夏休み 2
誤字報告、感想をありがとうございます!
おはようございます。
今日の天気は快晴です。
朝から何故か侍従さんやメイドさんがバタバタしています。
不思議に思って見ていたら、クレモアナ姫様とイングリードの合同婚約式のために、多くの来客に備えるためなんだって。
外国からの賓客なんかも来るので、お城中を掃除する勢いだそうです。
凄く広いのに大変!
その手伝いのために、魔法庁職員も、騎士団も駆り出されてて、訓練が出来ない事を、イングリードがブツブツ言ってた。
主役!もっと色々やることあるだろ!
と思ったら、クレモアナ姫様がイングリードを引き摺る様に連れてった。
強い!
訓練も、仕事も婚約式関係しかない今、アールスハインは暇なので、双子王子の子守を押し付けられた。
王妃様も忙しいしね。
婚約式は、夏休みの終わりごろに行われるらしい。
その一年後に、お互いに不都合がなければ結婚式が行われる。
婚約期間は一年以上、五年以内と決まってるらしく、生まれた時から婚約関係なんてのは無いんだって。
昔はそれでかなり問題が多く有ったそうです。
今は、婚約中の浮気は、浮気した方がかなり高額な慰謝料を払わなくてはいけないので、滅多に起こらなくなったらしい。
その前に、婚約すると教会で誓約書を交わすんだけど、その誓約書にはお互いの資産額も書かれてて、それが本当かどうかも審査され、更に、資産額が違いすぎると、お互いに了解していることを、同意書として書かされるらしい。
同意した上で、資産額の少ない相手が浮気をした場合、慰謝料が払えなくても同意書を書いた以上は、文句が言えなくなることもあるんだって。
詐欺には要注意ですな!
この国は、長く続く平和のお陰で、身分差にそれ程厳しく無く、自由恋愛も多いんだとか。
一夫多妻とか、一妻多夫とか、同性婚なんかも認められてるらしい。
ただし、結婚には厳しい審査があって、例えば、一夫多妻ならば、先に結婚した奥さんの同意が無いと、新しい奥さんをもらえないとか。
だから、一夫多妻などの複数人結婚の場合、一人目は女の奥さんで、その次に男の奥さんが複数とかもありなんだって。
逆もまた、一人目が男の夫で、次からは女の夫とか。
もらう側の身分に依って、夫になったり妻になったりする。
複雑!
しかも全員を平等に扱わないと、不当に扱われた方が、すぐに離婚の審査依頼を出して、認められると、他の伴侶の財産も含めた全財産の半分を慰謝料として払わないといけなくなるらしい。
なにそれコワッ!
なのでこの国の離婚率はかなり低く、夫婦は割りと円満らしいよ?
少なくとも表面上はね!
イングリードとイライザ嬢は、勿論王族で騎士団でも、王族としての仕事でも、働いているイングリードの方がかなり資産額は多いので、同意書が必要になるんだって。
クレモアナ姫様の場合は、相手が外国人だから、またちょっと違うらしいけど、そこまでは聞かなくても良いや!
それにしても、ハーレムも逆ハーレムも作りたい放題な結婚制度ですな!
多くの伴侶をもらう側は、それだけの資産が必要だけどね!
前世も今世も俺には縁が無さそうな話だ。
午前中は双子王子も勉強の時間に充てられているが、まだ五才の双子王子は字を習っている所。
絵本を朗読する姿は癒される!
隣でアールスハインと助も、学園の課題を片付けてるし、暇な俺は本を読んでるんだけど、魔道具の本を読んでたら、双子王子の担当教師にぎょっとした目で見られた。
双子王子は、俺が字ばっかりの本をスラスラ読んでるのが納得いかないのか、俺にも字を書けって言ったり、絵本を読んでみろって言われたりで、ちょっとうるさかった。
令嬢並みに綺麗な文字を書き、呂律は怪しいものの、絵本もつっかえずに読みきった事で黙らせたけどね!
お昼も双子王子と食べて、午後はひたすら庭を駆け回る鬼ごっこだった。
双子王子に限らず、子供の運動能力って、甘くみちゃダメだよね!
