まだ3日目 そして俺の正体が!
キャベンディッシュの言い掛かりを聞いて、シェルとメガネ長官の顔がスンとなる。
二股聖女はギリギリ歯を鳴らしてこっちを睨んでいる。
一緒に来た騎士達が、二股聖女の顔にドン引きしている。
俺とアールスハインは、特に何も言わずに見ている。
言葉通じないからね。
喚きたいだけ喚いて、キャベンディッシュはゼイゼイ肩で息をしている。
終いに、
「もういい!貴様の訓練など受けてられるか!聖女様の訓練は私達でみる!今に見ていろ!お前達では足元にも及ばない魔法を見せてくれる!!」
と言って、二股聖女と取り巻き騎士を連れて、訓練所から出て行ってしまった。
シェルとメガネ長官のスン顔再び。
「どう言うお考えなのか分かりませんね、この国にテイルスミヤ長官よりも魔法に長けた者がいると思っているのか、もしくは、ご自分の方が教えるのが上手いとでも思っているのか、理解に苦しみます」
シェルが溜め息交じりに呟けば、メガネ長官も苦笑して、
「あの方は、根拠の無い自信とプライドだけは恐ろしく高いですからね、それに見合う実力を身に付ける努力はお嫌いのようですが…」
結構な毒を吐く。
普段のキャベンディッシュの態度が、最悪な事が分かるね!
メガネ長官は、フゥと強く息を吐くと、気を取り直して、こっちを見た。
キラキラする目で俺を見てる。
「ところでケータ様!先程の色変えは素晴らしかった!もう一度!もう一度見せて下さい!」
ズイズイ迫られるので、ちょっと引きながらも、やってみたら、
「素晴らしい!鮮やかな色の切り替え!途切れる事の無いグラデーション!これをたった1日で習得するとは!!ケータ様は正に天才ですね!」
誉めちぎられた。
照れたので、シェルの胸にグリグリしちゃいました。
そこで、アールスハインが、自分の色変えの習得も俺のおかげとか、アンネローゼやイングリードの事まで言ってしまったので、メガネ長官大興奮!
「ケータ様は、どうやったのですか?初めから出来ると知っていたのですか?誰相手にでも出来るのですか?………」
質問攻めにされたが、
「やっちゃりゃできちゃ(やったら出来た)」
としか言えない。
メガネ長官は、考え込んでしまう。
「ケータ様は、魔力は虹色、魔力コントロールも1日で完璧にこなす、それを人にまで施す事が出来てしまう。………この国の魔法使いと呼ばれる者の中で、魔力は兎も角、色変えは練習すれば習得出来る者も現れるでしょうが、それを人に、となると、私でも無理ですね」
「長官でも?」
「ええ、他人に触れて魔力を流すと言うのは、治癒魔法等でも行いますが、そもそも治癒魔法は、とても高度な魔法なのです。相手の魔力の質を感じとり、それに反発されないよう、術者が魔力調整する、下手な術者が行えば、間違いなく悪化させ、最悪死に至ります」
「それをケータはあんなに簡単に……」
「それも、ケータ様は無意識でやってのけた可能性が高い………」
「ああ、恐らく、ケータは自分がどれ程の事をしたのか全く分かって無い」
沈黙、そして皆が俺を見てる。
えへ、では誤魔化せそうもない。
メガネ長官が、ゴクッと喉を鳴らして、怖いくらい真剣な顔で、
「ケータ様は、本当に人ですか?」
って聞いてきた。
人以外の物になった覚えは有りません!
メガネ長官の目力が強すぎて、反論出来ないけど!
「人では無い可能性が?」
「え?ええ、人にしては魔力の扱いに天性の物を感じます。生まれた時から魔力を自在にコントロールし、魔法を使える種族は存在します」
「ああ、聞いたことはある。エルフや妖精、精霊などだろう?」
「ええ、ですがエルフでは無いでしょう、私もハーフとは言えエルフの端くれです、同族ならば会えば分かりますので」
「ええええーー!めぎゃねちょーかん、えりゅふー?!」
二人が、俺の事を深刻そうに話すので、俺も真面目に聞いてたけど、驚きの事実に思わず叫んじゃったら、
「ブフッ!メガネ長官って!」
ってシェルが爆笑し出した。
抱っこされてる俺も揺れる程の爆笑。
アールスハインも笑ってる。
呼ばれたメガネ長官は苦笑して、
「そう言えば、正式に名乗っていませんでしたね、失礼しました。私は、魔法庁長官を任されております、テイルスミヤ・レスト・フォルトゥナーと申します、ケータ様、改めてよろしくお願いしますね」
と自己紹介してくれた。
「てーりゅすみゃー・れしゅ…………」
言えないけどね!
