夏休み 3
誤字報告、感想をありがとうございます!
精霊三体の去ったであろう方向をボンヤリ見てたら、アールスハインに頭をポンポンされた。
「取り敢えず、元女神の直接使える力を削いだな。後は、話に出ていた魔王の捜索をしよう。元女神よりも先に、捕獲するなり倒すなり出来れば、もう元女神の企みは、潰えたも同然だ」
皆もこっそり話を聞いてたようで、魔王の捜索をするそうです。
元女神の様子では、魔王捜索は精霊に丸投げっぽかったので、先を越される心配は無いだろうけど、魔王がどんな姿で、どんな存在かも分からないので、探すのは困難だろう。
ボードに乗って、街の上空から魔王を探している。
魔王ってくらいだから、何か邪悪な気配とか?魔物的な黒い靄とか出てるのかと思ったけど、そんなのは見付からないし、魔力の強い気配を辿れば、冒険者だったり、学園の生徒だったり、非番の騎士だったり、たまに普通の主婦だったり。
逃げている様子から、路地裏の方かと探したが、スリとか、酔っぱらいとか、チンピラとか。明らかに魔王とは違うだろう小物ばかり。
たまに女の人を連れ込んでいかがわしい行為に及んでいるのも見かけたり。
たまに兵士に通報しながら街を飛び回ったけど、特に異常も無く。
一旦休憩を入れる為にカフェに入った。
適当に目についた近くのカフェは、お客さんの注文した品を見ると、やたらデザートがデカかった。
パフェがバケツサイズってどうなの?
それを嬉々として食べる、華奢でほっそりしたお嬢さん、それ食べきれるの?
凄く幸せそうだから良いけど。
思わずガン見してたら、ゴリゴリマッチョな店員さんが注文を取りに来た。
下街と言われるこの辺のカフェでは、俺の食えるデザートはほぼ果物だけなので、果物の盛り合わせを頼み、他の皆は二人で一つずつデザートを頼んでた。
シェルは俺の残りを食べてくれるそうです。
暫く待って運ばれて来たのは、予想通り巨大デザート。
かなりの重量も有りそう。
ゴリゴリマッチョな店員さんの腕が、力が入ってプリッとしてるからね!
そりゃ普通のお姉さんじゃ店員になれないわ!と妙に納得しました。
目の前に並べられたデザート。
アールスハインが頼んだアップルパイも、ユーグラムの頼んだベリーのタルトも、どちらも一人分なのに、三十センチを超えるワンホール。
しかも厚みも十センチを超えてる。
お持ち帰りして家族で食べても余ると思う。
俺が頼んだフルーツ盛り合わせも、洗面器サイズだし。
見たことも無い果物も有ったので、ちょいちょいつまんでお腹一杯。
全然減って無いけど!
皆は注文した物を、ガリッボリッゴリッと食べている。
音だけ聞いてると、骨でも食ってんのか?と思うけど、食ってんのはデザート。
ふと見たら、離れた席では先程見た華奢でほっそりしたお嬢さんが、バケツサイズのパフェを完食してる所だった!
あのほっそりしたウエストの何処に入ったんだろう?疑問は尽きない。
皆の方に目を向けると、シェルの皿にアップルパイとベリーのタルトが載っていた。
皆、固さは平気だけど、甘さにやられた様子。
俺の残した果物で中和させようとしてるけど、中々上手く誤魔化せずに、苦戦してる。
しまいにディーグリーがポテトを頼んで、塩気と甘味とで交互に食べ出した。
皆、育ちが良すぎて、出されたものは完食しないと、って使命感みたいのがあるらしいよ?
出されたポテトは、デザートじゃ無いのにかなりの量でした!
これは俺も食えたけどね!
久々のポテトうまうま!
じゃが芋だけじゃなく、芋料理は庶民向けなんで、お城では滅多に出ないからね!
最後ちょっと胸焼けしそうな顔で完食した皆で、お店を出た所、早足で歩くルルーさんを発見!