おやつの時間には、アールスハインと助の方がバテた顔をしてた。
俺は飛んでたので平気です!
おやつを食べたら、スイッチが切れたみたいにパタンと寝た双子王子。
何故か両手を双子王子に掴まれたままなので、俺もそのまま昼寝した。
夕食にはまだ早い時間に起きたので、ソラとハクとに巨大化してもらって、ワチャワチャと遊んで、暇を潰してから、晩餐室へ。
大人組は皆して疲れた顔をしてた。
キャベンディッシュは今日も居ないけど、あんなことがあったので、部屋にほぼ軟禁状態で、貴族のあり方とか、マナーとか、法律とかを一から叩き込まれているらしい。
夏休み中に、一定の基準に達しないと、学園に戻る事も出来なくなるそうです。
自業自得としか言いようがないね!
お疲れの大人組が、癒しを求めたのか、双子王子を代わる代わる抱っこしてはチュッチュしてる。ついでに俺もされそうになったけど、王様のチュッチュはいらぬ!
王妃様とクレモアナ姫様のチュッチュは受けましたよ!男の子だからね!
王様を拒否る俺に、シェルが部屋の隅でサイレントに爆笑してたのは知ってるぞ!
そんな平和で騒がしい日々が一週間程続き、アールスハインも助も課題を終わらせた所で、ディーグリーに誘われて、久々に街に出てきた。
何か用事が有ったわけでは無く、家にいると手伝わされるので、アールスハインを言い訳にしたっぽい。
手伝いが嫌な訳ではないけど、勝手にお店の店長にされそうになったり、目利きを鍛えるためにと、一日中倉庫で仕分けをさせられるのにはうんざりしたそうです。
ユーグラムは、まだ見習い神官にもなっていないので、教会の仕事は手伝えず、孤児院の手伝いをしていたそうな。
最初は無表情だけどとても美人なユーグラムを、女の子達が遠目に眺めていただけだったのが、年長の生意気な女の子がユーグラムを誘惑?しようと近付いて来たことから、ワラワラと他の子達も近付いて来たらしい。
それを面白く思わなかった男の子に因縁をつけられ、軽くいなすと、キラッキラした目で見てきて、普通に接する事が出来るようになったそうな。
そんな話を無表情なのに、周りに花を咲かせながら話すユーグラムは、シェルのツボを連打して、ずっとサイレントに爆笑してた。
街をブラブラ歩き、魔道具屋さんも幾つか見たけど特に新しい呪いの魔道具は見つからず、肉屋に寄ると、ルルーさんが居た。
「あれ~、ルルーさんだ~。お久しぶりで~す!」
「おう、お前ら!久しぶり!」
「ルルーさんは、肉の納品ですか~?」
「いや、今日は買い物。スラムのガキ共にたまには肉でも食わせてやろうかと思ってな!」
「へ~、そんなこともしてるんだ~!凄いね!スラムではルルーさんは英雄扱いじゃない?」
「そんな大袈裟なもんじゃねーよ!この街のスラムは、比較的安全だし、選ばなければ仕事もあるし、頭使って働けば出世だって出来る。だから俺は、まだ働けないガキや、病気になりそうなガリガリのガキに、たまに栄養あるもんを食わせてやるだけですむ」
「それでも凄いよ~!スラム出身の冒険者は、稼げる様になると、途端に金遣いが荒くなって、身を滅ぼすって話はよく聞くし~」
「あ~、奴等は自分で稼いだ金を、どうすれば良いかわかんねーんだよ。急に入ってきた金額に驚いて、親しくなった冒険者に意見を聞くと、だいたい娼館を紹介されて、スッカラカンにされるまで通い詰めるのがほとんどだな。後は騙し取られたりな」
「注意とかはしないの~?」
「一回手酷く騙されれば、二度と失敗しない奴が大概だから、よっぽど酷い詐欺にでも遭わなければ、ほぼ放置してるな!」
「なるほど~、経験に勝る教訓は無し、だね!」
「まあそう言うこった!」
ハハハハ!と笑うルルーさんの顔はとても明るい。
肉屋の店長が出した巨大な肉塊を肩に担ぎ、じゃーなーと、ボードに乗って去っていくルルーさん。
「だいぶボードにも慣れたみたいだね~」
と、皆で見送った。
肉屋の店長にも挨拶して、そのままブラブラ。
お昼近くなったので、そこそこ良さ気なレストランに入って昼食。
このレストランは、ガジルさんの肉屋から肉を仕入れているので、俺でも食える肉料理が有ります!
