夏休み 7
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お城を出た所で、ユーグラムとディーグリーと合流。
ボードに乗って空を飛べば、お城から一番遠い街門付近のスラムでも、それ程時間は掛からず到着した。
スラムの入口辺りには、ルルーさんが既に待っててくれて、
「「「「おはようございます」」」」
「おあよーごじゃましゅ」
皆で挨拶したら、
「おう、おはよう!」
ニカッと爽やかに笑い返された。
改めて見てもルルーさんは、彫りの深いイケメンだ。
ただ、醸し出す色気が朝の空気に似合わないだけで。
魔王な少年の様子を聞きながら、付いていくと、前回よりも奥の広いスペースに案内されて、そこにはスラムの子供達がゴチャッと一纏まりになって、魔王な少年を囲み、こっちを睨む様に見ていた。
それを見て、ルルーさんが頭をガリガリ掻きながら、
「あー、だからよお前ら、この人達は人攫いじゃねーって言ってんだろ!」
「でもこいつを連れてどっか行くんだろ!」
「だから、それはそいつがこの前みたいにいきなり苦しみだした原因を調べる為だって言ってんだろ!」
「ルルー兄は信用してるけど、いきなり来たそいつらに、ルルー兄が騙されて無い証拠はないだろ!」
「だから!こいつらは大丈夫だって、何べんも説明しただろう!」
子供達の中では幾らか年上らしい少年が、魔王な少年を庇う位置で、ルルーさんと言い合っている。
スラム在住なだけあって、警戒心が人一倍強いのかもしれない。
アールスハイン達はまだ十六歳と若いけど、子供達からすれば、見上げる程大きな体の大人に見えるだろう。
この先冒険者になるかもしれない子供達に、教訓として、ルルーさんの昔騙された話なんかも聞かされてるだろうし、説得するのは時間がかかりそうだ。
なら、警戒されようの無い俺が行けばいいんじゃね?と言うことで、アールスハインの抱っこから下ろしてもらって、トコトコ子供達の元へ。
年上少年が、怪訝そうな顔で見てきたけど、構わず魔王な少年に近付く。
年上少年の隣にいた少女が、ちょっと場所をずれてくれたので、魔王な少年に手を伸ばしてみたら、両手で体を支える様に持たれた。
「にぇー、もーいちゃいとこにゃいー?(ねぇー、もー痛い所無い?)」
「ええと?」
魔王な少年に俺の言葉が通じない!
だが場所を譲ってくれた少女が、
「もう痛いところないかって聞いてるよ?」
普段から他の小さい子の面倒を見ているのか、少女には通じました!通訳もしてくれる模様。
「え?うん、もうどこも痛くもないし、苦しくもないよ!」
「れもー、またいちゅいたくなりゅか、わかんねーかりゃ、おーしゃしゃんいこう!(でも、またいつ痛くなるか分かんないから、お医者さん行こう!)」
「え?またこの子痛くなるの?」
「しょれをちらべにいくんらよー(それを調べに行くんだよ)」
「それでこの子を連れていくの?」
「しょー、あとー、にゃんでいたきゅなったーか、いちゅから、いたきゅなったーかもききゃないとね!(そう、あと、なんで痛くなったのか、何時から痛くなったのかも聞かないとね!)」
「そっかー、この人達は、本当に人攫いじゃないのね?」
「ちなうよ、がくしぇーよ」
「学生ってあのでっかい学園の?」
「学園の生徒ってまだ子供だろ?」
年上少年が話に混ざってきた。
「しょーね」
「冒険者じゃねーのかよ?」
「ぼーけんしゃーもちてりゅね」
「………………本当の本当に人攫いじゃないんだな?こいつはちゃんとここに帰って来るんだな?」
