夏休み 13
誤字報告、感想、ブクマをありがとうございます!
おはようございます。
今日の天気は快晴です。
何時ものように起きて、準備体操と発声練習をしていると違和感が。
何が違うのかを考えながらも続けていると、終わりの頃にやっと違和感の正体に気付きました。
何時も寝巻きに使っている、踝丈の白いワンピースが、膝上丈になっていた。
あれ?俺の体成長した?
身体強化でピョーンとベッドを飛び降りて窓際に向かう。
この世界に来て、最初に自分の姿を確認した大きな窓に自分の姿を映してみる。
幾つかに仕切られた窓のさんで、自分の身長を測る。
窓のさんは一つが四十センチ無いくらい。
昨日までの俺は、窓のさんと頭の高さが同じだった。
今の俺は、窓のさんよりちょっとだけ高い目線。
昨日の今日で十五センチ程身長が伸びてますな。
昨日食べた世界樹の実のお陰だろうけど、もうちょっと伸びても良いと思うの。
メチャメチャレアな実なんだから、こう、もう少し劇的な効果があると期待してたんですがね。
窓の前でウムウムしてたら足元に毛玉が。
足に絡むように身を擦り寄せるラニアンが、キャンキャン挨拶なのかご機嫌に鳴いている。
そうね、身長の事は気にしても仕方ないので、諦めましょう。
まだ世界樹の実は残ってるし、今後に期待!
ラニアンとソラとハクに魔力玉を食わせていると、シェルが部屋に入ってきて、着替えを手伝ってくれた。
「おや、ケータ様、少々身長が伸びましたね?」
「しょーね、しぇかいじゅのみー、たびたからね」
「言葉も少し変わられましたか?」
「そりはわかんない」
「ああ、多少改善されてるようだな?」
アールスハインまでが言ってくるので、そうなのだろう。自分では分かんないけど。
幼児の服はゆとりを持たせた作りなので、まだ今までの服で大丈夫そう。
捲っていた裾を一つ延ばせば事足りる。
聖獣なので重さは変わらないらしいし。
まだまだ手も足もちっさい幼児のまま、この大きさだと、幼児ってより乳児だけど。
一体前世の身長になるまでにどれだけの時間が掛かる事やら。
着替えと洗顔を済ませリビングに行くと、クレモアナ姫様と双子王子が既に着席していて、
「おはよう、アールスハイン、ケータ様。今日は一緒に朝食を頂くわね!」
「「おはよーございます!」」
「おはよー」
「おはようございます、モアナ姉様、カルロネルロ。珍しい組み合わせですね?」
「わたくしにもたまには癒しが必要ですわ!カルロもネルロも可愛いですが、元気が良すぎて癒しには中々なってくれませんの」
フフッと笑うクレモアナ姫様は、朝から身嗜みも完璧なお姫様だが、見た目では分からない疲れが溜まっているようです。
アールスハインも俺も席に着いて早速朝食。
双子王子が、昨日の晩餐に居なかったクレモアナ姫様に、自分達の行動の報告、あと今日の予定の報告をしてる。
最近の双子王子は、お城の庭の探検に忙しいらしい。
見習い庭師を引っ張って、食べられる実を探したり、綺麗な花を王妃様や姫様に届けるのがブームになっているらしい。
王族の居住エリアからは出ていないので、好きにさせてもらえている。
朝食が終わっても、ソファでお茶を飲みながら寛いでいる。
その間ずっと俺を抱っこして、ラニアンとソラを撫で回している。
双子王子は大きくなったハクを相手にワチャワチャしてる。
暫くのんびりすると、