今日の日替わりメニューの、猪魔物の赤ワイン煮込みを頼んで、パンは店員さんに確認してから、こっそりマジックバッグから出した物を食べた。
お店の料理長さんが、俺のパンじゃ不満か?って言ってきたので、一個食べさせたら、敗北感にうちひしがれた後に、グワッとやる気になった。
その振り幅には驚くばかり。
一応、小麦粉の製粉方法と、イストの実の加工方法は教えておいたよ!次に来るときには、柔らかいパンがあると良いね!
午後は街の外に出て思いっきりボードで飛びたいってディーグリーの希望で、まずは着替え。
街の外は何時魔物が襲ってきても不思議ではないので、丈夫な服に着替えないとね。
お店の部屋を借りるのも面倒なので、その辺の路地裏で着替えちゃおう!となりました。
バリア張れば見えないし、たとえ見えてもヤローばかりだからね。
路地裏は薄暗くはあるけど、ゴミが散乱するなんて事も無く、特に不都合もないのでそのまま着替え。
認識阻害のバリア内で着替えていると、何やら路地の奥でガンガン音がしている。
さっさとシェルに着替えさせてもらった俺は、音の元が気になって、路地の奥を覗いてみた。
そこには壁を蹴りつける元女神の姿が。
「もう!もう!何なのよ!何でシナリオ通りに進まないのよ!魔道具は見付からないし、精霊がいる場所まではやたら遠いし、キャベンディッシュには連絡つかないし!もう!これじゃあバッドエンドまっしぐらじゃない!ヒロインなのに、誰とも結ばれないなんてあり得ない!あんた達ももっとちゃんと働きなさいよ!」
壁を蹴りながら喚き、自分の周りに向かって怒鳴る姿は、正気を疑う。
だがその言葉に答えたのは、ボンヤリと姿が透けてる十センチも無い存在。
『そう申されても、具体的な命令をされねば、何をどうして良いやら』
「だから、精神操作系の魔道具を探しなさいよ!後は攻略対象を私の前に連れて来なさい!」
『それは出来ませぬ。今、貴女の側を離れれば、魔力の無い貴女は、あの学園で魔力酔いを起こし死に至りましょう』
「そんな事は分かってるわよ!だから、五匹も居るんだから残り三匹で何とかすれば良いでしょ!二匹居れば魔力を防ぐ事くらい出来るでしょ!」
『それは無理と言うもの。貴女からの魔力の供給も無くなっております。その上で力を乱用すれば、我々は消えて無くなります』
「だから!魔道具が見付かれば、それを使って操った人間から魔力を与えられるって言ってんでしょ!それまでは自分達の魔力で何とかしなさいよ!」
ボンヤリと見えるのが、元女神に力を貸す元部下の精霊ならば、力はだいぶ弱そうだ。
前に森で会った大精霊は、半透明ではあったけど、存在感がもっとハッキリあった。
大きさも、自称大精霊の世界樹の実泥棒より小さいし。
元女神の無茶振りに、力を消費し過ぎて縮んだのかも。
「そもそも魔王はどこ行ったのよ!まだ大して力も無いくせに、どうやって檻から逃げ出したのよ!何であんた達誰も見張ってないの!これだけ誰ともフラグ立って無いと、もうハーレムエンドは絶望的なんだから、せめて魔王を倒して聖女エンドでも狙わないと、身の破滅よ!このままだと平民として一生を過ごさないといけなくなるでしょ!私は女神なのよ!そんなの許されないでしょ!さっさとあんた達は魔王を探しに行きなさいよ!」
最後にガンッと壁を蹴ってから、元女神は俺達の居る場所とは反対方向へ去って行った。
元女神が居た場所を見れば、ボンヤリと輪郭を滲ませた精霊が三体。
『探せと言われても、気配も無いものをどうやって探せと言うのか?』
『それでもお付きの二体に比べれば、魔王捜索の方が魔力は使うまい』
『どうせ学園とやらを出るのなら、森にでも行けば良いものを。さすれば我々も幾らかは魔力を取り戻せように』