「らいじょーぶ。やくしょくしゅるよ!(大丈夫。約束するよ)」
「何日も何年も後じゃダメだぞ!」
「きょーかあちたにはかえってくーよ(今日か明日には帰ってくるよ)」
「絶対だな?!」
「じぇったーよ、やくしょくしゅる?(絶対よ、約束する?)」
「お、おう」
年上少年の小指に、自分のちっさい小指を絡めて、
「うーびきりげーまん、うしょちゅいたら、はーりしぇんぼーのーましゅ、うびきった!」
歌いながら絡めた指を切ったら、
「な、な、何だよ今の?呪いか何かか?!」
「やきゅしょくのぎちきよ!(約束の儀式よ!)」
「それすると何かあるのか?」
「やきゅしょくやぶれにゃくなんねー(約束破れなくなるねー)」
「そ、そ、そうか。ならしょうがねーから、連れてっても良いぞ!お前もルルー兄から絶対離れるなよ!」
「う、うん、分かった」
いまいち展開についてこれてない魔王な少年だが、年上少年の言葉には素直に頷いてた。
なので魔王な少年の手を引いて、アールスハイン等の方へ連れていく。
何故か呆れた目で見られたが、
「しぇっとくかんりょー!(説得完了!)」
とドヤ顔して言えば、ルルーさんに頭をグシャグシャされた。
「んじゃまあ、行くか」
再びアールスハインに抱っこされて建物の外へ。
ボードを出して、ルルーさんが魔王な少年をボードに乗せようとしているが、魔王な少年がビビっているので、それを止めて、俺の移動魔道具に座らせ、その膝に座れば、何だか怖々と俺の腹に手を回して来たので、出発。
魔力を流せばフヨフヨと浮かぶ魔道具。
魔王な少年の震えがよく分かるが、構わず進めます。
下に居る子供達が、全員ポカーンと大口開けて見上げてるのに、手を振ってから、お城へGO!
アールスハイン達も付いてきてるし問題ない。
ルルーさんが若干不安定だけど、飛んでる内に慣れるだろう。
最初ビクビクだった魔王な少年も、周りの景色を見て興奮しだしたので大丈夫だろう。
お城までの短い空の旅も終わり、お城の門の前に到着。
出迎えの為に待っていてくれたのは、何と将軍さん!
「おう来たなAランク冒険者ルルー!」
「ゲ、獅子王!何であんたが出迎えなんだよ!あんた将軍だろ?」
「ガハハハ、まあ良いじゃねーかそんなこと!そんで、そこに居るのが例の気の毒な少年か?」
将軍さんに上から眺められて、ルルーさんの後ろに隠れる少年。
「おいおい、あんたみたいなでかくてごつい男が、子供を見下ろすんじゃねーよ!ビビって何も言えなくなんだろーが!」
「……………普通の子供だな?」
「聞いてねーし!」
「まあいい、ほら中へ入るぞ!」
将軍さんはそのまま先に歩きだした。
ルルーさんがため息を吐いてから付いていく。
ルルーさんの服の裾を掴む魔王な少年も付いていく。
皆でゾロゾロ歩いて着いた先は、魔力測定玉のある部屋。
既に部屋の中に居た王様と宰相さん、テイルスミヤ長官とイングリード。
皆でかいし威圧感があるから、魔王な少年がビビって顔を上げられないでいる。
抱っこから降りて、近寄って見上げると、俯いた目が、テンパり過ぎてグルグルになってた。
仕方無いので、少年の足を軽く叩き、視線が合ったところで抱っこを要求するように、両手を出すと、条件反射の様に俺を抱っこした。
スラムでも何時もしていたのか、ちゃんと安定した抱っこ。
抱っこされた状態で肩の辺りを撫でてやれば、ほうと息を吐き出す少年。
人って、自分より弱そうな者を抱えると、変な落ち着きを取り戻すよね!
まあ、弱そうなのは見た目だけで、戦ったら負ける気はしないけどね!