「あああーー癒された!ありがとう皆!では、仕事をしてきますわ!」
兄弟と俺の頬っぺたにチュッとして、颯爽と部屋を出て行った。
アールスハインにまでチュッとしてったので、苦笑して、口紅の付いた頬っぺたを拭いてた。
ついでに俺達の頬っぺたも拭いてくれた。
双子王子も、専任のメイドさんに連れられて部屋を出て行き、アールスハインと城の外へ向かう。
今日は王都の外へ出て、思う存分ボードを飛ばす約束の日である。
アールスハイン、助、シェルと共に城門からボードに乗って街門へ。
途中でディーグリーが合流、街門の所でユーグラムと合流して街から出る。
門を潜って暫く歩いた後に、街道から草原に入り、ボードに乗って飛び始める。
特に目的地もなく、ただただ飛ぶことを楽しむ。
夏だけどそんなにジリジリしないし、水分補給は休憩の時だけで足りる。
ディーグリーは高く高く飛んで急降下してくるのが好きで、アールスハインは無駄に回転や捻りを入れるのが好き、助は速く飛ぶのが好きで、ユーグラムはなんかやたら優雅に両手を広げて飛んでたりする。
シェルは、小刻みな軌道でアクロバティックに飛んでる。
楽しそうで何より。
滅多に見ない十六歳男子らしい無邪気な顔をしてる。
普段はやっぱり多少は緊張と言うか、気を張ってる部分があるのか、無邪気に笑う顔は、年相応で微笑ましい。
そこに同じ年の助が混ざってんのは複雑だけどね!元々奴はお調子者な所があるし、不自然ではないのがまた。
ソラもハクもラニアンも草原をワサワサ走り回って遊んでるし、とても平和。
暇な俺は、少年達に交ざることも無く、草原に出る虫魔物を狩っております。
たまに出てくる兎や鼠の魔物は、美味しくないのでスルーします。
自分の背丈と同じ高さの草を掻き分け、黒い靄を求めて歩き回る。
たまには空を飛ばずに歩くのも良いもの。
効率は非常に悪いけど、今日のはただの暇潰しだからね!
スライムも居るけど、こっちから攻撃しなければ無害なので放置。
たまに肉体強化を使いながらズンズン進む。
バリアを張っているので、汚れる事も気にせずに、草で指を切ったりもしない。
こんな時には鉈が欲しい。
幼児な手に合う武器を下さい!
流石にシェルでも、幼児な俺のマジックバッグの中に武器になりそうな物は詰めてこない。
俺の持ってる唯一の武器らしき物は、前世からの持ち込みの文房具の中のカッターくらい。
草を掻き分け前人未到の地を歩いてる気分で一人盛り上がってたので、試しにカッターを装備。
チキチキとカッターの刃を出して、目の前の草に切り付ける。
スラッと音もなく切れる草の束。
……………………切れ味良すぎない?
カッターって、実は恐ろしい武器だった?
確認の為にもう一度。
スラッと音もなく切れる草と兎魔物の角。
突然角を切られた兎魔物も、驚きのあまり固まる。しばし見つめ合う俺と兎魔物。
先に我を取り戻したのは兎魔物。
正に脱兎のごとく一目散に逃げて行った。
残された角を拾い強度を確かめる。
………………………固いよね。
その角にカッターを当てて、スラッと切る。
とても薄くスライスが可能でした。
恐ろしい武器を手にいれてしまった!
しかも替え刃もまだ買ったばかりなので、結構持っている。
ふむ、幼児の手にもジャストフィットだし、俺の武器としては素晴らしい。
カッターを振り回す幼児って、ホラー以外の何者でも無いけど!絵面は考えない方向で!
