で可愛いらしい仲間が加わって、賑やかになりました。


 疲れたけれど、どれもこれも良い変化ばかり、これからの日々がとても楽しみだ!





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4巻の発売日は6月9日で、公式ページは以下になります。 https://books.tugikuru.jp/202306-21551/ よろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
[気になる点] 前書きの『多めに見て』の部分ですが、これは、『大目に見て』のほうがいいのではないでしょうか
[一言] キャベツ親子とその周辺が 王城内のガンだったんですねえ あらためて振り返ってみれば
[一言] シェル兄グッジョブ!笑 完結寂しいけど、番外編楽しみです( ー̀ωー́)⁾⁾ウンウン
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