少年が落ち着いたのを見た、この場の大人では一番威圧感の無いテイルスミヤ長官が、
「まずは貴方の魔力を計りたいので、こちらに来て頂けますか?」
と、柔らかい声で言った。
少年は、俺を見て、ルルーさんを見て、一つ頷いてから、ゆっくりと魔力測定玉に近付き、俺をテイルスミヤ長官に渡すと、言われた通りに板に手を置いた。
玉の部分が透明から色付いて行き、魔力の色を示す。
魔力量は赤に少しだけ虹色の混ざる、高魔力判定。
模様はボンヤリと滲んだような、葉脈のようなトンボの羽のような模様を、ステンドグラスで作ったみたいに色鮮やかにした感じ。
「ああ、やはり魔力がかなり多いようですね!コントロールは、年齢相応ですが、美しい模様です!」
テイルスミヤ長官の褒め言葉に、若干顔色の良くなる少年。
魔力測定は終了し、別の部屋に移動。
応接間に着いて、各々がソファに座った所で、デュランさんがお茶を淹れてくれて一息。
俺と少年には、青汁色の桃ジュース。
少年の膝に座ったままの俺がジュースを飲むと、少年も恐る恐る一口飲んで、
「旨い!」
と声を上げたのに、皆が微笑ましい眼差しを向ける。
俺込みで見るの止めて下さい!
皆に見られてる事に気付いた少年は、また俯いてしまったけど、おでこの辺りを撫でてやれば、ヘラっと不器用にでも笑ったので、最初の緊張は解けている様子。
「えー、俺達が今日呼ばれたのは、このガ、いや、この子供が、何日か前にケータ様に治療された後の、様子見って聞いて来たんですけど、何でこの国の偉い人達が揃ってんですかね?」
「勿論その少年のその後の状態を調べる為にでもあったが、そもそもの原因の話をする為でもある」
宰相さんの話に、怪訝な顔をするルルーさん。
「原因って、こいつが何かに巻き込まれているって事ですか?」
「ああ、だがまずは、少年に幾つか質問させて欲しい」
ルルーさんは、首を傾げちょっと考えたが少年に、
「大丈夫か?」
と確認した。
顔を上げた少年が、弱々しくはあるが頷いたので、頭をグシャグシャして、宰相さんに頷いた。
「では少年、まずは名前を教えてくれるだろうか?」
宰相さんに声をかけられてビクッとはしたが、ちゃんと顔を上げたまま、
「な、な、名前は無いよ」
「?他の人には何と呼ばれていた?」
「?お前とか、そいつとか、おいとか?」
「………………元々、呪いを受ける前はどこに居た?」
「のろいってなに?」
「「「「「……………………………」」」」」
一同無言。名前すら無い少年に、何を質問したら良いかに迷ってるらしい。
「しぇなかにー、いち、うめりゃりたの、いちゅ?(背中に、石を埋められたのはいつ?)」
俺の質問に、痛そうな顔はしたが、
「たぶん、一月くらい前」
「しょのまーえは、どこにいたの?(その前はどこに居たの?)」
「森の中の小屋に居たよ」
「しとりで?」
「大人と子供と何人か居た」
「しょのしとたちは?」
「分かんない。俺が売れたって、外の人が言って、連れ出されたから」
「しょとのしと?」
「うん、小屋の外からご飯とか持ってくる人」
「しょのあとは?」
「外の人に連れられて、女の人に会って、檻に入れられて、痛いことされた」
「しょっかー、れもー、もーらいじょーぶよー、にゃまえもあたらちく、ちゅけてもらえばいーよ(そっかー、でも、もう大丈夫だよ、名前も新しく付けて貰えば良いよ)」
「名前って貰えるの?」
「じぶーでちゅけてもいーよ?(自分でつけてもいいよ?)」
「ええ!そうなの?外の人が、ドレイに名前はいらないって言ってたよ」
「もーどれーららいから、にゃまえちゅけていーよ!(もう奴隷じゃないから、名前付けて良いよ!)」
「おれ、いつの間にドレイやめたの?」
「いたーこといっぱーがまんちたから、ごほーびよ!(痛いこといっぱい我慢したから、ご褒美よ!)」