「……言葉は通じるのに、呂律が回らないのですね、これは前の世界とは違う言葉を話そうとするせいでしょうか?ですが、聖女様は、話しは通じませんが、言葉は普通に通じてましたね?と、言うことは、ケータ様は、体がまだ慣れていないと言う事ですかね?」
「?それはどう言う事だ?」
「ええ、これは私の予想ですが、ケータ様は何かの原因で前の世界からこちらの世界に連れてこられる際、神の力を多く取り込んでしまった為に、人としての器を超えてしまい、帳尻を合わせるように、人では無い体を与えられたのでは?と考えます」
「だが、神のお力とは、聖女様にしか使えないのだろう?」
「前例が無いので予想でしかありませんが、女神様のお力とは、女神様ご自身が聖女様に直接お与えになるお力で、神の力とは、神の世界を形作るために存在する、神気のようなものではないかと思うのです。この世界の空気中に存在する魔力のように、そう考えると、ケータ様の虹色の魔力も納得できるのでは無いでしょうか?」
「………確か、ケータは前の世界で事故にあって死んだとか、その事で傷付いた魂がより多くの力を必要としたら……」
「あくまでも予想の域を出ませんが…」
二人が真剣に話す隣で、俺とシェルは、発声練習をしてました。
テイルスミヤが全然言えて無かったからね!
「てーりゅすみゃー、ていりゅすみゃー、ているーすみゃー………」
スミヤがどうしてもすみゃーになってしまう。
サ行とラ行は敵でたまにタ行も怪しい。
俺がみゃーみゃー言ってるせいで、シェルはずっと笑っているし、釣られてアールスハインとテイルスミヤ長官も笑いだしてしまう。
「ケータ様、言いづらいのであれば、テイルでもミヤでも、呼びやすいところだけて構いませんよ」
「ているーちょーかん、みやちょーかん、みやちょーかん!みやちょーかんで!」
「はい、ケータ様」
「けーたはけーたで!」
「それはいけません、ケータ様は、聖女様と同じ立場です、この国では聖女様は、陛下と同じ立場なのです、ですからケータ様は、簡単に呼び捨てにされてはいけないのですよ!」
「しょーなにょー?しぇかいしゅくわなーよ?(そうなの?世界救わないよ?)」
「別に聖女様がお一人で世界を救う訳ではありません、聖女様は、目印みたいなもので、聖女様が偉い訳ではありません」
「ふぇー、まおーたおしゅちかりゃ、せーじょーもってりゅ、おもってたー(へー、魔王倒す力を、聖女が持ってると、思ってた)」
「聖女様が直接倒す事は稀に有りますが、そうでないことも多いですよ」
「えー?めがみーちかりゃもらうのにー?(えー?女神から力貰うのに?)」
「聖女様のお力は、それぞれ違うもので、戦闘のお力ばかりでは無いですからね」
「へー」
「それで、ケータ様、ケータ様のお体を一度調べさせてもらうことは出来ますか?」
「しらべりゅー?」
「はい、人では無い種族には、それぞれ特徴が有ります。ハーフエルフである私は、普通の人より耳が長く、大人になってもほっそりとして、余り太ったり筋肉質になったりはしません。獣人族であれば、獣の耳や尻尾を持つものや、鱗の有るものもいます。ですから、もしケータ様が、人以外の種族ならば、お体に特徴が有るかも知れません。一度調べさせてもらえませんか?」
テイルスミヤ長官が説明しながら、長い耳を見せてくれるので、軽く触らせてもらって、
「どーじょー」
と返事した。
ここではなんだからって、テイルスミヤ長官の部屋に移動。
シェルがお茶をいれてくれて、皆で休憩したあと、俺の体を調べる事になった。
裸に剥かれた俺を皆が見てる。
幼児なので恥ずかしくは無いけど、テーブルに立っても、座った皆の視線が上なのが切ないね。
そしてとてもシュールだね!