「あれ、ルルーさ~ん!」
ディーグリーが呼び掛ければ、
「おお!丁度良かった!助けてくれ!」
と駆け寄ってきたルルーさん。
何やら慌てている様子。
「何か有ったんですか~?」
「悪いが治療を頼む!料金は俺が必ず払うから!」
ルルーさんは、教会関係者のユーグラムを見て言ったが、皆が俺を見るので、
「けがちたの?」
「いや、原因はわかんねーんだけど、最近スラムに流れて来たガキが突然倒れて、すげぇ苦しんでんだけど、触れねーんだ!だから呪いかなんかだと思ってよ、教会の神官を呼びに行こうとしてたんだよ!ユーグは解呪とか出来ねーかな?学生だから無理か?なら教会に行くか!」
「かいじゅーでちるよ?ガキーどこ?(解呪出来るよ?ガキ何処?」
「おおう、ケータ様は解呪まで出来んのかよ!まぁ良いや、ガキはこっちだ!」
そう言って背中に括り着けたボードを下ろし、飛んでいくルルーさん。
後を追っていくと、煤けて崩れかけた建物の並ぶ場所に着いた。
建物の影から、転がるように出てきたアンネローゼと同じくらいの年頃の子供が、
「ルルーにーちゃん!あいつ、なんか肌の色が変わってきて!ずっと苦しんだままなんだ!助けてよ!」
「ああ分かってる!大丈夫だ!」
子供の頭を乱暴にかき混ぜて、建物の中に入って行った。
所々崩れかけてるのを避けながら進むと、六畳くらいの部屋に、ボロボロの布を敷いただけの、ほぼ床に寝かされている少年。
肌の色は褐色で、指先から更に黒く染まって行ってる様子。
バリアなのか、一定の距離から近付けない。
その中で痛みを堪えるように踠く少年。
「にゃるほど、こりぇがまおーか!(成る程、これが魔王か!)」
「は?ケータまじか?!」
「うっそ、探してた?」
「たびゅんねー、にょりょいとー、まーどーぎゅとー、にゃんかほかので、まおーしゃれてんね(たぶんね、呪いと魔道具と、なんか他ので、魔王にされてんね」
「解けるのか?」
「たびゅんねー、まだしとのぶーぶんおーいかりゃ!(たぶんね、まだ人の部分が多いから)」
「おい、こいつ助かるか?」
ルルーさんが声を潜めて確認してくるのに、
「だーじょぶよ、このガキーちゅよいこらから!まほーちゅかうから、みんなーしょとでてー(大丈夫、このガキ強い子だから!魔法使うから、皆外出て)」
そう言えば、多少ごねた少年もルルーさんに引っ張られて部屋から出された。
入口から覗いてはいるけどね。
魔王な少年の張ったバリアをバンバン叩き、
「まおーくんまおーくん、ばりあーといてー、いまらら、たしゅけらりるからー!(魔王君、魔王君、バリア解いて、今なら助けられるから!)」
ちょっと魔力を込めて叩けば、俺の存在に気付いた魔王な少年が、うっすらと目を開けてこっちを見てきた。
アピールするために手を振ったけど、シカトされました!
「しょらやっちゃって!(ソラやっちゃって)」
俺のお願いに、巨大化したソラが、巨大な爪をシャキンと一振りしただけで、呆気なくバリアが破れたので、魔王な少年を包む様にバリアを張って、中を聖魔法と綺麗な水で満たしてやった。
ガボガボと溺れる魔王な少年。
何故かバチバチと放電するように、魔王な少年の肌がスパークしてる。
ガボガボしてたのが収まって、グッタリしてる魔王な少年を、バリアを解いて更に別のバリアで包む。
聖魔法の溶けた綺麗な水をたらふく飲まされた魔王な少年は、ゲーゲー言いながら大量の黒い水を吐き、バチバチスパークしてた肌も、元の褐色に戻った。
でもまだです!
背中の辺りから、まだなんか黒い靄が出てるし。
背中側に回って、靄の出てる場所を見てみると、魔石っぽい物が埋まってた。
とても痛そう!
手に聖魔法を手袋みたいに纏わせて、背中に埋まってる魔石っぽい物を掴み、引っ張る。
バチバチとスパークして、魔王な少年が痛みに喚くが、ハクが触手で押さえててくれるので、構わず引っ張ります!
中々抜けないで苦労していると、ソラが俺の胴体に尻尾を回し、俺の体ごと引っ張った。
ドゥリュリュリューーーー!と抜けたのは、今までに見たことも無い量の呪いの塊。
咄嗟にバリアで一纏めにしたけど、これはどうしよう?