武器を手に、草を切り飛ばしながらズンズン進む。
俺の通った後の道が、獣道みたいになってるが、まあ良いだろう。
暫く進むと大きめの岩を発見。
カッター片手に気分揚々の俺は、何を思ったか岩に切りかかった。
スラッと切れる岩。
切り口もとても滑らか。
カッターの刃こぼれ一つ無い。
テレテテッテレー
ケータは最強の武器を手に入れた。
いつか四男秀太と甥っ子がやっていたゲームの音を思い出しながら、切り口滑らかな岩の上に腰かけて、一人ご満悦でいたら、空を飛んでた助が急降下してきて、
「ケータさん、今君は何をしたのかな?」
と尋ねてくるので、
「いわきったー、さいきょーのぶちをてにいでたー!(岩切ったー、最強の武器を手に入れたー!)」
ジャーンとカッターを掲げて見せれば、蟀谷を押さえた助が、
「ケータさんや、普通カッターで岩は切れないのよ?」
「きでたんだから、しゃーないよ、うしゃぎのつのもきでたし!(切れたんだから、しゃーないよ、兎の角も切れたし!)」
兎魔物の角を薄くスライスして見せたら、無言になった助。
「男の子だから武器に憧れる気持ちは分かるけど、もう少し穏やかな武器は無かったの?」
「よーじにぶちは、もたせらりないんららい?(幼児に武器は、持たせられないんじゃない?)」
「そうね!だからって何でそんなに物騒な武器を持ち出したかなー?」
「ぜんせーかだのもちこし」
「あー、性能が異常なのは、神の世界に埋まってたせいって事?」
「たびゅん?よーじのてーにも、ぴったし!」
「…………………そうなんだけどさ、幼児がカッター振り回すって、ホラー以外の何者でも無いから!怖いから!しかもやたら切れ味良いし!そのカッター俺の剣より切れ味良さそう!」
「かえばもあるよ」
「……………ふー、双子王子の前では絶対出すなよ!」
「うん」
「なら、俺はもう何も言わない事にする」
「うん」
「でだ、ケータさんよ、そのカッターって魔法剣にもなったりするのかね?」
「おお!ためちてなかったー。やってみどぅ」
シャキンと構えたカッターに、魔力を流す。
無尽蔵な魔力で火魔法は怖いし、雷魔法は威力がヤバそう、なのでここは安全に水の魔法で!
カッターに水の刃を纏わせるイメージ。
俺の握ったカッターに水の膜が出来て、カッターの周りを水が高速回転している、何かドリルみたいな物が完成。
何か違う。これではサクッと獲物が切れませぬ!
それでも一応岩に当ててみると、ガガガガガと岩を削りました。
これはこれで何時か使い道があるのかも知れないけど、イメージとは違うのでやり直し。
イメージしたのは切れ味鋭い日本刀。
脳内で前世の博物館で見た、日本刀のイメージを固める。
目を開いて手元を見ると、水が揺らめく美しい日本刀の完成。
中心にカッターが埋ってるけど、ほぼイメージ通り!
切れ味はどうですか?
岩に当てた剣が、豆腐を切るより簡単に岩を両断した。
おお!成功のようです!
助にドヤ顔して、カッターを掲げて見せれば、
奴は顔を両手で押さえてしゃがみ込んでいた。
「にゃによー、たすくがやれっていったれしょー」
「そんなに物騒な武器を作れとは言ってない!何それ怖い!切れすぎ!間違って近くに寄ったら両断されそう!」
「そりはだいじょーぶ、きでぃたいものだけきどぅやつ!(それは大丈夫、切りたい物だけ切るやつ!)」
ドヤ顔で言ってみたが疑いの目を向けられたので、自分の手に魔法剣を当てれば、ビシャッと濡れただけで傷一つ付きません!
またもやドヤ顔してやったら、
「……………………うん、俺が悪かった。だから周りに人が居るときは、その剣使うの禁止ね!周りの人が驚き過ぎて戦意失うから!」
「しぇ、せっかくーうまくいったーのに?」
「上手く行き過ぎだよね!昔そんな伝説の剣をアニメで見た覚えがあるよ!やめてよそう言う怖いの作るのー」
「あにめはー、ちらんけど、あんじぇんだいちーよ!」
「切れ味が問題です!」
「そりはケータのせーららいです」
「無責任!少年達が影響受けて、規格外に育ってるでしょう!」
「ちゅよくてあんぜーん、だいじよー(強くて安全、大事よー)」
「まーそうなんだけどさ、その辺ケータは安全には人一倍慎重なのは知ってるけど!もうちょっとこの世界の常識を学ぼうね!」
結局、説教されて終了されました。
まぁ、俺が武器を振り回す出番なんて、そうそう無いだろうしね。
お昼は草原で串に刺した肉を皆で焼いて食べました。
助の肉が、焼き加減が完璧なのに味が最悪で、ユーグラムの肉が、表面黒焦げなのに中が生って言う、謎の焼き加減になってたこと以外は、ただただ遊び倒した一日でした。
たまにはこんな日も良いよね!
草原にたまにある岩を微塵切りにして怒られたけどね!
ちょっと成長。