尻尾や獣の耳は無いし、耳も長く無い、
「そもそもケータ様は、人族にしては、かなり小さいですね」
「そうなのか?」
「はい、人族にも個人差があって、ケータ様位の小ささで生まれる者もおりますが、ケータ様は生まれたばかりと言うよりは、生まれてから1、2年程たったような、首も据わってますし、立つことも出来ますし、ですが、人族の1、2歳と考えますと、かなり小さいかと思われます。そこから考えて………ドワーフ、ならばもっと筋肉質ですし、妖精ならば大き過ぎる。聖霊は実体を持ちませんし………特に目立った特徴は無いですね、敢えて指摘するなら、この肩甲骨の所にある瘤のようなものですが、シェル、これはケータ様に初めから有ったものですね?」
「はい、初日にお風呂のお手伝いをさせて頂いた時から有りました」
背中は自分では見えないので、気付かなかったけど、瘤なんて有ったのね。
サワサワ触られて、くすぐったい。
なぜか鼻もムズムズする。
カリッと、誰かの指先が瘤を引っ掻いたとき、
「うえっぷしっ!」
「「「えええええええええ!!」」」
「うえええー?」
くしゃみをしただけなのに、皆に大声で驚かれて、こっちまで変な声でた。
「ケータ、痛くないのか?」
「にゃにー?」
「………これは、気付いて無いですね」
「いや、だが、こんな突然現れるものなのか?」
「分かりません」
「取り敢えず、ケータ様、驚かないで見てみて下さい」
アールスハインとテイルスミヤ長官が俺の背中を見ながら話してて、シェルがどっから出したのか、鏡を合わせ鏡にして俺に背中を見せてくれる。
「?……?うえ?え?ええええー!!」
背中の、肩甲骨の所に、羽が生えてました。
ちっさいその羽は、真っ白で俺の手と同じ位の大きさのオモチャの天使の羽のよう、羽の付け根の中心に、目と同じ紫色の宝石っぽいのが埋まってる。
「ひゃー!!」
俺の短い手では届かないが、つい触ってみたくなる。
「……これは、鳥型の獣族と言う事か?」
「それはどうでしょう?鳥型の獣族ならば、まず嘴や尾羽が特徴として、人型の時も常に出ている状態の者がほとんどですし、総じて獣族と言うのは、魔力が弱いかわりに、身体能力はずば抜けています。人型を取っていても、1、2年もすれば駆け回れるようになるかと」
「それじゃあケータは?」
「それなのですが、この、羽の付根、ここに宝石のような石が埋まっています。この石から、魔力の流れを感じます」
「魔力の流れ?」
「はい、この石が周囲に漂う魔力を吸い寄せているように感じます」
「そんな事が可能なのか?」
「魔石でも可能です。但し、この宝石のような石は、魔石とは似て非なる物と感じます。魔石のような禍々しさを全く感じませんので…………………これは、もしかすると」
「なんだ?心当たりがあるのか?」
「私も実際に見るのは初めてですが、話しには聞いたことがあります。たぶん、これは、聖獣が持つ聖輝石ではないでしょうか…………いや、しかし………」
「聖獣とは、神話や童話に出てくる?実在するのか?」
「……実在は、します。文献では、600年ほど前に目撃した聖職者がいたと記録に有ります。それ以前にも何度か目撃情報は有ります。が、いずれも、獣の姿であったと書かれておりました」
「ケータがその聖獣だと?」
「恐らくは、その可能性が高いかと、神の力を取り込んで、魂が変容し、それに見有った体を与えられたのだとしたら」
「あり得ない話では無いのか……」
皆して俺を複雑な顔で見てる。
俺、いつの間にか人間辞めてたらしいよ!なんでやねーん!
東北出身なのに、つい関西弁が出ちゃうよね!
「まずは、陛下に報告しましょう。もしケータ様が本当に聖獣だった場合、聖女よりも遥かに稀少な存在になりますから、これからの対応も相談しませんと」
「ああ、そうだな、シェル頼む」
「はい」
シェルが王様に時間を作ってくれるように頼みに行ってしまったので、部屋の中は微妙な空気に、基本的にとても真面目な二人なので、何か深刻に考えていそう。
俺は、取り敢えず服を着ます。
寒くは無いけど、何だか一人裸でいるのも気まずいしね。
モソモソ着替えをしていると、シェルが戻ってきた。
王様がすぐ会ってくれるって、シェルに服を着せてもらって、王様の部屋へ行きます。