「ええ、本当!へへおれ、ごほうび知ってるよ!何か良いことあると貰える、何時もより美味しいご飯の事でしょ?」
「ごはんらけらないけどー、ごはんもあぎるねー!おうちかえっちゃらね!(ご飯だけじゃないけど、ご飯もあげるね!お家帰ってからね!)」
「うん!美味しくないごはんも、皆と食べると美味しいんだよ!」
「しょーね!みんにゃで、たびらりりゅよーに、いっぱーごほーびもりゃおーね!(そうね!皆で食べられるように、いっぱいご褒美貰おうね!)」
「ええ!いっぱいってどれくらい?そんなに貰って、罰当たらない?」
「らいじょーぶよ、いっぱーがまんちたから!(大丈夫、いっぱい我慢したからね!)」
「やった!そしたら皆でお腹一杯食べられるね!」
「たべしゅぎはだめよ!きもちわりゅくなりゅから!(食べ過ぎはダメよ!気持ち悪くなるから!)」
「ええ!気持ち悪くなるの?毒が入ってるの?でもおれ、毒もいっぱい食べたから、効かなくなったって言ってたよ?」
「ほかにょこは、どくたびらりないかりゃ、どくのごはんはだめよ!(他の子は、毒食べられないから、毒のご飯はダメよ!)」
「そっかー、他の子はどくはダメなのか。分かった!どくはダメ!」
「しょーしょー、どくないごはんよー(そーそー、毒の無いご飯よ)」
「うん!ねぇ、おれいつ帰れるの?皆にごほうびのごはんの事教えてあげなくちゃ!」
「もーしゅぐかーれりゅよ、れもー、ごはんにょことはー、なーしょにちて、おどろかしぇたら?(もうすぐ帰れるよ、でも、ご飯の事は内緒にして、驚かせたら?)」
「うわーうわー、それすごく楽しそう!うんおれ、みんなにないしょでごはん持ってく!」
「しょーね、いっぱーよーいちてもりゃうから、もうちょっちょまってねー(そうね、いっぱい用意して貰うから、もうちょっと待ってね)」
「うん分かった!」
少年との話に一区切り付けて、大人達を見ると、とても深刻そうな顔をしている。
取り敢えず、少年を医師に見せる為にルルーさんと共にデュランさんが部屋から連れ出して、
「さて、あの少年に関して言えば、奴隷であったこと、森の小屋に他の奴隷と共に閉じ込められていたこと、女に買われて、檻に入れられ、毒を盛られていたこと、その他にも痛いことを色々されたこと、それ以外は本人に知識が無いため説明も難しいだろう事。以上ですね?」
宰相さんが纏めたのを、ガンと机を叩き、
「いまだにこの王都に違法奴隷がいるとは!」
将軍さんが怒りも顕に怒鳴る。
「確かにそれも重大な問題だが、今はあの少年の今後の事を考えるほうが先だ!」
「ああ分かってる!だがどうする?あの子を今スラムから離すのは可哀想だろ?」
「そうですね。まだ魔力が安定していない今の状態で暴走されでもしたら、王都に甚大な被害が出るでしょう」
テイルスミヤ長官の真剣な声に、
「そんなにか?あの子は魔法の一つも覚えちゃいないだろう?」
「だからこそです。少年が暴走するとしたら、恐怖や痛みなどの原因が想像出来ますが、その場合、攻撃的になり、属性の無い破壊衝動が魔法となって発動するかもしれません」
「属性の無い破壊衝動?」
「はい、通常属性のある魔法の攻撃なら、相殺出来る属性魔法を当てれば攻撃を消す事も可能ですが、属性の無い魔法とは、無属性では無く、あらゆる属性の混ざった魔法の事です。相殺するのはほぼ不可能です」
「そんでその攻撃をすんのが、赤に虹の混じった魔力量を持つ、あの少年って事か?」
「甚大どころか、王都が滅びるな」
「はい、止められるとしたら、ケータ様くらいのものでしょう」
皆に真剣な顔で見られます。
「そうならない為にも、あの少年が心を許しているスラムの仲間の所に居てもらわなければなりません」
「ですが、あの魔力量を持つ少年には、是非とも身を守る魔法を習得してもらいたいですね」
「うーむ、どうしたものか?」
そこで少年とルルーさんがお医者さんの所から戻ったので、一旦中断。