取り敢えず、動かない様にハクに押さえてもらっといて、魔王な少年の背中の状態を調べる。
魔石の埋まってた場所から血が流れ、深い傷になっていたので、すぐに治癒魔法で治していく。
ゼイゼイと肩で息する魔王な少年。
痛みが徐々に薄れていくのを、不思議そうに振り返った。
治癒魔法も終了したので、バリアを解いて解放すると、座り込んだままキョトンとこっちを見てくる。
「おしおし、ちゅよかったじょー!のーりょいに、まけにゃくて、えりゃかった!よくがーばった!かっちょいーじょー!(よしよし、強かったぞー!呪いに負けなくて、偉かった!良く頑張った!格好いいぞー!)」
爪先立って両手で頭をワシワシ撫でてやると、魔王な少年の目に、ジワッと涙が盛り上がりタラタラと流れ出した。
「も、もう、痛くない?」
「もーいたくにゃい!(もー痛くない)」
「もう、苦しくならない?」
「もー、くりゅしーない!(もー、苦しくない!)」
「もう、閉じ込められない?檻に入れられない?」
「もーらいじょーぶ!」
俺と魔王な少年のやり取りを見て、無事助かった事を確認したルルーさんが、魔王な少年の頭をガシガシ乱暴にかき混ぜて、
「良かった!無事に乗り越えたな!すげぇぞ!よく耐えた!」
ルルーさんの言葉で、やっと自分が助かった事を自覚出来たのか、
「うう、うわーーーー!!」
と号泣し出した。
スラムの少年も、他の子供達を呼んできて、皆で団子になって泣き出したり、喜んだりした。
俺は子供達が来た時点で、部屋の端に避けたよ。
で、この呪いの塊はどうします?
アールスハイン達が近付いて来て、呪いの塊を繁々と眺めている。
「こりぇ、どーしゅりゅ?(これ、どうする?)」
「本人に返したいところだが、今奴は学園に居るだろう。そうなると、近くに居る生徒に被害が行かないとも限らない。今すぐに返すことは出来ないな」
「学園から離れて、単独行動を取っている時を狙うのは難しいですね」
「でも、絶対に本人に返してやりたいね!」
「ああ、自分のしたことが、どれだけの苦しみを他人に与えたかを、思い知らせてやらなければな!」
「んじゃー、ちまっとくね!(んじゃー、しまっとくね!)」
バリアにくるんだ呪いの塊を、ギリギリまで小さくして、マジックバッグにポイッとね!
呆れた目で見てくるアールスハイン達に、にへっと笑って、
「るるーしゃんばいばーい」
一応挨拶してから外へ出たよ。
「おいおい、軽い挨拶一つで出ていくなよ!ガキ共に礼の一つも言わせろよ!あと料金は幾らだ?」
「りょーきんーは、いーよ」
「いや、それはダメだろ!あんなすげぇ事してもらってタダはダメだ!大丈夫だ、俺はそれなりに稼いでいるからな!」
「…………先程の解呪を教会に依頼したとすれば、必ず成功させようとすると、教皇を連れて来なければ無理な解呪でしたよ?その場合、料金は下級貴族の屋敷が軽く買える金額になりますが?」
「はあ?そんな大変な解呪だったのかよ!?貴族の屋敷が買える金額って!………………何とか分割で勘弁してくれ」
ユーグラムの説明に、ダラダラ汗を流しながら頭を下げるルルーさん。
「りょーきーんは、いーよ。また、にきゅがりちゅきあってーくりぇりぇばー(料金はいいよ。また、肉狩り付き合ってくれれば)」
「ケータもそう言っているので、料金は本当に大丈夫ですよ。それにこちらにも事情があって、あの少年を解呪する必要も有りましたし」
「いや、だが………」
「ま~い~じゃないですか~、気になるなら、あの少年を暫く預かって下さいよ!ちょっと落ち着いたら、呪われた事情とかを聞きたいんで!」
「あのガキに何か有るのか?」
「うん、でも今ここの子達と引き離すのは、可哀想だし、混乱もしてるだろうから、二.三日したら話を聞きに来ますんで~」
「…………………分かった。あのガキに危険は無いんだよな?」
「むしろ俺達は守る側だから~」
「あのガキの素性を知ってるって事か?」
「それは知らないけど、あの子を呪った犯人には心当たりがあるかな~?」
「何処のどいつだ?!」
「それはまだ話せないんだよ~、でも必ず、あの子が受けた以上の報復はするから、安心して~」
「………………………分かった。あのガキは俺が暫く預かっておく。危険な真似はさせない!」
ルルーさんは怒りを鎮めて、魔王な少年の保護を請け負ってくれた。
その内ちゃんと事情を話さないといけないけど、今はまずお城に帰って報告することが大切!その上で対策も考えないとね!