『お力を失ってからは、何処に魔力が満ちているのかも感じられぬのだろう。天界では常に神気に満ちた所に居たからな』
『だがそれでも以前と同じように、我々の力を使おうとされている。我々の力が地上に落とされた時の半分も失くなっていることも分かっておられない様子』
『このままでは我々は直消えるだろう』
『それもまた、女神様の意思なのかも知れぬ』
「れもー、もーめぎゃみららくて、ただにょにんげーんにゃったんだから、ちたがうりゆーにゃいよね?(でも、もう女神じゃなくて、ただの人間になったんだから、従う理由無いよね?)」
『だが我々は、長の年月女神様から魔力を与えられていた。その恩には報いなければ』
「しょーやってわりゅいことにー、ちかりゃかちてたんだー?(そうやって悪いことに、力貸してたんだ?)」
『善悪は女神様が決められる事』
「しょんで、あくらったからー、えりゃいかみたまに、にんげーんにおとしゃれたんれしょー?(そんで、悪だったから、偉い神様に人間に落とされたんでしょ?)」
『…………………確かに。我々の力を悪用されたと言うことか?』
『それならば、我々はもう女神様の言葉に従う必要は無いと言うことか?』
『だが、恩はどうなる?』
「しょもしょもおんてー、にゃんの?(そもそも恩て、なんの?)」
『女神様の命令に忠実に従ったからこそ、我々は下級神にまでなれたのだ!』
「れも、いましぇーれーだん(でも、今精霊じゃん)」
『……………………それは、我々はこれ以上女神様に仕えなくていいのか?』
「にゃんでー、じびゅんよりよわーやちゅに、ちたがうの?(なんで、自分より弱いやつに従うの?)」
『恩は恩では無く、悪に利用されていただけならば、従う必要は無いな?』
『『確かに!』』
「しょれにー、めぎゃみーは、まえとおんにゃじこと、ちよーとちてるけど、あたりゃちいかみたまにみちゅかったら、こんどはー、にゃににしゃれんだろーね?(それに、女神は前と同じ事しようとしてるけど、新しい神様に見付かったら、今度は何にされるんだろうね?)」
『……………………!この精霊以下に落とされる事も有るかも知れぬと?』
『『それは不味い!』』
『今よりも力弱き存在に落とされては、存在も危うくなるではないか!』
『『それは不味い!』』
『ならばどうする?』
『女神様を元の地位に戻せば良い!』
『だが、今居られるのは、女神様よりも上位の神ぞ?!』
『ならばどうすれば!?』
「めぎゃみーから、はにゃれれば?(女神から離れれば?)」
『!そうか!女神様が罪を重ねようとされるのならば、力を貸さなければ良いのか!』
『『そうか!』』
『これ以上罪を重ねる女神様には従わぬ!』
『『従わぬ!』』
やっと従わない方向に誘導出来てほっとしてたら、目の前の三体がこっちを見てる気配。
『時にそなたは何だ?精霊の我々よりも遥かに力が強い』
「にゃんでもいーだん」
『まあ、こちらに不都合な存在では無いようだし、構わぬか?』
『ああ、構わぬ。そのような些末事よりも、我々のこれからの事の方が重要だ!』
『左様左様。女神様の為に使った力を補わなければ!このままでは、下級精霊と侮られる!』
『『それは許せん!』』
『ならばどうする?』
『まずは力有る場所で休まねば!ここは人間が多すぎる!魔物も居らぬ聖域に行かねば!』
『だが聖域までは遠い!』
『なればまずは森にて力の回復に努めよう!』
『『おう!』』
話は纏まったのか、フワッと存在を消して居なくなった三体。
せめて仲間だろう、元女神に付いている二体にも知らせてやれば良いものを、そんな様子も無く、街の外へまっしぐらな感じだった。




